昴くんはなにもしない 作:あまも
かっこいい言葉、覚えたら使いたくなるお年頃
(なおアラサー)
閲覧ありがとうございます!
そりゃもう大変な道程だった。
あんにゃろ、ギリギリしょっぴかれない速さで駆け下りやがって……
だのにむしろカーブやらブレーキやら、滑らかに繋がってガクガクしないというか、やっぱ高回転は回してなんぼってのは本当にそうだなってのがわからされてしまった。
というか……
……アトラクション感覚で乗れてしまった。
下りた後の市街地への道で、安室さんがドヤ顔で「どうだ」と鼻鳴らしてたのになんも言えんかった……
……くやしいです!
良くはない……良くは全くないんだけども、確かに低速でそれほど広くない道をトロトロ下りられると、追い越せなくて後ろが詰まっちゃったりブレーキがダレちゃったりするから、自分に合った速度で下りるのは、大事なのは……わかってるけども!
私が、
「どう思います?」
「さぁ……」
横のくたびれメガネのお兄さんに訊ねてみたが、返事は芳しくない。
んもー……仲良くしようって。
安室さんは迎えに来てくれて、私のことを山で散々ぶん回してくれたわけだ。
それでも高速は大人しく、なんら問題無い運転で気楽に乗れたし、私の文句は聞き流しながら安室透と江戸川コナンの話についても改めて詳しくしてくれたし。
腹立つわぁ。
迎えに来てくれて片道2時間半の道のりを往復、しかも帰りは余計な道まで追加オーダーしてるんだから文句言いたくないのだけど、日頃のお返しとばかりにぶん回してさ。
あれだろ、赤井さんの件とか橋波さんの件とかで鬱憤たまってたんだろ。
この……いじめっ子め!
それでも迎えに来てくれてしっかり果たしてくれている。
恩は恩。
日頃私が心配かけさせてるのだし、たまに遊びに付き合うのも良いだろう。
さて礼は何でお返しすればと問うたのは私。
ならばひとつ頼みたい、と、安室さんは答えた。
昼前には都内に入り、車は阿笠さんの研究所に向かうのではなく、スルスルと大通りを外れて、小さくて簡素な商業ビルの前へ。
そうして、あれよあれよと個室に輸送された。
通された部屋には、がらんとした空間にポツポツとオフィステーブルやイスがあり、くたびれメガネのお兄さんが待機していて、一台のスマホとノートPCがテーブルの上にぽつんと置いてあった。
「……つれないですねぇ。ね、どう思います?」
『――高山に登らざれば、天の高きを知らざるなり、
なんでいきなり荀子?
朗々と読み上げられたその一節は、確か荀子の言葉であっているはず。続きなんだっけな……
「ええと……『先王の遺言を聞かざれば、学問の大なるを知らざるなり』……ですっけ?」
やってみなけりゃ分からないってことです?
大科学実験みたいなこと言いたいのかね。
通話の向こうからクスリと小さな含み笑いが聞こえる。
『相手の普段の振る舞いから、過剰に身構えてしまったのかもしれない、と、君が思っているならば、そうなのでは?』
「ですかねぇ。……いや、なんでまた荀子?」
いやいや『ふふふ』やのうて。楽しそうだなこの人。
■
ただいま、長野の“トクメイ”さんとお電話でのやり取り中だ。
トクメイさんがあちらで情報を集めてくれているそうなのだけど、それを預ける先として、なんと最初に連絡をとった私を指定してきたのだとさ。
だから私がここで、信頼できるハムちゃんの人と一緒に話を聞いた……
…………後の雑談タイムである。
や、結局私では色々と判断つかないし。
『実際行ってみないと分からなそうじゃない?』って事で、今度お会いしましょうの算段つけたのさ。
“トクメイ”さんも幸いここまで(表面上は)大人しくしていたお陰で、近々所轄から戻れそうとのこと。
それで、長野県警の信頼できる仲間を紹介してくれるんだって。
代わりにこっちも、信頼できる仲間として、我らが小さな名探偵は当然として……小林くんとか小五郎さんとかにお願いして一緒に行ってもらおうかなぁとか。
風見さんも一緒にどうかなと聞いたら、静かに首を振られたので行ってくれないらしい。
考えてみれば、警察の不祥事を探りに行くのにこんな見るからに『真面目です』みたいなくたびれメガネのお兄さん連れていったら怪しまれちゃうか。
遊びがないもんね。
大丈夫?ご飯食べてる?
零くんに無茶言われて振り回されてない?
電話してみて初めて知ったが、このトクメイさん、声が凄く……“私が天に立つ”しそうな声しててさ。
なんか裏切られそうな気がしちゃってるのも、過剰な身構え……ってコト?
……裏切らないよね?大丈夫だよね?
景光くんの顔に無精ヒゲを生やした顔が、『楽しかったぜぇ!お前らとのぉ!友☆情ゴッコ!!』の顔でメガネを握りつぶしているイメージが……悪魔合体しすぎである。
『楽しみにお待ちしております』
静かな深みのある声でそんなこと言われると、ちょっとソワソワしちゃうね。
景光くんから、お兄さんのかっこいい話は聞かされている。期待膨らみまくりである。
日程合わせるべく、新一くんや小五郎さんにも連絡しとこうっと。
みんなで長野に星でも見に行こうぜ〜!
星見山とか、野辺山とかさぁ!
■
ここへのお迎えは小林くんが来てくれるそうで、時間をずらしてここは退去するために、私がいなくなってから痕跡を片付けて、風見さんも他の仕事に向かうそう。
つまり今なら彼と仲良くなるチャンスってわけだ。
「お仕事お疲れ様です。いつも大変そうですね」
「…………」
「零くんとは仲良くやれてます?」
「…………」
「この間、大学行ったんですが、研究室に何にも仕掛けられてなくて……安心しました。ありがとうございます」
「…………」
「そうだ、お小遣い――」「不要です」
徹底的に無視!!
流石に財布から現金取り出した辺りで反応があったけれど、そこから畳み掛けてもやっぱり無言。
こうなったら伝家の宝刀、沖野ヨーコちゃんのサイン入りブロマイドを出して釣るしか無いのか……?
でも何処にしまったっけなと、ジャケットの胸ポケットやらキーケースやら漁っていたら、風見さんが身動きしたので顔を上げる。
「……君は何故、監視に対してそう馴れ馴れしくしようと? 君は人付き合いは得意ではないように見えるが」
おお、風見さんから話しかけてきた。
慣れない野生動物が茂みから顔出してきた気分だ!
「ふふ、人付き合いが得意ではないからこそ、知らない人に付きまとわれるよりは、知ってる人からのがまだマシじゃないですか。
風見さんはもう、私と……“おともだち”ですもんね」
「違います」
即答である。釣れないなぁ。
なんだっけな。さっきトクメイさんがしきりに小難しいこと言ってきたせいで、頭ん中に小難しい故事成語やら論語やらがひしめいていて邪魔くさい。
論語すらもうろ覚えながら、荀子の言葉はまぁまぁ覚えていたせいで、荀子なら通じると思ったのかトクメイさんたら畳み掛けて来てさぁ。
漢詩好きなの?あの人。
ええっとね……
「――禍の
「……」
「あれ、違うや。ええとね」
これじゃ、慣れて細かいところを見逃した隙に、お前の足元すくっちゃうぜになっちゃう。まるで私が災い起こす気満々みたいじゃないか。
それをわかったからか、風見さんがぴりりと気配強めたんだ。
待ってね、違う言葉探すから……ええと、ええと……
『お兄ちゃん、“
「ああ、そんなのもありましたね」
「?」
ノアズ・アークがなんか探してくれたのだけど、待って、それ災い転じて福となす的な意味でも使われるけど、確か、荀子さん的にはいつどうなるか分からないから、常日頃から油断せず警戒し、備えを怠るな的な意味だろ?
今じゃなくない?今この風見さんに言う言葉じゃなくない?
『じゃあ、“
お、良いね。それでいこう。
「風見さん、『楚に
えへんとドヤって見せたが、風見さんたら、なんだかより一層のくたびれた様子で肩を落としている。
あれあれ、なんだろうか。
風見さんは、ズレてもいないメガネをカチャリとかけ直した。ため息つきつき、なんだかこけた頬がげっそり。
「……君、先程からあの電話の相手に引っ張られていないか? 以前はそんなに引用していなかっただろうに」
「へ?」
……言われてみれば、別に知ってはいるけど使う気はしなかったな。トクメイさんが使ってくるから返してたので、なるほど確かに“引っ張られて”いるかもしれない。
「……まさにそのまま、ということか」
「まぁ……発明家のところにいったからこう理屈っぽくなったのかもしれませんね」
「それは恐らく最初からだろう」
あれぇ?
あ、でも風見さんがこっちを見るようになったな。1歩前進だ。
「なるほど、風見さんも荀子ファンですか」
「どうしてそうなるんだ」
むむ。
まだあまり通じ合えてはいないらしい。
小五郎さんたちを家まで送り、そこから蘭ちゃんたちをそれぞれ学校に送った小林くんが迎えに到着したので風見さんとはそこで別れた。
あの人は、監視という名目で零くんから頼まれてるからか、私に厳しくてちょっと怖い。
……ちょっとね。
それこそ橋波さんみたいな、マジで何考えてるかイマイチよくわかんない人よりは、素直に不平不満を顔に出してくれたり、行動で示してくれるからいくらかまだ付き合いやすい人種だ。
どうしても根っこで嘘がつけない人というか……良くも悪くも、“ハムちゃんズ”って感じ。
言葉でボロを出すのは怖いから喋らない、もしくは無愛想で受け流すタイプ。
でも最近トクメイさんの件で話すようになったから、ちょっとずつ彼も喋らざるを得なくなってきて、やや進展してる気がするね。
逆に表面上は親しくやってくれているが、橋波さんはまだまだこっちを探ってる気配があるので、あれが怖いんだ。
なんなのかしらあの人。風見さんくらい無愛想ならまだわからないでもないというか、ビジネスライクなお付き合いってのが出来るでしょうに。
「『疑えば
「……なんて?」
フォレスターの運転席の小林くんが、赤信号で停まったついでに怪訝そうな顔でこっちを見てくる。
「私としては、“おともだち”の方が気が楽なんですけど、あの人は疑ってばかりで……いつまで経っても親しくなれないんですよ」
「お前、荀子なんて読むっけ?」
「昔覚えました。わかる〜って思いながら」
荀子は人間ってのは性悪説で説いてる人だからね。良い人になりたいなら頑張れよ!っていう。
生まれながらに良い人というか、正義感というか……蘭ちゃんや新一くんは、生まれが生まれなんだろうか。
育ちが育ちだと思うから、そこの所はクリスさんのマイエンジェル説にはちょっと物申したい。
小五郎さんや妃先生の努力があるんだぞいってな!
「……なんか……え? ハル、俺の兄さんみたいになってるけど、変な思想に引っ張られてない?大丈夫か?ゲームやる?」
「引っ張られてるってそれ風見さんにも言われたんですけど、なんか今日の電話相手が中々哲学的な方で」
「…………あれ?長野の協力してくれる人との連絡だったよな……」
「ええ、なんだか難しいことを仰る方でした。私が知ってるのなんて荀子か孔子くらいですからね、頑張って話合わせましたとも。……三国志とか桃園くらいしか知らないです」
しかも“あの絵柄”での一コマ一コマくらいしか知らない。
“我ら生まれた日は違えども〜”のやつね。
「いやそれ創作…………まさか……いやでもハルがこんなんなるくらい言葉に混ぜてくるなんて、いや長野なんて、言ったらそんなの……」
「小林くん、青、青ですよ信号」
なんか考え始めてしまった小林くんを促し、車を動かしてもらう。後ろの人がちょっとくらいは待ってくれる車で良かった。すまんね。
ガソリンスタンドに滑り込んで、スッカラケッチンなタンクにせっかくだからハイオクぶち込んでもらってる間、零くんとの連絡がグループメッセージにて始まった。
『ゼロ! もしかして、長野の協力者って、兄さんか!?』
……しかし返事が無い。
景光くんからのこのメッセージ、見てるはずだけどな。風見さんと、仕事のやり取り中だろうか。
『ハルが兄さんみたいにおかしくなってるんだけど!』
「おい」
言い方。
私にもだけど、それじゃあ君自身のお兄さんもおかしいって言ってるようなもんじゃん。
「いや……だって兄さんも大概だからさ」
「そんなに?」
うん、となんのてらいもなく頷いた小林くんである。
あ、お支払いね。カードでおなしゃす。
給油も済んで、お腹いっぱいなフォレスターくん。
小林くんが運転に戻り、車はガソリンタンクをけぷけぷと揺らしながら阿笠さんの研究所へと向かう。
美味いか?たまには掃除がてら良いもん飲ませると良いって聞いたのさ。
ちゃんと普段の給油はガソリンだよ!
さぁてどれどれ、運転してもらっている間のメッセージは私が見ておきましょうね。返事が来てるや。
『やはり影響されたか……』
「やはりってなんやねん」
犬のアイコンからどことなく漂う『やれやれ』感。額押さえて首振ってそう。
『風見から連絡は貰った。長野への出向要請とのことで了解している。ヒロ、日程調整して、ハルと一緒に長野に行ってやってくれないか?』
『その方が話が早いはずだ』
……とのことで、読み上げペンちゃんから読み上げてもらった景光くんは「やっぱり」と呟いている。
やはりってなんやねん!
「ゼロは、匿名とは言いつつ分かってはいただろうね。思ってたより根が深そうだからあちらが調査依頼を寄越して、それに了承したんだろう」
「え、結局お兄さんなんです?」
「……」
会えばわかるさ、みたいな クスッと笑いやめて?君の横顔でそれやられるとちょっと心臓に悪いから。
『あとハルは阿笠さんや毛利探偵と会話しろ。戻せ』
『何ですかそのチョイス』
小林くん曰く、普段の私の基準に近い人たちだから軌道修正しろって意味だろう、とのこと。
「ちょっと荀卿齧っただけでそんな悪影響みたいな言われ方しないといけないんですか」
「いやいや。悪いことじゃないんだけど、ハルはほら、真似しちゃうからさ。ちょっと……
兄さんがハルには強過ぎたなって、それだけなんだよ」
景光くんの中でのお兄さん、どういう解釈になってんの?
■
阿笠さんとよくお話するようにと言いつけられて研究所に送り返された。
ならばとばかりに、私は焼きプリンをお茶請けに、初夏の四万の美しさと帰りの酷い暴挙の愚痴を滔々と語り尽くしまして。
阿笠さんはうんうんと相槌や時に質問を挟みながら聞いてくれた。
彼も「リラックスできて良かったのお」とのほのほ笑いながら焼きプリンを頬張っていたので、ヨシ。
その後学校帰りの灰原さんに、焼きプリンの空瓶とまんじゅうの包みが見つかって、阿笠さんは甘いもの制限が課されていたが。
だからまんじゅうの方は明日食べましょうって言ったのに。
そして週末の土曜日に、小林くんが件のディーラーさんからインプレッサを借りて新一くんを乗せ、安室さんの、小五郎さんを乗せたRX-7と一緒に“銀白の魔女”とっちめてきたそうな。
みんなして朝早くどころか暗いうちから出かけたそう。
研究所まで
流石に橋波さんが隣にいる研究所には近寄り難いのか、安室さんはそのままポアロ裏の駐車場に向かったそうで、こっちには青のインプレッサに乗った小林くんが来てくれた。
門の先に停車している、このちょっと丸っこいかわいげのある車体!でもかっこいいスッとした
やや低い車高!
……イイネ!
これで攻めたのかい、峠を!
捕まえたのかい、魔女を!
「……なんか……」
「別の魔女が出てきたんだよ」
歯切れの悪い小林くんに代わって、ぴょんと降りてきてお土産の焼きプリンをおすそ分けしてくれた新一くんが答えてくれたんだけど。
別の魔女ォ?
「4年前に現れていた、本物の“銀白の魔女”。……実は佐藤刑事だったんだよ」
「あの人、そういえばFD乗ってたな……」
……なんで警視庁勤務の彼女が群馬に?
何?走り屋だったの?
てか、『本物』?
「…………とりあえず車返してきてから、改めてこっち来るわ」
蘭ちゃんや、話を中途半端に聞かされた灰原さんや阿笠さんにも聞かせようと、一旦お迎え保留して新一くんを置いていった。
私にわざわざ、青インプを運転してるのを見せてくれるために寄ったみたいなものだったそうな。
でも確かに実際見ると、ちょっと……ちょっとだけ狭……いやSUVに慣れてるからそんなこと言ってるだけかぁ?
でも四角いのはなんかイメージに合わないし……
「スバルさん、みんなでプリン食べようよ」
「ああ、はい」
みんなで食べる分には、灰原さんも阿笠さんの制限を一時解除してくれるだろう。
橋波さんにもおすそ分けしてあげようかな。
で、結局魔女ってのはなんだったのさ?
待ちに待ってた作品が更新されてたことに気付き狂喜乱舞してたら1週間経ってました
時が経つのは早いもので……
読んでいただきありがとうございました!