紅雨-架橋戦記-   作:法月 杏

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十一話・遭逢の記憶[3]

 

 

 突然聞こえた知らない男の声。

 俺達は警戒して即座に各々の武器を構えるが、声の主は至って普通に近くの廃屋の陰から出てきた。

 

「盗み聞きのようになってしまってごめんね、危害を加える気はないからあまり警戒しないでほしいな」

 

 両手で野うさぎを抱えた赤髪の男は、そう言ってゆっくりとこちらに歩いてくる。その後ろからもう一人、黒い外套を着た同じくらいの背丈の……男? がついて出てきた。二人共狐の面をしていて顔は分からないが、風貌からしておそらく忍びであるということだけわかる。

 

「どうして……」

「あ、この子? そこのお兄さんが助けたそうだったからつい……気の所為だったかな?」

「いや……」

 

 茶色い毛や小動物らしい動きに思わず卯李を重ねていたから、間違ってはない。正直無事でよかったとも思ってしまった。が、まさか……爆発の前から俺達はこの二人につけられていたのか……?

 

「見たところ君達も忍びのようだけど、どうしてこんなところに?」

「おいバカ、忍びだとしたらそんなこと初対面の怪しいヤツに教えられるわけないだろ。……悪いな、コイツがもしかしたら同じ目的で調査に来てるんじゃないかって言うからさ」

 

 野うさぎを地面に下ろして、逃げるように去っていく後ろ姿にばいばーいと手を振る赤髪。あまりの毒気の無さに、今は本当に危害を加える気がないのだと判断する。

 

「同じ、というのは」

「うん。僕達、ここらで不審な者を目撃したって話を聞いて調べに来たんだ。忍びが同じタイミングでこの辺りに来るなんて珍しいし、一緒なんじゃないかなって」

「……確かに、そうだが……」

「あ、ほんと? なら折角だし協力しようよ」

 

 どこの忍びか知らないが、任務が同じだなんて偶然……かなり不自然だ。

 しかし少しでも調査が進むのなら、協力するのもありかもしれない。まだ何も収穫がない俺達と組んでも、相手にはこれといった情報は渡らないしな。相手が何か知っていた場合こちらが得するし、何も知らなくても人手が増える。

 ううん……悪くない提案だな……。

 

「……どうする、班長」

「そうだな……」

 

 信用できるかできないかは置いといて、野うさぎを助けてくれたのは確かだ。

 

「……あくまでも一時的に、調査の為だけに、だからな」

「ふふ、やった。ありがとう、班長さん」

 

 こうして、俺達は二人と組むことになったのだった。

 

 

 

   * * *

 

 

 

「さっきの爆発は、おそらく……いやほぼ確実に俺達の追う不審者によるものだ」

「へえ、どうしてそう思うのか聞いてもいいかい?」

 

 まずは今ある情報を共有しよう、という赤髪の提案で輪になって座り、情報交換会が始まった。

 

「君達は聞いていないのか? 不審者は数年前にこの辺りでよく目撃された爆弾魔にそっくりだったって」

「爆弾魔……!?」

「どうやら自作らしい小型の爆弾で、廃屋なのをいいことに爆破して回ってたみたいなんだよね。この辺り、ほとんど瓦礫でしょ? そいつのせいなんだってさ」

「それで、またこの辺りに現れたってことは何か企んでるんじゃないか……ってな」

 

 まさかとは思うが……卯李を井戸の爆発から庇った時に煙の向こうに見えた奴か…………!? だとしたら、俺個人としてもどうにかひっ捕らえて一発殴りたいところではあるが、今回はあくまで調査だ。捕まえるという指令は出ていない。

 

「へ~……おにーさん達、他にもなんか知らねえの?」

「ええ~? 僕達ばっか話すことになってない?」

「いやぁ悪ぃな、俺らぶっちゃけなんも聞いてなくてさ」

「えっ!? そうなの!?」

 

 楽、ナイスだ。正直それどこで言うか迷ってた。

 

「俺らが上に聞いた情報、『怪しい忍びらしき者が目撃された』しかなくてさ。ざっくりしすぎだよな、マジで」

「そうだね……ていうかよくそれで調べに来れたね……」

「あっはは、やっぱそう思うよなぁ。マジで調べるっつったってどこの何に注目していいかわかんねーから、超困っててさ~」

 

 ポンコツ役(役……?)を買って出てくれた楽に感謝しながら、その隙に二人を観察し、少しでも心相及び人相を読めないかと試す。が、流石に狐面が邪魔だ。二人共忍びというだけあって仕草にも殆ど出ないようだし、これはかなり判断が難しい。……しまった、協力の条件に面を外すことを要求すればよかった。しかし今更気付いたところでもう遅い。

 

「その爆弾魔、ひょっとして小型の生物の形を模した爆弾を作ることが得意だったりしないか?」

「お、班長さんは流石に知ってるみたいだな。そいつだよ。……もしかして実際に見たことあったり?」

「蝶のものを、一度だけ」

 

 実際に見た訳ではなく、卯李の話から推測しただけだが。

 

「へえ」

 

 ここで赤髪の声色が少しだけ変化した気がした。単にこちらからの情報開示に喜んだだけか…? そうだといい、が……。

 

「ところで、其方のは爆弾魔に似ていた、という目撃情報だったね。ということはその爆弾魔の容姿も、ある程度知っているんだろう?」

「流石、察しがいいね」

 

 楽のポンコツ報告のせいで火鼠全員が舐められているのか、と少しカチンとくる。それくらいなら多分全員察していたぞ。

 

「教えてはくれないのかい?」

「……明るい金髪で、ゴーグルを着けた男だ。これでいいだろ、そろそろ情報共有はこの辺にして調査に入ろう」

「ああ、そうだね。色々教えてくれてありがとう、助かった」

 

 ……恋華、人見知りを発揮してか一言も喋らずに情報交換会終わったな。

 

 

 

 そこからの調査は、先程爆発があったことだし近くに爆弾魔本人が潜んでいる可能性があるということを考え、二手に別れて行うことにした。

 

「それじゃ僕、班長さんと組みたいな」

「え゛」

「嫌そうだぞ班長さん」

「普通に俺達三人と貴方がた二人、じゃだめかい……?」

「え~それじゃ面白くないよ」

「調査に面白みは求めていないよ……」

「でも僕がついてた方が爆弾魔に出くわした時にすぐにわかるし、足でまといにはならないよ? ね、いいでしょ班長さん?」

「うぅん……」

 

 一理あるが故に、困る俺。でもやっぱり二人も火鼠で固まっていたいよなあ……? と楽と恋華に目配せすると、楽はそうでもないらしく既に黒い外套の男の傍にいた。

 

「おにーさんさぁ、忍びなのに手甲してないの珍しいね」

「そうか?」

「あ、もしかして手甲なくてもいいくらい鍛えてんのか!? すげぇ~」

 

 そんな会話をしながら、男の手を触る楽。握ってみたり、大きさを比べてみたり、皮膚硬ぇー! すげー! と褒めたりしている。

 楽の奴…こんな怪しい男に懐きやがった……? いや、わざとか……?

 ……人誑しであることは知っていたが、まさかこの二人まで誑し込もうとしてるわけじゃ……いや、そういえば楽のは天然だったか……。とはいえもしそれが上手くいけば、この二人が何者なのかわかるかもしれない。俺は俺で何故か赤髪に気に入られているようだし、ここは……

 

「……? 班長さん?」

「……わかった。君と組もう」

「わぁい、よろしく」

 

 とりあえず、楽の作戦(?)に乗ってみよう。

 あとは……と二人が現れてからまだ一言も発していない恋華を見る。視線でどっちにする?と聞くと、恋華は少し悩んでから、久々に口を開いた。

 

「……アイツ心配だからあっち行くよ」

「…………頼んだ」

「頼まれた」

 

 赤髪と二人きりはなんとなく嫌なのだが、楽と外套の男を二人きりにする方が確かに心配である。チーム分けは決まった。恋華が二人の方へと歩き出し、俺は赤髪と調査に向かおうとしたその時、楽の声がやけにハッキリと聞こえてきた。

 

「うわっこれ……刺青ってやつ? すげぇ、かっけぇ! なんの模様?」

 

 なんだって? 刺青……? 思わず振り向き、確認しようと凝視する。

 

「ああ、これ? これは……」

 

 それを視認した瞬間、

 

「その模様は……まさか……」

 

 男の掌から……そこに刻まれた印から目が離せなくなる。

 すると男の纏う空気が変わる。それを感じ取った楽が瞬時に彼から離れるのと同時に、男が乾いた笑いを零した。

 

「く、ははっ……やっぱお兄さん、〝うちのマーク〟知っとってんなぁ……」

「な……!?」

 

 突然変わる男の声と口調。それを聞いた赤髪が「あら、随分早かったわねぇ……」と呟く。

 

「お前ら……何者だ……?」

「俺ら? せやなぁ……」

 

 わかったことが一つ。

 

「お兄さんがこのマークどこで見たか教えてくれたら、答えたるわ」

 

 二人の正体が、梯の構成員であること。

 

 そしてもう一つ。

 わかりたくないけど、わかってしまったこと。

 

 男の刺青の模様は、卯李の背中のものと酷似していたということ───────

 

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