勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
「こんにちはー、迎えにきましたよー」
ジュリアからの唐突な用事に向かうための準備がちょうど終わった頃、玄関の方から、中性的な声が聞こえてきた。
迎えにきたということは、この声の主は、ジュリアの言っていた王様の墓への案内人なのだろう。
「はいはい、今行きますね。……ほら何ボサッと突っ立ってるんですか。迎えの人を待たせるのは社会人としてマナー違反ですよ」
「事前の説明もなく、当日になって緊急クエストを強いてくるやつにマナーどうこうを言われたくないわ」
そう反論するが、ジュリアは肩をすくめてヤレヤレと言いたげな素振りを見せる。
……そこまで俺は呆れられるようなことを言っただろうか。
むしろ、俺の方が呆れていいくらいだというのに。
「そこまで不満があるのでしたら仕方ありません。出血大サービスで、このジュリアちゃんが、今夜限定で一つだけスレイのお願い事を聞いて差し上げましょう」
なんかこっちの聞き分けが悪くて引き下がってやったみたいな雰囲気を出しているけれど、俺は正当な主張しかしていない。
けれど、
「願い事って、なんでもいいのか?」
「ええ。私にできることであればなんでも叶えて差し上げましょう。物理的だとか法律的に無理なものは無理ですけれど。またマッサージをして欲しいのであれば丹精込めてマッサージいたしますし、食べたい料理があるならいくらでも作って差し上げます。なんなら、三回回ってワンと言えとか、焼きそばパンを買いに行ってこいとかでも喜んで行ってきますよ」
「そこまでやってくれるのか……」
パシリとかそういうのはさせるつもりはないけど、相当本気らしい。
なんでもというのであれば、それこそ願ったり叶ったりだ。
何を頼もうかを考えていると、ジュリアがモジモジし出して。
「も、もし希望するのであれば、夫婦の営みの際に、スレイが望むことをやってあげたり……なんか……ね?」
こいつ、それが狙いか。
「いやー! 私としては、スレイの変態的な欲望に付き合わされるなんて興奮す、もといゲンナリしますけど、これは私からの無理なお願いに付き合ってくれた報酬ですからねー! 困った困った! でも一度口に出した以上は撤回なんてしたら恥ですし? ここはそう! 私のメンツを保つためにも、スレイの隠していた獣欲を受け止めてあげる義務があると言いますか!? そこを広い心で受け入れるのが聖女として、妻としての役割みたいなところもありますから、さあ遠慮なくその欲望をひけらかしちゃって下さい!」
「今夜はゆっくり寝たいから、なにもせずに寝かせてくれ」
「却下です」
急速に冷え込んだ視線で睨まれて断れた。
話が違うんですが。
「なんでも叶えるって言っただろ」
「そういう夫婦間の不和を招くような行為はNGですけど? コミュニケーション不足は離婚の原因になり得るんですから」
この聖女、欲望まみれである。
「まあ、夜までに考えておいて下さい。私が納得する願い事を」
「結局ジュリアの匙加減じゃねえか」
いつもの如く理不尽なことをおっしゃるジュリアを尻目に、玄関の方へと向かう。
こんなしょうもないことで、折角出迎えてくれた人をいつまでも待たせるのは申し訳なさすぎる。
◇
「スレイさん、ジュリアさん、初めましてー。ボクはロビンって言いますー。メレディス団長から、二人を迎えに行くよう頼まれたので来ましたー」
扉を開けると、ローブと杖を装備している、見るからに魔法使いといった面持ちの人間が立っていた。
俺より若干背の低いくらいで、顔つきからは少し幼い印象を与えてくる。
あの団長さんから頼まれたということは、最近騎士団に入ったばかりの子なんだろうか。
「初めまして。俺はスレイで」
「私はジュリアです。今日はよろしくお願い致しますね」
そう言って、ジュリアは微笑みながら頭を下げた。
ロビンとは初対面になるから、外面モードがオンになっているようだ。
「はいはーい、よろしくねー。……あ、やばっ、今敬語じゃなかったー! ごめんなさーい!」
「そんなの気にしなくていいって。ロビンって俺たちとそんなに歳は離れてなさそうだし、その方が気楽でいいよ」
先ほど名前の出たメレディスさんもそうだけど、騎士団の人たちはやたらと俺達を丁重に扱おうとしすぎている。
もうちょっと雑に扱ってくれたほうがやりやすいくらいだ。
折角だし、ロビンには普通に喋ってもらいたい所存である。
「それならふつーに喋るねー。ジュリアさんも、それでいいですかー?」
「スレイがそのように仰るのであれば、私から言うことはございません。なんなら、私のことも呼び捨てで構わないですよ?」
「りょーかい! いやー、やっぱり敬語って疲れるねー。ボク堅っ苦しいの苦手でさー」
本当にゲンナリしたような表情を浮かべて、首を振るロビン。
どうも感情表現が豊かな人らしい。
「しかし、わざわざ出迎えがなくてもこちらから伺いますのに。王墓はここから結構距離があったはずですし……」
「問題なーし! ボク、魔法で瞬間移動使えるからねー」
ロビンが平然ととんでもないことを言い出した。
移動魔法はかなり高等な魔法だ。
というか、ジュリアが適当な振る舞いで繰り出すからそうは見えないだけで、移動魔法は人生の大半を費やしても習得できない人の方が多いくらい、難しい魔法なのである。
ジュリア曰く、『同時に四科目のテストを解きながら、両手両足それぞれで答えを記述する感覚』だそうだ。
よく分からないけど、俺には無理だってことは理解できた。
「あー! その目は疑ってるなー? こう見えてボク天才なんだよー?」
「自分で自分のこと天才って言うやつ、あんまり見たこと……いや、結構いるな」
主に、咬ませ犬的なやつか、ジュリアとかいう名実共に天才の聖女様がよく自称している。
移動魔法が使えると言っているあたり、ロビンは後者の方なのだろうけど。
「それはそれは、ロビンさんは優秀な魔法使いの方なんですね。もしかして、今回の潜入に同行していただけるのですか?」
「その通りだよー。なんせあのお墓、だーれも最深部まで辿り着けてないみたいだし、王様も本腰入れての調査がしたいらしいしー」
なんで王様の墓をそんな危険なダンジョンにしたんだ。
その王様って実は魔物の王だったりしないよな。
「とにもかくにもしゅっぱーつ! 向こうでだんちょーも待ってるしねー」
メレディスさんも待ってるのか。
男性がパーティに加わってくれることに安堵する。
もしも女性が増えたら、肩身狭く感じてしまうところだったから。
「うん。それじゃあ頼むわ」
「任されたー」
そう言って、ロビンが持っている杖を軽く振ると。
「はい、とうちゃーく」
「おお、本当に移動魔法が……って、暑っ!?」
目の前の景色がガラリと変わった。
辺り一面、砂だらけの世界に。
天から注ぐ鋭い日光が、俺の体を突き刺し、発汗させていく。
……ここ砂漠じゃねえか。
「この国砂漠あったのかよ」
「元々はなかったんですけど、王墓から漂う瘴気のせいで、その周りに草木が生えなくなっていったんですよ。そのせいで、このような死の大地と化してしまったわけです」
丁寧にジュリアが説明してくれた。
けど、ここまで環境を変えてしまうほどの瘴気ってなに?
その王様って呪術師か何かなの?
本当に魔物の仕業じゃなくて?
「あ、ごめんごめーん。今涼しくさせるからねー」
「え? いや何言って……」
ロビンがまた軽く杖を振ると、途端に周りに冷たい空気が流れ始めた。
しかも、日光も弱まった気がする。
「氷魔法と風魔法を混ぜて、ボクらの周りの気温を下げといたー。そんで、頭上には水魔法で小さめの雲を作っておいたから、日傘いらずで太陽光を遮ってくれるよー」
「あの、さらっととんでもないこと言うのやめてくれます?」
ジュリアが引き気味に、先ほどの俺と同じような感想を述べて、ロビンの言葉につっこむ。
こいつ、天才か?
魔法にはあまり馴染みはない俺でも、相当レベルの高いことをやっているのは分かる。
そこまでやっておいて、ロビンは全然疲れた様子を見せないし。
「言ったじゃん、ボク天才だって。これでもボク、魔法部隊の隊長なんだよ?」
「はぁ!?」
魔法部隊の隊長って、超エリートじゃん。
その上って、もう騎士団長しかないじゃん。
実質この国でトップの魔法使いって言ってるようなものじゃん。
「え、いや、いくらなんでも若すぎるだろ!?」
「これでもボク、だんちょーと同期だよ? まあ、王立魔法学園を飛び級で卒業したから、年齢的にはスレイやジュリアと変わらないけどさ」
メレディスさんとの年齢差を考えると、この国で最難関の学園を単純計算で十年分飛び級してることになるんですがそれは……。
「なあジュリア、ここまでやらなくちゃいけないくらい、王様のお墓って危険なのか?」
「ど、どうなんでしょう……」
ジュリアに問うが、曖昧な返事しか返ってこない。
それも無理はない。この状況を客観的に見ると。
魔王を倒した勇者。
同じく世界を救った聖女。
騎士団の最高責任者である騎士団長。
この国でトップクラスの魔法使い。
この四人でパーティを組むことになるんだから。
「安心してよー。ボクもだんちょーも、半分趣味で来てるようなもんだからさー」
あっけらかんと笑いながらロビンがそう言うが、一抹の不安は拭いきれない。
……ちょっと、気合い入れ直すか。