それでも僕は生きているー死と化物が跋扈する世界でー   作:抹茶露

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第十二話「陽、沈む」

「震度が上がった……?」

 誰ともなく呟いた言葉が、役所の空気を張り詰めさせた。

 息を荒くする3人と、さ行の手を止めて3人を改めて教官へ向けられる。

 その視線は鋭く戻ってきた者たちへ簡潔な言葉がかけられる。

「詳細を報告しろ。順を追って、簡潔にな」

「は、はい……! お、俺たち、洞窟内で化物共をやっつけた後に帰ろうとしたんス。そしたら、突然、地面が揺れて……」

「地震? ボクも外にいたけど、そんなものは――」

 そう、確かに自分が出て戻ってくるまでの間、地震など感じていなかった。

 仮に外に居たから気づかなかったとしても、そこら中に散らばっている残骸が震えて地震を見逃す事などありえない。

 

「違うっス! 出ようとしたら急に洞窟内が揺れて俺たちが出ようとした入口の先に……新しい洞窟ができてたんス! 別の違う構造のが……!」

「……再構成か」

 教官が呟いた言葉に、ぞわりと肌が粟立った。

 再構成――つまり、ダンジョンが独りでに成長したという事か

 いや、それだけじゃない。震度が「上がった」と彼らは言った。

 

 

 

「今まで気になっていたんですが“震度”って、何なんですか?」

 今まで気になっていた単語をボクが我慢できずに問いかけると、教官は息をついた。

 ようやくクリップボードを手から放し、こちらを見た。

 

「簡単に言えば、ダンジョンの“深度”と“脅威”の複合評価だ。国家が便宜上そう呼んでるだけだがな」

「つまりボクが入った震度0というのは……?」

「震度0は訓練用。敵も弱く、構造も単純。だが、震度全てに共通することだが、コアを盗られれば、稀に一部のダンジョンは自分自身を守るために“次の震度”に進化する」

「……進化?」

「元の構造をそのままに、新たな迷宮が生まれて繋がる。震度が上がればより複雑に、より凶悪に。敵の質も変わる。今は0から1だが、それより上はベテランでも死者が出るクラスだ」

 背筋が冷たくなるのを感じた。自分が取ったあの結晶――コア。

 それが、次の震度へと進行させる為の原因だったというのか。

 

「……ボクの、せい?」

「お前のせいではない。いずれ誰かが起こす予定だった。ただ、少しだけ……早かった」

 人の命を危険にさらしかけた恐怖で震えるが、教官が口元に笑みを浮かべる。

 それは明らかに、「面白くなってきた」と言わんばかりの皮肉混じりの笑みだった。

 

「さて。良いものを拾って帰ってきたな、ルーキー」

 教官が指差すのは、自分の手に握られた、青白い結晶。

 

「そいつは震度鍵(シンドキー)。元はダンジョンの階層管理と空間制御権限の一部を持つ希少な代物らしい」

「らしい……?」

 確証を持たない言葉にオウム返しで聞き返せば、理屈は良くわからんがお偉いさんは

 そう言っていると面倒くさそうに答えられる。

 

 

「しかしソイツをたった一人で拾ってきた以上お前はもう訓練生(ルーキー)じゃあないってことだ。おめでとう、生存者(サバイバー)。これからは、半人前とはいえ、立派な現場要員だ」

 無慈悲に響くその宣言に、 ルーキー含む3人の探検家は驚いた表情を浮かべていたが、ある事に気づいた。

 

「彼女は――?」

「は?」

「日向 陽は、どこ?」

 あの極端に明るい、日向 陽が一向に姿を現さない。

 背中に嫌なものが伝わるが、それを確認するために、ベテランの探検家に聞いてみる。

 

「あ? あ、あいつならーー」

 誰の事か気づいたのだろう、凄く言いづらそうに視線をさまよわせるが。

 

「ベテランなのに、見殺しにした?」

「ち、ちげぇ! 一緒に逃げてたんだよ! だけど、途中ではぐれちまったんだ! 仕方がなかったんだ! 再構成中の洞窟の中で、あんな禄に銃も撃てねぇ奴なんかに命なんか賭けれるかよ!」

 身勝手だと言えば、それまでだ。

 けれどここに来た以上、全ての行動に責任は付き纏う。

 その原因の一端はボクにはないといえば、嘘になってしまうし、洞窟内で一人取り残される恐怖は尋常ではないだろう。

 役所の壊れた窓から外を見る。夕暮れは近い。だが、今ならーー

 

「止めておけ、死ぬぞサバイバー」

 その考えを遮るように教官がくぎを刺した。

 

「私は言ったはずだ。このクソったれな地獄にヒーローなんざ居ない、と。アイツもそれを承知の上で、このクソったれな地獄へ来たはずだ。どこでくたばろうと自分の意志で絵震度に入った以上、自己責任だ」

 教官の言うとおりだ。この世界は助け合いの精神なんて高潔な心を持ったやつ等いない

 自分たちが生き残るのが精一杯の世界で、ここに来て1日半の何も知らない素人だけどーー

 

「ボクの行く先で名前と顔を知った奴の死体を見たら、寝覚めが悪い。それにーーくたばる前に一言言いたいことがある、それは直接言わないと気が済まない」

 そう言うと戻ってきた3人に再構成が行われた洞窟の場所を聞く。

 すぐに入って即座に連れ出すだけ、そんな甘い考えの元、装備をそのままに目的地へ向け駆け出した。

 

「馬鹿が」

 そんなボクの背中に小さな声と大きなため息だけが後ろから響いていた。

 

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