勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「安心してください、神には私の方からよく言って聞かせておきますので」

「最深部まで到着っと。何事もなく来られたな」

 

 

 前人未到という触れ込みの割に、案外あっさりとここまで来ることができた。

 なんせ、ジュリアが一度も回復魔法を使わずに済んだんだからな。

 

 

「数々の罠を踏破してるのにその感想が出るのはさすが勇者殿ですね」

 

「メレディスさんに言われたくないですよ。モンスターが出た瞬間即座に斬りかかってたし、戦闘だと全然俺の出番なかったんですけど」

 

 

 それに罠だって、棘付きだったり水銀だったりとバリエーション豊かな落とし穴が点在してたとか、今にも崩れ落ちそうな吊り橋があったりとかってだけだし。

 

 落とし穴はメレディスさんが事前に察知してくれたし、吊り橋に関しても、ロビンが魔法を使って氷の橋を作ってくれたおかげでことなきを得た。

 どちらも俺の出る幕はなかったというわけで。

 

 

「私もロビンさんの魔法のおかげでこのニート勇者の背中に背負われてるだけで終わりましたし、お二人とも本当に優秀ですね」

 

 

 ニート言うな。

 事実は時として何よりも他人を傷つける鋭い刃になるんだぞ。

 

 

「聖女であるジュリア様にそんな評価されるとは光栄ですよー。さてさて、このあからさまに怪しい大きな箱。これが棺ですかねー」

 

 

 最深部の大きな部屋のど真ん中に鎮座している大きな箱。

 箱の装飾も明らかに豪華で華美なものにされているのを見るに、ロビンのいう通り古代の王の棺桶のように思える。

 

 

「もしくは宝箱か、これまでみたいにトラップか。……一旦開けて確かめよう。何が飛び出してくるか分からないから俺が開けるぞ。お前らは少し下がっててくれ」

 

 

 本物の棺だったとしても、開けた人間に呪いを振り撒く仕組みがあるかも知れない。

 俺なら多少の呪いがかかっても耐えられるだろうし、すぐそばにはジュリアという回復と解呪のスペシャリストがいるから、俺がまず先陣を切る。

 

 

「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。ドキドキですね」

 

「どっちにしてもスレイの敵ではありませんけどね」

 

 

 背後から流れてくる呑気そうな声を聞きながら、俺は重々しい蓋に手をかける。

 確かな質感を感じながら、ゆっくりと慎重に、蓋をずらしていく。

 ……今のところは、異変は感じられない。

 

 

「何も起きないな。それじゃあ、中身の方を……」

 

 

 中を覗き込む。

 そこには、ある意味予想通りに、一人分の死体が横たわっていた。

 水っ気など感じさせないほどに乾燥し切った、いわゆるミイラという状態の死体だ。

 

 ひとまず罠は仕掛けられていなさそうなので、三人にもこのミイラを見てもらおう。

 

 

「この人が、かつての王様ですか。……天におられる我らが主よ、この方に永遠の安らぎをお与えください」

 

 

 ジュリアは聖女らしく、ミイラのために祈りを捧げ。

 

 

「このミイラ、何か指に嵌めてるよー。これって指輪……かなー?」

 

「これがジュリア様たちが求めていた指輪でしょうか?」

 

 

 騎士達は、ミイラが指に指輪をはめているのを見て騒ぎ出す。

 確かに魔力のこもってそうな指輪ではあるけれど……。

 

 ジュリアがその指輪を眺めると、少し気まずそうな表情になる。

 おそらく、ジュリアも気づいたのだろう。

 

 

「……あー、間違いではないですけど、これただの魔物除けの指輪です。スレイがつけても大して効果はなさそうなタイプの」

 

 

 なんか、思ってたやつと違う指輪だっていうことに。

 

 

「え!? これ、とんでもない魔力が込められてるんだけどー!? 結構レベルが高い魔物除けじゃ……」

 

 

 ロビンの言う通り、この指輪は相当価値があるものではある。

 これを売ったら一生遊んで暮らせるくらいの一品なのは間違ってはいない。

 けどだ。

 

 

「そう言う類の指輪はもう持ってるんだわ。冒険の最中に見つけたやつ。つけてみたけど、『少しだけ魔物と遭遇する頻度が気持ち減ったかな?』くらいで、焼け石に水だったんだけどな」

 

 

 俺の体質を改善させるほどのものではないと言うわけだ。

 

 

「前世で何をやらかしたら、そんな宿命づけられた生まれをすることになるんですか……」

 

 

 勇者としての宿命かも知れない。

 そう表現すると少しかっこよく聞こえる。

 実際のところは事件体質なだけだけど。

 

 

「これ以外にそれっぽい宝みたいなのってないか?」

 

「見る限りはなさそうですね。これだけ厳重なセキュリティなのに、この指輪ひとつだけとは、少し肩透かしを食らった気分です」

 

 

 いくらこの指輪が価値あるものだとしても、侵入者をここまで徹底して排除しなくてはいけないのだろうか。

 だって、この墓を作る費用を考えたら明らかに見合っていないし。

 王様を埋葬するためだと言われたらそれまでだけども、どうも釈然としない。

 

 そもそも、なんでこんな指輪をつけているんだろうか。

 普通王様を埋葬するときの装飾品だったら、こんな実用的なものじゃなくて、豪勢で煌びやかなもので固めるもんだと思ってたんだけど。

 

 そんなことを考えながら、部屋の奥の方を眺めていたら。

 

 

「…………あー、なるほどね」

 

 

 全ての疑問が氷解した。

 

 

「どうかされましたかスレイ殿?」

 

「なんでこの王様がこんな指輪をして埋葬されてるのかなって足りない脳みそで考えてただけだよ。魔物除けのための指輪なんて……えーっと、なんて言ったかな、一緒に埋葬する品のこと……」

 

「副葬品ですか?」

 

「そう、それ。副葬品としたらおかしいじゃん。これ以外の宝物は何もないのに、なんでこれだけ一緒に埋められてたのかって」

 

「それは埋葬された後に、その遺体を魔物に傷つけられないようにするためじゃないのー?」

 

「それなら、最初からこんなに魔物を蔓延らせなかったらいいだけだ。実際、ここに来るまでに仕掛けられた罠だけで、盗掘者を排除するには十分すぎるくらいだったろ?」

 

 

 率直な感想を言うと、魔物よりも罠の方が厄介だった。

 魔物も脅威ではあったけれど、どこから襲ってくるか分かりにくい罠の脅威度と比べたら大したことはない。

 だというのに、魔物達がここまで墓の中を徘徊しているのは、そうしたくてしたんじゃない。

 そうしたくなかったけど、そうせざるを得なかったのだとしたら。

 

 

「あのおびただしいほどの罠の数々。最初は侵入者を撃退するためだと思ってたけど、むしろ逆だ」

 

「ああ、そういうことですか。やれやれ、骨折り損のくたびれもうけとはまさにこのことですね。ずっとスレイの背中に乗っていたので体力にはまだまだ余裕があります。さあ、どんと来いですよ」

 

 

 ジュリアも気づいたようだ。

 体力に余裕があると言う割には俺から降りようとはしないけど。

 それは、これからやることを考えたら仕方ない。

 

 

「あの、話が見えてこないんですが……」

 

「この王墓に仕掛けられた罠は、墓に入ってくる奴を追い出すために作ったんじゃなくて、この墓にいる奴らが外に出るのを防ぐために設置されたってことですよ。その証拠に、部屋の奥から伸びてる通路を見て下さい」

 

 

 そう言いながら、先ほど俺が眺めていたところをジュリアが指差す。

 そして、二人がその先に注目すると。

 

 

「え、これってまさか……!?」

 

「うわ! とんでもない量の魔物が居るよー!?」

 

 

 通路の先のその奥で、大量の魔物がひしめいている。

 それも、とんでもなく密集している状態で。

 

 

「あれは魔物の巣ですね。ダンジョンのさらに奥、無限とも思えるほどの魔物の群れが住み着いている大空洞。一説には、こういうところから魔物が生みだされているのではないかと主張している学者もいるほどです」

 

 

 魔物の巣は、本来ならもっと地下深くに出現するもののはず。

 こんなに地表に近いところで見られるとは、かなり珍しい。

 

 

「つまり、この巨大なお墓は魔物が出て行かないようにするための蓋。道中の罠は魔物の数を減らすためのもの。そしてこの指輪は、魔物の巣の出口を封じ込める結界ってわけだ」

 

 

 そういえば、この王墓には呪いがかかっているとロビンが言っていた。

 呪いのせいで、王墓の中が闇に閉ざされていると。

 その呪術も、魔物が罠に引っかかりやすくするために視界を奪うのが目的だったとしたら。

 

 

「もしかしたら、この王様がその呪いをかけるために、一人でここに籠ったのかもしれませんね。呪術というのは、膨大な魔力を必要とするとロビンさんも仰ってましたし」

 

「そうだねー。ここまで巨大な建物を、これだけ長い年月をかけて闇で覆うってなるとー……超天才の魔術師が、補助でマジックアイテムを使ったとしても、その人の生命力全て使ってようやくってところかなー」

 

 

 ……アレックス王もそうだけど、この国の王様覚悟決まりすぎだろ。

 

 

「なるほど、その上、この墓から出て行こうにも、周りは広大な砂漠で囲まれていて脱出もできないですし、魔物連中からしてもこの中で生きていくしかないと」

 

 

 考えれば考えるだけ合理的な対応策だ。

 それでも、国土の一部を不毛の地に変えるというのは、当時の王様にとっては苦渋の選択だったのだろうけれど、その時はそれしかなかったのだろう。

 

 

「それで、お二方はどうされるおつもりで?」

 

 

 そんな分かりきったことを、メレディスさんが俺たちに問いかける。

 

 寝室の横でこれだけ騒がしくする連中がいたら、この王様もおちおち安眠できないだろう。

 

 俺とジュリアは一瞬だけ視線を交わして。

 

 

「それはもちろん」

 

「魔物の巣を根切りにします」

 

 

 それなりに上等な剣は持ってきているけれど、これだけの軍勢相手ならすぐ折れてしまうだろう。

 ……まあ、足りなかったら、現地調達すればいいだけの話だ。

 

 

「ボク、もう二人のとんでもない発言聞いても驚かなくなってきたよー」

 

「私もです。もう一生分驚いたんじゃないですかね、本当に」

 

 

 俺達の言葉を聞いて、メレディスさんとロビンが苦笑いを浮かべる。

 けれど、二人の視線は、先ほどから魔物の巣にばかり向いていた。

 その手に持った武器を、力強く握りしめたまま。

 

 なんとも、心強いばかりである。

 

 

「一応確認だけとっとくけどさ。この先にあるものぶっ壊しても器物破損で捕まったりしない?」

 

「人工物はなさそうですしいいと思いますよ。……もし何かあっても魔物のせいにすればいいだけですからね!」

 

「あー、いけないんだー! だんちょーが職権濫用してるー! ちょっとこれどう思いますか、ジュリアさーん? こんな不正、神様も見過ごさないんじゃなーい?」

 

「安心してください、神には私の方からよく言って聞かせておきますので。それでもしつこく言ってくるようなら、直接目潰しして神の目を見えなくしてやりますよ」

 

「ならば良ーし! ひっさしぶりにド派手な魔法を連発しちゃおっかなー! 色々試したい魔法もいっぱいあるしー!」

 

「生き埋めにはならないように気をつけてくださいよ? ロビンさんなら大丈夫だと思いますけどね!」

 

「生き埋めになっても、最悪俺が引っ張り出して」

 

「そのあと私が回復させます。私、アフターフォローもバッチリの聖女様ですから」

 

「実績がある方が仰ると安心感が違いますね! それではいきましょうか!」

 

 

 メレディスさんが、剣の切先を魔物の巣に向けた。

 さすがは騎士団長、指示を出すのが様になっている。

 

 

「しゃあっ!」

 

 

 自分の頬を叩き、気合を入れ直す。

 剣よし。体力よし。背中のジュリアよし。

 

 ……それじゃあ行くか!

 

 ジュリアを背負いながら、俺は一目散に駆け出した。

 向かう先は、普通の人なら泣いて逃げ出すような危険地帯である魔物の巣。

 奥の魔物達も俺たちに気づいたのか、待ち構えるように牙を向けてくる。

 奴らにとっても、久々に生身の人間という新鮮な餌がやってきて大興奮なされているのだろう。

 魔物達の目には、俺たちの姿が、無謀に突っ込んできた馬鹿な連中にしか映らないかもしれない。

 

 だが、それは間違いだ。

 

 

「残念だったな。お前らには俺たちを食うことはできねえよ」

 

 

 理由は簡単。

 俺達がお前らより強いからだ。

 その根拠も勿論ある。

 

 ジュリアは、史上最強の聖女様で。

 メレディスさんは、騎士団の最高責任者である騎士団長で。

 ロビンは、この国でトップクラスの魔法使いで。

 

 そして俺は、聖女と共に魔王を倒した、勇者だ。

 

 

「こちとら、魔王のやつをぶっ飛ばして、世界を救ったことがあるからなぁ!!」

 

 

 そう叫びながら、俺は魔物の群れに斬りかかった!

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