勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「さすが勇者様、そう来なくては! さあ、金銀財宝が私たちを待っていますよ!」

 昨晩のジュリアの強襲の結果はというと。

 

 

「まさか体力切れでへばってしまうとは……」

 

「分かり切ってた結果だろ」

 

 

 朝日の光を浴びながら悔しそうな声を出すジュリアに、軽くそう返す。

 まず、普段から負け続けてるのに、どうして勝てると思ったのか。

 その上昨日は晩飯を食べてない内にやらかしている。

 

 そう。マッサージの時に、自分の体力を消耗する回復魔法を使っていたにも関わらずにだ。

 しかも、長年にわたって蓄積されたであろう、俺の筋肉の疲労を取るために。

 

 エネルギーが枯渇している状態で勝負を挑んだ時点で、俺に勝てるわけがなかったというわけだ。

 

 

「そんなに体力を使うような回復魔法を、旅の最中はバンバン使ってたというか、俺が使わせてたっていうか……本当にありがとな」

 

 

 改めて、ジュリアの負担がどれほど大きかったかを実感する。

 俺が魔王を倒せたのは、肉体的にも精神的にも、ジュリアに支えられてきたから。

 もう、ジュリアのいない人生が考えられないくらいだ。

 そう思い、感謝の言葉を口にすると、ジュリアは笑いながら。

 

 

「あの旅が快適なものになったのは、おはようからお休みまで献身的に勇者様に尽くし続けた私あってのものでしたからね。スレイは早急に私に止めどない感謝の念を伝えてください。伝えろ」

 

「聖女様、最高! 聖女様、最強! よっ! 図に乗ることにかけては他者の追随を許さない女!」

 

 

 心にもない俺からの称賛で、いつものようにドヤ顔を見せるジュリア。

 この流れが、お約束になってきている気がするけれど、ジュリアが満足そうならそれで良いや。

 

 

「……実際、お前もあの旅で回復魔法以外にも頑張ってくれてたからな。もう少し弱みを見せてくれてたらよかったのに」

 

「私にか弱いヒロイン属性を得てしまうと全人類が尊死してしまいますからね。新たな厄災の発生です。……そういうスレイも、最後まで愚直なお馬鹿さんでしたよ。貴方がどれだけ誰かのために傷を負ってきたか覚えてますか?」

 

 

 ……どれくらいだったかな。

 全然覚えてないや。

 

 

「ははっ……本当に、いろんなことがあったなぁ……それも、もう終わったんだけどさ」

 

 

 魔王討伐が為された時は、俺がジュリアと結婚するとは思わなかった。

 なんなら、今生の別れになるとさえ思っていたくらいだ。

 そんな俺の考えなんて知ったことかとばかりに、ジュリアの方からガンガン押しかけられた結果、こうして一緒に暮らすことになってるけども。

 

 

「折角平和になったんだし、このままジュリアとのんびり暮らしていきたいなぁ」

 

 

 ちゃんとした職を手にするのは、前提条件だけども。

 けれど。

 

 

「それ無理ですね」

 

 

 真剣な顔つきの聖女様が、そんなささやかな俺の夢をあっさりと切り捨てた。

 

 

「え? なんで?」

 

「スレイのトラブル体質でのんびり生活なんてできるわけないでしょう。魔王を倒した後もしれっと魔物討伐をルーティンのようにやってますし。このままだと、ただでさえ魔王を倒した勇者としての名声がとんでもないのに、空前絶後の最強の英雄として祭り上げられる未来へとlet's go!!ですよ」

 

「そんな未来が待ってんの!? 俺、そんなとんでもない英雄になりたいわけじゃないんだけど!?」

 

 

 ただ、そうなってもおかしくないのは俺もひしひしと感じとっている。

 魔王がいなくなって、幾ばくか魔物達は沈静化しているにも関わらず、短期間でドラゴン二回も倒してるし。

 魔物を倒すことは問題ないけど、こうひっきりなしに来られると、むしろ俺が原因で人類への魔物の被害が増えてる感じがして嫌だ。

 

 

「……これは、勘違いして欲しくないのですが」

 

 

 苦悩している俺をよそに、ジュリアはなぜか顔を真っ赤にし、目を泳がせながら、ポツリとつぶやき、

 

 

「勘違いして欲しくないのですが。勘違いして欲しくないのですが!」

 

 

 徐々に語尾の勢いが強くなり、

 

 

「……厄除けの指輪なるものが、とある場所にあるらしいので探しに行きませんか?」

 

「…………え?」

 

 

 それは嬉しい情報だけど、なんでそんなに恥ずかしそうにするんだ?

 そう戸惑っていると、畳み掛けるように。

 

 

「あっ、別に私がスレイとのちゃんとした結婚指輪が欲しくなったわけじゃないですからね? これからの人生を共にする伴侶の未来を憂いた私の溢れんばかりの慈悲の心からくる提案ですから。この私と結婚するという幸運のために人生の運気を全て使った貴方が哀れすぎるというだけですし? それにスレイのような直情的でバカでアホの三拍子男と同じ運命を歩むことになった私にも被害が及ぶかもですから。それを回避できるアイテムが偶々…偶々この指輪くらいしか当てはまらなかったので仕方なくですよ? 仕方なーく! ペアリングをつけましょうってことですからね? あっだからと言って適当に扱わずに、しっかり左手の薬指に嵌め続けてくださいね? これは決して私が夫婦の証を欲しがっているわけではなく、あくまで婚約ガチ勢としての使命感というか……」

 

「なんだ、急に饒舌に……別に良いけどよ……!」

 

 

 捲し立てるようなジュリアの言葉を聞き取った上で、その提案を受け入れた。

 

 今の話を要約すると、ジュリアもちゃんとした結婚指輪が欲しくなったということなのだろう。

 俺のためっていうお為ごかしの上で。

 

 ジュリアに相応しいかどうかは、見てみないことには分からないけれど、そこまで言うのなら乗っても構わないか。

 

 

「というかそんな指輪あったのか? 魔王を倒す旅の道中も結構あちこち巡った気がするけど」

 

「だからと言って世界の端から端まで探索したわけではないでしょう。あの王様もどきに命令して厄除けの道具がないか探してもらってただけですよ」

 

 

 王様もどきって……命令って……。

 いかん、頭痛がしてきた。

 

 

「ジュリア、本当に俺たちの王様がアレックス王だったことを感謝しろよ。他の国だったら、その発言だけで不敬罪で投獄されてもおかしくないからな?」

 

「捕えられようとすぐ脱獄できる自信はありますので」

 

 

 そういう問題ではない。

 自信満々にたわけたことを吐かすジュリアの姿を見て、俺の頭痛が悪化したような気がする。

 

 

「それはさておき、その厄除けの指輪は古代の王が所持していたものらしく、その王と共に埋葬されたそうなんですよ。ただ、その王の墓が巨大過ぎて、魔物が墓の中を練り歩くほどに湧いていたり、侵入者を追い払うためか、数々のトラップが仕掛けられてるとかで、もはや誰も入れないダンジョンのようになってるとか」

 

 

 ……えっと、色々ツッコミたいところはあるけど、まず一つ。

 

 

「それって墓荒らしじゃ……」

 

「アレックス王から陵墓に入る了承はもらってますよ。ほら、この間アレックス王がこの家にやってきた時に渡された紙があったでしょう? あれが許可証です」

 

 

 そう言って、難しそうな文字の羅列の後に、アレックス王のサインが入った羊皮紙を見せびらかしてくる。

 ……ないとは分かっているけど、偽造文書ではなさそうだ。

 

 

「今言ったように、中に入ったら帰って来られない人が多過ぎて、その調査も込みでの許可みたいです。その際に見つけた財宝とかは我々が持っていっていいそうですし、いい話じゃありませんか?」

 

「そこは王様のお墓くらい誰かが管理しておいて欲しかったところだけど……、そういうことなら行ってみるか」

 

 

 俺の了承の言葉に、ジュリアは嬉しそうに笑って。

 

 

「さすが勇者様、そう来なくては! さあ、金銀財宝が私たちを待っていますよ!」

 

「海賊みたいなことを聖女が言わないでくれ……」

 

 

 ここには俺しかいないとはいえ、少しは品性というものを持ってくれ。

 ……ああ、こいつ、親しい人間以外の前だったら外面モード発動するから問題ないんだった。

 なんか釈然としないけど。

 

 

「そんな財宝集めて、何か欲しいものでもあるのか?」

 

「いえ別に? お宝探しが楽しそうってだけですよ? 見つけた財宝の内、私の取り分は全部私がいた教会に寄付するつもりですし」

 

「…………」

 

 

 本当にそう言うところは聖女なんだよなぁ、ジュリアって。

 

 

「それで、いつ行くんだ? 予定とか確認しないと……」

 

「今日です」

 

 

 …………。

 今、なんと?

 

 

「そういう訳なんで、さっさと支度してください。ほらほら、向こうには我々の同行者達もいるんですから、待たせるわけにはいきませんよ」

 

「早い早い早い早い! なに!? 今日!? 全然聞いてないんだけど!?」

 

「今言いました。なので何も問題ないですね」

 

「問題しかないけど!?」

 

「なら聞きますけど、スレイは今日別件の予定あるんですか?」

 

「……ないけど」

 

「体力だって有り余ってるでしょう? 昨日入念にマッサージしてあげたんですから」

 

「……体調は絶好調だけども」

 

「じゃあ問題ないですね! では今から朝食の準備をしてきますので、食べ終わったら、let's go!!ですよ!」

 

 

 嵐のように暴れ散らかし、嵐のように去っていくジュリアを見送って、俺は、

 

 

「そういえば、旅の最中もジュリアってこんなだったな……」

 

 

 ジュリアがせっかちな性格だったことを思い返したのだった。

 

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