勇者「魔王、倒せたな…」聖女「二人でイケるもんなんですね」 作:匿名希望
ジュリアの伝手というのも微妙に情けない話ではあるが、ようやくちゃんとした仕事に就くことができる。
そんな素晴らしい事実に浮き足だちながらも、面接会場に指定されたところに赴く俺。
「なんだか妙に嬉しそうじゃありませんか? 何だったら、私と結婚した時以上に締まりのない顔をしてますけど」
「そりゃそうだ」
「は? ……いやいやまさか私がこんなテンプレじみた台詞を吐くことになるとは思いませんでしたよ。正直私があの文言を知った時は何て愚かな問いかけなのだろうと思いましたけど、世の女性たちはこれほどまでに身を焦がされる想いをしているのかと理解した今なら、衝動のままに詰問したくなるなと納得できてしまいます。これは私がめんどくさい女だからじゃなくて、この怒りと哀しみ、そして少しの憎しみは一介の夫を愛する妻であれば誰でも感じて当然のものですから勘違いしないように。これを勘違いして私のことを重い女だと見捨てるのであれば断固抗議しますよ。無言で泣きながら貴方の背後にどこまでもついていきますからその覚悟をしてください」
「……それで、何が言いたいんだ?」
「私と仕事、どっちが大事なんですか」
あー、なんかよく聞く台詞だ確かに。
けどそんな涙目になりながら言わなくても。
「そんなのジュリアの方が大事に決まってるだろ」
「だったらなんで、今は明らかに浮かれているとバカでも分かるくらいだらしない顔をしているのに、私が告白した時はあんなに無表情だったんですか?」
「仕事にありつけるのは、結構想像がつきやすい喜びじゃん。色んな人が実際にそれをやってるわけだし」
まあ、俺はそれが上手くいかなくて嘆いていた訳だけど。
「その点、ジュリアとの結婚は、マジで俺は全く想定してなかった上に最高の幸せなんだよ。同じ喜びでも、その度合いがデカすぎると、頭の処理が追っ付かなくなっちゃうんだよなぁ」
「……つまり?」
「ジュリアからのプロポーズが望外の喜びすぎて脳がフリーズしてただけだ」
「ぴ゛ゃ゛っ゛……まあ、この場はそういうことにしてあげなくもなくもないですよ?」
「そういうことになってなくないかそれ?」
三重否定だったし。
「それはさておき、一応確認なんだけど、俺が教会の事業に手を貸すのって問題ないのか? 前のメレディスさんが言ってたように、どこかの組織に顔を突っ込むと良くないとかって……」
「教会に楯突くとは即ち、神以上に尊ぶべき存在である私に楯突くことになりますからセーフです」
ジュリアの発言内容がアウトすぎる。
「まああれですよ。夫婦間の相互援助みたいな感じです。妻が困ってるから夫が手を貸す。何の問題もありませんでしょう?」
「ああ、それなら納得したわ」
つまり、俺が家族間でもない相手の組織に肩入れするのがダメなだけで、ジュリア関連なら手伝っても文句は出にくい。
そういうことか。
「なるほど。だから貴族の人達は、有力な相手の身内と自分の子供達を結婚させようとするんだな。その方が相手の助けを借りやすくなるし」
貴族の婚姻関係の話を聞くたびに、政略的な何かがあるってことは知っていても、それが実際に何を背景にして出来上がったものかというものを知らなかったんだよなぁ。
けれど、今のジュリアの説明でようやく理解できた。
俺は貴族じゃないから関係ないけど。
「てっきり、あれは助けてくれたお礼に結婚相手を用意します。ってだけのことかと思ってたんだけど、そこから先も協力を得られるようにって奴だったのか。……あ、じゃあもしかして、他国の王族同士で結婚するとかいうのも、国同士協力しましょうねってアピールのためだったり?」
「……やっぱりスレイは頭の出来自体は悪くはないんですよね。知らないだけで」
俺の適当な考えを述べていると、ジュリアが何か生暖かい目でこっちを眺めてくる。
もしかして今の俺の意見は、政治的なアレだと基礎的なことだったりしたのだろうか。
……なんか子供扱いされてる気配がするし。
「どうせ俺は無知なガキですよ」
「まあまあ、褒めてるのは嘘じゃないですから。それよりそろそろ着きますよ」
宥め混じりでジュリアに促された先には、俺と同じように職を求めてやってきたのか、多くの人でごった返していた。
……随分大規模だな?
「おや? ジュリアではないですか。どうしてこんなところに?」
周りを見渡していると、ジュリアと同じ法衣を身につけた女性がこちらに……というか、ジュリアに声をかけてきた。
「お久しぶりですセリーナさん。実は、うちの亭主であるスレイが職にあぶれておりまして、私も彼の妻としてどうにか力になれないかと思い、私の夫である哀れな勇者様にその機会を与えてあげようとここにやってきたわけです。力仕事ならこの人に任せてください。この世界最高の聖女様である私と結婚した、世界で最高の幸せ者である勇者スレイに」
「……そんなにアピールしなくても、貴女の旦那様を奪ったりしないですよ」
セリーナさんと呼ばれた女性は、苦笑しながらジュリアの戯言を受け流した。
……これは、大分仲が良い間柄だな。
ジュリアも外面モードになってないし。
そして、受け流されたジュリアは、少し揶揄うような表情を浮かべ。
「失礼しました。なにせこの間、『いつまで経っても彼氏ができない!』って嘆いておられたもんですから、つい」
セリーナさんの秘密を暴露したのだった。
「わ、わー! 止めて下さい、そういう恥ずかしいことをバラすのは!! こ、こんなの、神が許しても私が許しませんよ!?」
ウェーブがかかった金髪が振り回されるのも気に留めず、セリーナさんがジュリアに掴み掛かった。
これは完全に聖女様が悪い。
けれども当のジュリアはどこ吹く風だ。
少しは反省してくれないものか……。
「まあまあ、そんなセリーナさんに耳寄りな情報がありますから許して下さいよ」
「何ですか!? ちょっとやそっとのことじゃ……!」
そうやって激昂するセリーナさんにジュリアが呟く。
「実は、女性との新たな出会いを求めている二人の男性がいらっしゃいまして」
「詳しく話を聞きましょうか」
……態度変わりすぎだろ。
「その話は、まずスレイを名簿に記載していただいてからしましょうか。セリーナさんが受付でしょう?」
「こ、これは失礼しました。えっと……それで、本当に参加されるおつもりですか? あの、世界を救った大英雄であるスレイ様が?」
「はい。……もしかして、ダメですか?」
この反応、これまでに何度も経験してきた。
面接を受けたはいいものの、何となく向こうから漂ってくる『採用したくないな』と内心思っている時の態度に似ている。
……やっぱり、ここでも落とされるのか。
「いえいえそんなことは! むしろこちらからお願いしたいくらいです!」
「つ、つまり……?」
「採用です!」
『採用です』
その言葉が、神からの福音のように聞こえた。
……ああ、ようやく俺は認められたんだ!
「ですが、本当によろしいのですか? 折角魔王を倒して、悠々自適な生活を送れますのに」
「労働は国民の義務ですので。それに、この『国間街道工事』って仕事内容もまさに自分が望んでいたものでしたから」
なんでも、魔王がいなくなって魔物の勢いが衰退したこともあり、国と国を繋ぐ道を作ろうということらしい。
魔物が蔓延っている時は、そんな工事してたらすぐに魔物の餌食になっていたからな。
うん。人々の幸福につながるし、凄くいい仕事だ。
「そうなんですか? 言ってしまえば、ただの道路工事ですよ?」
「何をおっしゃるんですか。国交を深めるために、正式に国々の間に道路を作るなんて素晴らしいことですよ。これまでは魔物の影響で中々他の国に行くことも大変だったのに、それが解消されたら多くの人が喜びます。いやー、そんな事業に携われるなんて、俺も運がいいなぁ」
そう返答すると、セリーナさんはジュリアの方に向き。
「……なんですか、この、勇者という概念がそのまま服を着て歩いているような方は」
「いいでしょう? 私の夫ですよ?」
それは万能な回答じゃないぞ、ジュリア。