「主よ。元カルト教団の所持していた戦艦の調査結果です」
国防大臣が俺に報告書を差し出してきた。
ホログラムには艦影が映し出されている。
ウチの軟体型の宇宙船じゃないな。
なんじゃったっけこの形、菌糸類型だっけ?
「軍艦じゃなくて戦艦という所にツッコミを入れていいか? たしかこの時代の軍艦はコルベットと呼ばれていたはずだが。戦艦って言っていいのか?」
俺はソファに深く腰掛けたまま眉をひそめた。
「彼らが言う所を信じるならば、ですね。大きさだけは我々の常識を超えていますが。性能は我々の軍艦とそこまで変わらないでしょう」
国防大臣は淡々と答えながら、データパッドを操作する。
俺にとって工学は専門じゃないが。
なんというか肥大化、という言葉が似あいそうな設計に見えるな。
「確かに、あんなのが攻めてくるなら、星の危機と思ってもいいかもしれんが」
俺はつまらなさそうに画面を指で弾いた。
宇宙艦は核ミサイルが最底辺の装備だしねえ。
コルベット一隻だけでも、星を死に変えることは可能なのだ。
「お前さんはどう思う? あれとウチのコルベット3隻で艦隊戦して勝てると思う?」
「勝ちます。我々の艦隊に加えて、我々の宙域では宇宙ステーションの航空支援がありますので。まず勝てたでしょう」
即答だった。
国防大臣の声には、揺るぎない自信が滲んでいる。
流石は軍のトップと言ったところか?
「そうか」
まあ、そんなものだろうな。
ゲーム的にも勝てる戦力だろうし、驚きはない。
「あの戦艦の出所を彼らを尋問した所によると、我々の知らない
国防大臣が次のデータを表示させると、事件記録の文書が浮かび上がった。
「んー」
俺は顎に手を当て、考え込んだ。
「ちなみに、カルト教団とやらは、本当にこれで全員なのか?」
「少なくとも、軍部に所属していた者たちは全部ですね」
「自称戦艦といい、俺が知ってるカルト教団の
あんまりゲーム脳に頼るのは良くないかもしれんが。
ゲーム的には、もうちょっと残党とかいなかったか?
どうだっけ?
「で、その謎の宇宙人とやらは今何処にいるんだ?」
「少なくとも、彼らは知らないようですね。興味深いことに、彼らは我々とよく似た姿をして、我々の言語を話していたようです」
国防大臣の言葉に、俺は目を細めた。
それは偶然にしては出来すぎているな。
「我々の科学者によると、接種した戦艦を分解してみれば何かわかるかもしれないとのことですが。ただ非常に奇妙なことに、外部からの検査やハッキングを一切受け付けておらず、戻せる保証がないそうです」
「その様子だと、リバースエンジニアリング対策がしてるな。"解析不能の工学"か?」
アセンションパークとしてある技術だったが、没落とかってこれ持ってたっけ?
わからん。
とはいえ、ゲーム的にはバラせない艦隊もあったから不思議ではないが。
「解析不能の工学については分からんが。この時代に戦艦を作れる技術をもっていて、異星言語学のノウハウがあって、遺伝子改変が出来て。…いない訳ではないが、意図までは分からんな。何故そんなことをする?」
俺は自分でウィンドウを開いて星々を見つめた。
漆黒の宇宙に、無数の光点が瞬いている。
誰かが俺を観察しているのだろうか?
「ともかく、バラすよりは、こちらの軍艦としてそのまま用いるのが無難だと思う」
「よろしいのですか? 確かに、宇宙戦力はいくらあっても足りません。軍部としてはありがたい話ですが」
国防大臣が確認するように問いかけてくる。
「降伏した奴らの就職先にもなるだろ」
「ああ。最前線で使いつぶすつもりでしたので。丁度良いですね」
国防大臣は何でもないように告げる。
ここら辺は流石というか、シビアだな。
(あのカルト教団産の戦艦、足遅いから基本足手まといだったと思うが。降伏した彼らのためなら、ここが落としどころかね?)
俺は心の中で呟きながら、再び席に戻った。
「俺は、慧・椎と定期通信するが。今回も参加するか?」
「是非ともお願いします」
国防大臣が姿勢を正す。
俺は超能力を心で起動させて、通信回線を開いた。
『はい、こちら慧・椎です』
澄んだ声が、ディスプレイから響いてきた。
「elだ。現状の報告を頼む」
『現在、キャラバンの本拠地、彼等の言う所の”コーの羅針盤星系”に突入しました。星系調査と並行して、我々の使節によって彼らの言語の解析を行っています』
慧・椎の声は落ち着いており、任務が順調であることを窺わせた。
「予定通りだな。何か問題は生じているか?」
『一点、お伝えしたく。嬉しいことが生じました』
「ほう?」
嬉しい事?
なんかテンション高いなー。
『コ―の羅針盤と付近の星系を調査しているのですが、星系内に未知の宇宙軍港の活動を発見しました』
「おっ?」
俺と国防大臣が顔を見合わせた。
『キャラバンの居住地は人工的な居住区と艦隊を所持しておりましたが、宇宙軍港と呼べる物は持ってはおりません。しかしこちらは明確に武装した基地を設置して、通信や船のやり取りを行っているようでして』
慧・椎の報告は、慎重に言葉を選びながらも興奮を隠しきれない様子だった。
「つまりは、そこは未知の宇宙人に占領されていて、星系の所有権を主張している、と言っていいのか?」
『そういうことになりますな』
「慧よ。それはもしや、我々と同じFTL文明である、と?」
隣で国防大臣が前に進み出る。
こっちも興奮してるなあ。
『恐らくは』
短い返答だったが、その意味は重大だった。
「大ニュースではないか!」
国防大臣の声が上ずった。
「んー。じゃあ、こちらから追加の調査船か使節の方を送った方がいいか? お前らの調査船の連中だけじゃリソースが足りんだろ」
『おお、神よ。そうして頂ければ助かります』
慧・椎の声に、安堵の色が混じる。
「わかった。コーウィンに伝えておこう」
俺は国防大臣に指示させ、メモパッドに簡潔な指示を書き込ませた。
「じゃあ、引き続き調査の方をよろしくな」
『ええ、では調査の方に戻らせていただきます』
通信が切れ、静寂が戻った。
俺は深く息を吐き、隣の国防大臣の方を向いた。
「どう思う?」
「うーむ。友好的な宇宙人である、というのは流石に楽観的でしょうか?」
国防大臣は触手を組み、難しい顔をした。
ヒドラの顔はわからんが、感じ取れるのは多分そんな感じだろう。
「その認識で恐らく間違いないだろうな」
宇宙はそんなに甘くない。
宇宙人がみな、友好的。
そんなのは楽観論だろうよ。
「…この件に関して、全知全能の主は何かご存じでなのですか?」
国防大臣が、畏敬の念を込めて俺を見つめてきた。
「メタ的な仕様の話にはなるが、俺らの帝国の近くには異なる志向の帝国が配置されている可能性が非常に高い」
早い話、
平和主義が固まったら戦争にならないからねえ。
「と、いうと」
「多分、物質主義と排他主義だな」
「排他主義はともかく、物質主義とは」
国防大臣の表情が訝しげなものに変わる。
「神や霊の存在を信じない連中。科学だけを信仰しているともいえる」
「な、なんと野蛮な!」
うっそだろお前、信じられないって感じやな。
「神はこうして実在しているのに! そのような連中が存在するというのですか!」
「つーても、俺が神だから作ったとも言えるんだが」
信仰心の極まった連中にとって、それは理解しがたい概念らしいね。
まあ、精神主義者らしい反応だ。
「そうだとしても、話が通じる連中だといいなあ。話が出来るなら、後は外交で何とでも出来る世界だしな」
流石に絶滅主義とかじゃないよな?
あんまり面倒は避けたいが。
「ここまで来て宇宙生物ってことはないだろうが。さて、どうなることやら」
俺は再び窓の外を見つめた。
星々の海の向こうに、未知の隣人が待っている。
それが友か、敵か。
それはまだ誰にも分からない。
次はいつになるんじゃろ。
多分遅れる。