勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「今更冒険者ギルドに行くとか貴方はバカですか?」

「で、結局俺は何を仕事にしたらいいんだ?」

 

「何ですか唐突に」

 

 

 朝食を食べ終わった後、今後の生活について、ジュリアと話し合うこととなった。

 正確には、話し合うというよりは、相談に近いものであったが。

 

 

「十三歳の時から五年過ぎ、その間はずっと魔物を狩りまくってただけの人間だから、技術も学も何も持ってないんだよ。最終学歴が初等教育なんだぞ俺は」

 

「このご時世、田舎住まいだったら上等な方では?」

 

「でもこのままだと魔物を狩る仕事くらいしかできなくなるぞ」

 

 

 なんだかんだ、知識というのは人間が持つ最大の武器だ。

 力一辺倒なだけの俺では、魔物を倒す力は限りないけれど、一般的な仕事をするには持て余す。

 魔王を倒し、以前よりは比較的平和になったこの世の中では、力よりも知識が重要視されてくるというわけで。

 

 

「それだと普段と変わりないですね」

 

「そうなんだよ! このままだったらニートになっちゃうよ俺!」

 

 

 ジュリアはこれでも聖女様なわけで、知力の面では最高峰と言っても良い。

 彼女なら仕事はよりどりみどりだろうけど、俺は職を選べない側になっている。

 いいのかよ。世界を救った勇者がニートで。

 

 

「魔物を倒しているならニートではないのでは……?」

 

 

 そう叫ぶ俺を、ジュリアが心底不思議そうに見つめてくる。

 

 

「魔物を倒すったって、街や村を襲ってくるかなんて不定期だし収入が安定しないじゃないか」

 

「魔王討伐で十分な報酬をもらっているので、賃金に関しては考えなくても良いかと。ぶっちゃけスレイに仕事をしてほしいのは、日々の生きがいがあったほうが人生の彩が出ると思っての提案ですし」

 

「それでも魔物を倒して世の平穏を保つこと自体は趣味みたいなものだし、本当に仕事なのかって疑問が出てきてさ」

 

「趣味の規模がデカすぎませんか?」

 

 

 なぜかジュリアにドン引きされた。

 ひどい。

 

 

「それでも、魔物討伐はギルドで請け負う立派な仕事だし、改めて正式に登録して仕事して、どんなものかってのを体験しようと思ったわけよ」

 

 

 どういう職を手にすれば良いのか分からないので、得意なことを仕事にする。

 とても自然な流れだと思うんだけど。

 

 

「趣味を仕事にした人の末路がこれですか」

 

 

 なぜかさらにドン引かれた。

 とても悲しい。

 

 

「そしたらさ……」

 

 

    ◇

 

 

『すみません、こちらが冒険者ギルドの登録所ですか?』

 

 

 冒険者の集う場所として酒場も兼任しているのか、ギルドの登録所は昼だというのに酔っぱらった野郎どもに溢れていた。

 実は俺は、こういったギルドに立ち寄った経験があまりない。

 いつも、その国の王族や貴族の人たちから、魔物の討伐やダンジョンの攻略の依頼をされていたからだけど。

 

 初めての体験に、テンションが上がってきたな。

 そういえば小さい頃、冒険者に憧れた時期もあったっけ。

 仲間を募って、パーティを組んで、皆と協力して魔物を倒す。

 勇者として選ばれる前、そんな夢を描いていたのを思い出した。

 

 

『おう兄ちゃん、そんなに顔を強張らせてどうしたよ。そんな最初からビビってるようだったら冒険者なんてやってられねえぜ?』

 

 

 感慨に耽っていたら、強面のおじさんに話しかけられた。

 へえ、本当にこういうことあるんだ。

 冒険者になる前の洗礼みたいな奴。

 

 

『強張ってるんじゃありませんよ。元々こういう顔つきです。おかげで動物も子供も寄り付かなくって困ってるんですよね』

 

『へえ、なかなか言うじゃねえか。それだけ肝が据わってるなら合格ってところかね。ようこそ冒険者のギルドへ、命知らずの若人よ』

 

 

 軽く返してやったら、その男は笑いながら受け入れてくれた。

 ああ、なんからしくなってきたな。

 すごくワクワクしてくる。

 

 

『登録の受付はあっちだが、登録のための金は持ってるか?』

 

『ええ、もちろん』

 

 

 金貨の入った袋を見せる。

 すると、途端に周りが色めき立った。

 ……あ、もしかして金を持ってきすぎてたか?

 

 

『おいおい、そんな大金見せびらかすもんじゃないぜ。ここの連中の目の色を見ろよ。恋焦がれた乙女も裸足で逃げ出すくらいの熱ーい視線を、お前の懐に送ってきてるぞ』

 

『す、すみません!』

 

 

 慌てて袋を仕舞う。

 ダメだな。こういう場に慣れてないから勝手が分からない。

 

 

『それで、そんな世間知らずな坊ちゃんが、なんでこんな荒くれどもの集う何やってきたんで?』

 

『その、お恥ずかしながらこの歳になるまで無職でして……。魔物退治なら小さい頃から結構得意だったもんだから、冒険者になろうかと』

 

 

 実際、今まで職に就いたことはない。

 職探しに来たのも真実だ。

 なのでそう言うしかないのだが、周りはそれを聞いて爆笑し始めた。

 

 

『おいおい、それで選ぶ仕事がこれってどんだけ追い詰められてんだよ!』

 

『言っとくがな、こんな命懸けの仕事なんてお前みたいなボンボンには無理だぞ。命が惜しかったら帰りな坊主』

 

『怖くなったなら、今すぐ家に帰ってママのおっぱいでも飲んでなよ!』

 

 

 おお、未熟な新入りにヤジを飛ばしてくるのも想像してた通り。

 まるで昔読んでいた物語の主人公になったような気がしてくる。

 底辺から成り上がる冒険者の物語。小さい頃に何度も読み、憧れたお話の主人公に。

 いいね、最高の気分だ。

 

 

『安心してください。修羅場なら数え切れないくらい潜ってきたもんですから。それでは先輩方、ご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いしますね』

 

 

 野郎どもの笑い声を背中に受け、冒険者登録の受付に足を進める。

 ……?

 なんか、受付の女の人達の顔が強張ってるような?

 というか、こっち見てヒソヒソ話してない?

 ……まあ良いか。早く登録してしまおう。

 

 

『冒険者の登録をさせていただきたいのですが、こちらでよろしかったでしょうか?』

 

『は、はい! その通りでございます!』

 

 

 声をかけただけなのに、受付嬢さんが緊張したような声で返してくる。

 

 

『えっと……どうかしましたか?』

 

『だ、大丈夫です。その、登録の際には、身分証の提示をお願いしているのですが……よろしいでしょうか?』

 

『ええ、もちろん』

 

 

 魔王討伐の旅に出発する時、王様から渡された身分証を受付の人に渡す。

 細かいことは分からないけれど、これを見せるだけで俺が誰かがすぐ判別できるとかいう代物だ。

 他にも色々あるけど、これなら何も問題なく使えるだろうと思って持ってきたのだが。

 

 

『え、あの、これ、私が持っても大丈夫なものでございますでしょうか……?』

 

 

 受付の人がめっちゃ恐縮なされている。

 そう言われても、身分証だし……。

 

 

『どうぞどうぞ。そのためのものですから』

 

『で、では……あの、お名前の方を伺っても?』

 

『スレイです』

 

 

 そう、名前を告げた途端、

 

 

『え、え、本物!? まさか、こんなところでお会いできるなんて……!』

 

『やっぱり! やっぱり本物の勇者様だ! あ、あの握手してもらえませんか!?』

 

『えー!? なんでスレイ様がこんなところに!? まさかドッキリ!? ドッキリだったりする!?』

 

 

 受付嬢の方達が異常なまでに湧き立った。

 

 

『あ、あの、どうかしましたか?』

 

『どうかしたか聞きたいのはこっちですよ!? なんで勇者様がこんなところにやってこられたのですか!? ここ、どこか分かっていらっしゃいます!?』

 

 

 すごい勢いで捲し立てられても。

 要件はすでに述べたそのままなのに。

 

 

『分かってますよ。冒険者のギルドでしょう? それで魔物討伐とかの依頼を受注するために登録をですね』

 

『私たちのことを揶揄ってます?』

 

『真面目な話ですけど……』

 

『それがもう間違ってるんですよ……ここのギルドで貴方に紹介できるような依頼はありませんし……』

 

 

 そ、そんなバカな……!

 

 

『俺が勇者だからっていきなり飛び級のクエストを受けるつもりとかありませんよ!? ちゃんと皆さんがやっているように、ここの規則に則って、一番最初のクラスに見合った依頼をこなしていき、一からコツコツと実績を積もうと……』

 

『貴方はもう魔王討伐というどでかい実績を打ち立てておられますが?』

 

『でも、それはギルドからの依頼じゃないですよね?』

 

『ギルドよりもさらに上の世界の話じゃないですか!! スレイ様のような方にお勧めできる依頼なんてここにはないですよ!! そんなレベルの話なら王様の方から直々に貴方の方へ依頼が飛んできますって!! というか、一生働かなくても良いくらいの報酬をもらったはずでしょうに、なんでこんな場末の施設に来たんですか!?』

 

『魔物を倒して人々の生活を守ることが、勇者である俺の使命なので。ここならその魔物に困っている人たちの声が、依頼と言う形ではっきり分かりますし、俺にピッタリかなと思ったんです』

 

『くっ! なんて真面目な子なのかしら……!』

 

 

 受付のお姉さんが、眩しいものでも見るかのように目を逸らす。

 

 ……うん。とにかく俺がやらかしたことは分かった。

 どうも俺は冒険者ギルドには入ってはいけないと言う空気はヒシヒシと伝わってくる。

 でも、俺だって必死なんだ!

 

 

『このまま結婚してしまうとヒモになってしまうんです! どうか冒険者として働かせてください!』

 

『一世一代の大仕事終えた後でしょうが貴方は!! 聖女様共々夫婦仲良く穏やかに暮らしてください!!』

 

 

    ◇

 

 

「と、まあ、あえなく断られたわけなんですよ」

 

 

 あの後、俺が勇者だと周りにも知られ、ギルドにいる人たちからやたらと握手やサインを求められた。

 最初に話しかけてきたおじさんなんか、『母親から聞いたよ。あんたと聖女さんが俺の故郷を体を張って守ってくれたってことを……。本当に、あんたには感謝してもし切れねえ! ありがとうございました!!』なんて頭を下げられて。

 でも、こうして助けた人たちからお礼を言われるのは気分が良い。

 その言葉を聞くだけで、勇者をやってて良かったとさえ思えるくらいに。

 うん、本来の目的とは違えど、冒険者ギルドに行って良かったな。

 

 

「今更冒険者ギルドに行くとか貴方はバカですか?」

 

「酷くない?」

 

 

 天を仰ぎ見ながら、ジュリアが貶してきた。

 何も間違ったことはしてないと思うんだけど。

 

 

「間違ってないけど間違ってるんですよ。確かに法律的にはスレイが冒険者になること自体はなにも問題ないです。規則に従って冒険者になる。それは全く問題ございません」

 

「なら……」

 

「でも、立場を弁えてください。貴方は勇者なんです。世界を滅ぼさんとした魔王を倒した勇者様なんですよ。そんな魔物狩りに関してはプロ中のプロの人間が、冒険者ギルドなんかに行かないでくださいよ。はっきり言って場違いです」

 

 

 そこまで言われることだったのか……。

 

 

「そういえばスレイは初等教育は受けておられたんですよね、学校で」

 

「あ、ああ、そうだけど……」

 

「確かその学校って、希望があればどなたでも授業を受けられる奴ですか?」

 

「そうだな。たまに何歳か年上の人とかも混じって授業を受けてた記憶がある」

 

 

 幼い頃に親の仕事の手伝いなどでどうしても教育を受けられなかった人達がいるため、確かに俺の通っていた学校は授業を受けるのに年齢制限などはなかったけれども。

 

 

「王立魔法学園のことはご存じで?」

 

「知ってるぞ。魔法使いの中でも飛び抜けて頭の良い奴しか入れない学園だろ。卒業したやつは皆化け物だらけとか」

 

「そうです、その学園です」

 

 

 ジュリアは何が言いたいのだろうか。

 

 

「想像してみてください。王立魔法学園の学園長が、貴方の村の学校の授業を受けたいとやってきたら、どう思いますか?」

 

「あそこの学園長があんな授業を受けても学べることなんか何もないだろ」

 

「その学園長が冒険者ギルドに入ろうとした貴方の姿ですよ」

 

 

 え。

 

 

「こんなことあんまり言いたくありませんけど、スレイと冒険者とはレベルが違うんですよ。冒険者はその気になれば誰でもなれる職業です。謂わば魔物討伐の初心者向けのための職業である冒険者に、大英雄であるスレイがなりたいなんて言ったら、誰だって『こいつ正気か?』って思うでしょう?」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「魔物を倒したいなら騎士団に入ればいいし、ダンジョンなんて入るのに制限とかないから冒険者じゃなくても入れます。そもそも私たち二人で世界中回ったんですから、ギルドで出される依頼の場所なんて見覚えあるところしかないですよ」

 

 

 幼い頃からの夢を壊された音がした。

 これが、大人になるってことか……。

 

 

「なんでそんなに傷ついてるか分からないですけど、普通にスレイは皆から憧れられる立場なんですよ? それ、冒険者ギルドに行って実感したでしょう?」

 

「それは、まあ、はい」

 

「冒険者の人たちから握手を求められて」

 

「はい」

 

「なんなら貴方が救った人やその家族の方から感謝されて」

 

「うん」

 

「受付嬢の方々からもキャーキャー言われたんでしょう?」

 

「そうだな……あっ」

 

 

 ショックで適当に返事していたけれど、たった今致命的に返答を間違えてしまった。

 それに気づいた時にはもう遅く。

 見る見るうちに、ジュリアの目が吊り上がっていき。

 

 

「ほーら、どうせそういうのが目的だったんでしょう。良いですよね勇者様と言う立場を使えば道行く女性からモテてモテてしょうがないんですから。そりゃあ私だって聖女様ですから、それに並び立つぐらいモテまくり勝ちまくりの人生ですけど、それでも私は仕方なくではありますが結婚したスレイのことを思って、なるべく貴方を勘違いさせないように振る舞っていると言うのに。そこをなんですかスレイは、ちょっと女の人に声をかけられるだけでみっともなく鼻の下を伸ばして見てらんないったらありゃしませんよ。なんですか、所詮私はキープですか。この世界に愛される聖女様をキープ扱いとは偉い立場になったものですね。あーダメです、もう心が折れました。勘違いしないで欲しいのですが、この聖女様としてのプライドを傷つけられたことでダメージを負っているのであって、決してスレイがどこぞの泥棒猫に持っていかれることを悲しんでいるわけではないんですから勘違いしないでください。これはもうスレイに償ってもらわないといけないですね。しょうがない、本当にしょうがないですけど、形だけの夫でも、貴方の愛する妻を慰める必要があると思うんですよ。具体的には、膝の上に乗せて頭を撫でてください。あとできればキスも所望します。そうしてくれないなら私はこのソファで一生ふて寝しますので悪しからず」

 

 

 そう言い切ると、ジュリアはソファで横になった。

 ……完全に拗ねてしまったか。

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