勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
あれから、どんどん王墓の下へ下へと降りていく度に、新たな魔物との出会いが待っていたが。
「はーい、ミイラやゾンビは火葬しておくねー」
リビングデッド系の魔物は、ロビンの魔法によって火葬され。
「ホラー系だけではなく虫や蛇の系統の魔物も出てくるもんなんですね。ここが薄暗いからでしょうか? 猿に木登りかもしれませんが、こいつら毒を持ってるので気をつけてください」
動物系の魔物は、メレディスさんの剣に薙ぎ払われ。
「私の除霊魔法が火を吹きますよ。ほらほら恐怖を飲み込んで恐ろしい敵にも立ち向かう健気な聖女様の姿を見て勇者様は何も思わないのですか? 必死に歯を食いしばりながら、こんなにもあらゆる意味で奇跡の美少女が頑張っているんですよ? 労いの言葉の一つでもかけなさい。かけろ」
幽霊系の魔物は、俺におぶられているジュリアの魔法で浄化されていく。
「俺の背中から降りられたら崇め奉ってやるよ」
「お化けが怖いので今回のところは勘弁してあげましょう。その代わり、帰ってから全力で構ってくださいよ。そうでないと拗ねますからね」
「拗ねるって子供みたいだねー。口利かないとか嫌いな料理作るとかそういうやつー?」
「構ってくれるまでひたすらスレイの上にのしかかります。立っているなら肩の上に。座っているなら膝の上に。横になるなら背中かお腹の上に寝転がります」
「イチャイチャしてるだけじゃーん!」
いいぞロビン。そのまま真っ当なツッコミをし続けてくれ。
逐一指摘するのに疲れていたところだったんだ。
「たいちょーもスレイ達を見習って、早く相手を見つけたらいいのにー。というか、お金も権力も顔も何でも持ってるたいちょーならよりどりみどりじゃんかー」
「今は仕事が大変ですから。元々私は貴族でも何でもない平民ですし、そこまで積極的に婚姻を結ぶ必要もないので」
「そう言いながらもうそろそろ三十歳でしょー? 結構いい歳じゃーん。この間だって、同期の人結婚してたしさー」
「ぐはぁっ!?」
メレディスさんが致命傷を負ったかのような悲鳴をあげた。
よほど、今のロビンの言葉に傷ついたようだ。
「え? メレディス、何そんなに落ち込んでるのー?」
「す、すみません……自分では年齢のことを気にしていないつもりだったんですけど、他の人から実際に口に出して言われると、心にヤスリをかけられたかのようなダメージが……!」
「え、えーっと……なんか、ごめんねー?」
深刻そうなメレディスさんを見て、咄嗟にロビンは謝罪した。
……デリケートな話題なのだろう。
少なくとも、メレディスさんを一撃で仕留めるくらいには。
「皆さん、若さが貴重品であるということは失ってから初めて気付くものなのです。こうならないように、悔いなく過ごしてください」
「わ、分かりました……」
「き、肝に銘じておきます」
メレディスさんの真に迫ったその迫力に、俺とジュリアは唯唯諾諾と同調するしかなかったのだった。
◇
「それよりスレイ。今のところ一番働いていないのは貴方ですよ。今回の探索は貴方の厄祓いが目的なんですからね」
「こんなところで大暴れできねえもん、俺」
ここが敵の用意した城とかダンジョンであれば、もっと探索のスピードは跳ね上がっていたことだろう。
俺が壁やら床やら破壊しまくって、直進すればいいだけだから。
けれど、ここは王家の墓場。
そのような乱暴をしていい場所ではない。
「それにしてもここって昔の王様の墓なんだよな? なんでそんなところに魔物がこんなに湧いてるんだよ」
「こういう場所だからこそ、ゴーストやリビングデッドが蔓延るのでは?」
メレディスさんの言うことは一部正しい。
こういう死者が多い場所では、ホラー系の魔物が増える傾向にあるのは間違いないことだ。
けれど、問題はそこじゃない。
「いくら何でも魔物の数が多すぎる。いくらここがだだっ広いって言っても人工物で閉鎖された空間だ。人間もいないのに、これだけ魔物が増える理由が分からないんだよ」
魔物も人間への敵意が過剰なだけで、奴らもエネルギーがなければ動けない。
ゴーストでさえ人間の魂や魔力などを餌としており、それらが不足すれば自然と消滅してしまう。
だというのに、ここの魔物は、人間という餌が不足しているにも関わらず、次から次へと俺たちに襲いかかってくる。
「この魔物もトラップの一つだっていうなら納得できるけど、わざわざ自分の眠る場所をこんな騒がしくするなんて変わり者の王様だなって」
しかも、あちこちに仕掛けられた人為的な罠のせいで、魔物がそれの巻き添えを喰らっている始末。
本当に魔物も防衛機構の一つなら、同士討ちをしていることになる。
「私も、この魔物達は侵入者を撃退するためのものだと思っていたのですが、もしかしたら別の理由があるのかもしれません」
「部外者だけを追い払いたいんだったら、人工的な罠の方がいいもんねー。入っても良い人がいたら罠がない安全なルートを辿ればいいしー。魔物を放し飼いにしてたら、関係者も入れなくなっちゃうよー」
「事実、そのせいで誰一人として王墓の最深部まで辿り着くことができなくなってますもんね。しかも、そのせいで墓の周りを砂漠化させているのもおかしい話です。貴重な領地を無駄に浪費するなんて、とても王のやることとは思えません」
「ということはー、ここのお墓に眠ってる王様がとんでもないおバカさんだったかー、そうしないといけない理由があったかってことだねー」
ジュリアとロビンが、この王墓の違和感について話し合い始めたその時。
「あっ」
ロビンの足元から、カチッという音が響いた。
「なんか今、床を踏んだ時変な感じしたー!? やばいやばーい!!」
「あー、今度は踏んで作動するタイプの罠ですか」
慌てた様子のロビンとは対照的に、世間話でもするかのようなテンションのジュリア。
そして、背後から何か巨大なものが迫ってくるような轟音が迫ってくる。
「ジュリア様! そんな呑気なことを言ってないで、早く逃げますよ!」
「あー! 後ろからデッカい岩がー!? 完全に今気を抜いてたー! ごめーん!!」
迫り来る巨岩から逃げようとする二人。
けれど、まあ。
「あー、そういうの気にしなくていいから」
これくらいの岩なら余裕で止められるし。
「か、片手で岩を止めた……?」
「こんなでもスレイは世界を救った勇者ですからね」
何でジュリアが得意そうに言うんだよ。
「あのー、失礼を承知の上で聞きたいんだけど、この人って本当に人間なのー? 質量とかどうなってるのさー! ふつー、どれだけ筋力があっても、こんな岩支えられるわけないじゃーん!」
「人間ですよ、ちゃんと。この世で一番安全な場所ってスレイの背中なんじゃないかってくらいにはダントツでバカみたいに強いですけど」
実際に俺の背中に張り付いている聖女様のありがたい言葉を聞きながら。
「なあメレディスさん。この岩壊していい感じ? これ壊して器物破損とかになんない? 流石にこれ持ったままだと探索しづらいからさ」
「い、いいと思いますよ」
じゃあ、メレディスさんのお言葉に甘えて。
腰を深く下ろし、まっすぐ右手で岩を突く。
拳の衝撃が伝わった途端に、巨岩はひび割れていき、あっという間に粉々になった。
「拳一つで木っ端微塵に……」
「これくらいできないと魔王なんて倒せませんし」
最初の頃はこれくらいの衝撃で粉砕骨折していたけれど、破壊と再生を繰り返した今の肉体なら、特に反動もなくこなせる程度のものだ。
本当にジュリアにはお世話になりました。
「……私も、スレイ殿と同じように体を酷使すれば、同じような力を得られるのでしょうか?」
「いやー……あんまりお勧めしないというか、多分これは俺じゃないと無理だと思うわ」
メレディスさんが真剣な眼差しで聞いてくる。
けれど、こうなったのは、俺のリミッターがぶっ壊れているせいであって、普通の人には真似できない。
その上、史上最強レベルの回復魔法の使い手が揃わないとなぁ……。
「……本当に、お似合いのお二人ですね。まさに運命の巡り合わせというほかありませんよ」
そう、微笑ましいものを見るような、どこか羨望も混じったような視線を向けながら、メレディスさんが呟いた。
「は? 今お似合いとか言いましたか? 私とスレイがお似合いと? いやー、何言ってるのかちょっと分からないですね。だって、この世界中を魅了する美貌を持つ傾国の美女たるこの私と、下手したら粗暴な荒くれ者にしか見えないスレイのことを同格なんて評価する人間がいるとは思いもよりませんでした。いえいえ私は決して容姿でどうこういうつもりはありませんよ? 自分の体というのは、両親からいただいた大切な贈り物なのですから、それをバカにするつもりはございません。ございませんが、世の人々は何かにつけて見た目を重視するきらいがありますから、あくまで一般論としてそう言っているだけですので、勘違いしないように。だってそうでしょう。かつての魔王討伐の旅の最中、どこかの村の人間から言われた言葉を覚えていますかスレイ。『美女と野獣』ですよ、『美女と野獣』! なにかにつけてスレイに当たりが強くて、私には馴れ馴れしく近寄ってきたあの男が言い放った言葉ですよ! その時私がおもいっくそその男の顔面に渾身のビンタを手加減して叩きつけたあの人です! そんなことがあったもんだから、なーんか他人は私とスレイの組み合わせに不満を抱いている人ばかりなのかと思いましたが、今のメレディスさんの言葉を聞きましたか? 私とスレイがお似合いだと仰ったのですよ。いやいやメレディスさんは真実を見抜く眼をお持ちのようで何よりでございます! まあ? 私としてはそれを差し引いても、奇跡の天才たる聖女様と、田舎者な勇者を比較する時点で私に軍配が上がりますけど? そこをこう、私の慈悲というか、愛情的なもので補えば対等にはなれるのかなと考えていたところだったんですよねー! どうですか? スレイも嬉しいでしょう? 私と夫婦になって、周りの親しい人からお似合いなんて言われたんですから。私はそこまでではないですよ? 精々、メレディスさんとは今後も仲良くさせていただきたい気持ちが天元突破したのと、もしメレディスさんが我々の教会に要件があれば、全力で対応するように根回ししておこうかなと考える程度ですから」
「聖女様の口から癒着の話を持ち出さないでください!」
約一名、その言葉に過剰に反応した人がいたけど、気にしないでおこう。
「スレイさー。一人の女の子をあそこまで堕としきるとか何やったのー?」
「俺は普通にしてただけなんだけど……」
「ふつーにやってたら、ああはならないでしょー?」
なっちゃったんだよなぁ……。