勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「そこまで強いなら、なぜこれほどまで卑屈になられたのですか?」

「そこまで強いなら、なぜこれほどまで卑屈になられたのですか?」

 

 

 ジュリアの疑問も尤もだ。

 顔が良くて、優しくて、めちゃくちゃ強い。

 そんな奴が劣等感を持っているなんて考えられないというものだ。

 

 

「もっと自信持てばいいのに。スレイに剣を教えたのはあんただし、今でも剣技はスレイより強いでしょ?」

 

「そうだぞ。俺だっていまだにスヴェンの攻撃は見切れないし。というか、一本すらとれたことないんだけど」

 

 

 互いに模造刀を使っての訓練試合を小さい頃から何度もやっていたけれど、俺は今まで一回もスヴェンに勝てたことがない。

 

 

「それは試合だけの話じゃんかよ。殺さずに攻撃する場所も決まってるって形式ならまだなんとかなるってだけで、スレイと俺だと基本的な威力が違うし。純粋な力の前には小手先ではどうにもならないってわけ」

 

 

 自画自賛になってしまうが、スヴェンの言っていることは正しい。

 どれほどスヴェンの剣技が研ぎ澄まされたものであったとしても、俺はそれを正面からぶち抜くことができる。

 俺の装備する武器が、俺の身体能力についてこれないように、俺の体に致命傷をすぐに与えられるような武器も存在しないのだから。

 その気になれば、防御を投げ捨てての突貫でスヴェンに勝つことはできるだろう。

 

 俺とスヴェンがガチの殺し合いになることはありえないから、想定するだけ無駄だけど。

 

 

「そもそも、あのスレイの剣技を上回ってるってだけで、十分すごいことだと思うんですが……」

 

「そうだろ? 実際俺はスヴェンのことをすっげー尊敬してるのに、妙に謙虚になっちまってさ」

 

 

 そのせいで、他所から来た女の人には、腰が低くて寡黙な優しいイケメン剣士に見えるらしく、昔から異性からアプローチをかけられまくってスヴェンはどう会話したらいいのか分からないもんだから辟易としていて。

 そんな態度をするもんだし、美人のリオといつも一緒にいるから、村中のモテない男には僻まれて、やいのやいの言われてたなぁ。

 

 俺はそういう嫉妬の感情をスヴェンに覚えたことはない。

 ジュリア以外の女の人にモテても仕方ないし。

 

 

「それお前が言う? 俺が魔物に襲われて苦戦してる時に、棒っキレ一つであっさり撃退して下さった勇者様がそれ言う?」

 

「だから、あれはほとんどスヴェンが倒したようなもんだって言ってるだろ……」

 

 

 やっぱり、まだそれを引きずってるのか。

 

 

「魔物で何かあったんですか?」

 

「あー! もう本当にジュリアちゃんに聞いてほしいの! この二人小さい頃から命知らずでさ!」

 

 

 ジュリアの疑問の声に俺が口を開こうとした途端、リオが口を挟んできた。

 

 

「まだ小さかった頃、スヴェンが村を襲ってきた魔物と戦ってたんだよね! それも相手は首が何本もある蛇みたいな魔物でさ!」

 

「え、あの、それってもしかしてヒドラじゃ……?」

 

 

 ジュリアの言う通り、ヒドラであってる。

 辺鄙なところにある俺達の村に来るようなレベルでないくらいに、最上級の強さを誇る魔物だ。

 

 

「ヒドラって首を斬っても、すぐ首が増えた状態で再生してくるもんだから、剣を使うスヴェンと相性がとことんまで悪かったんだよ」

 

 

 俺が助けに行った頃には、首が何十本も辺りに散らばっていたので、スヴェンは相当数斬り落としたのだろう。

 それでも、どうにもならなかったようで。

 

 

「あの辺りからだよね。スヴェンが大人しくなり始めたのって」

 

「……まあ、そうだな。その時まで、オレはこの世でオレに敵う奴なんかいないって思い込んでたんだ。……本当に、図に乗ってたんだよオレは」

 

「そもそもヒドラを相手に逃げずに戦う時点で、何かがおかしいんですけどね? 本来、図に乗ってても嫌味にならないくらい強いですけどね?」

 

 

 ジュリアの言う通りである。

 子供の時に単独で上級魔物をしばき倒せるなんて、今代の勇者に選ばれたとておかしくないぐらいの戦績なのだから。

 そもそもの話。

 

 

「俺がやったことって、スヴェンが斬った首のところを、松明で焼いて塞いだだけなんだよなぁ……。真面目な話、あのヒドラを倒したのはスヴェンだと言っても過言ではないと思ってる」

 

 

 助けには入ったけれど、俺が到着した頃には、スヴェンもヒドラも互いに疲弊し切っていた。

 あえて言うなら、俺は美味しいとこどりをしただけ。

 俺が介入しなかったとしても、スヴェンならどうにかできていただろうに。

 

 

「……はぁ。マジでスレイ、お前そう言うところだぞ」

 

「何が?」

 

「なんでもねーよ。あいも変わらずお人好しだなってだけだ」

 

「……褒めてくれて、ありがとう?」

 

 

 なんだか分からないけど、急に褒められた。

 お人好し加減なら、スヴェンだって相当だと思うけど。

 まあ、スヴェンからの言葉だ。素直に受け止めよう。

 

 

「ああ、これ絶対『焼いただけ』じゃない奴ですね、分かります。私も長年スレイと付き合ってきたのでそういうの分かっちゃいますよ」

 

「こいつ無自覚でやるから始末が悪いよなぁ。流石は勇者様だわ。……あ、すっすみません。なんか馴れ馴れしく喋っちゃって……!」

 

「これくらいなら私は構わないですよ。スレイやリオさんに勘違いさせないような距離感であれば全然ウェルカムです。ただし、修羅場になりそうなくらいに近寄ってきたらキッパリと切り捨てますけど、その時は文句は言わないでくださいね」

 

「やっぱり怖いってこの人!」

 

 

 なんかジュリアとスヴェンが変なところで意気投合している。

 全然モヤっとしないかと言われたら嘘になるけれど、それよりは嬉しさの方が勝つ。

 スヴェンの友人が増えたことにちょっと感動していたら、リオがスヴェンの方をジト目で見ながらポツリと。

 

 

「……スレイもそうだけど、スヴェンも大概人の脳を焼くの上手だと思うんだけどねー」

 

「それはそう」

 

 

 言葉に出さない代わりに、行動で示すタイプの人間だからな、スヴェン。

 口には出さないけど、心のうちに秘めている強い正義感と情の厚さが漏れ出るくらいには漢気のある奴だ。

 そうでないなら、いくら顔が良くとも無口なスヴェンに、あれほど女の子にモテるわけないし、村の男性陣にも仲間として受け入れられないんだから。

 

 

「ヒドラを倒したということは、私と旅に出る前くらいの頃の話でしょうか? やっぱり、その時からスレイは強かったんですね」

 

「いや? もっと小さい頃だぞ」

 

 

 ジュリアの間違いを咄嗟に訂正する。

 すると、ジュリアはギョッとした表情になり。

 

「……では、ヒドラを倒したのは何歳の時だったんですか?」

 

「俺は八歳で、スヴェンは九歳の時だったかな?」

 

「貴方も大概ですけど、スヴェンさんの方も正直おかしくありません??? その時私は聖堂でようやく医学を学び始めるかどうかって頃ですよ!?」

 

 

 そんな小さい頃から医学なんていう高等教育を受けていたのか。

 流石はジュリアだ。

 

 

「まあ私は、自信に満ち溢れていた時のスヴェンも、落ち着いて謙虚になったスヴェンも、どっちの時のスヴェンでも大好きだけどね。私が好きになったスヴェンの性根自体は全く変わってないんだし」

 

 

 スヴェンの性格が変わっても、全く態度を変えなかったリオが言うと、説得力が違う。

 他の連中は多かれ少なかれ、少し戸惑っていたしな。

 

 

「そうでもなかったら、スヴェンと結婚して、子供まで作らないもんね」

 

「それは嬉しいけど流石に五人は多すぎたって……」

 

 

 全く、お盛んですこと。

 スヴェンが呆れたように、その多すぎる自分たちの子供の人数に言及すると。

 

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 

 リオが何かを思い出すかのようにハッとして、それに釣られてスヴェンも間抜けな声を出す。

 そしてリオは、そのまま恐る恐るという感じで。

 

 

「あー……ごめん、言うの忘れてた。実は六人になっちゃった」

 

 

 お腹をさすりながら、気まずそうにそう宣告した。

 

 

「……何ヶ月?」

 

「三ヶ月」

 

「Oh……」

 

 

 これには流石のスヴェンも絶句。

 こいつらいつまで経っても仲睦まじくて何よりだ。

 けど、少し限度ってものがあると思う。

 

 

「これは私たちも負けていられませんね。別にスレイとしたいと言うわけではありませんが、生まれてくる命にはなんの罪もないと言いますか、どうせ子供もいなかったら周りからせっつかれてしまうのは目に見えていますし、他人からあれこれ言われるくらいなら自分から進んでやった方が気分的に楽という精神面からの提案なので勘違いしないでくださいね」

 

 

 そして、それに俺の愛する妻が感化されてしまった。

 俺とスヴェンは、互いに互いの顔を見やり。

 

 

「…………負けるなよ勇者様」

 

「…………そっちこそな、親友」

 

 

 そう、男同士の健闘を祈り合うのであった。

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