勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「『こんな阿呆ヅラで田舎者な男が本当に勇者なんですか?』って思ってました」

「朝ごはんができましたよ。完璧スーパー美少女聖女様である私の作った料理を食べられることを咽び泣きながら感謝して味わいなさい」

 

 

 そんな尊大な態度をとりながら、ジュリアが食卓に朝食を運んでくれた。

 さっきまで足腰が立たないとか言ってたはずなのに。

 ……まあ、俺も甘えられて嬉しかったし、言うだけ野暮ってもんである。

 

 

「今更それ言うか? 旅してた時からずっとお前の料理を食べてたってのに。ちゃんといつも感謝しながら食べてたぞ」

 

「……本当に貴方は素直ですね。根っこからのお人好しというか、甘ちゃんというか。私がいなかったら詐欺に遭ってすってんてんになってそうなくらい危機感がないです」

 

 

 呆れたように語る、ジュリアのその言葉を、強く否定することはできなかった。

 詐欺師からしたら、俺みたいな頭の悪い人間は絶好のカモに見えるだろう。

 ジュリアはその点しっかりしているのが聖女様らしくないが、ジュリアらしい。

 そうだ。騙されやすいと言えば。

 

 

「それ、リオにも小さい頃から言われてたな。ほっといたら悪い人に攫われそうとか、お金を騙し取られそうとか」

 

 

 リオは、俺の故郷の村で暮らしている、いわゆる幼馴染みというやつだ。

 俺の一つ年上の女の子で、俺のことを本当の弟のように世話を焼いてくれていたっけ。

 そうやって昔のことを懐かしんでいると、

 

 

「……私の前で他の女の話をするとは良い度胸ですね」

 

「いてっ!」

 

 

 ジュリアが、私は今ご機嫌斜めですと言わんばかりに頬を膨らませながらデコピンしてきた。

 

 

「本当にデリカシーがないガサツでバカでアホな勇者ですね、スレイは。そうやって昔の女の話をして、私の嫉妬心を煽ろうとしているなら無駄なのでやめてください。どうしようもなくダメダメな男であるスレイの妻は、私のような見た目も性格も家事も完璧で究極な聖女である私くらいにしか務まらないという自負がある私を打ちのめせるものなら打ちのめしてみなさい、さあ早く」

 

 

 言葉の洪水をワッと浴びせつつ、ジュリアは俺に向かい合う形で膝の上に座り、そのまま俺の胸に抱きついてきた。

 

 

「……なんでそう言いながらひっついてくるんだよ。何度も言ってるけど、リオとは何にもないから」

 

 

 確かにリオは俺の幼馴染みだし、村で一番の美人ではあるけれど、それでもあいつが俺の恋愛対象になったことは一度もない。

 そもそもの話、

 

 

「あいつ結婚してるし、子供も今五人くらいいるんだぞ。この間、俺の実家帰った時にジュリアも挨拶したじゃん」

 

 

 リオは既婚者です。

 見ていてこちらも微笑ましく思えるほどに、仲睦まじい夫婦をやってます。

 そんな相手に懸想するとか、常識的にやばいでしょ。

 

 しかし、ジュリアは納得いってないのか抗議を続ける構えだ。

 

 

「実は小さい頃から姉のように思っていた幼馴染に仄かな恋心を抱いていたとか定番な話ですよね」

 

「恋愛小説の読み過ぎだ」

 

 

 やっぱり、ジュリアもそういう物語が好きなのかな。

 読書は好きみたいだし、中にはそういう本も読んでたのかもしれない。

 

 

「これから先も、これまでと同じような関係が続く。いずれは何も言わずとも夫婦になることを夢見ながらも、ただ関係性が壊れるのを恐れてしまい後一歩が踏み出せずにいた。そこにあるのは臆病な心と、彼女が自分から離れるわけがないという傲慢な考えのみ」

 

「なんか話の流れ変わったな」

 

 

 急に雲行きが怪しくなってきた。

 ジュリアはどういう本を読んだんだ。

 

 

「そしてある日、彼女も自分と同じ気持ちだと思っていたのに、向こうはこちらのことなんて何とも思ってなくて、あっさりぽっと出の男に心を奪われ、彼女の何もかもを持っていかれ、そこで『俺が先に好きだったのに』と怨嗟の声を上げるものの、全ては勇気を出して行動しなかった自分が悪かったと後悔するほかありません」

 

「その恋愛小説、なんか鬱屈してない?」

 

 

 ただ、ジュリアと何年も一緒に旅をしておきながら、その道中で想いを打ち明けなかった自分にも刺さる内容なので胸が痛くなってくる。

 本当に、ジュリアから婚約の話を持ち出してくれて良かった。

 そうでなかったら、ジュリアのことは完全に諦めてただろうから。

 

 

「そうやって愛する人を奪われて、落ち込んでいる勇者スレイの元に、慈愛の心に満ち溢れた、とっても可愛い聖女様であるジュリアちゃんが現れる。そして彼女の献身的な支えによって聖女様への新たな恋が芽生えた……というのが私との最初の出会いじゃありませんでしたか?」

 

「捏造が甚だしい!」

 

 

 魔王討伐の旅に出る時の顔合わせで、ジュリアに対してそんなことは欠片も思ってない。

 まず、失恋で傷心してる前提なのが間違ってるし。

 

 

「大体、リオとスヴェンは小さい頃から仲良かったし、そのスヴェンだって俺の親友なんだぞ。どちらかというと、俺の方がお邪魔虫だったんじゃないか?」

 

「なるほど、一歩間違えればスレイの方がリオさんをスヴェンさんから簒奪する側であったと」

 

「そんな胸糞悪いこと誰がするか! そんなゲスい勇者とか子供の夢が壊れるわ! というか俺がそんなことをする勇者を見たくないんですけど!?」

 

 

 そもそも、人の恋人や妻を奪うなんて勇者とか以前に人間として許される訳ないだろ……。

 

 

「まあ、スヴェンからリオを奪おうって奴がいたら、ご愁傷様って感じではあるけど。あいつ顔良いからな」

 

「イケメンですもんね。スレイと違って」

 

「何で急に俺のことを刺しにきた? 浮気か?」

 

 

 ほっといてくれ。

 どうせ俺はパッとしない男だよ。

 特段背が高いわけでもないし、目つき悪いし、そのせいで動物や子供達を怖がらせてばかりの人生です。

 やばい、泣きたくなってきた。

 

 

「私からしたら顔の造形とか身長とかはどうでもいいですけどね。そんなものは生まれ持った性質なのですから、そこをあげつらって笑い物にするのは聖女的にはアウトです。私は生まれつきこの可愛い顔とナイスバデーなのですけども。背が低いのも可愛いらしくて良いでしょう?」

 

「ジュリアは俺を慰めたいの? それとも自慢したいの?」

 

 

 元々顔云々について言ってきたのはコイツなので、慰めがあったとしてもマッチポンプだけども。

 

 

「どっちもです」

 

 

 ……はあ、本当にこいつは。

 

 

「いい性格してるよジュリアは」

 

「性格がいいなんて、急に褒めないでくださいよ。照れちゃいます」

 

「ちょっと言葉の順番変えるだけで意味がまるっきり変わるの本当に不思議だよな」

 

 

 とことんまでいい性格してやがる、この聖女様。

 

 

「スヴェンの方がよっぽど性格良いだろ。顔も良くて性格も良いとか完璧超人か?」

 

「まるで私みたいですね」

 

「じゃかましい」

 

 

 俺はスヴェンを尊敬している。

 そんなスヴェンとリオが結婚しても「お幸せに」としか思えない。

 なので、ジュリアが危惧しているようなことは一切ないのだ。

 

 

「そういえば、最初、私たちの旅についてこようとしてたらしいですもんね」

 

「ああ、俺が心配だからってさ。友達思いの良い奴だよ」

 

「まあ、良い人っぽいですね。私はよく分かりませんけど」

 

 

 俺のために死ぬかもしれない旅路に着いていきたいと言えるくらいに、本当に優しい奴なんだよ。

 俺の剣技も、元はと言えばスヴェンが教えてくれたものだ。

 俺は馬鹿力でどうにかしてるだけで、技術そのものはいまだに俺はあいつの域にまで達していないと確信している。

 本来なら、両手を挙げて歓迎するところではあるんだよ。

 ……あるん、だけど。

 

 

「ただ、未知の国や土地に行く関係上ちょっとな……」

 

「あの人、私と視線が合わなかったですし、モゴモゴしてて何言ってるか分からなかったんですよね。この間挨拶に伺った時も結局前と変わらずでしたっけ……」

 

 

 スヴェンは極度の人見知りなのである。

 俺やリオなどの昔馴染みの人間とは普通に接することができるけど、そのコミュニティから離れてしまうと、途端に口を開けなくなってしまう。

 なんなら、未だにジュリアとまともに会話できないほど。

 そんな旅先のストレスを抱えさせるくらいなら、城壁の外にあって魔物から無防備でもある村を守っていてほしい。とこちらからお願いしたものだ。

 

 

「そこまで言い張るのであれば、リオさんへの恋心はなかったものとしてあげましょう。寛大な措置に感謝してくださって結構ですよ」

 

「寛大というか尊大だな」

 

 

 不良に因縁をふっかけられた人と同じ気持ちを味わっている気分になる。

 

 

「でしたら、私と最初に出会った時は私のことをどう思いましたか? やっぱり、『こんな美少女と二人旅とか最高だぜヒャッホウ!』とか、『そのおっぱいで聖女は無理でしょ。このドスケベ女が』とか思ってらっしゃったんです?」

 

「ジュリアは俺を何だと思ってるの?」

 

 

 俗物が過ぎるだろ。

 でも、初めて会った時の印象か。

 そうだな……。

 

 

「お前と初めて出会った時の印象は『見た目はすごく可愛いのに、口を開けば台無しな女』だったんだけど?」

 

 

 そう言い放つと、ジュリアは少しだけ訝しげな表情に。

 けれど、それもすぐに元の顔へと戻った。

 

 

「……あら、可愛いとは思ってくれてたんですね。まあこのプリティフェイスなら勇者様でも骨抜きになるのも無理はないです。全く罪作りな女ですよ私は」

 

 

 調子のいいことを抜かしおる。

 ならばこちらも問い返そう。

 

 

「じゃあ逆に、お前の俺への印象は?」

 

「『こんな阿呆ヅラで田舎者な男が本当に勇者なんですか?』って思ってました」

 

「手厳しいな……」

 

 

 実際その通りなんだけども。

 それでも第一印象が微妙なものだったことに少しへこむ。

 

 

「ま、まあ安心してください。今は身も心も捧げて、子供を産んであげて、老後も一緒に過ごしてあげても良いかなって思える程度には改善しましたから」

 

 

 俺が落ち込んだからか、ジュリアが若干慌てた様子でフォローを入れてくれた。

 入れてくれたが。

 

 

「……とんでもなく評価が上がってるな、俺」

 

 

 しかし、それで『程度』ということは、ジュリアの中ではそれ以上のものがあるということなのだろうか。

 ……上限突破した時が、怖いな。

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