勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
メレディスさんに案内され、王墓の中に入っていく。
この狭い通路を通って危険地帯に潜り込んでいく感覚、久しぶりだな。
「メレディスさん。ここに入る前に気になったことがあるんですけど、聞いていいですか?」
「ええ、私に答えられることであれば、どうぞ」
「ここって見張りの人とかいないんですか? いくら砂漠のど真ん中にあると言っても、財宝荒らしとかが潜り込んでくる可能性があると思うんですけど。一応ここって過去の王様が眠ってるところなんですよね?」
ここは立入禁止区域なのだろうけど、それなら尚のこと侵入者がいないかを見張る人間がいてもおかしくないはずだ。
王墓なんて重要な建築物のはずなのだから。
そう聞くと、メレディスさんは苦笑いをして。
「こんなところに墓荒らしの方は来ないんですよ。周りが砂漠なもんだから、まずここに辿り着くことが困難ですし」
「私たちはロビンさんの魔法のおかげで快適な状態で来られましたけど、あんな灼熱地獄の中、こんなところに忍び込もうだなんて相当気合いが入ってないと無理ですもんね」
言われてみたらそうである。
こんな場所を見張る必要性が皆無に等しい。
なんだったら、無意味に砂漠のど真ん中で待機させられるとか、拷問か何かで訴えられるレベルだわ。
「それに、たとえここに辿り着いたとしても、ここから財宝を手にして帰ってきた者は一人としていませんからね。むしろ、そんな手練れが出たならこちらとしてもある意味喜ばしいくらいですよ」
「貴重な人材すぎて騎士団に取り込みたいくらいですもんねー」
こんなところに新手の就職口があったとは。
しかも、犯罪歴など不問にしてくれるそうだ。
問題は、その資格を得るには命をかけなければいけないところだが。
「こんな危険なところに潜り込むのを今日に至るまで全く教えてくれなかったことを、どこかの聖女様には反省してほしいところだな」
「へー、そんなひどい聖女がいたのですね。あまりの酷さに私も思わず閉口してしまいます」
「こっちは開いた口が塞がらねえよ。その張本人に悪びれもせずにそんなこと言われたら」
わざとらしい棒読みで、素知らぬふりをするな。
ジュリアのことだから、俺には何をしてもいいと思ってるんだろうけど。
「メレディスさんもロビンも気は抜くなよ。物見遊山でダンジョンに入って、とんでもないことになった奴らを何回も見てるからな俺は」
「勿論ですとも! このメレディス、余裕は持っていても油断はしておりませんので!」
「ボクもでーす。……ところで、そのとんでもないことって、どんなことがあったのー?」
俺の言葉に興味を持ったロビンが訊ねてきた。
まあ、聞きたいのなら答えるか。
「普通に胴体が泣き別れになったりとか、一生魔物の魔力の養分にされるとか、何もない部屋に閉じ込められたりとかだな」
「うわー、思ったよりやばいねー。……あれ? 一番最後はまだマシじゃないかなー?」
「本当に何もないんだぞ。食べ物も水も光も、そして出口もないところだ。俺が引っかかったわけじゃないからそこまで体験したわけじゃないけど、多分、精神的にはあれが一番きついんじゃないかな」
その状況を想像したのか、ロビンが少し青ざめた。
周りから全く刺激がない状況というのは、いとも容易く人間の精神を崩壊させるものだ。
「一人を閉じ込めたら、その標的を絶対に逃さないし、他の奴らも入れない。あれこそ悪意に満ちた罠だと思うわ」
「なるほど、そのような部屋が……おや? それならばなぜ、何もない部屋のことをスレイ殿は知っておられるのですか? 誰も入れないなら、スレイ殿も入れないのでは?」
メレディスさんの疑問ももっともだ。
けれど、それは単純な話で。
「壁をぶち破って無理やり入った」
「……今なんと?」
「旅の途中で、ダンジョンに潜って帰って来られない人を捜索してほしいって頼まれてさ。それで、ダンジョンをしらみ潰しに救助者を探してたら、壁の中から人間の気配がしたんだよ」
どこにもその中に繋がる穴がなかったし、その上早く助けないとって気持ちもあったもんだから。
「だから、遮る壁はぶっ壊して、直接被害者を救助することにしたってだけだ」
「全力がすぎる!?」
多分あれが一番手っ取り早い方法だったんだから仕方ない。
「その時は、助けた人たちは全員ジュリアが癒したからなんとかなったけど、場合によっては手遅れになる可能性もあるんだ。気は緩めないでほしい」
「治せたんですか!? その全員を!?」
「流石に私でも、突然チリも残らないくらい木っ端微塵にされたら治せないですからね。重症は負わないように気をつけてください」
「そうじゃなかったら治せるってことなのー!?」
俺とジュリアの注意喚起を聞いて、騎士団の二人は。
「……よく見ておきなさいロビンさん。あれが世界を救った勇者と聖女のお姿ですよ」
「……なんかのほほんとしてたからそう見えなかったけど、本当にすごい人たちなんですねー」
俺達を見て、畏怖と尊敬が混じったような、複雑な視線を送ってきた。
……気を引き締めさせようとしたんだけど、思わぬ効果も呼び込んでしまったらしい。
そんな雑談をしているうちに、俺達は狭い通路を通り抜けて、大きい広間へと辿り着いていた。
「やっぱり中は暗いな。ジュリア、魔法で光源の確保を頼む」
「はいはい、ガッテン承知の助でございます」
聖女らしからぬ返事と共にジュリアが魔法を発動させると、丸い光の塊が出現する。
すると、先ほどまで真っ暗で何も見えなかった空間が、光に照らされて少し明るくなった。
「……思ったより薄暗いですね。いつもだったら端から端までくっきり見えるくらい明るくできるのですが。この墓にかかっている魔術的なもののせいでしょうか?」
ジュリアの言う通り、思ったほど明るくなっていない。
かろうじて二十歩ほど先が見えるくらいだ。
不思議そうにしていると、ロビンが周りを見渡して、
「うーん、これは普通の魔術じゃないっぽいねー。多分だけど、これは呪術かなー」
「それって何か違いあるのか?」
「術者が解除しない限り、魔力がなくても永続的に続く魔術が呪術って思ってもらえたら大体それであってるかなー。その分発動するのにかなーり魔力を使っちゃうけどー」
永続効果がある魔法が呪術ってことか。
なんか、もっとおどろおどろしいものばかりと思ってた。
「つまり、原因をどうにかしないとこの暗さはどうにもならないってことですか。ほらほら私がいないと探索が捗らないみたいですし、全力で私を守ってくださいね」
「うん、普段となにも変わらないな」
尊大な態度で情けないことを仰る聖女様。
ぶっちゃけいつも通りである。
ジュリアを命懸けで守るなんて、旅に出た時からずっとやってたことなんだから。
「それにしても墓の探索か……メレディスさんとロビンは、ホラー的なものは大丈夫?」
こういう薄暗いところで出る魔物は、アンデッド的なものが多くなる。
ゴーストとかゾンビとか、そういう感じの奴。
人によっては、そういったものの恐怖耐性に差があるから確認しておく。
「存在そのものはそこまでだけど、突然現れたりしたらビックリしちゃうかなー。こう、ワーッ!!って驚かされたら怖がるかもー」
「うーん……どうでしょう? 私、普段こういう場所に入り込まないので、実際に体験してみないことには分かりませんね。多分大丈夫だとは思いますが……」
極度に怖がるような人はいないと。
それなら、戦闘中に足がすくんで動けないなんてことにならなそうだな。
俺は、ジュリアに背を向ける形で腰を下ろしながら、胸を撫で下ろした。
そして、ジュリアが背中に乗り、俺の首周りにしっかりとしがみついたのを確認して立ち上がる。
そんな様子をメレディスさんが目を丸くしながら眺めて。
「……あのスレイ殿? どうしてジュリア様をおぶっておられるので?」
「私が幽霊とか怖いからですけど何か?」
何バカなことを言ってるんだと言わんばかりの口調で、ジュリアはバカなことを言い放った。
「それってドヤ顔で言えることなのー? 聖女様の魔法なら寧ろ相性良さそうな気がするんですけどー」
「怖いものは怖いんですよ! 虫嫌いの人だって、簡単に叩き潰せると理解はできていても虫を怖がるでしょう!? それと同じです!」
「それでよくここに潜り込もうとしましたね……」
「基本的に頭はいいんだけど、たまにジュリアって後先考えずに突撃することがあるからなぁ……」
メレディスさんが、少し呆れたような声を出す。
それも無理はない。
幽霊が苦手な人間がこんなバカでかい墓に潜入することに比べたら、虎児もいないのに虎穴に入ろうとする愚か者の方が、なんぼか賢者に見えてくる所業なのだから。
「しかもかなり怖がりなもんだから、急に幽霊なんて出た日には……」
そう口走った瞬間、背筋が凍るような気配を感じた。
すかさず振り返ると、そこには半透明の骸骨のようなものが漂っている。
間違いない。これはゴーストの魔物だ!
「や、あ、きゃあああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「ひゃっ!? で、出たーー!!」
俺の背後で絶叫をあげるジュリア。
鼓膜が破けたのではないかと思うほどの声量だったが、ギリギリ薄皮一枚繋がってくれていたようで、その横からロビンの怯えたような声が聞こえてきた。
まさか、後ろから不意打ちされるとは!
「言ってる側からかよ! 皆、落ち着いて……!」
「とりあえず斬りますね」
「えっ」
周りを落ち着かせるために声をかけようとした途端、眼前のゴーストにメレディスさんが躊躇せずに斬りかかっていく。
そして、メレディスさんの剣が横に一閃すると。
『ギャアアアアアアァァァァァ!!!』
その一撃で、ゴーストは聞く者全てを呪うかのような悲鳴をあげながら崩れ落ちていき。
「あ、なんか倒せましたよ。剣でも倒せるもんなんですね、幽霊って」
そして、そんな恐ろしい絶叫を間近で聞いたにも関わらず、メレディスさんはなんでもないかのように素朴な感想を呟いたのだった。
「こいつ、顔色ひとつ変えずに……?」
「さっすがだんちょーですねー」