桐藤ナギサと御稜ナグサの姉妹ごっこ   作:あばなたらたやた

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 百花繚乱紛争調停委員会の空気は、相変わらず重く淀んでいた。桜の花びらが散る街角で、七稜アヤメの影はもうなかった。白蓮――その輝きを取り戻した刃は、今、御稜ナグサの手に握られている。正式な受け渡しが済み、彼女は新たな委員長として委員会の中心に立っていた。

 

 アヤメは『ヒトツメ』と融合していた。あの得体の知れない怪異が、彼女の心と体を蝕んでいたのだ。だが、白蓮の力は本物だった。たとえ正式な継承が遅れようとも、ナグサの魂が込められた一撃は『ヒトツメ』を粉砕した。ナグサの成長が、アヤメを縛る呪いを断ち切った瞬間だった。

 

 

 百花繚乱紛争調停委員会の事務室は、薄暗い蛍光灯の下、書類と喧騒に埋もれていた。窓から差し込む桜色の夕陽が、積み上がった書類の山に淡い影を落とす。

 御稜ナグサは机に向かい、白蓮を脇に置いて、膨大な報告書に赤ペンを走らせていた。彼女の目には疲れが滲むが、その手は止まらない。新しい委員長としての責務が、彼女を休ませることなど許さなかった。

 

「ナグサ先輩、これ、昨日の紛争調停の議事録。署名お願い」

 

 桐生キキョウが、隣の机から書類の束を放り投げる。彼女の声は軽快だが、目の下のクマが忙しさの代償を物語る。キキョウはコーヒーの入ったマグを片手に、別の手でタブレットを叩き、次の調停スケジュールを組んでいる。机の上は、付箋とメモでまるで花が咲いたように乱雑だ。

 

「キキョウ、投げないで。崩れる」

 

 ナグサが眉をひそめつつ、宙を舞った書類を器用にキャッチする。彼女の指先は白蓮の柄を握るように力強いが、書類の重さに小さくため息をつく。

 

「アヤメのときもこんなだったのかな」

「さあ? アヤメ先輩は全部一人で抱えてたから、こんなカオスはなかったかもね」

 

 と、キキョウは肩をすくめて笑う。だが、その笑顔にはどこか無理がある。彼女はタブレットを置くと、床に散らばった資料を拾い上げ、整理し始める。

 

「でも、ナグサ先輩が委員長になって、なんか……少しずつ変わってきた気はする。」

 

 事務室の空気は、重い。壁には過去の調停記録が貼られ、まるで歴史の重圧が部屋を締め付けるようだ。ナグサは一瞬、白蓮に目をやる。その刃は静かに光り、彼女に力を貸すかのよう。だが、すぐに視線を戻し、書類に没頭する。

 

「変わったって、仕事が増えただけだと思うけど」

 

 キキョウがくすっと笑い、コーヒーを一口飲む。

 

「まあ、でもさ、この委員会、昔みたいに誰か一人に全部押し付けるんじゃなくて、みんなで頑張ってる感じがする」

 

 外では桜が散り、風が窓を叩く。ナグサとキキョウの手は止まらず、事務室は忙しさと小さな絆で満たされていた。百花繚乱紛争調停委員会は、二人を中心に、ゆっくりと新たな息吹を刻み始めていた。

 

「結局、アヤメは戻らない選択をした」

 

 と、ナグサは静かに言った。彼女の声には、どこか諦めと安堵が混じる。桐生キキョウは隣で小さく頷き、だがその瞳には複雑な光が揺れる。

 

 「ナグサ先輩が行方不明だった分のシワ寄せは一気にやってきたわね」

「それを言われると弱い」

「それで、アヤメ先輩は?」

 

 ナグサは遠くを見やるように目を細め、短く答えた。

 

「トリニティ総合学園」

 

 風が吹き抜ける。白蓮が小さく光を放ち、まるで新たな物語の始まりを告げるように。委員会の重圧はナグサに引き継がれ、アヤメは自ら選んだ道を歩み始めた。彼女の背中にまとわりついていた呪いは消え、しかしその先にあるのは、誰も知らない未来だった。

 

 

 

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