ジークアクスの突然現れたバスク・オムに驚いた勢いで書き始めました。
バスクのシーンちょっと前あたりをイメージしてます。


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堕ちる

人は、明日死ぬかもしれないとしても、生きている間に何かを遺していれば勇気を持てる。

自分の存在した記録が残るなら、誰かが自分を覚えているなら、誰かが引き継いでくれるかもしれないからだ。

人類が宇宙に人を移住させるようになって半世紀が過ぎた頃、最も地球から遠いサイド3に暮らす者にとって『ジオン独立』の言葉は人々が拠って立つ大地そのものだった。独立運動を先導した故ジオン・ダイクンとその盟友のデギン・ザビが、遠く離れた地球の連邦政府ではなくサイド3に根ざしたジオン公国から理想の世界を作り上げてくれるとサイド3住民は期待した。 

独立戦争を経て舞台は暗転し、役者は役目を終え、始まり(Beginning)の章は終わった。ジオン・ダイクンの提唱した革新の象徴(ニュータイプ)は現れ、その二つ名(赤い彗星)の通りに大活躍を見せて消え失せた。

 

「人類が宇宙に進出するようになってからも、人々の根本は変わらなかった。ジオン・ダイクンが作り上げたジオンはデギンザビの君臨する公国になり、焚きつけた火種が独立戦争の戦火となってニュータイプの発現という潮流を飲み込んだ。

ジオン・ダイクンの理想に憧れた者同士が宇宙を割る閥族となって、ジオン・ダイクンの遺産を食いつぶしながら権力闘争を続けている」

そう考える者が、今となってはサイド3を故郷とするスペースノイドが最大の敵であった地球連邦に協力している。『ジオンに栄光あれ』と願いつつ、それを最も望まない地球連邦軍情報部のバスク・オム率いる極右派将校団に情報を流している。

 

「……しかし」

ジオンの協力者が呟いたのは、直接に将校へと情報を流す作業の、その最中だった。権力闘争を続ける閥族の片割れを率いる突撃機動軍のキシリア・ザビが、独立戦争時の軍事占領以来動かなかった月面都市圏から初めて動くという情報を受け渡した日だった。

「ん? ……聞こえなかった、もう一回頼めるか?」

「必要ない。ただの独り言だ」

自分の呟きを聞かなかったことにして欲しかった。が、情報部の将校はそうしなかった。そう空気を読めないからニュータイプに負けるんだぞ、と内心考えるが、気づいた様子はない。この様子ではキシリアを狙ったところで配下のニュータイプに出し抜かれてチャンスをふいにするに違いない。

 

「そうか? もっと大声で言うべきだ」

「……いや、いい」

 

もう一言二言交わした末に、

「で?」

と情報部の軍人が促すと、ジオンの協力者は言った。

「月の連中も動くという話だ。『幽霊』がまた出る、なんてのもありえる」

「ん? ……ああ、サイド6に来てるって生き残りのニュータイプ(シャリア・ブル)か。そうだな」

「月に残るキシリア閥の連中の相手はズムシティの総帥閥の連中がするだろう。君たちはサイド6で掃除をするといい……サイド6にしても、我々の独立戦争のついでに独立した以上は『連邦国民を守る』連邦軍の保護対象とはならんだろ?」

皮肉めいた言いぐさに情報部の将校は笑ったが、その声は少しだけ弱々しかった。

 

「……まあな。今のペルガミノ大統領の会社には戦争中にドックを貸してもらった恩があるから少しは気を遣うが」

「それでも有力者の所在情報だ、バスク殿に良い手土産が出来るだろ?」

 

そう言葉を交わして、ジオンの協力者は再び口を閉ざす。口を開くたび爪を剥がれるような痛みが背中を走ることは確実だったが、自分の権力固めのために独立戦争の成果を切り崩すようなキシリア・ザビの情報を流すのなら自分を恥じる理由などあるはずもないと、自分に言い聞かせた。


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