勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「そんな愛している妻をもしもこの先に捨てるようなことがあれば、その時は命をかけてくださいよ」

 一悶着あった帰り道。

 どうにか混乱し続けるジュリアから包丁を取り上げて、一緒に自宅に帰ることはできたのだが。

 

 

「…………もう、ここから動きません。ここを私の居住地とします」

 

「この家がお前の居住地だし、それはただのソファだ」

 

「この先の人生、私はこのソファと一体化して生きていくと決めたのです」

 

「家具に嫉妬したくないから離れてくれ」

 

 

 ジュリアは家に入るや否や、ソファに突っ伏し、そのまま動かなくなった。

 こちらには全く視線を合わせようともしない。

 どうも、俺と小さい頃に出会っていたことに気付けなかったことに対して、引け目を感じているようだ。

 俺は、ジュリアがその事実を覚えてくれていただけで、すごく嬉しかったのに。

 

 

「無様な女だと笑いなさい。初恋の思い出を踏み躙るような女を好きになるなんて、スレイはとんでもなく愚かですね」

 

「俺はジュリアと自分のどっちに悪態をつけば良いんだ」

 

 

 支離滅裂な発言を繰り返している。

 ジュリアの精神的ダメージの深さが窺い知れるというものだ。

 

 

「いやちょっと待ってください。小さい頃の私を知っているということは、初めから私の本性に気づいていたということですか? 旅の最初の方で、貴方に見放されまいと必死に聖女ぶってる私のこともバカにしていたと?」

 

「バカにはしてなかったぞ。なんで猫被ってんだろうなと思ってただけで」

 

「それをバカにしていると言うんです! こんな辱めを受けてしまったら、もう私はお嫁にいけませんよ!」

 

「すでに俺のところに来てるだろ」

 

 

 他の男のところに行かせるつもりは全くないし、何も問題ないじゃないか。

 それでも不服なのか、ジュリアはうつ伏せから体勢を変えようとしない。

 ここまで恥ずかしがっているジュリアを見るのは初めてかもしれないな。

 

 

「なんだったら、旅の間にでも言ってくれたらよかったじゃないですか。それをなんで今更……」

 

「俺は言うつもりがなかったし、今日のも聞かれたから答えただけと言うか……」

 

「正論を人を傷つける道具にするとは、それでもスレイは勇者ですか?」

 

「普段から酷い言葉をぶつけてくる聖女様が近くにいた影響かもな」

 

 

 そもそも、自分から切り出すのも恥ずかしい思い出だったからなぁ。

 向こうは全く覚えていなさそうなのに、こっちだけが一方的に覚えていて、それでその人に対して激しい感情が芽生えたとか、捉えようによってはストーカーっぽいし。

 

 

「小さい頃のジュリアを知ってたから、逆に丁寧な喋り方をされてビックリしたな。正直最初は別人かなとも思ったくらいで」

 

「アナスタシア様の教育が良かったおかげですよ。まあ? どこぞの勇者様には最初から見破られていたみたいですけど?」

 

「当てつけみたいに言うなって」

 

 

 ちょっと顔を起こしてこちらをジト目で睨んできた。

 少しメンタルが回復したっぽいな。

 

 

「まあ良いじゃんかよ。ジュリアと出会ってなかったら、俺勇者になろうなんて思ってなかっただろうし。結果オーライってやつだ」

 

「え?」

 

 

 そこで驚かれても。

 

 

「あの時、ジュリアに『スレイほどの力があり、それを正しく使えたなら、きっと多くの人が救われることでしょう。それで、世の中が少しでも良くなってくれたなら、私はとても嬉しく思うんです』なんて言われたから、俺は勇者になろうって決めたんだぞ」

 

「え、その、あれは、私にそれほどの力があればって話であって、貴方に勇者になって欲しいって意味では……」

 

 

 しどろもどろになりながらも、ジュリアは言葉を紡ごうとする。

 自分の言葉で、他人の人生を決定させてしまったのだと勘違いしているのだろう。

 だが、それは違う。

 

 

「……正直に話すと、俺が勇者になろうとした理由って結構邪念が入ってたんだよ。もちろん、魔王を倒してこの世の中が平和になって欲しいって気持ちはすごくあったさ。でも、それだけじゃない」

 

 

 ぶっちゃけると、俺は不純な思いで勇者になろうとしていた。

 それまでだって、困っている人を助けたいという願望は持っていたけど、それでも漠然としたものだった。

 冒険者になれば良いのか、騎士団に入団すれば良いのか、それとも故郷を守り続ければ良いのか。

 そういう曖昧な見通ししかなかったけれど、あの日をきっかけに、俺は絶対に勇者になるという強い夢を持つことができたんだ。

 

 それを告白するのは、先ほどの隠し事を披露するより恥ずかしい。

 けれど、このままだとジュリアが責任を感じてしまうから、あえて自分の弱点を曝け出す。

 

 

「心の片隅に、『勇者になれば、あの時恋した女の子と話しができるかもしれない』とか『あわよくば、一緒に冒険したり戦ったりして、仲良くなれないかな』なんて下心もあったんだよ。……まさか、いきなり二人旅になるとは思ってなかったけどさ」

 

「う、嘘……ですよね……?」

 

 

 俺の言葉に、ジュリアが目を大きく見開いて驚愕した。

 気づけば彼女は、ソファからは完全に起き上がり、こちらに向かって座り直している。

 そうやって驚いている聖女様に、俺はさらに続けた。

 

 

「本当本当。世界平和っていう自分の願いを叶えるついでに、もしかしたら初恋の子と再会できる機会に巡り会えるかも。これなら一石二鳥じゃん!ってくらいの浅い考えで、勇者になろうって頑張ったんだよ」

 

 

 もしかしたら、この世の中には俺以上に魔王再誕の問題に対して、真剣に取り組んでいた人がいたかもしれない。

 あの剣士の人だって、いつも笑顔を浮かべながら軽い感じで喋っていたけど、魔王や魔物による被害に、いつも心を痛めていた。

 他にも勇者になろうと努力していた人たちのことだって俺は知っている。

 本来、こんな浮ついた気持ちで勇者になろうとしたことが、間違っていたのかもしれない。

 けど、

 

 

「そんな、私と会うという、そんな簡単なことのために、勇者になろうとしてたんですか!?」

 

「さっきも言ったようにそれだけじゃないさ。強くなって、あの怖がりな女の子を守ってあげたい。彼女が大切にしている人々や、この国を救いたい。……初恋のあの子のために、何かしてあげたいって、子供ながら真面目に考えて、勇者になる道を選んだんだ」

 

 

 ジュリアに対する想いだけは、誰にも負けない自信がある。

 恋は盲目という言葉があるが、それは正しい。

 なんせ、彼女のために勇者になるという道筋以外のことが、全く目が入らなかったんだから。

 

 

「じゃあ、なんであの旅の最中は、私のことをそこまで気のないような素振りをしていたんですか? 道中ほとんど異性として見られていた気配が全くなかったのに……」

 

「めちゃくちゃ必死に耐えてました」

 

「なんですかそれ……」

 

 

 ジュリアが呆れかえるが、冷静に考えて欲しい。

 初恋の女の子と二人旅するって、嬉しい以上に緊張するもんなんです。

 変なことをして、信頼関係を壊したらどうしようとか考えて、頑張ってたんですよ。

 

 

「そもそも、会いにくるなら勇者になるまででも、あの大聖堂に来れば会えたかもしれないのに……」

 

「……カッコ悪いって思ったからです」

 

「へ?」

 

 

 ジュリアが間抜けな声を出す。

 けどそれは、俺が今それ以上に間抜けなことを言ったからだ。

 

 

「最初は会いに行こうと思ったんだけど、やっぱり子供心には好きな子と話すこと自体に恥ずかしさとかがあってさ。今度会うときは、勇者と認められてから。それまでは勇者になるための努力をしよう。それまでにあの子に会いに行こうとするなんて軟弱だ。……そんな風に、子供だから変に気取っちゃってさ」

 

「そう、だったんですか」

 

 

 十五歳くらいまでの男という生物は、本当にバカな生き物なんです。

 かっこいい勇者になってから再会したいとか、そういう変なことを考えてしまっていたのです。

 今だったら長い間ずっと会わずに頑張るとか、絶対に考えられない。

 どこかでジュリアに会いに行ってるところだ。

 

 

「お前と再会してからも、ちょっとカッコつけたりしてさ。『絶対にジュリアを守る』とか、『俺の背中はお前に任せた』とか、言ってただろ。あれ今でも思い返しては悶絶してる。そんな本音ぶつけていいほどの関係出来上がってないだろって」

 

 

 思い出すだけで、『なにカッコつけてんだコイツ』という気持ちで一杯になる。

 まだまだ関係も浅くて信頼関係もできていない時に言われたって、気味悪がられても文句を言えないことをやっていた。

 ……本当に、ジュリアが優しい奴で良かったなぁ。

 

 

「それでも、ジュリアは俺と一緒に旅してくれたおかげで、苦しい時もずっと頑張れたんだ。一緒に過ごしていくうちに、昔よりもどんどんジュリアのことが好きになっていって、俺の中の比重が大きくなっていってさ。そんな惚れた女の前でカッコ悪い真似なんかできないって。人々の夢を背負ってて、好きな人の命を守ってて、こんなところで倒れてられるかって、最後まで気合を入れられたんだ」

 

 

 こんなことを他の人達に言ったら、不信感を抱くかもしれない。

 ガキの青臭い恋愛感情で勇者になった奴に守られるなんて、不安に思うだろうから。

 

 

「だから、俺は皆が思っているほどすごい勇者じゃない。小さい頃の焦がれた気持ちを捨てられないまま、闇雲に突き進んだだけの、ただのバカな少年だったんだよ」

 

 

 でも、この場にはジュリアしかいない。

 なので、思う存分、本音を打ち明けた。

 

 

「そういう感じで、俺もこんな感じで恥ずかしい過去があるんだから、ジュリアだって、それくらいのことを恥ずかしく思う必要は……?」

 

 

 そこまで言うと、ジュリアが震え始めた。

 顔を真っ赤にして、涙目になって。

 

 ……もしかして、気持ち悪がられたか!?

 

 

「あ、あの、ジュリアさん。ごめん、ちょっと弁解させてくれ。初恋の気持ちで頑張ったのは本当なんだけど、それでジュリアに迫ろうとかそういうことは考えてなかったんだ。これは神様に誓っても良い。本当に、あの日にジュリアから婚約の提案をされない限り、素直に別れるつもりだったんだからさ。でも、こうして結婚した以上は、少しくらいは俺も欲張っても良いかというか、出来れば末長くお付き合い頂ければといいますか」

 

 

 普段のジュリアのように、次から次へと言い訳の言葉が溢れてくる。

 そして、そう語りながらも、俺は床に頭を擦り付ける姿勢へと変えた。

 

 

「お願いなので、離婚だけは勘弁してください」

 

 

 土下座しながらの謝罪。

 だってしょうがないじゃん。

 気持ち悪がられて、一緒に生活できないなんて言われたら俺は一生立ち直れない自信がある。

 ここは言葉を尽くしてでも、離婚だけは免れなければ!

 

 

「離婚は嫌ですか?」

 

「嫌です」

 

 

 俺の頭上から、少し震えたようなジュリアの声が落ちてくる。

 そしてそれに即答する俺。

 

 

「じゃあ要求が二つほど」

 

「なんでもおっしゃってください」

 

「まず一つは……」

 

 

 そこで、ジュリアが言葉を区切る。

 何事かと思った瞬間、横から軽く押される感覚が。

 床に這いつくばっていた俺の姿勢が、今度は仰向けになる。

 そして、その腹の上にジュリアが乗っかってきて。

 

 

「私のことを、一生愛し続けてください。私も、スレイのことを愛し続けます。仲間として、友人として、そして、夫として。まさに死が二人を別つまで、愛し合いましょう」

 

 

 そう言い切ると、そのまま俺の唇に噛み付くようなキスをしてきた。

 

 触れ合った時間はどれくらいか。

 長いような、短いような、矛盾した感覚に襲われながらも、ジュリアが俺の口から離れていく。

 名残惜しい気持ちになるが、口を塞いでしまうより先に伝えなくてはいけないことがある。

 

 

「そんな条件、大前提すぎるだろ。なんなら十年くらい前からそうしてたっての」

 

「さすが、勇者スレイ様ですね」

 

 

 俺の気持ちを受け止めたジュリアが、優しい笑顔を浮かべながら、抱きついてきた。

 

 

「本当に愛が重いですね、貴方は。それではもう一つの条件です」

 

 

 真剣な声色で、顔を見せないままジュリアが続ける。

 今度は何を……。

 

 

「そんな愛している妻をもしもこの先に捨てるようなことがあれば、その時は命をかけてくださいよ」

 

「それはもちろんだ。俺の命なんかで償えるようなことかは分からないけど、その時は好きにしてくれ」

 

 

 ジュリアを捨てるなど、俺には絶対に許せない所業だ。

 ありえない未来だろうけど、その時が来た時は俺は俺という存在全てを使ってでも、その代償を支払って……。

 

 

「いえ。私がもし貴方に捨てられたら、私は自分の命を断ちます。なので、そのことを肝に銘じておいてくださいね」

 

 

 とんでもない真っ直ぐな声で、そんなことを宣われた。

 

 

「生殺与奪の権を他人に握らせるな! というか絶対捨てないから!」

 

「ちなみに、私に非がある離婚の場合でも有効なので安心してください」

 

「さらに安心できる要素が減りましたが!?」

 

 

 離婚することはないとは言え、そこまで言い切られるとちょっと怖いです!

 

 

「……それくらい、私もスレイを愛しているということですよ。良かったですね。世界にも神にも愛される聖女様を嫁にできて」

 

「……そうだな」

 

 

 ここは、最初の頃のように、童心に帰ってカッコつけるか。

 自分のことを愛してくれている妻のためにも、ちょっとだけ。

 俺の胸に抱きつきながらもこちらを見つめてくるジュリアの頭を軽く撫でる。

 そして、こちらからも真っ直ぐジュリアの瞳を見つめながら。

 

 

「魔王を倒すまでの旅も、それが終わってからのこの生活でも、ずっと俺を支えてくれてありがとう。お前みたいな嫁が貰えて俺は世界一の果報者だよ。こんな田舎者でバカな男だけど、一緒に暮らしてくれたら嬉しい。今までも、これからもずっと、お前のことを愛してるよ、ジュリア」

 

「み゛ゃ゛っ゛」

 

 

 あ、戻った。




ここで一旦区切りになりますが、終わりではないです。
まだまだ続きますので、よろしければ引き続き読んでいただければ幸いです。
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