それでも僕は生きているー死と化物が跋扈する世界でー   作:抹茶露

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第一話「国家利益献上義務」

結城(ゆうき) (あかり)殿、貴女は本日をもって二十歳となられました。これより国家利益献上義務が適用されます。これは強制執行です。

もし貴女が、国家に特別な利益をもたらす才能を有する者でなければ――拒否は認められません。

貴女の人生を、国家のために献上していただきます」

 

 二十歳の誕生日を迎えた早朝。まだ陽も昇らぬ薄暗い空に、重たく灰色の雲が垂れ込めていた。

まるでこの日の始まりを、喪のように弔っているかのように。

 

 喪服を思わせる漆黒の服を纏った男が、無感情に言葉を並べる。

 

 ※「国家利益献上義務」――二十歳を迎えた国民すべてに課される制度。国家が指定する“探索任務”に一定期間従事し、生き延びれば恩典が与えられるという。だが、戻らぬ者のほうが遥かに多い。

 

「……はい、分かりました。どこに行けばいいですか」

「今から貴女には、近隣の探索区域――通称『お役所』へご案内します。詳しい内容はそちらで。

そこで、貴女には“お勤め”に励んでいただきます。……おめでとうございます」

 そう言って男は無表情のまま、一枚の辞令書を差し出した。

 

 視線を移せば、目の前には黒塗りのハイエース。窓はすべてプライバシーガラスで覆われており、中の様子はうかがえない。

 

「ああ、それと。乗車前に、こちらを着用してください」

 差し出されたのは、黒いアイマスクだった。ボクはそれを一瞥し、静かに告げる。

 

「……逃げる気はありません。もう家族は、誰もいませんので」

「貴女にその気がなくとも、これは“義務”です。……もし拒むのなら、分かりますね?」

 男は、静かだが確かな動作で、上着の内ポケットに手を差し入れる仕草を見せる。

 

「……大変ですね、そのお仕事も」

 皮肉とも慰めともつかない言葉を残し、ボクはアイマスクを目元にあてる。

 視界は瞬く間に黒一色へと染まり、世界は音と触覚だけのものになった。

 けれど、私の手を引くその掌は――意外にも、優しかった。

 

 ハイエースの車内は重苦しい静寂に包まれていた。衣擦れの音、誰かの浅い息遣い。

 ときおり、すすり泣く声が耳に届く。

 すでに何人かが乗っているらしい。誰もが知っているのだ。

 これは、“地獄行き”の片道切符なのだと。

 

 そして――「バタン」と乾いた音が鳴る。

 扉が閉まり、遅れてエンジンの駆動音が響いた。車が動き出すと、身体がぐらりと揺れる。 その振動は、まるでボクたちの運命が音を立てて傾きはじめたかのようだった。

 

 これから向かう先に、希望などあるはずがない。

 だというのに、ボクは――なぜか、小さく笑ってしまった。

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