勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」   作:匿名希望

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「こんなことならもっと早くに想いを告げておくべきでしたよ、このヘタレ鈍感すけこましビビり勇者に」

「そんな敬語使うて、他人行儀みたいで悲しいわぁ。僕、もっとスレイ君と仲ようなりたいんやけど。そんなに僕のこと怖い?」

 

「怖いなんて思ったことはないですよ。ギデオンさんには何度も俺たち助けてもらったほどの恩人ですので、その礼儀と言いますか」

 

「あんなん偶々僕が近くにいたってだけの話やんか。そんな偶然のことで感謝されても僕の方が気ぃつかってまうだけやし、気にせんでええんよ」

 

 

 相変わらずギデオンさんは謙虚な人だ。

 もっと胸を張ってもいいほどの実力があるのに、まるで自分のことなんて大したことのないようにいつも振る舞っている。

 どんなことにも動じず、常に笑顔を浮かべながら。

 

 けれど、ジュリアは少しだけギデオンさんのこと苦手そうなんだよなぁ……。

 今も少し警戒してるし。

 

 

「……他意がないのは分かってはいるんですけど、相変わらず喋り方が怪しさプンプン醸し出してますね貴方。しかも偶々立ち寄った店で、ばったり出会うなんて。なにか裏があるんじゃないかってくらいですよ」

 

「おお怖い怖い。そんなに僕のことを睨まんといてぇなジュリアちゃん。目つきが鋭すぎてついつい泣きそうになってまうやんか」

 

 

 カラカラと笑いながらジュリアの失礼な言葉を受け流すギデオンさん。

 けれど、ギデオンさんの怖がっているという言葉に嘘はないのだろう。

 ぱっと見では分かりづらいけれど、よく見ると少し腰が引けてる上に目端に涙を浮かべているのだから。

 ギデオンさんって涙脆いんだから、そうやっていじめてあげるな、ジュリアよ。

 

 

「旅の最中のあの時やあの時だって、やたらと私達を助けるタイミングが良かったりしますし、狙ってやってたんじゃないかって思ったくらいですよ」

 

「そりゃあ、僕の運が良かっただけとちゃうかなぁ。友達のピンチに駆けつけられるなんて僕はとんでもない運の持ち主やねぇ。これも僕の日頃の行いが良いからやろなぁ」

 

 

 ギデオンさんに助けられた俺達の方が運が良かったと言うべきなのに、なんて優しい人なんだろうか。

 どうしてこんなに良い人が胡散臭いなんて言われてしまうのか、世の中不思議なことだらけだ。

 

 

「そもそもこの店に来たのに裏とか何にもあらへんで。ただただ僕がこのお店のことやイザヤ君のことを気に入ってるってだけやもん」

 

「ええ、ギデオンさんには別のところでやっていたオレの店をいつも贔屓にしてくださってたんです。今回移転したということを伝えさせてもらったんですけど、まさか今日いらしてくれるとは、いつもありがとうございます」

 

 

 へえ、前々からギデオンさんとイザヤさんは顔見知りだったのか。

 まさか俺の知らないところでそんな繋がりがあったとは。

 二人ともいい人だし、波長があったのかな。

 

 

「経済面で世界を掌握しかねない才能持ちの商人と、胡散臭さ満載な凄腕の剣士の人が仲良さそうって、普通の人が見たら邪推してしまいそうですね。私たちは実態が分かってるので大丈夫ですけど」

 

「相変わらず毒舌やなぁジュリアちゃんは。僕のこと化け物か何かと思ってへんか?」

 

「化け物なんて思ってませんよ。私の夫の方がよっぽど化け物ですし」

 

 

 全方位に喧嘩を売っていくスタイル。

 聖女様でなければ許されない暴挙である。

 なんならギリギリアウトかもしれない。

 

 

「あら。ジュリアちゃん、ようやくスレイ君と結婚したんや。いつかはそうなるやろうなとは思っとったけど、魔王倒してすぐなんて疾風迅雷やね」

 

「あの長い旅の間は全く私に靡かなかったくせに、ちょっと私が告白しただけで結婚まであっという間でしたから。こんなことならもっと早くに想いを告げておくべきでしたよ、このヘタレ鈍感すけこましビビり勇者に」

 

 

 言いたい放題言ってくれやがる、この生臭聖女様め。

 あと、ジュリアのあれは告白というよりは、打算的な面も押し出そうとしていた気がするんだけど。

 なんせ、俺が政治的ないざこざに巻き込まれない様にするって建前の下で婚約を提案してきたんだから。

 

 

「それにしても、結婚するんやったら僕に教えてくれてもよかったのに。言ってくれたら、僕だってお祝いの品とか準備してたんやけど」

 

 

 寂しそうにそう呟くギデオンさん。

 俺だってギデオンさんにはきて欲しかったんだけど……。

 

 

「なんせギデオンさんがどこにいらっしゃるのか分からなかったもので……お伝えできなくてすみません」

 

 

 この人あちこち放浪してるから、連絡しようがなかったんだよなぁ……。

 それでも、教えられなかったのは事実なので、申し訳ない気分になっていると、ギデオンさんは背負っている風呂敷を広げ。

 

 

「唐突やからこんなもんしか渡されへんわ。食器とタオルと、ほんでお菓子の詰め合わせやけど、どうぞ」

 

「準備良すぎません!?」

 

 

 なんか事前に用意してたのかってくらい大量のプレゼントを渡された。

 突然のことに戸惑っていると、ギデオンさんはニンマリと笑みを浮かべて。

 

 

「さっきのは嘘やで、嘘。本当は二人が結婚しとったんも、この辺りに住んでるのも知ってたんや。せやから、この店に寄った後に、君たちの家を探すつもりやったんやけど……まさか、ここで会うなんて思ってへんかったなぁ」

 

「いやぁ、わざわざこんな贈り物、ありがとうございます、ギデオンさん」

 

 

 茶目っ気のあるギデオンさんのからかいに少し驚いていると、ジュリアが訝しげになって。

 

「…………あの、つかぬことを伺いますが、どうやって我々の家の所在を知ったんですか? 私達がこの辺りに住んでることは公開してないんですけど」

 

 

 そう問いかけた。

 言われてみれば、確かに俺たちの住居に関しては親しい間柄の人以外には漏らしてないのに、なんでギデオンさんがそれを知ってるんだろうか。

 ちょっとジュリアの態度が威圧的になったが、ギデオンさんは苦笑して。

 

 

「あんな派手にドラゴンやらゴブリンやら倒しとったらいやでも噂は広がるもんやで? この辺りで突然そんなことが起き始めたら、そら君らが引っ越してきたもんやって分かるやん。そんな芸当ができるのはスレイ君かジュリアちゃんくらいやしな。そんで、あとは新築の家に住んでるやろうし、最近建てたばかりの家を探して回ったら見つかるかなって。なんなら、その辺りにいる人に聞いてみてもええしなぁ」

 

 

 ああ、この間ジュリアとデートした時のやつか。

 あれがすぐに広まってしまうとは、思いもよらなかったな。

 旅の最中はいつもやってたことだし。

 

 ギデオンさんの回答に納得がいったのか、ジュリアは張り詰めていた態度を弛緩させた。

 

 

「答えてくださってありがとうございます。……その、貴方が秘密裏に我々の情報を握ってるものかと警戒してしまいまして。ただ、そういう探し方はやめた方が良いかと思います」

 

「僕もちょっと探し方があれやったかもな。改めて思い返すと、ぶっちゃけやってることストーカーみたいやったし」

 

「いえ、そうではなく、ギデオンさんのその顔で初対面の人から情報を聞き出すのは、ちょっと難易度が高いのではないかということです」

 

「歯に衣着せずに容赦なく僕の顔のことを突き刺してくるの酷ない? その辺りにしとかんと、大の大人が大人気なく泣くで?」

 

 

 ……なんでギデオンさんって、人から怖がられてしまうんだろう。

 俺みたいに、目つきが鋭いわけじゃないのに。

 というか、糸目だから鋭いかどうかもよく分からないけど。

 

 

「あ、ああそうでした! 以前ギデオンさんが探していた本、ようやく見つけられたんですよ。今お渡ししても大丈夫ですか?」

 

 

 流石に可哀想になってきたのか、イザヤさんが少し強引に話題を変更する。

 

 

「ありがとなぁイザヤ君。それやったらもらってもええか?」

 

「承知いたしました。それではこちらをどうぞ」

 

 

 そう言って、イザヤさんはギデオンさんに紙袋を渡した。

 なんの本だろうか。

 それが気になったのは、ジュリアも同じだったようで。

 

 

「よろしければ、買った本の内容をお聞きしてもよろしいですか?」

 

「かまへんよ。聞かれても恥ずかしいもんやないし」

 

 

 ギデオンさんはジュリアの言葉に快く返事し、そのまま本の入った紙袋を渡してくれる。

 その中身は……。

 

 

「『胡散臭いと思われない方法』『ぼっちから始める友達の作り方』『メンタルを強く保つためのトレーニング』……などですね。……うーん、本当にどうしたもんですかね」

 

 

 ……悲しすぎるラインナップだ。

 

 

「ちゃんと思ってることをそのまま口に出されてるのに、なんで裏があるって疑われるんでしょうね?」

 

「僕はそんなつもりはなくても、そう思われてまうんやからしゃーないやん」

 

 

 すごく不服そうにそう言い捨てながら、ギデオンさんが深いため息を吐く。

 

 

「やっぱあれかな。距離が近くなると下ネタとか言ってまうんが良くないんやろか?」

 

 

 え、マジ?

 ギデオンさん、下ネタ言えるの?

 

 

「言うんですか!? 貴方が下ネタを!?」

 

 

 流石のジュリアも予想できていなかったのか、大きな声で驚いた。

 けど。

 

 

「それお前が言う?」

 

 

 ギデオンさんも、ジュリアにだけは言われたくなかったと思う。

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