勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
「スレイ殿、この辺りのゴーストは殲滅しましたよ。普通の魔物に比べるとあんまり手応えがないですね。実体がない分柔らかいんでしょうか?」
あの後、周囲に集まってきていたゴーストの群れを、メレディスさんがとりあえず感覚で倒しまくってしまった。
彼の言う通り、ゴーストは防御力や物理的な攻撃力はそれほどない。
けれど、本来であれば、ゴーストは物理的な攻撃は効かないし、厄介な魔法だとかを使ってくる魔物だ。
攻撃に関しては、メレディスさんが持っている剣が特別仕様のものなのだろうということで納得できる。
魔力がそれほどない俺でも、あの剣からは神聖なものを感じるし。
なんでゴーストの魔法とか、倒された時の呪いとかを全部無効化してんのあの人。
確かあの人、ここ入る前はロビンに不意打ちかまされてたよな。
あの反射神経は嘘だったってことか?
「……仕事早過ぎんだろ。もはや流れ作業感覚で処理しててゴーストよりもメレディスさんの方が怖く感じるレベルだったわ」
「だんちょーって魔物には全然ビビらないからねー。悪意とか敵意には敏感だから、襲われた瞬間には反射的に武器で斬りかかってるくらいだしー」
ああ、ロビンの突進を避けられなかったのは、そういう害意がなかったからということか。
「あの人、実はゴーレムだったりしませんか? 無駄を極限に減らした動きされてましたし。……いやでも、少年っぽい仕草もしてるんですよね」
「危機感を覚えることはあるんだよー? セクハラとかパワハラとかには人一倍気を遣ってるから、女の子には馴れ馴れしくしないようにしてるしー、人に注意する時とかは言葉をすごく選んでるもんねー」
それはメレディスさんの丁寧な態度からヒシヒシと伝わってくる。
騎士団のトップのはずなのに、メチャクチャ腰が低いもの。
こう、権力とか立場とかを笠にして、他人に不愉快な行動は取らない人なんだと思う。
「それは、その……上の立場に立つ人間としては、気にして当然と言いますか……」
「だったら、ボクにも優しくしてくれていいのに、心なしかたいちょーってボクの扱いが他の人より雑な気がするんですよねー。ボクは立場とかを気遣って、同期なのにこうして敬語で話してあげてるのにー」
「別に私は敬語で話して欲しいわけじゃないんですけど……。というか、別に私はタメ口程度では怒らないですって。むしろ、ロビンさんに限らず、スレイ殿やジュリア様からも、もっとフランクな口調で話して欲しいくらいですよ」
常に敬語で喋っている方にそんなことを言われても。
「メレディスが敬語で喋ってるからじゃないのー? それで周りも合わせなくちゃってなってるだけでさー」
言いにくいことをあっさり言っちゃったよ、この魔法使い。
「私のこれは、こう言う喋り方でないと騎士にあるまじき発言をしてしまうので……」
「まだ新米だった時、メレディスすごかったもんねー」
「そうだったんですか? ……このメレディスさんが?」
ジュリアがそう疑問を呈すると、ロビンはイタズラっぽく笑って。
「イメージガラッと変わると思うよー。だって、魔物に対して『お前ら全員、ここから生きて帰れると思うなよ!』とか、『そんな程度で俺に立ち向かってくるとはな! 身の程知らずってもんをその体に叩き込んでやるよ!』とか、ガラの悪い人みたいな喋り方してたからさー」
完全にヤンキー口調じゃないですか。
あと、メレディスさんの素の一人称って『俺』なんだ。
「ちょ!? や、やめて下さいロビンさん! あれは、自分を鼓舞するために、あえて強い言葉を使ってただけなんですから! 昔の極端に酷い例を挙げないでください!」
「あー、分かる分かる。戦う前に派手なこと言って脳のスイッチを戦闘向けに切り替えるやつね。あれ結構効果あるよな」
自らを奮い立たせるために、攻撃的な言葉を実際に口に出す。
昔、俺もやってたことがある。
なんなら、今でもやってたりするし。
「スレイ殿は分かってくださりますか!?」
「まあね。俺だって魔王と戦ってる時とか暴言の嵐だったしなぁ」
「あれは魔王が狡い真似をしてきたので仕方ないと思います」
俺たちとの戦いの最中に人の集落めがけて攻撃したり、なんか口先だけで俺らを誑かそうとしたり、勝ち目がないと分かったら秘術かなんかで暴走形態になったり。
なんか思い出すだけでも腹が立ってきた。
「まあ、全部真正面から叩き潰してたら勝てたんだけどな」
「本来、あんな脳筋戦法でどうにかなる相手じゃないはずなんですけどね、魔王って」
俺だって考えたさ。
考えた結果、ジュリアに回復されながら、俺が力でゴリ押すのが一番効果的だって結論になっただけで。
「あっ、そういえば御二方に聞きたかったことがあるんですけどいいですか?」
「なんでしょう?」
「魔王から『人間を裏切って魔王軍につかないか?』みたいな話を持ち掛けられたりしたのですか?」
「普通にあったな」
「やっぱり!」
なんで嬉しそうなんですかメレディスさん。
定番といえば定番の話だけど。
「それってあれですか? こう、人間の愚かさを説いてきたりだとか、もし味方になればそれなりの立場を用意するとか、そういう甘言を言われたり?」
「そうですね。想像通りすぎて笑いそうになりましたよ私は」
あの時のジュリア、笑いを噛み殺そうと必死に食いしばってたもんな。
俺も内心、『いいからさっさと始めようぜ』って思ってた。
「あれだけ苦労して魔王の元に辿り着いたってのに、そこであんな話に乗るやついるのかね?」
「私は、『こちらにつけば、貴様らの故郷の国を治める権利をやろう。貴様ら二人で新たな王と王妃になれば良い』と言われた時は若干揺らぎましたけど」
「何言ってるんですか聖女様?」
「冗談です」
ジュリアが言うと、冗談に聞こえない。
「だって、その気になれば魔王の力を借りずとも私とスレイの二人だけで実現できますからね。まあ、スレイに土地を治める意思がなかったのでどうでも良かったことですけど」
「あのジュリアさん? その言い方だと、もし俺が希望してたなら国家転覆を実行してたみたいに聞こえるんですけど? 神様から祝福されている聖女様の発言がそれでいいんですか?」
「神からの愛とか、私から貴方に向ける愛に比べたらちっぽけなものですよ。……言っておきますけど、私の場合は愛の総量そのものが、神ごときと比べたら果てしないだけであって、私の中のスレイの占める割合が大部分だからとかそう言うわけではないので勘違いしないでくださいね。これでも聖女なので、ちゃんと人類に向けた愛もありますから。残念でしたね、私の愛情を一身に受けられなくて」
多分、ジュリアの人類への愛が俺への愛情に上乗せされたら本当にジュリアが魔王になりかねないので、勇者の身としてはありがたいことこの上ない報告である。
「……スレイ。君、よくこのジュリアの重ーい愛を受け止められるねー」
「一回世界が滅亡するかもしれないって重圧が俺の肩に乗ってたこともあるからな」
「なんならこの聖女様がまた世界を破滅に導きそうな感じなんだけどー?」
さすがは国内最高峰の頭脳を持つロビン。
一瞬でジュリアの本質を見抜いたか。
「えーっと……一応、私も騎士団長と言う立場ですので、できれば私の前では、そういう物騒な発言は控えていただければ嬉しいかなぁって……」
「大丈夫ですよメレディスさん。これでも私はあの王やこの国の皆様には含むところは何もありませんので。スレイと穏やかな日々を過ごせればそれ以上のものは必要としていない私が、国家転覆なんて馬鹿げたことなど致しませんよ」
「それは、もし仮にスレイ殿に何かあればその限りではないということでは…………あ! あんなところに宝箱がありますよ! しかもあからさまに怪しげなところに! これはダンジョンでは定番のトラップというやつじゃないですか!?」
「俺、トラップ見てテンション上がるやつ初めて見たわ」
ジュリアの言葉の裏の事実に気づきそうになったメレディスさんが、道端に落ちていた宝箱の方を指差し、わざとらしく叫ぶ。
我らが聖女様はあんなことを言ってるけど、彼女はなんの罪もない他人を傷つけられる人間ではない。
むしろ、そういう人々を守る側の人間だ。
だって、そうでもなかったら、あんなに怖がっていた聖女の役割を、全うしようとしなかったのだから。
「でも実際どうするー? 罠だって割り切って無視して先に進むー?」
呑気そうなロビンの声が、薄暗い陵墓の中に響き渡る。
俺も、この宝箱はほぼ罠で間違いないとは思うけど。
「スレイ、いつも通りでお願いします」
「はいはい。お前ら二人はちょっと離れててくれ」
背中からの声の言う通り、俺はメレディスさん達を遠ざけてながら、おもむろに宝箱へと近づく。
「これはまさか、トラップ解除を披露していただけるのでは……!」
メレディスさんが期待しているようだが、その期待を裏切るようで申し訳ない。
「ほい」
特に何をするでもなく、俺はそのまま宝箱を開けた。
「え、えっ!?」
「ふつーに開けちゃったねー」
そして、瞬時になんらかの物体がこちらに飛来してくる。
けれど、問題ない。
俺は、そのまま両手を構えて、
「っと。なんだ、矢が飛んでくるだけか。もっと派手な罠かと身構えてたけど、大したことなくてよかったな」
飛んできた矢を全てキャッチした。
鏃に毒でもついてたら危ないので、篦の部分を掴んで。
「ひーふーみー……二十七本ですか。普通の人なら死んでますね」
「……全部の矢を掴み取りってどんな反射神経をされてるんですか」
「よくこんな脳筋戦法で魔王のところまで辿り着けたねー」
気の抜けたような声を出す騎士団の二人組。
だが、そう言われても何も反論できない。
なにせ、事実だから。
「いや、実際何度か危なかったけど、ジュリアの魔法のおかげでどうにかなったし、何回か死にかけてたら慣れたわ」
「私の回復魔法は文字通り桁違いですので。ブイ」
俺の背中からひょっこりと顔を出して、得意気にピースサインをするジュリア。
「死にかけたことを何でもないことのように言うとか、やっぱり色んな意味ですごいなこの人たち!」
「身体能力だけじゃなくて、メンタルも超人だー」
……そこまでかなぁ?