昴くんはなにもしない   作:あまも

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やや様子がおかしいですが気のせいではないです


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66-3:霧の魔女

 

 

 中之条での休憩の後、冬名山へと向かう。

 

 本来なら登り始めるここいらで、安室さんご自慢のロータリーエンジンの咆哮が拝めるはずなのだけれども。

 良いのか悪いのか、助手席の私の期待は、これ以上ないほど見事に裏切られていた。

 

 

 安室さんの運転するFDは、ここまで驚くほど静かに、大人しく走っている。

 

 まずセンターラインを絶対に踏まない。

 カーブの手前では教習所のお手本のようなブレーキによる、緩やかな減速。カーブを抜けてからも無理のない加速。

 霧で視界が悪いのは百も承知だが、それにしたってこの男、制限速度を1キロたりとも超過していない。

 針で突いたような正確さで、法定速度時速40キロ以下を常にキープし続けている。

 ︎︎この男が、こんなに走りがいのある山道を、である。

 

「……あの、透くん。さっきから一回もタイヤ鳴らしてないけど、もしかして体調悪いんですか?」

「言っただろう、安全運転だと。お前の()()()足に障ったら困るからな」

 

 涼しい顔で、律儀にも2時50分の位置に置いた両手でハンドルを回す彼。

 霧の向こうを見据える視線は、四万を下りる時よりも余程鋭く、真剣だ。

 こころなしか、バックミラーをチェックする頻度が多いような気もする。

 

 確かに他の車両の姿はある。

 深い霧の立ち込める中、対向車のライトがぼんやりと見えて次第に大きくなり、安室さんに影を残して姿をぼやけさせながら消えていく。

 

 超静か。怖いくらいに。

 

 それもそのはず、安室さんの愛車は、今エッホエッホと、緩い回転数で、非常に慎重にこの冬名の峠を登っているのだった。

 

 

「さっきコンビニで、上りは下り以上に回すって言ったのは、単なる冗談だったんです?」

 

 右足がつりそうなほど力の篭っていた下りと違って、鼻先もやや上を向いたこの上りの道中。

 ︎︎落ち着いてシートに体重が乗せられて、慎重な安室さんの運転と、生活道より整備された道というのも相まって、乗り心地はかなり改善されている。

 

 ︎︎そのため、私の緊張は徐々に解けてきていた。

 助手席のグリップを握り締めていた手から、少しずつ力が抜けていく。

 

 期待していた――いやいや。

 ︎︎警戒していたはずの咆哮はどこへやら。

 FDの針は2000回転の少し上。ほぼ固定されている。

 加速の衝撃もなければ、タイヤが悲鳴を上げることだってない。

 むしろ、滑らかな舗装と、登坂車線まで用意されたこの道の広さの余裕が、こうして私の油断を誘っている事実に……もしや、油断大敵とばかりにいきなりガオンと牙を剥くのかと、もうずっと大暴れな心臓がじわじわばくばくと。

 

 この男が何事においても正しいことは知っている。

 警察官として、あるいは公の顔を持つ者として、法定速度を1キロの狂いもなく守る姿に文句をつける筋合いなんて、どこにもない。

 

 なのに、この言いようのないモヤモヤは何だろう。

 静かすぎる車内。滑らかすぎるステアリング。

 

 それらに、安心感というよりも、嵐の直前の海に放り出されたような……言いようのない、この感覚は…………恐らくは、不安に近いのだと思う。

 

 やっぱり、あのコンビニでの言葉は私をビビらすための言葉だったってワケ!?

 

 

「景色を見たいと言ったのはお前だろう? 何が見えるか知らないが……気楽に楽しんでいればいいじゃないか」

 

 安室さんは真剣に前を見て運転したまま、感情の読みにくい声でそう言った。

 

 

 いやまぁ……あの下りよりはよっぽど、周り見る余裕あるけども……

 

 窓の外を見る。

 霧は、場所によって色が違っている。

 遠く、山間の谷間に溜まった霧は夜のそのままの黒。

 一方で、空に近い上方の霧は、遠くの朝日の気配にほんのりと白く色づき、やわらかく山を包んでいた。

 これだけ濃くても、動いて見ると案外ちゃんと違いがわかるもんだね。

 水墨画みたいだ。

 

 不意に、霧の奥でピカリと、反射板のような二つの小さな光が弾け、視界の隅へと流れていった。

 あれは……野生動物の瞳だと思う。

 こちらを伺うその輝きは、とっくにはるか後方へ流れて消えてしまった。

 下を向くと、真っ黒に濡れたアスファルトが、この車の放つヘッドライトを鏡のように反射していた。

 白の霧、黒の路面、チラチラと時にはっきり、やがてぼんやりとした光。

 

 昼間の登山道では決して見ることのできない、この霧の、そして道をゆかねば見えないものだ。

 

 いつもの私は、こんな霧が濃かったら、大人しくもうひと眠りして霧が晴れるのを待つからね。

 霧の中で運転なんてしないもの。

 

「……これもまた、いい景色ですよね」

 

 私の言葉は、安室さんにとっては「そうか」のひと言で終わるような話でしかない。

 夜に行動する事の多い彼には、気温の差が激しい夜と朝の切り替わる時間帯の霧なんて、見慣れたもんだろう。

 

 

 …………静かだ。

 だめだ、本当に静かすぎて、心臓に悪い。

 

「もしかして、何かあるんです?」

「さぁ」

 

 私の疑問に、安室さんはクツリと喉を鳴らして笑いながら、しかし安全運転でぐるりと、逆ハンもせず丁寧にステアリングを握り、またひとつのカーブを曲がる。

 

()()……ね。走りやすい道にはつきものかもな」

「ネズミ捕りがいるってことです?」

「さて、さて……どうだろうね」

 

 にやりと笑うも、すぐに表情を引き締めて、運転に専念する。

 白い車体が軽快に攻略していくこの道は、間違いなく先程よりは平らであまり尻も跳ねないし、道幅は広いし、登坂車線があるお陰でビュンビュンと抜かしてく車は、この馬鹿正直な車を好き勝手に抜かしていく。

 ︎︎

 多少、小馬鹿にした様子でわざと前に入ってきたり、わざわざ横につけてクラクション鳴らすマジのバカもいたが、安室さんは何処吹く風でマイペースを維持している。

 

 思っていたより、ずっと快適に景色を楽しめていて……快適……では、あるんだけども。

 

「…………あの、本当に体調悪いんですか?寝不足?」

「お前な。……景色を見たいとお前が言っていたから走ってやってるのに、なんで飛ばす必要があるんだ。急ぐ旅でもあるまいし」

「だって “安室 透(あなた)” には仕事が……」

「この僕が、時間の用意もできないほど、自己管理がなっちゃいない男に見えるのか?」

 

 きろりと、僅かに睨まれてしまった。

 すぐに目線は前に戻ったけれど、体調不良ではないらしい。睡眠時間を自分で選んで削ることはあっても、仕方なく削ることはほとんどない、と。

 

「……こんな霧で、何を見るものがあるのか、とは思うがな」

「ええ?色々見えるじゃないですか」

 

 ほらほら、あそこに霧の中の黒いトゲトゲと並ぶのはヒノキの林だし、ガードレールの下から覗いたあの目は恐らくはタヌキかなんかだし。そのうちミズナラにでもなるのかな。広葉樹は流石にこの霧の中じゃ判別つかない。

 対向車のヘッドライトに照らされた霧がぶわりと明るくなっていくと、その瞬間だけ周りの景色がよく見える。それもまた面白い。

 

「……楽しめてるなら、それでいいんじゃないのか。なんでそんな文句言ってるんだよ」

 

 ほらみろ、と言わんばかりに口とがらせておられる。

 

 ……言い過ぎたかな。

 ︎︎彼の好意でここまで安全運転してくれてるのだから、信用すべき……なのだろう。

 思っていたよりずっと楽しいのは確かなんだけどね。

 

 

「それは、ありがとうございます。

 

 ――ところで本当に、何か理由があるんですか?」

 

「ああもう、気にせず黙って外でも見てろ」

 

 

 ため息で流されてしまった。

 

 えぇー?

 なんかあるってことじゃないのぉ?

 

 

 

 ■

 

 

 ︎︎湖のそばで車を寄せて停めてくれて、ひと息入れてから再スタート。

 何か連絡を取っていた様子と、その後車に乗り込んだら「下りは構えてろ」との予告。

 

 改めてしっかり、身も心も構えた。

 

 マジで何かあるの?

 

 

 

 湖へ向かう道を登り切り、山頂からやや下った、1番長く続く下りの直線。

 

 こりゃもうスピード出したくなるすばらしく良い道だけど、”静かな湖畔“すらもしっかり時速40キロで走り、やがて視界にはそれが現れた。

 場所的には……まさに、あの舞台のモデルとなったあたり。

 

 霧の中に、対向車のライトとも違う赤く細い光がヌッと、ぼやけた視界に入り込む。

 

「誘導灯?」

「そのようだ。……ここでやってたのか」

 

 徐々にハッキリしてきた白黒の車体やら群馬県警の文字に、安室さんの口角がわずかに上がっているのが見える。

 

 

 ははぁ。模範走行の正体はこれか。

 

 

 速度をこれまで以上に落とし、表情をパチリと瞬きひとつで準備した彼の横顔は、完全に、「何かあったのかな?」と興味津々な私立探偵さんに切り替わっていた。

 

 初心者も真っ青なスローペースで、そろりそろりと様子を窺いながら、白と黒の車が並ぶ検問所へとタイヤを転がしている。

 

 

 ん?

 検問所の人影……なんか見覚えが……

 

 あ、いや、群馬県警?

 ははあ、なるほど!

 

 

「はいはいさてさて……来ましたね、白のFDが!」

 

 路肩に寄せられ、何やらひょこひょこと頼りない様子で寄ってきた細身な彼が、得意げな顔で運転席の窓を覗き込んだ。

 でこの広い、どことなく愛嬌のある顔。

 

「……って、なぁんだまた男ですか……って、アレアレアレ?何やら見覚えのあるお顔が……」

「ご無沙汰しております、山村刑事」

「んんん?……あーっ!毛利探偵の運転手の不審者!」

 

 なにその覚え方。

 突きつけてきたその指は握りたくなっちゃうが、運転席側からなので届かない。

 ︎︎そういえば、葵屋旅館でそんな自己紹介をした覚えがあるような、ないような。

 でも不審者は無くない?

 

「不審者?……知り合いか?昴」

「ええ、群馬県警の山村刑事ですよ。今度は私のことも覚えていてくださった様子で……何よりです」

「いやいや、今日は車が違うみたいですけど、運転は……むむっ、金髪顔黒……ヤンチャそうなお友達じゃないですか!アナタも中々怪しい感じですね?

 これは話を詳しく聞かせてもらっちゃう必要がありそうですね!」

 

 私から視線を戻し、静かに“色”の話題にイラッとしてる安室さんの顔の、どことなく威圧的な営業スマイルでたじろぐ彼。しかしめげずに山村刑事は、私たちに車外に出るようにと指示。

 私がなんとか這い出ながら道を見る限りでは、他の車も何台か通っているのに、乗っている人物の顔や人数を確認した程度で行かせていて、ほぼスルーに近い。

 

 ここまで間違いなく優良運転だったのだから、先に来てた車からチクられたとしても、善良な一般人である安室さんのあの運転(法定速度)で遅過ぎとか言われる筋合いは無いし……私たちが降ろされた理由って、なんだ?

 まさか私が知り合いだから楽しくお喋りしましょうってわけでもあるまいよ。

 わざわざ安室さんが運転席側からこちらに来てくれた。

 ︎︎釣られて付いてきた山村刑事が、私の左側に目をやって、ただでさえまん丸な目をさらに大きくまん丸に見開いて首を傾げる。

 

「アラ? アナタ、杖なんてついちゃって、どうしちゃったんです?前は無かったですよね」

「おや、こんな不審者のこともちゃんと覚えててくれたんですねぇ。えらいなぁ、流石お巡りさんです」

「え? へへ、そうですかねぇ?……

 じゃないですよ! アナタねぇ、沼淵と一緒に森歩き回ってたでしょうが!」

 

 おお、ノリツッコミ。

 普通に褒められて流されかけていたのに、存外本当にちゃんと覚えているようだ。

 ふーん、やるじゃん。

 

「……まさかアナタ、その杖は実は仕込み銃で、油断した所をパァン!なんて事を……」

「足が抉れただけです」

 

 ごめん、私の感心返して。

 ︎︎どうやら殺人犯と行動を共にしていた、銃を所持していた不審者という認識で記憶しているらしい。

 

 仕込み銃だったとしても、では何を“パァン!”するんだっての。

 

 この人警察なのにそういう話は苦手そうだから、怪我の詳細と手術にて行われた、細かくお肉をこそぎ落とした話を詳しくしてあげたら、案の定耳を押さえてワーワー言いながらそそくさと安室さんの方に行ったから、ヨシ。

 

 でも山村刑事。

 そっちの安室さんも、今の“沼淵”の名前と“銃”の話で、あの頃を想起した結果、ミラクルバナナされた“赤井秀一が私を銃で脅した件”についてを芋づる式に掘り出してしまって、勝手に不機嫌オーラを背後に滲ませてるのでそっちも大概だぞ。

 

 それでも安室さんは、山村刑事にそんな不機嫌具合など見せぬよう、営業スマイルを絶やさない。

 

「それで、僕たちが止められた理由はなんですか?」

「おっと!アナタたちに止まってもらった理由はただ一つ……コレです!」

 

 山村刑事が両手で示したのは、安室さんの愛車、“RX-7”。

 ︎︎安室さんは冷静に、腕を組んで笑顔のまま首を傾げ、続きを促している。

 

「……それが?」

「これは間違いなく彼の車ですが、追っている犯人の乗っている車両と同じ……ということですか?」

 

 盗難車両なんかでもないぞという私の主張だったが、一応知り合いだからなのか、なんかやけに馴れ馴れしい山村刑事が私の左肩に手をポンとおいて、芝居がかった様子で指と首を横に振る。

 ︎︎チッチッチを口で言うのやめな?

 

「んっふっふ……魔女狩りですよぉ!」

 

「魔女狩り」

 

 

 ……魔女狩り?

 

 

 いきなり残酷な話、始めるじゃねーの。

 目を逸らして道の方を見ている安室さんを見るに、恐らくはこの情報を事前に耳に入れていたのだろう。どうでも良さげではありつつ、霧の中に目を凝らしている。

 そんな安室さんに、私の陰から飛び出した山村刑事が指を突きつけた。

 

「ズバリ!……アナタ、魔女ですか!?」

「違います」

 

 ズバリと聞かれたからズバリと返した安室さんだ。

 魔女じゃないし、女じゃないし。

 たとえ魔女だったとしても、ズバリと聞かれて『はいそうです』と答える魔女はいないだろ。

 

「ま、ですよねぇ。ふたりとも女性じゃないし……」

 

 へらりと気の抜けた山村刑事が分かりきっていた事を頷いているが、これ何の話なの?

 

「“銀白の魔女”という白のFD乗りが最近出没してるんですよ」

 

 

 注意喚起のためなのか、情報提供を求めているのか、説明を始めてくれた山村刑事。

 ︎︎でもね、そんなことより。

 

 そんなことより!

 

 

「……」「……」

「あれれ?おふたりとも?聞いてます?」

「いえ……この音」

 

 ︎︎私たちふたり揃って道の向こうを見たので、山村刑事も釣られて、霧に目を凝らしている。

 ちら、と、目の他にも耳もすませていた安室さんが私を見た。

 もちろん私も聞こえますとも、と頷いてみせる。

 

 間違いねぇ!

 

「私のですね」

「ん?」

 

 霧の中に迫るライトの形、FDくんと違って大人しく、かつ無理なく鳴いてるこのエンジン音。

 

 霧の中から、検問所にて停まった……赤いパールレッド。

 霧の中で黒くも見えちゃうその車体は、見覚えしかない。

 

「あ、SUV?OKOK、 車も違うし、男はスルーしてくれちゃって構いませんよ!」

「そんなこと言ってないで、ほら山村刑事!」

 

 ペチペチと、その……なんか本当に警察の方なのか心配になるほど薄い背中を促して、一緒に車に寄る。

 

「なんなんですかぁ? 君たちは一応車が同じなので止めましたけど、ぶっちゃけもう……」

「あれっ、ミッちゃん?」

「えっ?ヒロちゃん?」

「やっぱり、みっちゃんですか」

「ん?ミッチャン?」

「あっ、やっぱりハルだ」

 

 その赤い車は紛うことなき私のフォレスターで、助手席には小五郎さん。

 そして小五郎さんからズレて顔を出し、運転席側からニコニコと明るい笑顔で手を振ってくれるのは、私の友人、みっちゃんこと、小林くんである。

 

 

 今のやり取りで大体察したぞ。

 

 山村“ミサオちゃん”刑事も、ミッちゃんなんだな!

 

 

 ええい、ミッチャンが大渋滞!

 

 

 わざわざ車を降りてきて、山村刑事との再会を喜んでいる小林くん。山村刑事も嬉しそうである。

 最近どうだとか、ふたりしてニコニコと周りそっちのけで語らっている。

 

 

 アラサーの友情だぞ。かわいいだろ。

 

 だから横で、仲良い友達に自分の知らない仲良い友達がいるのを見せつけられてジェラってるアラサーは落ち着こうな。

 

 別にいいじゃん、仲良い友達が増えたところでさぁ。

 昔から変わらんなそういうところ。地味に根暗陰キャの性質があるよね、あむぴ。

 

 呆れ顔の小五郎さんの後ろでフォレスターのリアウィンドウが開き、驚いた様子の小さい新一くんと蘭ちゃんの姿も。

 

 やっほーおはよう〜

 

「スバルさん……に、安室さん?なんでここに、しかも検問所なんかに?」

「安室、オメー危険運転で捕まったんじゃねーだろうな……」

 

 新一くんたらまたもや。私がどこにいてもいいだろっての。

 ︎︎今回のは、私はともかく、安室さんのほうを警戒しているようだ。

 

 しかしその前の席から、気怠げに半目の小五郎さんが茶化して来て、途端に安室さんは『安室 透』らしく困ったような笑顔で手を振っている。

 

「まさか!先生、誤解ですよ!僕は彼の迎えに来た帰りに、彼の希望でこの山を見たいと言うので通りがかっただけです。――あの車でね」

 

 

 探り屋さんは最後にドヤる宿命でも背負ってんの?

 

 ドヤ顔で、止められている背後の霧に紛れた白くてかっこいいご自慢の愛車を親指で示している安室さんに、呆れ半分納得半分で頷いた小五郎さん。

 

「そりゃオメー、この山でその車なら止められるだろ。ったく……沖矢、オメーもこんな霧の中で余計な道走らせてんじゃねーぞ」

 

 なんかこっちに飛び火してきた!?

 

「ええっ!心外です、私は決して、彼にこの車で登れと頼んだつもりは……」

「え、嫌だったんですか?」

 

 安室さんが、下のコンビニでニヤニヤしながら私を無理やり車に乗せたのが嘘みたいに子犬みたいに眉を下げて申し訳なさそうな顔作ってきやがった。

 嫌がっては見せたじゃん!

 ………………でもここまでの道程は、まぁ、来たかいあったというか……

 彼らだからこそこの霧の中で安全に走らせられるという……

 

「い、いや……嫌だけど、嫌じゃな「それは良かった!」エェン食い気味……」

 

 しょもしょもと語らっていたら、再会に満足したのか山村刑事と小林くんが寄ってきた。

 

「あれは白いFDで、ふたり乗りだったから話を聞こうと思いましてね、停めさせてもらっちゃってますよ」

「一昨日に彼に相談されててさ」

 

 山村刑事と小林くんが、そこから“銀白の魔女”について説明してくれた。

 

 

 魔女の悲鳴、魔女の手だの、空飛ぶ車だの、仙人だの……

 

 仙人の話だけは、大体想像がついた。霧がこれだけあるなら、タイミングさえ合っていれば見れるだろう。

 

 しかしまぁ……ファンキーなお祖母様だな。GTRでFDとダウンヒルしたの?

 ……………………待って、この山村刑事、そのお祖母様の運転の隣で寝てたの???

 

「小林さん、その相談って?」

「最近出没する“魔女”……白いFD乗りを見つけるために、検問で女性ドライバーだけ止めるとか言ってたからさ。止めるならふたり乗りにしなってアドバイスしたんだよ」

 

 蘭ちゃんの疑問に、小林くんが答えてくれたが、君たち連絡取り合ってるんだ?

 ………………ってことは小林くん経由……ってことは?

 

「透くん」

「なんだよ」

「まさか今日のお迎え、透くん……小林くんに言われて、この車でここ走って、噂の“魔女”を誘い出せ的な意味のドライブでした?」

「……さぁね」

 

 ニッ、と先程の安室透らしい好青年から、やや悪ガキ成分増加させたような口角追加。

 このやろっ……

 

 

「おかしいと思ったんですよ!」

 

 下りであんなだったのに、脅すだけ脅して上りはあんな大人しかったこと。

 あれは、『もしもターゲットが来たら、その時は本気を出すため』の保険だったわけだな!?

 

「いや、本番は来週の土曜だ。平日は出現しないと考えて、下見にな」

「なら先にそう言ってくださいよ!」

「先に知ってたら面白くないだろ」

 

 ……やっぱり、私のことからかってたんじゃん!

 酷いや!

 

 あっちはあっちで、小林くんと山村刑事で何か納得行く話し合いがついたのか、こちらに「行っちゃってもらって大丈夫ですよぉ〜」なんて山村刑事がニコニコと手を振っている。

 

 ばか!このおバカ!へっぽこ!行かせるんじゃない、この男を止めろ!

 

 この根暗3面ゴリラを、誰か……止めて下さいお願いします!

 

 

「……よーし、下りは楽しみにしてろよ」

 

 

 やっべ!うっかりお口がポロリしちゃった!

 色々鬱憤溜まってそうな笑顔が背後に迫っている!

 

 

「小林くん!乗せて!そっちに私を!!」

「え、定員オーバーだよ」

「子供じゃん!ひとり子供じゃん!」

 

 私の怯えを、ケラケラと笑い飛ばした小林くんである。

 

 ばかおまえフォレスターは5人乗れるぞ!

 子供だけど高校生?サイズは幼児やろがい!

 だったら1人降ろして……くっ!恩人、エンジェル、名探偵ときたもんだ!

 

「ほら、乗れよ昴。大丈夫、これくらい、お前なら慣れれば平気だ。楽しいぞ、たぶん」

「おっ?なんですなんです?意外と怖がりさんですねぇアナタ!大丈夫、冬名峠は走り屋の聖地だけあって、楽しい道だと思いますよ!」

 

 山村刑事はあんた取り締まる側だろうに何言ってんの!?

 あと、『これくらい平気』は使っちゃダメって先生言っtあああ車に連れ込まれるぅぅゴリラに首根っこ掴まれて引きずり込まれるぅうああ

 

 

 

 世は無情なり。

 憐れ、私はまたもや白い悪魔に押し込まれたのであったとさ。

 

 

 






地味にほんの少しだけ変わってます

なお、この後は参戦しません。踏ん張れない人間は土俵にも立てないので残念ながらリタイアです。


読んでいただきありがとうございました!
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