勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「問題は私以外の他の女を仲間にしていた時のことですよ」

「……あの、そろそろ俺にも戦わせてくれない? ずっと三人だけで魔物倒してて俺何にもやってないから、なんか申し訳ない気持ちになってきてさ……」

 

 

 この陵墓に入ってからというものの、俺は一切魔物と戦うことなくここまで到達した。

 最初の方は楽でいいな。とも思ったんだけど、ここまでくると座りが悪い。

 勇者なのに魔物と戦わないとか、正直恥ずかしい。

 

 

「スレイ殿はドンと構えておいてください。それにさっき罠から私達を救って下さったのに、なんで何もしてないみたいに仰るんですか?」

 

「その一回きりじゃん」

 

「ふつーにあれで全滅してたかもしれないんだけどー? 罠に引っかかったボクがいうのも変な話だけどさー」

 

 

 確かに客観的に見れば岩を食い止めるなんてすごいことだけど、俺からしたら大したことをやってない感覚だもんで。

 そんな中、メレディスさんが剣を振り回し、魔法が飛び交う中で、一人のほほんと突っ立っているのが勇者って変じゃない?

 

 

「このままだと、『こんなに魔物と戦おうとしないなんて、もしかしたらスレイは実力なんてかけらもなくて、魔王討伐も他のやつの功績を掠め取っただけの雑魚なのでは?』なんて疑惑が……!」

 

「絶対にないので安心してください」

 

「この間もドラゴンぶった斬ってたのに、どういう被害妄想ー?」

 

 

 心なしか、騎士団二人からの視線が冷めたものになったような気が。

 いや、その……この間ジュリアから借りた本で、そういう勇者が出てきたから……。

 それと。

 

 

「こういう魔物が出てくるような場所だったら、俺が正面に立って、その後ろからジュリアに援護してもらうっていうのが常態化しててさ。こういう時に何もしないっていうのが、すっごい違和感あって……」

 

「スレイは、この世の誰よりも魔物と戦い続けてきた人間ですからね……」

 

 

 そう言っているジュリアも、似たような感覚に陥っていると思う。

 戦力的に見たらメレディスさんとロビンだけでどうにかなりそうな時でも、積極的に魔法で攻撃してるし。

 

 

「労働は国民の義務だし、働かなきゃ負けだと思ってる」

 

「スレイ殿はもはや残りの人生をぐうたらに過ごして良いくらいの功績を立てたのに、この社会貢献への積極性はなんですか?」

 

「すごいでしょう? 私の夫ですよ?」

 

「答えになってないよー?」

 

 

 働くと言えば、一度メレディスさんに聞いておきたかったことが。

 

 

「すみませんメレディスさん。俺無職なんですけど、今騎士団の方で入団試験みたいなのやってないですか? もしくは、その予定とかは」

 

「やめて下さい! 世界を救った勇者を新人騎士扱いするとか、周りから何言われるか分かったもんじゃないですよ!? というか、私個人の心情的にも、スレイ殿を部下にするとか恐れ多いですし!」

 

「それにー、スレイ達と王国って互いに不干渉の関係なんでしょー? そんな中でスレイが騎士団に入ったりなんかしたら、他のところから横紙破りしたってチクチク言われちゃうから困るなー」

 

「え、なんで?」

 

 

 自分の意思で騎士団に入るなら、何も問題ないと思うんだけど。

 

 

「……すごく大雑把に言ったら、他の貴族達から『王様はスレイに手出し無用って言ってたからスレイを身内に取り込もうとしなかったってのに、後になって騎士団に入れるとか最初から王家の方で囲い込む気満々だったんじゃねーか!』なんて文句を言われるかもしれないってことですね」

 

「そんな事実ないし、俺から騎士になろうとしてるのに?」

 

「事実やスレイの意思は関係なくです」

 

 

 ジュリアの言葉にメレディスさんとロビンが頷いているから、間違ったことは言っていないのだろう。

 けれど、一つ気になったことが。

 

 

「……そんなに俺って、貴族様方からしたら魅力的なの?」

 

「世界を敵に回してもワンチャンいけるほどの武力が欲しくない貴族なんて、この世にいませんよ」

 

「なんなら、しがらみさえなければ騎士団に特別枠で入団していただきたいくらいではあります」

 

 

 そこまで評価してくれるなら、入団させてほしい。

 けど、色々な事情的に無理なんだろうなぁ。

 

 

「私からスレイに仕事はした方がいいと提案はしましたけど、そんなに無理にやろうとしなくても良いと思うんですよ。元々仕事探しはのんびりしてもらうつもりでしたし。むしろ、スレイがそこまで積極的に就職活動に勤しむとは予想してなかったというか」

 

「結婚しといて無職は外聞悪すぎるじゃん……」

 

「魔王を倒した勇者って肩書き以上の外聞ってこの世にあるー?」

 

 

 ロビンが尤もなことを言うが、人間というのは、その人が過去に何をやったかではなく、今何をしているのかを重視するもので。

 逆に過去の名声が高すぎると、『昔はすごかったのに落ちぶれちゃって……』なんて言われかねない。

 そうなったら、ジュリアと結婚していることにも後ろ指を指される可能性も出てくる。

 そんなこと、俺には絶対に許容できないんだ!

 

 けれど、真っ当な職につくのがこれほど難しいことだったなんて。

 

 

「就職活動。これまでで一番苦戦する相手かもしれないな」

 

「勇者にとっての最大の敵が、人間の生み出した社会っていうのは風刺が効きすぎてますね」

 

 

 なんかニュアンスが違う気がするけど、間違ってはいないか。

 

 

「でしたら、かつての旅の仲間の方に口利きしていただくとかは……?」

 

「俺の旅の仲間はジュリアだけっすよ。短期間一緒に行動した人はいたけど、長年かけてっていうのはなかなかいないです」

 

「少なくとも、職業案内してくださるほど関わりの深い人はいませんね」

 

 

 ジュリア以外で一番顔馴染みになったのは、あの剣士の人だろうか。

 ちょっと糸目で、西の国の言葉を使ってて、いつも笑顔を浮かべているあの人だ。

 

 あの人はあてもなく放浪しているので、最近はなかなか会えていないな。

 元気にしているだろうか。

 

 

「本来であれば、そんな少人数であることにビックリするところなのでしょうが、御二方の力があれば魔王を倒すには十分だったと納得しかできないので、驚けなくなってきましたよ」

 

「スレイがボコって、ジュリアが援護すれば大体終わっちゃうもんねー。戦力が足りてるなら、人数を増やしていくことで軋轢を生み出すリスクの方が高くなるしー」

 

「そういうことを考えて二人だったわけじゃないんだけどな」

 

 

 俺はジュリアとの二人旅にこだわっていたわけじゃない。

 

 誤解しないでほしいが、ジュリアと二人っきりになることが嫌だったわけではない。

 むしろその点に関しては、俺的には役得だったくらいだ。

 

 旅の道中強い人にも出会うことは多かった。

 さっき思い出した剣士の人もかなり強い人だったし、他にも多くの人との出会いがあったくらいだ。

 ただ、タイミングが悪いのか、二人以上のパーティになったことがほとんどなかっただけで。

 

 ……まあ、でも。

 

 

「あれ? どうしましたスレイ殿。私の顔をじっと見て」

 

「…………いや、メレディスさんって面がいいなって思って」

 

「えーっと……ありがとう、ございます?」

 

 

 こういうイケメンな奴が仲間だったら、ジュリアが俺ではなくてそっちの男に惚れていたかもしれないから、今となっては却ってよかったのかも知れない。

 結婚するまでは、ジュリアの幸せのためなら俺は自分の恋心を抑え込めるものだと思っていたが、いざそうなってしまった時のことを想像すると気分が悪くなってくる。

 

 

「スレイ。そういうしょうもない嫉妬はしないでください。私は顔でスレイを選んだわけではないですから、そう仮定するだけ無駄ですよ」

 

「なんで俺の顔も見てないのに考えてることが分かるんだよ」

 

「私が史上最高に無敵で可愛い聖女様だからですけど?」

 

 

 なぜそれが答えになると思った。

 困ったことに、それでも若干の説得力があると思ってしまえるのが腹立たしい。

 惚れた弱みというやつか、はたまた恋は盲目というやつか。

 どちらにせよ、どれだけ俺はジュリアのことが好きなんだよ。

 

 

「そもそも人の女をとるような輩と旅なんかできませんよ私は。普通にキモいです」

 

「あの時は付き合ってすらなかっただろ」

 

「勇者あっての聖女なので、実質あの旅の始まりから私はスレイのものだったといっても過言ではないのです」

 

「過言すぎるわ。あとジュリアは誰かのものじゃありません。ジュリアはジュリアのものです」

 

「しれっとそういうことを言わないでください。そんなだからいつまで経っても貴方はスレイなんです」

 

「いつになっても俺はスレイ以外の何者でもないですが?」

 

 

 俺の名前は、ジュリアの頭の中の辞書には悪口として定義されているようだ。

 さっさと捨ててしまえ、そんな不良品。

 

 

「大体、私って身持ちは固い方ですよ。そういう欲に流されるような人間は、聖女にはなれませんからね。あっ、今、毎晩の夫婦の営みのことを考えているでしょう? ちょっと待ってくださいね、今いい感じの言い訳を考えるので」

 

「ダメじゃねーか」

 

 

 あと、他の人がいる前でそういうデリケートなことは言わないでくれ。

 ロビンの顔が真っ赤になってるじゃないか。

 メレディスさんは気まずそうに目を逸らしてるし。

 

 

「まあ、スレイと一緒にいるだけで毒気が抜かれてそういう不埒なことを考えなくなりそうな気はしますけどね。ついてきた人はいなくても、結局皆スレイの勇気と優しさに感化されていったんですから。それに関しては、ずっとこの目でスレイのことを見続けてきた私が保証しますよ」

 

「そう、かな?」

 

「とにかく、私をそんな尻軽みたいに言わないでください。どんな人が来ても、私はスレイに……その…………こっ、恋をしていたと思いますから」

 

 

 そう、顔を真っ赤にしながらジュリアが宣言した。

 ……そこまで言ってくれるなら、信じないわけにはいかない。

 本当に、俺には勿体無いできた嫁さんだ。

 なんて思っていたら。

 

 

「問題は私以外の他の女を仲間にしていた時のことですよ。スレイにその気がなくても、勇者と言う立場や将来性だけを見て言い寄ってくる女が出てきてたかも知れません。いや、まだそれなら物欲を刺激してやればコントロールしやすいですし、精々私が他の女のことをスレイが意識したって事実で枕を涙で濡らすくらいで済むので構わないです。むしろ問題は、私のようにスレイという人間を好きになってしまった時ですね。はい、ここテストに出るので重要ですよ。その時点なら、深い愛の絆で結ばれた私とスレイの間に割り込もうとしないのがほとんどではあるのですが、中にはそれでも挫けない人間もいるものです。『二番目でもいいので、愛してください』とか、『それなら、これから先もずっと、貴方のことを好きでい続けても良いですか?』なんて言って隙あらば奪おうとする女狐みたいなタイプのことですよ。そこまで行ったら、お優しい勇者様であるスレイには見捨てることもできないでしょうし、下手すりゃ良くてハーレムルート、悪くて寝取られエンドになってしまう。そういうには断固として認めませんから、どうにかこの結末を迎えられて安心しているところです。スレイも妻は一人で十分ですよね? 十分って言え」

 

「ジュリアと結婚できたなら、他の嫁さんとかいらないから安心してくれ」

 

「すっごい良い女に言い寄られてもですか? 私以上に美人で優しい女が相手でも?」

 

「ジュリア以上の女なんて、この世にいねーよ」

 

「ぴ゛ゃ゛っ゛ぎ゛ゅ゛」

 

 

 だから、それどうやって発音してるの?

 

 

「ねー、だんちょー、この人達バカップルってやつー?」

 

「しっ! 静かにしててください!」

 

 

 ……背後から突き刺さる、騎士団組からの視線が痛い。

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