勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「本当に、私という心の広い聖女様じゃないと、フラれるところでしたよ?」

「スレイ殿、ジュリア様、ドラゴンの群れの討伐お疲れ様でした! そして、ありがとうございます!」

 

 

 拠点に戻るとメレディスさんが敬礼をして出迎えてくれた。

 

 

「いえいえ、むしろ貴方達の仕事を奪ってしまって申し訳ありません。こう勇み足でそのまま前に出てしまうのが俺の悪い癖で……」

 

「何を仰いますか! あれだけの数の竜に襲われれば、我らだけならまだしも、この国の民達の生活に被害が及んだことでしょう。それを御二方で損害もなく解決されて……このメレディス、感服いたしました!」

 

 

 なんかこの騎士団長様、キラキラした目で称賛してくるんだけど。

 まるで少年のような曇りなき眼で。

 さらには、テンションを振り切った様子で。

 

 

「これまでスレイ殿とジュリア様の戦いを、実際に拝見させてもらったことがなかったんですが……流石は勇者といった戦いぶりで、息を吐く暇もありませんでした! あの宙にいる竜の群れのところまで一瞬で到達できる跳躍と、そこから流れるようなドラゴンへの攻撃! そしてジュリア様の光魔法が発動したかと思ったら、次々に落ちていくドラゴン達! あんなの人間技じゃありませんよ! いやー、すっごいカッコよかったなー!」

 

 

 最後、語彙力が急速に低下してる。

 この騎士団長様、確か俺より10歳は年上だったはずだよな。

 しかも、顔立ちはクール系というか、めちゃくちゃ凛々しいのに。

 そのメレディスさんが、英雄譚を読んだ男の子のようにはしゃいでる。

 

 ……ギャップが、すごい。

 

 

「後の処理は我々にお任せください! 後でドラゴン討伐の報酬は支払われると思いますので、ご心配なく!」

 

「いや、別にこれくらいなら……」

 

「スレイ、貰っておいた方が良いですよ」

 

 

 咄嗟に断ろうとしたが、背後からジュリアが小声で制止する。

 

 

「私達の感覚がおかしいだけで、あんな竜の群れに襲われるなんて本来なら国単位でもかなり危険な状況なんですから。それから救われた側からの報酬を受け取らないと、逆に向こうの面子が潰れてしまいます」

 

「そういうもんか」

 

 

 旅の道中、あれくらいの魔物ならひっきりなしに襲いかかって来たもんだから、対価をもらうという発想がなかった。

 ボス的な魔物を倒した時に貰える賞金だけで生活できてた訳だし。

 

 

「それじゃ、お願いしますね、メレディスさん」

 

「ええ。あと、メレディスと呼び捨てで結構ですよ。勇者殿からさん付けなんて畏れ多いですし」

 

「んー……慣れたら、そういう呼び方をさせてもらいます。いきなり変えるのは難しいですから」

 

「それで結構です。あと、もう一つお願いがあるのですが……」

 

 

 そう言うと、メレディスさんはいそいそと紙のようなものを二枚取り出して。

 

 

「不躾で恐縮ですが、御二方のサインをもらえないでしょうか? メレディスへ、って端っこに書いてもらえば嬉しいです」

 

 

 そんな、憧れの人に出会えた少年のようなことを言い出した。

 

 

「わ、分かりました……えっと、こんなもんで良いですか?」

 

「それでは僭越ながら私も、キュキュキュッと。家宝にしてくださって構わないですよ」

 

「ありがとうございます! お言葉の通り、一生物の家宝にさせていただきますね!」

 

「すみません、ジョークです」

 

 

 ジュリアの冗談までも素直に受け取るメレディスさんに、聖女様もたじたじになっておられる。

 なんというか、真っ直ぐな人だな、メレディスさん。

 

 

「お二人の結婚式には、私も参列させていただくことになっておりますので、よろしくお願いしますね。とはいっても、もう三日後になりますが」

 

「あ、あはは……こちらこそよろしく。それじゃあまた」

 

「はい! それでは失礼しますね!」

 

 

 愛想笑いで誤魔化しながらメレディスさんを見送るが、俺の内心は冷や汗でダラダラだ。

 

 俺達の結婚式は、国を挙げてのものになるらしい。

 

 分かる。分かるよ。

 手前味噌だけど、魔王を倒した二人だし。

 そのうち一人は、一方的ではあれど神から愛されている聖女様だし。

 もう一人は、一応勇者として認められた人間だし。

 そんな二人が結婚するなら、大事になるのは分かるよ。

 

 でも、普通に怖い。

 

 聞けば他の国からも王族の方々が来られるとか。

 うちの国だけなら、ゆるふわな雰囲気があるからまだいいけど、よその国とかもっと厳格な人が来るに違いない。

 そんな中で俺が粗相でもしようもんなら恥晒しもいいところ。

 必死に礼儀作法の勉強はしているけれど、それでも準備期間が足りない。

 ジュリア? こいつ腐っても聖女様なんでそういうのは完璧なんすよ。

 

 それに加えて、

 

 

「なあジュリア、結婚式で使う指輪、本当にあれでいいのか? こういうのって、給料三ヶ月分とかが相場なんじゃ……」

 

「働いていないのに三ヶ月分とか、寝言で寝てから言ってくれません? それとも、貴方との結婚式を三ヶ月も延期しろとでも言うおつもりですか? まあ別に、私としては結婚式なんていつ挙げようが構わないんですけど、今回の結婚式はまさに国中を巻き込んだ一大イベントになる訳ですよ。多くの人々が我々の結婚式を祝福しようと待ち望んでくださっているのにそれを先延ばしにするなんて、勇者様はとても悠長な性格をしていらっしゃいますね。客観的な視点を持ってくださいスレイ。魔王は倒しましたが魔物は消えず、未だに脅威は完全には消えていないのですよ。そんな陰鬱とした世の中の空気を変えるには、こういうハッピーな出来事で払拭する他ないのです。私にとってはハッピーどころかアンハッピーですけど。それでもこの間のスレイの発言を聞くに、私と結婚すれば幸せになるとか仰ってましたよね。であるなら、魔王を討伐した仲間のよしみとして、貴方の幸せのためならこの身を捧げてしまっても、まあ、聖女としては許容範囲かなと思うわけで。そんな貴方にとってこれ以上ない幸福に塗れた生活のスタートを貴方が遅れさせると言うのであれば致し方ありません。その気持ちは尊重してあげます。私の気持ちを考えずに結婚を先延ばしにするなどという、人道に反する行為に罪悪感を覚えないのなら、そうすれば良いと思いますよ。でもそうではないでしょう? 貴方は私のことが、その…す、好きなのであれば、妻の気持ちを察さずに、そのような地獄に落ちても文句が言えない外道な行いをしないはずです。ここまで言えば、スレイがすべきことはもう分かりましたよね? 分かったと言え」

 

「分かりました」

 

 

 ちょっと聞いただけで、ここまで言い返されることある?

 結婚式用の指輪をちゃんと準備できていないことについて、聞いただけなのに。

 

 実は、ジュリアがあまりにも急ピッチで結婚式の日程を決めたため、結婚指輪を用意できていないのだ。

 本来なら、指輪の準備だとか、式場のセッティングだとか、参列者の都合だとか、新婦のドレスの関係だとか、そういったもので結婚式というのは準備がとにかく大変な行事な筈。

 筈だったのだが。

 

 式場は、アナスタシア様がいつでも大聖堂で行ってくれることになり。

 参列者からは、ほぼ全員から他の予定をキャンセルしてでも参列すると返事され。

 ドレスに関しては、元々スタイルの良いジュリアには全く問題なく着こなせて。

 残る準備は指輪だけとなったのだが、ジュリアが「指輪ごとき構わん、行け」と言わんばかりの勢いで推し進め、あれよあれよと三日後に挙式することに。

 ……本当に、これで良いのだろうか。俺たちの結婚式。

 

 

「指輪なら、下手な市販品よりよっぽど上等なものが既にあるじゃないですか。千年前の勇者が妻と共につけていた指輪が。勇者と聖女ちゃんの結婚式にも格としては見劣りしない逸品ですよ」

 

 

 千年前に魔王が現れた時、その時代の勇者が妻と送りあったとされる指輪。

 とある遺跡を探索している時に、たまたま見つけたものだ。

 長い年月を経ているにも関わらず、その一対の指輪は、決して朽ちることなく元の形を保ち続けていた。

 そのまま放置しておくのも悪いと思って、回収したのだが。

 

 

「……それはそうだけど、俺は他人のお下がりじゃなくて、俺が選んだ指輪を送りたかったんだよ。俺の気持ちを込めた、ジュリアに相応しいと思える指輪を」

 

「ん゛ん゛っ゛!! ……なら、結婚した後で、改めてお願いします。貴方の眼鏡にかなう指輪を探していたら、何年も待たされそうですから」

 

 

 またも奇妙な叫び声をあげるジュリアだが、その後に続く言葉には納得せざるを得ない。

 そもそもこの世に、ジュリアに相応しい指輪なんてあるのだろうか。と本気で思ってしまうこともあるのだから。

 

 

「というか、指輪のことより、よっぽど気にすることがあると思うんですが」

 

「はい? なんかあったっけ?」

 

 

 もはや指輪くらいしか心残りはないんだけど。

 何のことかと頭を捻っていると、みるみるジュリアが不機嫌になっていく。

 いや本当に何?

 俺の少ない脳みそでは思いつかないんだけど。

 

 そんな俺の様子を見た聖女様は、呆れたようにため息をつき。

 

 

「そもそも、私にプロポーズをしてないことが問題だと思うんですよね」

 

「それに関しては、本当にすみませんでした!」

 

 

 膨れっ面でご尤もなことを言うジュリア。

 よく考えれば、結婚のための準備は順調だったし、好意自体は伝えてはいるものの、俺からジュリアに結婚してほしいと言った覚えがない。

 なんだったら、ジュリアの方からプロポーズされているようなものだったので、もはや失念してしまっていた。

 

 

「別にプロポーズの言葉が欲しいわけではありませんよ? この婚約だって、元はと言えばスレイが王族に取り込まれることを防ぐための形だけのものでしたし。王様にその意志がないのであれば、無理に私と結婚する必要性は無くなったも同然です。そりゃあ、ほんのちょっと、本当にほんのちょっとだけ、私がスレイに好意を抱いていると言う面は否めませんが、それでも貴方と結婚して、愛し合って、子供にも恵まれ、穏やかに二人で老後を過ごす生活自体には、至上の幸福に塗れた人生を送れるだろうなと思うだけですし。ただ、なんとなく、逆に貴方の隣で一生を過ごす女性が私でなかった場合を想像するだけで、胸が張り裂けそうになって、頭がおかしくなりそうで、もはや生きている希望を失いそうな程度の苦しみしかありませんから、スレイにそこまで結婚を望まないのであれば、容赦なく断ってくれたっていいんですけどね。私はそこまで、スレイと一緒になることに魅力を感じていませんから、勘違いしないように」

 

 

 またも強がるジュリアの声を聞きながら、必死に頭を回転させてプロポーズの言葉を考える。

 というか、この間のアナスタシア様に向かって言った言葉がそのままプロポーズになりそうだけど、そういうことではないのは分かっている。

 かと言って、あの時以上の言葉を今の俺には思いつけない。

 

 こうなったら、思いのままの言葉をぶつけよう。

 

 

「ジュリア」

 

「はい」

 

 

 深く息を吸い、心を落ち着かせて、まっすぐジュリアの顔を見つめ。

 

 

「お前と離れたくない。ずっと一緒にいたい。ジュリアと笑い合って生きていたいんだ。だから、結婚してくれ」

 

 

 出てきた言葉は、あまりにもシンプルなものだった。

 気の利いた言い回しなんて出てこない。

 ただ、俺の率直な思いを、そのまま伝えただけ。

 

 

「全く、もうちょっと洒落た言葉とかを期待してたんですけどね」

 

「すまん。でもこれが俺の精一杯なんだ」

 

「本当に、」

 

 ありきたりなものといえば、それまでのプロポーズを受けてジュリアは、いつものように棘のある言葉を叩きつけてくる。

 けれど、そんな言葉とは裏腹に、

 

 

「本当に、私という心の広い聖女様じゃないと、フラれるところでしたよ? 良かったですね、貴方が愛した女性が私で」

 

 

 本当に嬉しそうに笑いながら、飛びついてきたのだった。

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