ノッブとカッツに愛されて夜しか寝れないトッキ 作:星乃 望夢
「行くぜお前らぁ! 俺の歌を聴けぇぇぇ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおーーーー!!!!」」」」」
夏、松川の乱から1年。
夏となれば夏休み。
守山の学校は夏休みで、日々勉学に励む子供らは一ヶ月遊び放題のパラダイス。
とは言えちゃんと宿題はやる様に。
富国強兵の策には何が必要だ。
それは国を支える生産者の富。
そして在野に居る才能ある者の発掘だ。
つまりは学校を作って学ばせる。
週休二日の火曜木曜5時限、他4時限のゆとり教育。
だが無償となれば学びたい、学ばせたいという子や親が集まって来る。
鉄筋コンクリートのお陰で校舎も高く大きく造れる。
守山領民限定で無償化、さらに給食付きなら天国である。
そんな夏休み。
しかし大人に夏休みなんて物はない。
有給制度も設けているからやろうと思えば夏休みは作れる。
ただやはり働いてなんぼ、さらに刻一刻と技術進歩の続く今日で一ヶ月も纏めて休んだら置いていかれ、その間働いていた同僚に扱き使われる。
だから冠婚葬祭や急用、病欠の時に有給を使うという。
制度を設ければあとは勝手にあちらで回してくれる。
何でもかんでも指導する事などない。
制度を設けたあとは民の自主性に委ねる。
もちろん不正を働いたら罰則という目は光らせている。
そうなると四六時中仕事してる様な城主や管理職である家臣はブラック労働であるが仕方ない。
死にたくなければ働かないとならない。
いつ何が起こっても対処出来るだけの備えをしておかなければならない。
でもやっぱり休みたい時はある。
ハッチャケたい時だってある、人間だもの。
そんな夏の風が髪を撫でるロマンティックサマー。
夏と言えば海、海と言えば夏。
夏となればフェス!
アゲアゲで行こうぜっ!
将来なぎこさんとお友達になりたいなぁ。
琵琶をアコギ代わりに掻き鳴らし、三味線や琴もべんべん鳴らし、木琴や鉄琴、太鼓にドラム、オルガン、和笛とリコーダー、法螺貝、ラッパ、トライアングル、シンバル等々、東洋と西洋の楽器が一堂に会して大演奏会。
絶対音感持ってるから木琴や鉄琴のチューニングが出来るのは幸いだった。
そしてマイクスタンドにメガホンを取り付け声が響き渡る様にすればライブ会場の出来上がり。
熱狂ライブの始まりだ!
過激にファイヤーーー!!!!
フェスをやれば当然屋台が出る。
屋台やフェス目当てに人が集まる。
そこで経済が回る。
休みが欲しいと言っているのにフェスでライブやってるバカだと言われるだろうが、フェスと仕事は別なんだよ。
本当は打ち上げ花火もやりたいが、そうするとウチの榴弾砲の種が割れてしまう為に泣く泣く我慢。
しかしアレだね。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそばという屋台名物を広めたら瞬く間に定着したな。
ソースに関しては中濃ソースを作って、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、あとは牛カツや豚カツ、エビフライ、カニクリームコロッケのお供としてこちらも瞬く間に定着した。
ご飯や目玉焼きにかけても旨いしな。
酪農を始め、最初はなんで養豚が無いんだと首を傾げていたら、どうにもそれは仏教の影響で、殺生禁断思想が広がって、害獣である猪とか熊とか鹿などの間引きしてやらないと駄目な物は是非もなしとして、食べる為に育てて殺すという養殖に関しての文化が衰退したらしい。
アホくさ。
そりゃ仏様なら霞でも食べてりゃ生きていけるでしょうけど、人間はそうではない。
タンパク質摂取しないと栄養素が偏ってちゃんとした身体が育たない。
だから仏教徒からすると俺は教えに背く叛徒なんだろうが、こちとら無宗教現代人だぞコノヤロウ!
思想で腹が膨れてたまるかバカヤロウ!!
中濃ソースに続いてマヨネーズも作った。
ただじゃがいもやトマトはまだ見つからず、コロッケやトマトケチャップが作れないのが残念である。
販路を開拓したから少々値が張るものの、コショウも手に入れられる様になった。
探しても見つからないというか、細々と渡来物の薬の一つとして微々たる量が入ってくるのみだったから見つけられなかった。
そんなコショウが薬の一種だったなんて分かるかい!
大判焼きも屋台として出回り、他には蟹煎餅、海老煎餅、塩煎餅、ひねり揚げ、おかき、かき揚げ餅。
煎餅という既存の産業も発展させているから恨みはそんなに買っていないとは思う。
既存産業を潰してまで文明改革をするつもりは毛頭ない。
西洋文化で塗り潰すのではなく、和洋折衷、さらに中華も混ぜ混ぜした現代のカオス食文化の発展へ繋げたい狙いがあった。
食文化が交われば、言葉が通じなくても仲良くなれる。
同じ感性を持っていれば共存も出来る。
フェスを通して音楽が共通言語の代わりをしてくれる。
歌はヒトの作り出した文化の極み。
ヤックデカルチャー。
クリスマスやお正月、バレンタインからハロウィンまで何でもかんでも祭りにして受け入れてしまう日本人無礼るなよ?
騒げれば何でも良い。
楽しければ何でも良い。
ただ騒ぐ為の口実として都合が良いから何でもかんでも受け入れる。
宴大好き民族だよホント。
マジ蒙古襲来乗り切った防人の鎌倉武士に乾杯。
誉れは浜で死にましたと言っても、向こうは武士道なんて解さない蛮族なら士道御免にて切り捨てるのは道理。
日本を護ってくれてありがとう遠いご先祖様達。
なのに西洋文化取り入れて貸与とはいえ宣教師や信者住まわせてる俺は先祖不幸者だって?
文明改革には必要な犠牲だ。
それに侵略戦争と布教活動を通した侵略は、まだ後者の方が口八丁でやり込めるからコントロール出来るという面は雲泥の差だ。
それにこっちも向こうに文化を流して互いにWin-Winとなる交易をしているのだから、話の通じる文化人と初手から臣服を求めて侵略して来た野蛮人とでは対応の差は是非もなし。
守山以外で布教活動したらやっぱり殉死してるらしくて中々信者が集まらず、そして活動拠点の守山はそもそもキリスト教信者になる理由がない。
衣食住に困らなくて不幸ではないのだから、神の救いも必要ない。
というか、ばんばかばんばか文明改革やって領民を食っていける様にしている俺こそが救世主だって、キリスト教布教したいのに、そこから知識を付けた領民が俺を崇め奉り、神社作りましょうなんて言う程だ。
まぁ、今は船造りに忙しいから後回しにしているけど、落ち着いたら本当に神社おっ建てそうな領民の勢いは好きだけど恐い。
フェスや夏祭り、田植えに稲刈り、河川工事から船造り、初詣とかで領民と触れ合ったり。
仁 秀孝と名乗り病院で精神科や産婦人科の医師として勤めて、織田信時では触れることの出来ない庶民の悩みを聞いて領地運営に発展させている。
意外とね、偽名名乗ると分からないもんみたいよ。
なにしろ普段から顔を合わせる家臣とか城の守護兵とか俺の場合は河川工事とか船造りに参加しているからそれなりに人前に出てくるけど、領民からすると領主の顔とか意外と憶えられていない物だったりする。
だから一町医者として活動出来る。
薬草や漢方薬を処方する薬局もセットだから、なんちゃって総合病院みたいになっている。
上下水道を整備して、感染症をなるべく予防する為に務めていても限界はある。
なんでも完璧に現代そのままは無理だ。
しかし目指すことで衛生観念を育てる事は出来る。
総合病院なら外科手術もやれるだけの事はやりたい。
ただ外科に関して出来ることは縫合とか、目に見える身体の外の腫瘍とか、壊死した人体の切除になる。
なにしろ解体新書みたいな医学書が日本に無い。
それに関しては死刑囚を実験台に使う。
とはいえ都合良く病気の死刑囚なんてそんな居ないし、守山だと死刑囚も殆ど出ない程法治と警察が機能してくれているから基本悪さをする者は出て来ない。
だから体内の腫瘍摘出とか、帝王切開なんて恐くて出来ない。
やれて複雑骨折とか粉砕骨折した時に切開して骨を元に戻して縫合と添え木と布でギチギチに固定してギブスとしてあとは自然治癒に任せる他なかった。
松葉杖や車椅子は造った。
介護士もその内設けるか。
守山は食文化が豊かになって栄養満点でもりもり元気になったから感覚がバグるんだけど、他の領地、お隣さんの末盛とかの端の村なんか30代でパタパタ死に、40代でも長寿と言われるくらい平均寿命が低過ぎる。
ウチの守山で40代なら現役バリバリ職人さんゴロゴロ居るぞ。
だから守山への流民があとを絶たないものの、何でもかんでも受け入れるのは限界がある。
領民が増えるのは有り難いものの、農作物を生産する為の耕作地を削ってまで居住地を増やすのは愚の骨頂。
鉄筋コンクリートで3階建てアパートとか、地下室も合わせて居住スペースを確保しても限界がある。
さらに教会、大使館、病院、学校ともう城下町はギチギチである。
城下町周りは人口密集地として開発しても、山方面は耕作地で開発を進めているから、その耕作地を管理する農民の村はあっても、そちらへ領民の居住地を増やしてもやはり限界はある。
丁度川で隔てられて境界線として分かりやすいものの、関所はあっても領地全てをカバーする事は出来ない。
川を渡って不法入国する人間も居る。
そうした輩は逮捕して領外追放。
これで変に赦免すると真面目に領地に入ってくる人が馬鹿を見て不満が溜まる。
だからこれは不法侵入と不法滞在は徹底的に取り締まらなければならない。
各村に町奉行所つまり派出所を設けるのも大変だが、その大変な事を先にやっておけば後が楽だ。
「はっはっはぁ!! 盛り上がっておるのぅ。皆の者、遠く居らば音に聞け! 近くば寄って目にもの見よ!! 我こそは戦国尾張大名、織田信長であ〜〜〜るッ!!!!」
ノッブも盛り上がってんねぇ。
上はフード付きパーカーを着ていて露出は無いが、下は生足魅惑のマーメイドである。
あれで後世に男として歴史に名を残す気あるのかしら?
俺は正装を軍服としているものの、出掛ける時は和服にブーツの大正浪漫ハイカラスタイルである。
一応ノッブは男であると示すために男装、俺はノッブの影だから女装することで、対外的に女装してるノッブは本物のノッブであるという近所の事実を俺に向けさせる狙いがある。
逆に男のノッブなら、元々男の俺が影武者としてノッブをやっているという見方になる。
服を変えるだけで騙されるのかと思いきや、普段接しているウチの守山の家臣や兵子であると見抜くけど、清洲のノッブの家臣は見抜けない。
それで良いのかノッブの家臣。
せめてサッルと光秀は見抜こうよ。
なんで狐に化かされたみたいな目を向けるよ。
あとミッチー、アイツはヤベー。
カッツに似た何かを感じる。
それもそうか。
俺の敬愛する至高最強の織田信長に忠を尽くしているだけで、自分の理想から外れたノッブは認めなくて謀反起こすアホだもん。
あーあ、マジで今斬りてぇ。
本能寺の変起きずにノッブが天下統一して日本を作っていたらどうなったんだろうか。
それが剪定事象になるなら世の中クソだ。
いや、今を懸命に生きる皆を否定するわけじゃない。
抑止力とかアラヤとかあっちの方がクソだって意味だ。
「なんなんですかあの格好。いくら姉上でもはしたないです」
「兄上はその生真面目な頭をもう少し柔らかくした方が人生楽しめますよ?」
ノイローゼとか鬱とか、精神的にボロボロになっていてもこの戦国時代の人間だから身体は動くし無理をして乱心するまで働くし。
だから先ずそうした精神的負荷から解放して、とにかく気分転換させるのが良い。
だからこうした祭りには積極的に連れ出して気分転換させている。
秋は稲刈りと紅葉狩り、冬は飛行場がスキー場になるし貯水池が凍ってスケートから冬フェス、春は花見、そして夏は田植えから夏フェス。
去年は死んだ魚の様な濁った目も今は光を取り戻している。
1年で完治するとは思ってないし、今ようやく良くなり始めた所に末盛に帰せば逆戻り。
もう一生俺がカッツの面倒見れば万事解決よね?
◇◇◇◇◇
この一年、信時と一緒に生活する事で僕は信時の領地運営をどうやって成功させているのか理解した。
民と共に汗を流して、民の生活を体験して、そして民の問題をいち早く解決する。
民の生活に寄り添っているから、こうして領地を発展させられるのだと。
でもこれは、信時や姉上だから出来ることだ。
僕がやろうと思っても周りが許さない。
そしてそれを黙らせる力は、僕にはない。
どうして。
どうして、僕にはなんの力もないんだ。
どうして僕は姉上のお役に立てないのか。
どうして、
どうして、
どうして、どうして、どうして──。
どうして、
どうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうして
どうして──。
どうして、
信時の様になれないんだ。
「いやー、ありがとう。もうお腹ぺこぺこで限界だったんだよねぇ。ごちそうさまでしたっ!!」
手を合わせる女剣士。
いったいその細身の何処に収まったんだと思うくらいの一山あるうどんを平らげた。
偶々城下に出て、偶々路地の裏で這いつくばっていたのを助けただけ。
別に僕は大した事はしていない。
「それにしても変わってるねここ。なんて言う国なの?」
「尾張ですよここは。尾張の織田信時の治める守山城下の町です」
「えー、うっそだぁ。尾張がこんな風に栄えてるなんて私知らないよ?」
「どれだけ田舎から来たんですかあなた」
この日ノ本で今最も発展している尾張守山。
それを知らぬと言われて僕は腹の虫の居所が悪くなった。
僕が栄えさせた町じゃない。
むしろ僕にはこんなこと思う権利もない。
でも、信時が築き上げたこの富に溢れる領地を馬鹿にされた様で腹が立っただけだ。
「あなたは何処から来たんですか」
「うーん、作州大原だけど、わかりやすく言うと備前国からかな」
「備前国、随分と遠くから来ましたね」
「遠くというより別の場所かな?」
今一会話が噛み合わない。
「それより手形は持っていますよね? 不法侵入は奉行所に通報しなければなりませんから」
「手形? 手形なんて持ってないよ? そもそも手形が必要な国だっけ尾張?」
「この守山は特別なんです。南蛮文化を取り入れ文明改革を行い、その富に群がる流民を管理する為に関所で手形を配っているんです。つまり手形を持っていないあなたは不法侵入ですね」
「あーっ、ちょっと待って! 私結構あっちこっち特殊な飛ばされ方するからさっきの路地裏にも気づいたら居ただけで不法侵入したわけじゃないから!」
「何を訳の分からないことを。ともかく奉行所に連れていきますからね」
服装はそこまで襤褸ではない、寧ろ整い過ぎている。
どこぞの家中の氏族の者か。
備前国となると宇喜多氏の者か。
女だてらに剣士とは、まるで姉上の様だ。
この剣士から何処となく姉上と同じ匂いを感じる。
こう、破天荒さという面で。
「むむむ、じゃ、じゃあさ。剣術指南役としてお代分働くから見逃してくれないかな?」
「どの道手形を貰いに奉行所には向かわないとならないんですから諦めてください」
「そんなぁ。こうなったら、恩人だけど推して参る!」
「なんでそうなるんですか!!」
刀を手にして抜刀する女剣士の太刀筋は、迫られているというのに美しくて目が離せない。
『あいやそこまで!!』
僕の服の懐から声が響き渡る。
それは信時の声だ。
女剣士も突然の声に動きを止める。
そして僕の懐から型紙が出てくると、それが畳の上に刺さって信時が現れた。
「まさかな。二天一流宮本武蔵殿とお見受けする」
「……私を知っているの? 陰陽師の知り合いは居ないんだけど」
「如何にも。陰陽師は星の導きを視る事が出来ます。あと1時間程待って頂けますか? 天に至る放浪の剣士、あなたとこの時代で言葉を交わせるとは僥倖です」
「待つには待てるけど、貴方何者?」
「織田信時。この守山を預かる織田弾正忠家織田信秀四男、織田守山安房守信時と申します」
余りの重圧に息を呑む。
姉上の影武者である信時は、まるでそこに姉上が居る様な気を身に纏っているのに、女剣士は微塵にも気圧されていない。
なんなんだこの剣士は……。