勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「これから世界を救おうって勇者が、すぐそばにいる女の子一人守れないでどうするんだよ」

 アレックス王やアナスタシア様に見送られながら、私とスレイは魔王討伐の旅に出ることとなりました。

 恐怖はもちろんありましたが、それでも王都より外に出たことがなかったもので、見えるもの全てが新鮮で。

 

 

「おーい、あんまり離れるなよー。迷子になっちゃうぞー」

 

「あ、すみませんでした!」

 

 

 挙げ句の果てには、目の前に広がる光景に目を奪われて、スレイに注意されてしまうほど。

 危機感が足りないと言われたら何も反論できないくらいには、浮かれてしまっています。

 ですが、おそらく私がスレイを見失うことはないでしょう。

 何故なら、

 

 

「あの、やっぱりその荷物少しだけでも持ちましょうか?」

 

 

 その背中に、尋常でない量の荷物を運んでいるからです。

 ……高さがスレイの二倍程ある荷物を。

 なんでスレイは、それを背負ったまま平然と歩けるんですか。

 流石に見てられなくて、私から手伝いを進言したのですが、

 

 

「いいのいいの。ジュリアは杖を持たないといけないんだし、いざ魔物と出会ったりしたら邪魔だろ?」

 

 

 先ほどと同じような言葉で断られる始末。

 もしかして、私のことを非力だと思っているのでしょうか。

 こう見えても、神からの加護のおかげで、そのあたりの男性よりは力があるんですけど。

 

 

「それは、スレイも同じことじゃないですか。それだと咄嗟に剣が抜けないでしょう?」

 

 

 スレイが腰に佩いている剣を指差し、そう指摘する。

 私だってアナスタシア様から授かった杖を持っていますが、それにしたってスレイは荷物を持ちすぎです。

 

 

「いやー、最悪俺は剣が抜けなくても大丈夫だから。というかこれからのことを考えたらあんまり使いたくない」

 

「そんなにも高価な剣なのですか?」

 

「いや、ただの鋼の剣。旅に出る前に買ったばっかのやつ」

 

「誰かに届けるものとかですか?」

 

「ううん。俺が使うために買ったぞ」

 

 

 どういうことでしょうか?

 別に思い入れや価値があるわけでもないし、ちゃんと使うために買った剣。

 なのに、そんなに使いたくないとはこれいかに。

 

 

「……実は剣が使えないとかですか?」

 

「うーん……普通の人よりは剣術は上手いと思う。スヴェンっていう俺の幼馴染みに教えてもらった剣技だし」

 

 

 ますます疑問は深まるばかり。

 トンチでしょうか?

 首を捻っていると、スレイはおかしそうに笑いながら、

 

 

「この辺りの魔物だったら、剣を使うまでもないってことだよ。俺にとって剣って消耗品だから」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 使わない理由は分かりましたけど、さらなる疑問が出てきました。

 剣が消耗品ってどういうことですか。

 使い捨ての魔法が撃てるスクロールや、回復薬のポーションなどであれば理解できますが、鋼の剣が消耗品とは?

 あんな硬いもの、そうそう使い切ることはないと思うのですが。

 頭の中が疑問でいっぱいになっていると、

 

 

「っと、ジュリア、ストップ。前から魔物が来てる」

 

 

 スレイの報告に、気を引き締める。

 目の前を注視すると、犬の頭をした小型の魔物が遠くから駆け寄ってきていた。

 

 あれは、確かコボルトと呼ばれる魔物でしたか。

 体は小さいけれど、俊敏な動きをするという。

 特徴に関しては、事前に魔物図鑑で学習はしています。

 

 います、けど。

 

 魔物。

 初めての魔物との戦い。

 人間に対して明確な敵意を持って、殺しにくる、魔物。

 

 コボルトはその口から鋭い牙を覗かせながら、舌なめずりしてこちらを睨んでくる。

 まるで、自分の喉笛に今にも噛みつかれそうで。

 

 『実力が発揮できれば、この辺りの魔物なら余裕を持って倒せる』

 アナスタシア様が、私にそう言ってくださった。

 けれど、やっぱり……!

 

 

「ジュリアは後ろに下がって……うん?」

 

「す、すみません……あ、足が言うことを聞かなくて……!」

 

 

 怖さのあまり、足がすくんでしまう。

 挙げ句の果てには、自分が倒れないようにと咄嗟にスレイにしがみつく有様。

 恐怖に震えながらも、自分の不甲斐なさに失望してしまう。

 それでも、自分の意思に反して、私の手はスレイの腰から離れようとせず……。

 

 いっそのこと、スレイからこの手を振り払ってもらえたら、どれだけ楽になることか。

 などと考えていたら、

 

 

「よし、じゃあそのまま俺の体を支えてもらっていいか?」

 

「え?」

 

 

 まるで思いもよらない言葉が返ってきたのです。

 その発言の意味を私が噛み砕く前に、スレイは左足をしっかりと踏み締め、襲いかかってきたコボルトの側頭部目掛けて、

 

 

「そらっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 右足で蹴り飛ばした、のだと思います。

 あやふやなのは、突然の出来事に思わず目を瞑ってしまったからです。

 スレイの掛け声と共に、凄まじい衝撃波が私を襲って……。

 

 ふと、目を開くと、遠く離れた箇所まで吹き飛ばされたコボルトの無惨な姿がそこにありました。

 

 

「ありがとな、ジュリア。俺の蹴りって結構威力あるから反動が凄くってさ。ジュリアが支えてくれたから、吹き飛ばされずに済んだわ」

 

「っ!」

 

 

 スレイがそう言って笑いかけてきました。

 けれど、それが私に対する慰めなのは、何より私が一番理解できていたのです。

 

 何故なら、コボルトが蹴られたことによる衝撃波こそ感じたものの、スレイの体からは軽く寄りかかられた程度の負荷しかなかったのですから。

 あれだけの威力のある、攻撃を繰り出しておきながら、ほとんど負担がなかったのです。

 

 それはつまり、明らかに、私は今、気遣われた振る舞いをされたというわけで。

 

 

「なんでですか……」

 

 

 なんで、こんな人間に気を遣うんですか。

 そう、スレイに聞こえないように呟いたのでした。

 

 

   ◇

 

 

 

 それからというものの、出発した時の浮かれた気分は完全に霧散してしまい、いつ魔物に襲われないか怯えながら歩みを進めるばかり。

 そして、いざ魔物が襲いかかってくれば、恐怖から硬直し、スレイから守ってもらってばかりという醜態を晒し続けることになったのです。

 

 戦った後のスレイの傷は癒してはいるものの、私を庇ってできた傷もあって、本来であれば受けなかったダメージでもある。

 つまり、私がそばにいることは、スレイにとってマイナスでしかない。

 そんな当然の帰結に、私は俯くことしかできなくなりました。

 

 

「そんな下ばっかり見てたら危ないぞ」

 

「……放っておいてください」

 

 

 スレイに心配されますが、それもどんどん煩わしいものに聞こえてくる始末。

 彼は、自分にないものを持っている。

 戦う力も、意志も、勇気も。

 今の私に一番必要で、そして手に入らないものを持っていることが、腹立たしく思えてきてしまったのです。

 

 こんな理不尽な怒りを持つ人間が聖女だなんて、とんだ皮肉ですね。

 などと内心自嘲するも、現実は変わらない。

 

 きっと、私は勇者と歩む資格がないのだろう。

 なら、さっさと見限ってもらうに越したことはない。

 

 

「いいですよねスレイは。勇者様らしい力をお持ちで」

 

「え? なにが?」

 

「ハッキリ言ってくださいよ。私なんて、足手纏いだって」

 

 

 恐怖と情けなさ、そして緊張から解放されたことから、我慢しようとしていた言葉が溢れ出す。

 スレイには全く非がないのは分かってる。

 けれど、弱い私は、吐き出さずにはいられなかった。

 

 

「戦闘で私、なんの役に立ってませんよね? むしろ、体に纏わりついたり、棒立ちになったり、スレイの行動を阻害する始末じゃないですか!」

 

「いや、支えてくれたのは本当に助かったんだけど……」

 

「嘘言わないでください! 見たでしょう? 国を出たばかりなのに、魔物との戦いで何もできない! これほど使えない仲間なんていますか?」

 

 

 スレイは、困ったように頬を掻くばかり。

 私の突然の感情の噴出に、辟易としているのだろう。

 こんな序盤から、自分勝手に叫ぶ仲間なんて面倒臭いと思われても仕方がない。

 それは分かっています。分かっているけど、堪えられないのです。

 

 

「もう、私なんかが聖女じゃなかったら良かったのに! こんな臆病な人間じゃなくて、聖女に相応しい人がなるべきだったのに!!」

 

 

 自然と、涙が溢れそうになる。

 私は、なんて弱く、浅ましいのでしょう。

 

 聖女としての役割を果たせず、助けてくれた人に当たり散らして、いきなり泣き言を言い出す。

 もう、消えてしまいたくなるほどの羞恥を覚える。

 そんな中、

 

 

「あの、ジュリアはなんでそんな当たり前のことを気にしてるんだ?」

 

 

 スレイは、不思議そうな顔をしながら、私にトドメを刺した。

 

 

「…………っ」

 

 

 そりゃそうですよ。

 こうして突き放されて当然です。

 聖女に相応しくないことを肯定されて、傷つくなんて恥知らずもいいところですよ。

 スレイもやはり、私ではない人が聖女になったほうが……。

 

 

「ジュリアは魔物と戦うのは初めてだろ? そんなの怖くて当たり前じゃん。なんでそんなことを気にしてるんだよ」

 

「……え?」

 

 

 今、なんて。

 

 

「いきなり魔物と出会って怖がらない人とかいないんじゃないか? 俺だって最初に魔物と戦った時すっげービビってたしさ。腰抜かすくらい普通だって」

 

「で、でも、スレイは今平然として……」

 

「そりゃ、俺は何度も戦ってきたからな。経験を積んできた俺と、全くやったことがないジュリアを比較するなんてナンセンスだろ」

 

「私、戦おうとすることもできなかったんですよ?」

 

「……最初からなんでもできる人とかいなくない? 誰だって初めはできないもんでしょ。やったことないんだからさ」

 

 

 スレイの言葉は、慰めや言い繕ったものではなく、本当に心の底からそう思っているようだった。

 いや、実際にそう思っていることが伝わってくる。

 

 

「私、聖女なんですよ?」

 

「魔物を怖がるかどうかって、ジュリアが聖女なのと何か関係あるのか?」

 

 

 なにせ、本当に私の言い分を理解できていないように、スレイはずっと不思議そうな顔をしているのだから。

 

 

「……そうだ、一つ約束しよう」

 

「何を、ですか?」

 

 

 そう言うと、スレイは自信満々に、

 

 

「俺がジュリアの前にいる限り、絶対にジュリアを傷つけさせない。俺がジュリアを守り切って見せるよ」

 

 

 そんな大言壮語を宣言した。

 

 

「……そんなの、無理に決まってるじゃないですか」

 

「これから世界を救おうって勇者が、すぐそばにいる女の子一人守れないでどうするんだよ」

 

 

 私のネガティブな発言にも、スレイは気を悪くすることなく、平然と笑顔で返してくる。

 

 

「その代わり、ジュリアは後ろから俺を助けてくれ。俺の背中は、ジュリアに預けるってことでよろしく頼むわ」

 

 

 まっすぐな瞳と、信頼をぶつけてくるスレイ。

 ……根拠もないのに、なんでそんなことを言えるんだろう。

 でも、まあ。

 

 

「……いいんですか、そんなに貴方を頼りにして」

 

「寧ろ仲間から頼られないほうが嫌だよ。こっちだってジュリアを頼りにさせてもらうから覚悟してくれ」

 

 

 そこまで信じてくれるなら、少しだけ勇気が出せるかもしれない。なんて、思えてくる。

 我ながらなんとも簡単な頭で、しょうがないなぁ。

 

 

「それと、不安に思ったり、不満があればすぐ言ってくれ。俺ってバカだから言われないと分からないんだよね」

 

「……それじゃあ、一つだけ聞いて良いですか?」

 

 

 そう言うのであれば、どうしても聞きたいことがある。

 スレイが大きく頷いたので、遠慮なく。

 

 

「さっき、支えてくれて助かった、って言ってましたけど、本当ですか?」

 

「本当本当。実際俺戦うと体ボロボロになっちまうから、魔力を通して自己再生するのにちょっと時間かかっちまってさ」

 

 

 は?

 

 

「何言ってるんですか?」

 

「そのままの意味。俺の体の限界を超えて戦うから、戦い終わったら結構中身ズタボロなのよ。だから、ちょっと支えてもらって助かったって……」

 

 

 あの、それ簡単に言っていいことじゃないですよね?

 相当やばいデメリットあるじゃないですか!

 

 

「あ……」

 

「あ?」

 

 

 この人は、本当に、もう!

 

 

「貴方はバカですか!?」

 

「急に酷い!?」

 

「いいからさっさと私に傷の具合を見せなさい! 治してあげますから!」

 

「ちょ、無理やりはやめて!!」

 

 

 バカ言ってるんじゃありません!

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