勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「旦那に代わって正式に結婚して妻になった私から謝らせていただきます」

「今日なんか約束してたっけ?」

 

「してないけど暇だったから遊びに来た! そういえば二人の新居見たことなかったなーって思って!」

 

 

 笑いながら胸を張ってそんなことを仰るリオさん。

 ……うん。昔から変わらないな、この人。

 小さい頃から、なんの前触れもなく突拍子のないことをして。

 それに俺やスヴェンも振り回されてたものだ。

 

 

「来るのはいいけどさ、せめて事前に手紙とかで連絡してくれたら良かったのに。俺たちが留守にしてたらどうするつもりだったんだよ」

 

「細かいことは気にしないの! そんなんじゃ女の子からモテないよ? あ、でもスレイはもう嫁さんもらってるからこれ以上モテても意味ないか!」

 

「あいかわらずテンション高いなこの人……」

 

 

 元気がすぎる。

 あの赤い髪と同じように魂まで真っ赤に燃えてるのだろうか。

 

 リオに肩をバンバンと叩かれながら、そんな取り留めのないことを考えていると、俺とリオの間にジュリアが割り込んできて。

 

 

「ご無沙汰しております、スレイの幼馴染であるリオさん。私の夫であるスレイがとんだ失礼を。旦那に代わって正式に結婚して妻になった私から謝らせていただきます。スレイの嫁であるこの私が」

 

 

 やたらと夫だの妻だのを強調しながら謝った。

 もしかして、この聖女様って実はアホなのでは?

 俺とリオはそう言う関係ではないと言うのに。

 

 だが、リオはそんな子供じみた牽制のことなど意に介さずに笑うばかりで。

 

 

「そんなに警戒しなくてもスレイなんかとらないって! むしろジュリアちゃんが貰ってくれて一安心したまであるわ! この子ってば昔っから危なっかしくって、誰かがそばにいてあげないと心配で心配でさ!」

 

 

 何やら不服なことを言われている気がする。

 

 

「そんなに危なっかしかったかな俺?」

 

「そりゃそうでしょ! 小さい頃からあんたって、魔物に襲われてる人を見たら逃げるどころか、そこらへんに落ちてる枝なりなんなり拾って助けに行ったりさぁ。それで勝てるから良かったけど、見てるこっちからしたら気が気じゃなかったっての!」

 

 

 目の前に危険な目に遭ってる人がいるなら、助けに行くのが当たり前では?

 それに、俺だって何も考えなしで魔物に戦いを挑んでいたわけじゃない。

 とりあえず攻撃してみて、それで行けそうならそのまま倒す。

 無理そうだったら、襲われている人を助けて逃げる。

 うん。我ながら、完璧な作戦だ。

 

 けれど、リオとジュリアは信じられないものを見るような目でこっちを見てきて。

 

 

「……スレイの親戚にバーサーカーの方がいらっしゃったりします?」

 

「それがスレイの血縁の人って皆すっごい普通なのよね! 剣が得意とか魔法が使えるとかそんなの一切ない、そういう普通の人しか親戚にはいないのに、なんでこんな勇者が生まれちゃったのかねぇ」

 

 

 そんなこと言われても。

 助けられる力があるのに見過ごすって、なんか嫌だし。

 

 

「しょうがないだろ……頭で考える前に勝手に体が動いてるんだから」

 

「それを改めなさいって何回も言ってたのに、なんかそのままバカみたいに強くなって、挙げ句の果てには魔王を討伐するまでになるとか……」

 

「確かにスレイが危なっかしいと言われれば全く否定できませんね。自分の体が傷つくことは厭わないわ、人を襲う魔物がいれば勝算のことなんか考えずに突っ込むわで」

 

「ジュリアまで……」

 

 

 ジュリアの言葉に軽く落ち込むが、長年俺と共に旅をしてきた彼女だからこそ、俺のことをそう評価するのだろう。

 実際、何度もジュリアには小言をもらってたしなぁ。

 

 

「ですが、そんなお人好しな性格の人だからこそ、私はスレイと勇者と聖女として旅に出ることができ、共に過ごすことができたのです。スレイが優しくて、頑張って勇者の責務を全うしてくれたおかげで、今こうして平和な世の中で穏やかに結婚生活を送ることができているのですから。そう言う意味では、彼がそんな人となりで良かったと思わずにはいられない私もいます。……こんな感想を抱いてしまうなんて、聖女としては失格だとは思いますがね」

 

「ジュリア……」

 

 

 少し苦笑しながら、ジュリアがそう言い切ってくれた。

 こちらこそ、ジュリアがいなかったらこの世界に平和をもたらすなんてできなかったから、お互い様だけど。

 それでも、ジュリアが俺のことをそう評価してくれることは、とても嬉しく思う。

 そうやって、俺が感動していたら、リオはジュリアに飛びついて。

 

 

「そんなことないわよジュリアちゃん! 本当にスレイには勿体無い良い子ね! 胸が大きければ心もデッカい! なんなら私にも少しくらい分けてくれたっていいのよ!?」

 

「あ、あはは……」

 

 

 セクハラ発言をするリオに、ジュリアは愛想笑いを浮かべるしかできずにいた。

 普段は変なことで変な恨みをぶつけているジュリアも、実際にリオと会うとタジタジになる。

 それだけ、リオがジュリアのことを気に入ってて可愛がっているということなのだが。

 

 

「新妻相手にセクハラかますんじゃねえよ、このバカ」

 

「痛いっ!」

 

 

 そんな暴走しているリオに、これまでずっと黙っていたスヴェンが脳天にチョップを浴びせた。

 

 

「うちのバカが悪いなスレイ。いきなりこっちに来たのもマジすまんかった。と言うのも、リオの両親が『たまには子供の面倒は任せて二人で出かけてきなさい』って言ったもんだから、そしたらリオが『じゃあスレイたちの様子見てくる!』とか言い出してさ。オレも最初は突然訪問するとか迷惑だろって止めたんだけど、スレイも知ってるように、こいつ、昔から言い出したら聞かねえし」

 

 

 スヴェンが本当に申し訳なさそうにしながら、ここに来るに至るまでの経緯を説明してくれた。

 

 うん。その情景がありありと目に浮かぶ。

 リオは俺のことを聞かん坊みたいに言うけれど、向こうも同じくらいには猪突猛進ではあるから。

 

 

「そう言うところはスレイもリオさんもよく似てますよね」

 

 

 俺とスヴェンの会話に、ジュリアが横から入ってくる。

 

 すると、途端にスヴェンの目が泳ぎ始め、視線はあさっての方向へと向き、足を忙しなく動かし始めた。

 そして、

 

 

「あっ…………すーっ……い、いやぁ……そ、そうっスね……」

 

 

 スヴェンはかなりどもりながらも、どうにかジュリアにそう返した。

 まともな返答になっていたかはこの際捨て置くとしてだが。

 

 

「スヴェンもそろそろジュリアにもなれてくれよ。何度かは会ってる訳だし、付き合いは長くなってきたんだからさ」

 

 

 旅に出てからも何度か会ってるんだし、重ねた年月を考えたら慣れてくれてもいい頃だと思うんだけど。

 けれど、スヴェンは俺の言葉に全力で首を横に振る。

 

 

「いや無理無理無理無理! いまだにオレ村の外にいる人たちと会話しようとするだけで冷や汗が噴き出てくるし! それに相手は魔王を倒した聖女様じゃん! 大丈夫? オレ知らないうちに聖女様の不興を買ったとかしてない? というか、こんなキモいオレが視界に入ること自体がジュリアさんにとって不快だったりしねえかな!?」

 

 

 相変わらず何を言ってるんだスヴェンは。

 

 

「……前から思ってますけど、スヴェンさんって別に顔の造形に難があるわけじゃないですよね。むしろ整ってる方じゃないですか?」

 

 

 ジュリアの疑問も尤もだ。

 そのイケメン面でそんな妄言を言い放つとか、嫌味にも程がある。

 ただ、スヴェンの場合は本気で言っているから手に負えない。

 

 

「本当に小さい頃はスレイに負けないほどの怖いもの知らずだったんだけどね。色々あって自信無くしちゃってさ」

 

 

 リオの言う通り、過去の出来事でスヴェンはすっかり自己肯定感を失ってしまった。

 その原因に、若干俺が関わってるとも言えなくもないけど……正直、俺はそこまで悪くないとは思ってる。

 責任逃れとかではなく、客観的に見てもだ。

 

 

「安心しろ。ジュリアはえげつない見た目のモンスター相手でも眉一つ顰めずに平然と魔法をぶち込むくらいの胆力はあるから。不快とか感じることはないぞ」

 

「それはそれで怖いんだけど……」

 

 

 確かに、それはそうだ。

 けれども。

 

 

「それをいうなら俺だって魔王を倒した勇者ですが? 俺のことは怖くないのかよ?」

 

 

 ジュリアの力を怖がるなら、俺のことだってビビって然るべきだろ。

 そんな疑問を投げかけたが、スヴェンは呆れたような表情を浮かべて。

 

 

「スレイが魔王をぶちのめしても全然意外でもなんでもないし。今更そんなこと言われても困るわ」

 

「お前なぁ……」

 

 

 俺の両親と同じようなことを言い放ってきた。

 俺の故郷の人達、なんか俺の扱い雑すぎない?

 そんな風に少し悲しい気持ちになっていたら、

 

 

「そもそも、お前って強いは強いけど、理由もなく人を傷つけることとかするわけないじゃん。後ろめたいことがあったら怖いかも知んないけど、オレはお前に隠し事とかしてないし。なんでそれでスレイのことを怖がる必要があんだよ?」

 

 

 本当に、俺が何を言っているのか分からないといった表情で、そう続けた。

 

 

「……本当にビビりなのか肝が据わってるのかよく分からないやつだな、スヴェンは」

 

「スレイと比べたらどんなやつでも肝細いわ。……つーかさ」

 

 

 何やら不機嫌そうになったスヴェンは、俺に向き直って指を差し。

 

 

「オレが大事な親友のことを怖がるとかマジで意味わからねえし、そういうつまらないこと二度と言うな。普通に傷つくから」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 スヴェンが俺のことを怖がるなんてありえないことだった。

 本当に良い奴だな、スヴェンは。

 

 

 

「つまりスヴェンさんって私のことはまだ怖いってことですか? その辺りどうなんです?」

 

「あっ…………いやっ、そのっ……こ、言葉の綾というか、ですね…………っすー…………」

 

 

 そう感動していた最中、ジュリアがスヴェンを責め立てていた。

 おい、さっきまでの余裕どこに行ったんだよ。

 どうにか言葉を捻り出そうと、スヴェンは目を逸らしながら四苦八苦し。

 

 

「……きょ、今日……天気いいっすね……」

 

「今日の天気は曇りですよ」

 

 

 やっとの思いで出てきた話題逸らしの言葉も、バッサリとジュリアに切り捨てられたのだった。

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