桐藤ナギサと御稜ナグサの姉妹ごっこ   作:あばなたらたやた

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四話

 

 御稜ナグサは羽川ハスミの案内で、初めての訓練に臨んでいる。委員会の事務所から続く広々とした訓練場は、トリニティの秩序を守る者たちの汗と決意が染み込んだ場所だ。

 

 ハスミが落ち着いた声で説明を始める。

 

「ナグサさん、正義実現委員会の役割は、トリニティの平和を守ること。具体的には、校内の安全確保、学生間のトラブル解決、時には外部からの脅威への対応もあります。特待生として、ナグサさんには基礎訓練から参加してもらいます。体力、判断力、協調性――どれも大切ですけど、無理はしないでくださいね」

 

 ナグサは少し縮こまりながら頷く。

 

「はい。でも、戦うの苦手だし、みんなについていけるか不安で……」

「大丈夫。最初はみんなそう」

 

 ハスミは穏やかに笑い、訓練場の中央を指す。

 

「まずは基本の体力テストから。障害物コースを走って、時間内にゴールできれば合格。焦らなくていいですよ」

 

 ナグサは緊張で唇を引き結ぶが、スタートラインに立つ。ハスミの合図で走り始め、障害物を飛び越え、ロープを登り、狭い通路をくぐる。彼女の動きはぎこちないが、どこか軽やかだ。コスプレで培った身体のコントロールが、意外なほどスムーズに彼女を導く。息を切らしながらも、ナグサは制限時間内にゴールにたどり着く。

 

「はぁ、はぁ……できた、かな?」

 

 ナグサは膝に手を当て、肩で息をする。

 ハスミはストップウォッチを確認し、驚きを隠さず笑う。

 

「ナグサさん、素晴らしい!  初回でこのタイムは、我々の中でも上位ですよ。キツイと言われるコースなのに、まるで当たり前のようにクリアしましたね」

「え、ただ必死だっただけで……全然すごくない。きっと、みんなの方が……」

 

 ハスミはナグサの肩に軽く手を置き、優しく遮る。

 

「ナグサさん、自分を過小評価しすぎですよ。このコース、慣れたメンバーでも苦戦することがあるんです。ナグサさんの動き、軽やかで正確だった。百花繚乱で鍛えた身体能力、かなりのものですよ」

「そんな風に言ってもらえるなんて、なんか、変な感じてす」

「変じゃないですよ」

 

 ハスミは訓練場の端に腰掛け、ナグサを隣に招く。

 

「次はトラブル対応の質問です。たとえば、学生同士の口論を仲裁するシーンを想定します。ナグサさんなら、どんな風に解決しますか?」

 

 ナグサは少し考えて、恥ずかしそうに言う。

 

「まずはお互いの事情を聴いて、落としどころを探します」

「素晴らしい。正義実現委員会には、戦う力も必要だけど、人の話を聞いて、仲裁するのも同じくらい大切なんです」

「ほんとにそんな力あるのかな。失敗したら、みんなに迷惑かける」

 

 ハスミはナグサの目を見て、静かに言う。

 

「ナグサさん、さっきのコースを見て、確信しました。あなたは自分が思うより、ずっと高い能力を持ってる。自己評価が低いだけなんです。失敗してもいい。私たち、仲間なんだから。一緒に学んで、成長していきましょう」

 

 ナグサはハスミの手の温もりに、胸の奥で小さく灯るものを感じる。

 

「ハスミさん……ありがとうございます。頑張ります。ナギサお姉さんやハスミさんが信じてくれるなら、怖くても、やってみます」

 

 

 トリニティの夕暮れは、金色の光が校舎の白壁を柔らかく染める。御陵ナグサは、正義実現委員会の特待生として初めてのパトロールに出ている。彼女の制服には、正義実現委員会のバッジが輝いている。

 

 羽川ハスミの指導を受け、ナグサの足取りはまだ少しぎこちないが、心には小さな火が灯っている。

 パトロール中、ゲヘナとの自治区境界に差し掛かったとき、騒がしい声が耳に飛び込む。ナグサが駆けつけると、ゲヘナ学園の生徒数名が、トリニティの生徒を囲んで威圧している場面に遭遇する。トリニティの生徒は怯え、地面に座り込んでいる。

 

「おい、羽根つき女。ちょっとお前金を持ってるか!?」

 

 ゲヘナの生徒が笑いながら言う。だが、その瞬間、ナグサが一歩前に出る。

 

「警告。すぐにその生徒を解放して」

 

 ナグサの声は震えつつも、どこか芯がある。彼女は咄嗟に百花繚乱のマントを羽織り、まるで物語のヒーローのように立ち塞がる。

 

「警告に従わない場合は、武力をもって解決する」

 

 ゲヘナの生徒たちは一瞬驚き、くすくす笑う。「なんだよ、そのコスプレ! 気取ってんじゃねえよ!」

 

 リーダー格の生徒がナグサに詰め寄るが、ナグサは目を逸らさず、百花繚乱紛争調停委員会で培った経験が無意識に身体を動かす。

 

 相手が拳を振り上げた瞬間、ナグサは軽やかに身をかわし、相手の腕をひねって地面に押さえ込む。彼女の動きは、まるで舞台で演じるように流れるようだ。

 

 百花繚乱での調停活動で鍛えた反射神経と冷静な判断力が、ナグサを予想以上に強くしている。残りのゲヘナ生徒たちは気圧され、慌てて後退する。

 

「次は撃つ」

 

 ナグサはマ羽織を翻し、トリニティの生徒を庇うように立つ。ゲヘナの生徒たちは舌打ちしながら退散し、静寂が戻る。

 

「大丈夫?」

 

 ナグサはトリニティの生徒に手を差し伸べ、優しく微笑む。生徒は涙目で頷く。

 

「ありがとうございます……かっこよかった」と呟く。

 

 その様子を、少し遠くから見ていたハスミがゆっくり近づいてくる。

 

「ナグサさん、素晴らしい対応でした」

 

 ハスミの声は穏やかだが、賞賛の色が濃い。ナグサは羽織を手に持ち直し、照れくさそうに俯く。

 

「ただ必死だっただけで……百花繚乱の時の勢いで、なんか動いただけで……」

 

 ハスミはナグサの肩に手を置き、静かに笑う。

 

「勢い? あれは勢いだけじゃありませんよ。ナグサさんの動き、冷静で的確だった。百花繚乱紛争調停委員会での経験が、しっかり活きてました。ゲヘナの生徒を圧倒するなんて正義実現委員会でもそう簡単じゃないんです」

「怖かったし、失敗したらどうしようって……」

「怖かったのに、ちゃんと前に出た。それが強さです」

 

 ハスミは夕陽を背に、ナグサをまっすぐ見つめる。

 

「ナグサさん、自己評価が低いだけ。あなたの行動は、トリニティの生徒を守り、平和を保った。正義実現委員会にぴったりの才能ですよ」

 

 ナグサの頬がほのかに赤くなり、彼女は羽織をぎゅっと握る。

 

「ハスミさん……そう言ってくれると、頑張れそうな気がします。ナギサお姉さんも、喜んでくれるかな?」

「ナギサさんなら、きっと誇らしいはず」

 

 ハスミは微笑み、ナグサの背を軽く押す。

 

「さあ、パトロールの続き、行きましょう。ナグサさんの次の活躍が楽しみですよ」

 

 

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