勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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現代編二章(本編)
「貴方の愛する妻からの可愛いおねだりくらい叶えてあげるのが夫としての義務ですよ」


 互いに恥ずかしい思いをした翌日。

 朝食は朝食の後片付けをした後、ジュリアは椅子に腰掛けて一冊の本を読んでいた。

 

 

「何読んでるんだ?」

 

「恋愛小説ですよ」

 

 

 そう言えば、この間も恋愛小説から影響を受けたかのような発言をしていたっけ。

 好きだった女性が別の男に取られていくような、そういうドロドロした感じの小説を読んでいたかのような発言を。

 ……やっぱり、今読んでる本もそう言う方向のものなのだろうか。

 

 

「どんな内容なんだ?」

 

「ありきたりな奴ですよ。どこにでもいるような普通の女の子が、ある日出会った男の子に一目惚れして、その恋を成就させるために必死に努力するって感じの話です」

 

 

 ……すごく普通な内容だった。

 なんならその主人公の子に共感すら覚えるくらいだ。

 

 

「その過程で恋のライバルが出現したり、他にも言い寄ってくる男がいたり、そういうイベントはありますが、最終的には恋した男の子と結ばれてハッピーエンドの物語ですよ」

 

「ジュリアってそういう普通の恋愛小説も読むんだな」

 

「私をなんだと思ってるんですか」

 

 

 俺の返答に不服そうに抗議してくる。

 てっきり、ダークな感じの話が好きな人だと思ってました。

 

 

「これでも私はハッピーエンドが大好きなんですよ? 頑張っている人は報われてほしいし、悪人には然るべき罰が下ってほしい。そういう感性の元、私は本を読んでますので」

 

 

 言われてみれば、当たり前な答えだった。

 世界を救うために、危険な旅に出たお方だものこの人。

 

 

「この一つ前に読んだ本が、少し私には受け入れ難い話だったので、今回は緩やかな波のない平和な物語を読んでいると言うわけです」

 

「その一個前の話ってなんだよ」

 

「大好きな勇者のために身を粉にして頑張っていた聖女が、その聖女よりももっと能力がある女性のことを勇者が好きになってしまったので、あっさり勇者に捨てられる話ですね」

 

「何故そんな話を読もうと思った?」

 

 

 明らかに見えてる苦手要素に突っ込むなよ。

 というか、勇者が血も涙もなさすぎるだろそれ。

 

 

「事前の触れ込みだと、聖女が結婚して幸せになる話だと伺っていたので。まさかこんな話だとはつゆ知らず。読み終わった後は結構凹みました」

 

「それでも最後まで読み終わったんだな。偉いぞ」

 

「その程度で終わりですか? 私は精神的死闘を繰り広げ、そこから生還したのですよ? もっと褒めてください」

 

「聖女様最高! 聖女様感性豊か! よっ! ありもしない未来に一喜一憂する不安定な女!」

 

 

 いつもの如く心にもない称賛すると、少しだけジュリアの顔のドヤ度が増してきた。

 少し持ち直せたようだ。

 

 

「追放された聖女を不憫に思った隣国の王子様が、彼女を拾って共に暮らしていくうちに、互いに惹かれあって恋に落ちていくって話なので、間違ったふれ込みではなかったんですけどね」

 

「えっと……怖いもの見たさで聞きたいんだけど、勇者はどうなったの?」

 

「なんやかんやあって泥棒猫と一緒に処刑されました」

 

 

 なんやかんやって雑だなおい。

 

 

「話の作り自体は本当に上手でしたので結局最後まで読んでしまいました。作者の方はすごい技術を持ってますよ」

 

 

 おや、意外にもジュリアからすれば高評価ではあるようだ。

 それでも、苦手なジャンルを最後まで読ませるだけの力があるのは素直にすごいと思う。

 

 

「それじゃあ、作品自体の感想は?」

 

「スレイがこんなバカで欲望に流されやすいような勇者だったら、魔王討伐の旅の道中で私は妊娠からの出産まで持ち込めましたね」

 

 

 ドヤ顔でとんでもないこと言いやがったこの聖女!

 

 

「やらねーよそんなこと! 赤ちゃんがお腹の中にいるのってお母さんにとってはすごい負担なんだぞ!? そんなことを危険な旅の最中のジュリアにさせるかよ!」

 

「つまり魔王を倒し、平和になった今なら問題ないと? 子作りするのはウェルカムと仰りたいのですか? 大家族になる覚悟はあるということでよろしいですね?」

 

 

 試すような視線でこちらを見つめ、挑発的な笑みを浮かべるジュリア。

 けれど。

 

 

「子供は沢山欲しいぞ、俺も」

 

「へ?」

 

 

 呆けた返事をされるが、俺は思ったままを言うだけだ。

 

 

「前にも子供欲しいって言ってただろ? 好きな人との子供ならいくらだって欲しいさ。俺とジュリアの子供なら、絶対に可愛いし。もちろんジュリアに負担にならない範囲でだけど」

 

「え、えっと……それは、そういう行為をするのに、スレイは抵抗はないと……?」

 

「本当に嫌なら逃げてるっての。どっちかというと、ジュリアの体が心配になるから控えたほうがいいかなって思うだけでさ。だから、その、正直ジュリアから誘われるのはすごく嬉しいです。はい」

 

 

 俺は聖人君子ではないので、好き好んで禁欲する趣味はない。

 むしろ、許されるのであればジュリアとずっと触れ合っていたいほどだ。

 もちろん、社会的に問題のない範囲での話だけど。

 それくらい、俺はジュリアに惚れ込んでいる。

 

 それでも自分の欲望をひけらかすのは恥ずかしいことだから、少し照れながら白状した。

 

 それを聞いたジュリアは。

 

 

「あ、そういうこと言うんですか、そういうこと言っちゃうんですかスレイは。そもそもなんですかそのあざとい照れ顔は。誘ってるんですか? 誘ってるんですねはい決定。以下反論や異議申し立ては受け付けませんから観念してください。それよりも今はスレイの発言に関して精査するべきだと思うんですよ。え? 何? 子供が欲しい? スレイ如きがこの完璧聖女様であるジュリアちゃんを手籠にしようとは生意気ですね。でも一刻の猶予は与えて然るべきと聖書にもそう書かれています。ここは聖書に記載されているように、産めよ、増やせよ、地に満ちよ、を実践するほかありませんね。勘違いしないで欲しいのですが、私がスレイのことを好き好き大好き愛してるとかそんな浮ついた気持ちで触れ合おうとしているわけではないことを理解しておいて欲しいんですよ。断じてこれは私の欲望からくるものではなく、聖女と勇者の血を引くものをこの世に残しておくべきだと言う高度な政治的判断と言いますか、私とスレイの子供というこの世で一番かけがえのない存在をこの腕に抱き止めたいとか、そういうあれですから、スレイへの情からくるものではないということをその脳に刻み込んでいただきたいのですが良いですか? 良いですね。良いと言え」

 

「良いと思います」

 

 

 ジュリアの今の発言のほとんどは聞き取れなかったけど、向こうも子供が欲しいということはよく分かった。

 前々から知っていることではあるけれど。

 とりあえず適当に同意しておこう。

 ここで捻くれた返事をしたらさらに面倒なことになること請け合いだ。

 

 

「というわけで、今夜もよろしくお願いします。貴方の愛する妻からの可愛いおねだりくらい叶えてあげるのが夫としての義務ですよ」

 

「あー……うん、分かった。ジュリアがいいなら喜んで」

 

 

 ……結局毎日やってる気がするけど。

 俺は全然平気だが、ジュリアは大丈夫なのだろうか。

 

 というか、子供ができるのであれば、尚のこと早急に手に職をつけないといけない。

 俺たちの愛する子供が『お前の父ちゃん無職!』とか言われて虐められないためにも!

 

 ……いっそのこと、今からでも騎士団に入団しようか?

 なんて考えていると。

 

 

「おーい! おはよー! スレイー! ジュリアちゃーん! いるー!?」

 

 

 そんな女性の大声が、玄関の方からノックと共に響いてきた。

 昔から聞き覚えのあるこの声は……。

 

 

「……彼女が来られる予定ってありましたっけ?」

 

「うーん……いつでも遊びに来ていいって言ったからか?」

 

 

 ジュリアと互いに顔を見合い、過去の記憶を探る。

 しかし、いくら漁っても約束した覚えがない。

 一応、いつでも来ていいとは言ってたけども。

 ……まあ、あの人が唐突なことをするのは今に始まったことじゃないしな。

 

 

「とりあえず迎えに行ってくるわ。このままほっとく訳にもいかないしさ」

 

「私もついて行きますよ。お二人が密会する可能性が僅かでもある限り、この私が目を光らせておかなければ」

 

「その可能性は0%だから安心しろ」

 

 

 そう言いながら、俺の後ろをジュリアがトコトコついてくる。

 口ではこう言いながらも、二人の仲自体はいいからな。

 来てくれて、ちょっと嬉しいのだろう。

 

 今もなおノックを続ける扉へと向かい、ドアノブを捻って外を見ると。

 

 

「やっぱりいた! やっほー! 久しぶり!」

 

「久しぶりって、帰省した時も、この間の結婚式の時にも会ってるだろ、リオ」

 

 

 快活な笑顔を浮かべながら、挨拶をする俺の幼馴染み――リオと。

 

 

「あ、どもっス……いや本当に二人で突然押しかけて悪ぃな、スレイ」

 

「スヴェン!? お前、よくここまで来られたな!?」

 

「相変わらず酷い言い方だな、全くよぉ」

 

 

 俺の言葉に苦笑で返してくる、もう一人の幼馴染み――スヴェンの姿が、そこにあった。

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