|彡サッ!
「───イノナカ学園から来ました、星街すいせいです。よろしくお願いします」
淡々と、それでいてハキハキと…表情を一切変えずに無表情にそう告げたその少女に教室一同は様々な反応を見せた。
ある者は興味深そうに、ある者は何処か面白いものを見つけたとでも言うように、またある者は何も変わっていない幼馴染にほんのりとした安堵を滲ませた。
多種多様な反応、少なくとも無関心と呼べるような態度を取った者は一人もおらず、誰もが歓迎の意を示している…まぁ、見るからに美少女と呼べる人物がやってきたのだからそれも当たり前のことなのかもしれないが。
担任の指示に従い席へと向かう少女…星街すいせいは特に何か問題を起こすこともなく席に付き、その際に偶然隣り合ったらしい男子と何気ない挨拶を交わした…そんなすいせいの姿を、司は何気なく見ていた。
あの後のことを話そう…司の家へと上がったすいせいは、事の近況を司へとある程度伝えていた。
諸事情的に帰国してきたこと、帰国が決まった事自体が突然のことであったが為に住む場所を用意出来ていなかったこと、その状態でさっさと学校に行かなければならないこと…そして、その新たに住む場所の用意が出来るまでの間、司の家に居候させて欲しいこと。
突然詰め込まれるように叩き込まれた星街すいせいという人間の情報、何をどうしたらそうなるのかと問い質したくなる程に突然で常識外れな出来事の数々に混乱したのは記憶に新しい。
突然帰国もとい引っ越しが決まったのはまだ分かるとしても、それで何故に新しい住居を用意出来ていないのか、普通はそういうのを準備してから帰ってくるものではないのか。
そもそも、その住居無しで帰ってきて直ぐに学校に行かなければならないというのもどういうことなのか、一体全体何をどうしてそうなったのかがまるで分からないし、理解出来ない。
しかも諸事情的にとは言うがその事情とは何なのか、そもそも何でよりにもよって自分の家を居候先に指定したのか、もっと良い所は無かったのか…その他諸々の文句や疑問はまだまだ沢山あるが、それでも司には分かっていることがあった。
あぁ、一度言って決めたからには絶対にその通りにするのだろうなと…星街すいせいはそういう人間だから何言っても無駄なのだろうなと…そんな確信が司の中にはあった。
結果───
「───ねぇねぇ星街さんっ! 前の学校では何してたの?」
「───髪キレイだねぇ…美容品何使ってんの?」
こうして、星街すいせいは見事にクラスの馴染もうとしていた。
群がってくる無数の生徒達、新しくやってきた美少女な新生徒に彼等彼女等は好奇旺盛なその心の赴くままに星街すいせいという人間へと質問攻めを行なっていた。
それに対してすいせいは何処か困ったような笑みを浮かべながら、しかしそれら全てを邪険にすることなく一つ一つ確実に対応していく…相手が困惑すればそれに対する答えを提出し、その次にやってくる質問に的確に答弁を成立させていた…その姿は、さながら握手会の際のアイドルのように思えた。
「…大変そうだなぁ」
薄く、ふと溢れたような小さな声を司は漏らした…あんな大勢を相手にするのは酷く疲れそうだと、そんな個人的な思考から出てきた言葉だった。
「そうだねぇ、大変そうだねぇ」
そんな間延びした声と共に、しなだれ掛かるようにズシリっと背中に乗っかってくる重み、ムニュンっという柔らかな感触と共にやってきたその感覚に司はまたかとため息を吐き出した。
「…猫又さん」
「良いでしょ別に、今度は何もしないんだから」
非難の感情を込めた司の言葉に体重の主、猫又おかゆが拗ねたようにそう言葉を返す、埋めるように身体全体を司の背中へと預けてきたおかゆはそのまま流れるように司の方へとその顎を乗せた。
うりうりと顔を司の頬へと擦り寄せる、まるで懐いた猫のような挙動と薄く匂ってくる女性特有の甘い匂いに反応しないようにしながら司は最早これまでと成されるが儘となっていた。
「…ずっと見てるけど…知り合い?」
「…幼馴染だよ、昔馴染とも言う」
唐突なおかゆの質問に司もまた特に何を考えるまでもなく答える、隠すようなことでもなければ濁すようなことでもないからだ、事実幼馴染なのだから堂々としていれば良い。
そんな司の言葉におかゆはふーん…と、何処か面白くなさげな様子で声を漏らした…その瞳は、未だ他の生徒の相手をしているすいせいへと向けられている。
「……へぇ〜、あぁいう娘が好きなんだねぇ、牧村くんは」
明確な意図を含んだ棘のある言葉…刺々しさを感じさせる気配とそこから発せられたその言葉、暗い感情のようなモノを放ちながらそう言ったおかゆに、司はそれら全てに一切気づいていませんと言わんばかりに…否、恐らく実際気づいていないのだろう司は何てことないようにその地雷を突き落とす。
「えっ…いや、好み云々で言うならどっちかと言うと猫又さんの方が好みなんだけど俺は」
「えっ…?」
なんてことないように、何気ないように、周囲の喧騒に呑まれながらさも当然のように告げられたその言葉におかゆは言葉を忘れた。
女としてなら貴女の方が好みです…そうド直球に言われた、言われてしまった…何を以てそのような言葉を吐いたのかは分からない、特に思わず言っただとかミスって言ってしまっただとかそんな気配は欠片も見せず、さも当然のことを当然のように言っただけですが? と言わんばかりの済まし顔におかゆは自身の頬が熱を帯びていくのを感じていた。
ぽすんっと顔を背中へと押し付ける、決して見られないように埋めるように顔を背中へと沈ませる…見られたら恥ずかしいから。
「───…そ……そっか…」
その一言が限界だった、ニヤける自身の顔を必死に落ち着かせようとしてみるがやはり嬉しさに勝てないのか、一向に落ち着いてくれない自身の情緒におかゆは思わず力を込めて司の身体を抱きしめた。
グググッと込められていく力、獣人種特有の膂力によって司の身体に徐々に負担が掛かっていくが前に比べてみれば圧倒的にか弱いそれであったこともあって、司は甘んじてその抱擁を受け入れた…が、しかし───
「───ふーん…へぇー……随分仲良いじゃん…?」
それを甘んじて受け入れない人間がここに一人。
先程まで輝いていたその瞳から光を消し、まるで深海を思わせるような暗闇をその瞳に宿した少女、水色の髪を揺らしてゴゴゴッという効果音が直に聞こえてくるかのような威圧感を背負ったその少女は…星街すいせいは、絶賛クラスの同級生に抱きつかれている幼馴染を前に不機嫌そうに立っていた。
何時からそこにいたのか、何時から話を聞いていたのか…そんな言葉が即座に何処か遠くへと行ってしまうほどの威圧感、先程まで好奇心旺盛な様子ですいせいに質問を繰り返していた生徒達も何かを察したのかすいせいの側を離れていく。
そして、それは猫又おかゆもまた変わらない。
「うん、ボク達仲良いんだぁ…恥ずかしがるこなんて何もないってくらいには」
「いや、そんな言うほど仲良くは無かったが気がするんですけど…」
先程までのニヨニヨ具合は何処へやら、何処か薄ら寒さを覚えるような笑みを浮かべながらそう言うおかゆに司は付け加えるように否定の言葉を口にする…が、知らぬと言わんばかりにおかゆはそれを黙殺する。
「……そう言ってるけど?」
「恥ずかしがってるんだよ、前もそうだったけど人にはそう見えないようにしたいみたいだから」
すいせいの言葉に何処か艶やかにそう言ってのけるおかゆ、頬を僅かに赤く染め女特有の色香を面に出しながらその言葉を口に出すおかゆにすいせいは…ふーんっ、そっかー…っとその声に一切の色を乗せずに口から吐き出す。
重くなっていく空気、張り詰めピリッとした感覚が生徒達の肌を突こうとする…そんな状況に成るか否かの状況下で、すいせいは一つ大きく息を吐き出した。
瞬間、霧散する星街すいせいの気配…転校生として周囲の生徒達からの質問攻めに対応していた際の空気感に戻ったすいせいは未だ薄ら寒い笑みを浮かべ続けるおかゆへと視線を向け、告げる。
「───やめよっか、ここじゃ迷惑だし」
まるで仕切り直そうと言わんばかりに、その瞳に一切の色を乗せずにおかゆを見下ろし、一方的にそう告げた星街すいせいはそのまま自分の席へと戻っていった。
それに対して猫又おかゆは何もしない、ただニコニコと笑っているだけである…そして、その静かな衝突に巻き込まれた件の張本人はと言うと───
「───…えぇ……何なのさ…?」
酷く困惑した様子で、そう呟くのだった。
割と久し振りだからどう書いていたのかを覚えていない作者である。