三周年生放送の当日に書いたやつ。元ネタは勿論「アルジャーノンに花束を」。※pixivにも投稿あり

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ある先生に花束を

 経過報告1──〇月×日

 私の神秘? をコントロールする実験薬を服用することになった、らしい。

 詳しい話は聞いてないけど、どうやらその神秘とやらが私がたまにぼーっとしてしまう原因で、それを一時的に抑えることのできる薬なんだとか。

 ぼーっとすることが無くなる代わりに、私の運の良さも普通になる。らしい。

 でも最後には元に戻ってしまうんだって。そう黒づくめの人が言っていた。

 

 あんまりよく分かってないけど、この前はご主人様に迷惑をかけてしまったし。任務以外でリーダーたちに迷惑をかけることを避けられるなら悪くないかな。

 そう思ってこの話を承諾することにした。

 

 あと、毎日報告に来て欲しいとも。

 でも任務があるから毎日は無理だよと言ったら、じゃあ来れる時だけでいいという事になった。代わりに経過報告、日記をつけて欲しいとのこと。まあそれくらいならと了承した。

 とにかく今日が初日。

 まだ変化は感じない。

 

 ……経過報告ってこんな感じで良いのかな。

 

 経過報告2──〇月×日

 二日目。だけど特に変化は感じない。今日は任務があったせいかな。あんまりぼーっともしなかった。

 でも今日は帰りがけにご主人様に合う事が出来た! これは嬉しい! 

 

 美味しいパフェを二人で食べて帰った! 

 

 

 経過報告5──〇月×日

 こっちの方が経過報告としての体裁はしっかりするかな。うん、今日からはこれで行こう。

 

 今日は久々に任務が無い日だった。そのせいか、朝起きて、ご主人様と遊ぼう! 

 そう思って連絡をしようとしたら、気付いた時にはもうご主人様が私の目の前にいた。……またぼーっとしてたのかな私。

 あの薬、あんまり効いてないんじゃない? 

 

 その後ご主人様が私を休ませようとしてカフェに入ろうとしたんだけど、偶然にも満席で入れなかった。

 お昼時だったからかな。珍しい事もあってびっくり。でも二件目には入れたので問題なし! 

 

 しばらくご主人様と過ごしたらその内元に戻って元気いっぱいの私でたくさん遊べた! 

 

 ……私が任務で頑張った話とご主人様と遊んで嬉しかったことしか書いてないんだけど、これでいいのかな経過報告って。

 

 

 経過報告8──〇月×日

 黒い人にあんまり薬効いてないんじゃない? と言ってみた。

 そうしたら、まあそれならそれで貴重な結果だとかなんとか言っていた。

 

 あんまり結果に協力で来ているという感じがして来ない。

 わたし自身は日記、もとい経過報告を書くのにも慣れてきたから別に本人が気にして無いならいいけど。

 

 そう返したらなんだか楽しそうにクククと笑っていた。

 

 

 経過報告15──〇月×日

 効果は確かに出ている。

 今日の任務の帰りがけ、気が抜けたせいか、階段を下りている最中に階段の下り方を忘れてしまいそうになった。

 けどパッとすぐに思い出して事なきを得た。

 

 うん。ちゃんと飲み続けてたのが良かったのかな。

 リーダーもカリンちゃんもアカネちゃんも、心配そうな目から一転して驚きで目を見張っているのが印象的だった。

 

 ……そうだ。任務外の時には、みんなはあんな風に心配そうな顔をしていたんだっけ? 

 わたしはそういうのに鈍いからあんまり気づけていなかった。

 

 でも確かに改善されている。なら心配をかけることは減っていく。

 良い事だ。

 

 

 経過報告17──〇月×日

 今日の任務ではすこしトチってしまってケガをした。

 うーん、わたしの勘ではあの隠れ場所に間違いないと思ったんだけどな……。

 

 任務には大した影響が無かったのでヨシとしよう。

 

 帰りがけ、いつかご主人様と立ち寄ったカフェに顔を出してみた。

 

 ご主人様はいなかった。

 

 でもシャーレに行ったら居た! 任務上手く行ったよって言ったら褒めて貰えた! 

 

 

 経過報告23──〇月×日

 ぼーっとすることが無くなった。

 いや、正確に言えば完全になくなった訳じゃない、でも今までと比べ物にならない程回数が減った。

 それに気づいたら数時間立ってることは無くなって、精々10から15分くらいになった。

 

 一日が自由に使える時間なのってすごい。朝早く起きてご主人様の所にも遊びに行ける! 

 こっそり行って、また仕事が溜まってたら手伝ってあげようかと思ったんだけど、セキュリティが開かなかった。

 前回の時の番号は覚えてなかったけど、前も行けたから今回も行けるかなと思ったんだけどな……。

 

 これが黒い人の言っていた「神秘を抑え込む」って事なんだろうか。

 でも大した問題じゃない。サプライズこそ仕掛けられなかったけど、ご主人様に前もって行くよ! って言っておけば済む話なんだから。

 次からそうしよう。

 

 扉はご主人様に連絡して開けて貰った。

 その後一緒に朝ご飯を買いに行った。二人で食べるとより一層ごはんが美味しい! 

 

 経過報告25──〇月×日

 任務の進め方に若干の修正が必要になった。

 今までみたくなんとなくで突っ込んでしまうと上手く行かないことが多くなった。

 もちろん、たまには成功する。

 でもいつもじゃない。多分これが他の人の言う普通くらいの運の良さなのかも。

 

 試しにコユキちゃんに頼んでカジノでのゲームを再現して貰ったけど、今回はA止まりだった。

 なんかすごい目をしてこっちを見てたのが面白かったな! 

 ……そのあとすごい顔をしたユウカちゃんに追いかけられていったけどどうしたんだろう。

 もしかして再現じゃなくてクラックだったのかな? 

 

 任務の進め方を変えるといっても簡単だ。動く前に考えれば良い。動く前に考えて、動く。今までからすると少し窮屈だけど、多分その内慣れる。

 この日記だっていつの間にか習慣になった様に。

 

 それに、みんなの目が違う。

 以前は気にも留めていなかった視線が無くなっている。心配の視線。……そして、多分本人たちさえ自覚していないだろう憐れみの視線。

 気にしなくなってから気づくだなんておかしな話だけど。以前はわたしを見る目にはそれが含まれていた。ほんの少しだけ。当たり前といえば当たり前。私だって、ご主人様が、C&Cのみんながいきなり階段を踏み外したりするなら心配してしまう。

 でも今はもうない。

 

 それが嬉しい。そう思うとは思わなかったけど。

 

 あの黒い人には感謝しないと。

 あ、そういえば最近報告に行ってなかった。明日行って来よう。

 

 

 経過報告26──〇月×日

 薬の効果が出てきたのはありがたい事らしい。

 効果出てきたよ! といったらそう返って来た。なんだかこれで次の実験のサンプルになるのだとかなんとか。

 

 わたしも最初は深く考えずに実験に協力していたけど、黒い人も嬉しくてわたしも嬉しいならやってよかった。

 そう伝えたら、やっぱりクククと笑っていた。

 

 特におしゃべりをするような仲でもないのでその後はすぐに場を離れようとした時、黒い人がかけてきた去り際の言葉がいやに耳に付いた。

 

 多分、そろそろだと思います。

 だって。

 

 経過報告27──〇月×日

 きっと薬の効果が切れる頃。

 そういう事だと思ってる。

 だけど特に変化は感じない。任務が無くてもぼーっとすることは無い。一日を自由に扱える。

 

 そういえば今日も任務があった。

 前回決めたように、考えてから行動する。これを徹底すれば成果は今まで通り。

 帰りがけに歩く階段でも、心配の視線はもう感じない。

 

 これがわたしのいつも通りになるんだ。

 大丈夫。

 

 経過報告30──〇月×日

 今日は任務が無かったのでご主人様と遊ぼうと思った。この直感は大正解! 久しぶりに当たった気がする! 

 

 おっと、経過報告なんだからちゃんとしないと。

 

 もう突然街をぶらついて会える、なんてことは無くなってしまったので、しっかりと連絡をしてから。

 そしたら今日はシャーレ併設のカフェに来て欲しいとの事だった。

 

 しっかりと準備をして向かう。今日はメイド服で行こうか、バニー服で行こうか。そんな事で迷える時間がわたしにはある。

 今までは気が付いたらもう出発予定時間、なんてこともざらだったから洋服では迷えなかった。その時の直感で袖を通していたけど、こういうのも新鮮で楽しい! 

 

 今日のご主人様はメイド服で喜ぶ。なんとなくそんな予感が働いたのでメイド服をピックアップ。

 

 そしたらカフェでご主人様がわたしにプレゼントだっていって花束をくれた! 

 なんだかすごいきらきらしてて! 嬉しくなって頭がわーっとなって先生に飛びついたら凄く困ってるような、でも嬉しそうな顔をしてくれて! 

 

 そのままたっくさんご主人様と遊んでから帰って来た! 

 

 経過報告32──〇月×日

 昨日は日記を付け忘れてしまった。まだ習慣ついていなかったかな。あぶないあぶない。でも一回くらいならセーフ。

 リーダーだってアリスちゃんに煽られて最初はラジオ体操する! なんて言ってた時もすぐに三日坊主だったんだから。だからこれくらいは普通。

 

 今日は任務だった。

 うん。いつも通り。ちゃんと考えて、それから行動に移す。

 ちゃんと出来てた。成果は上々だった。

 

 夜も遅い時間だったし、任務帰りにみんなでご飯を食べに行った。チェーンのファミリーレストラン。

 

 ご主人様が、いた。

 

 

 経過報告33──〇月×日

 今日はなんだかご飯が喉を通らなかったから、夜までぼーっと、違う。

 夜まで寝て過ごした。しっかり寝ようと思って寝た。寝たいから寝た。

 風邪でも引いたのかな。そう思って体温計を探したけど見つからなかった。仕方がないので近くのコンビニまで体温計とゼリー飲料を買いに行った。

 

 熱はない。平熱。

 

 

 経過報告35──〇月×日

 今日は任務だった。

 最近はなんだか考えることが多くて煩わしくて、つい考え無しに突っ込んだ。カリンちゃんが止めた声でやっちゃたと思ったけど、特に問題はならなかった。

 

 リーダーはそういうお前は久しぶりだな、なんていってからから笑っていた。

 

 たまたま運がいい、そんなことは誰にでもある。今日はたまたまそういう日だった。

 

 日記は付けた。寝る。

 

 経過報告42──〇月×日

 わたしはちゃんとやっている。ちゃんと考えて、行動して。なんとなくに頼らずに。

 

 なのに。

 

 またあの目だ。

 あの目になってしまった。視線が。

 

 

 経過報告─── ─月×日

 昨日も日記を付けた。けどページに空白が多い。

 そういえば今日は何をしていたっけ? 任務が無かったから、ご主人様と遊ぼうかと思って。

 缶のココアを貰っていた。それを横において日記をつけてた。

 こぼしちゃった。

 

経過報告50── 〇月×日

 06:00 起きた

 07:00 朝ご飯を食べた

 08:00 任務

 13:00 任務終わった

 14:00 昼ご飯を食べた

 

 

 

 23:00 やっぱり昼頃までしか取り切れないや。日記は持ったまま寝よう。

 

 

 《i》経過報告─── ─月─日

 

 

 経過報告─── ─月─日

 今日は調子が良かったので黒い人に会いに行った。話さなきゃいけないことがたくさんあったから。

 

 そろそろ薬が切れ始めていると、そう伝えた。そうですか。と返してきた。クククと笑っていた。

 データは取れたから十分らしい。

 

 わたしが薬をもっと欲しいと伝えると、不思議そうな顔でこう返された。元に戻ることは最初に伝えていたのになぜ? 

 

 どんなデータが欲しかったのかを聞いた。神秘とそれに付随する副作用について。そしてそのバランスの関係についてらしい。

 

 どうやらこの黒い人はご主人様と顔見知りなんだって。なんだかうれしそうに話してきた。

 曰く、生徒に手を出すことはすごい剣幕で怒られた。ならば結果的にプラスもマイナスも無くなることなら大丈夫なんじゃないか。

 そう思ってこの研究にわたしをスカウトしたらしい。この実験では、最終的にゼロになる。薬を飲む前のわたしに戻るだけ。ならば、本人の了承さえ取ればいいだろう。そう思ったらしい。

 

 やっぱり薬が欲しいといった。あることはあるが多分効かない。そう言われたけど貰って帰って来た。

 ダメで元々。まずは飲んでみよう。

 

 薬の飲み方はネットで調べた。調べている最中に思い出したので飲んだ。

 

 《i》経過報──── ─月─日

 任務の間は大丈夫。

 でも気が抜けるとダメだ。

 

 今日は任務が終わってから、スリングの外し方が分からなくなって、アカネちゃんに手伝って貰った。

 スリングというのは銃を体に支える紐の事。ちゃんと書いておかないと。

 

 今までは気にした事なんてなかったのに。

 何も知らないままなら。

 そうじゃないものを知った後はなんでこんなにも。

 

 

 別に迷惑に思われている訳じゃない。でも確かにわたしを心配する目。その中に含まれる、本人でさえも無自覚だろう、心配の視線。

 それが欲しいんじゃないのに。一度は確かに無くなったのに。

 

 ご主人様に会いに行こうかと思った。でもやめた。

 多分これは正しい直感だ。なんとなく、そんな気がする。

 

 経過───── ─月─日

 今日は任務が無かった。

 あれ? 昨日だっけ? 

 

 あ、もう朝だ。今日は任務がある? ない? 確認しよう。

 

 

 経────── ─月─日

 嫌だな。

 今ならわかる。黒い人の言うところの神秘……私にとっては多分幸運とか直感とかなんだろう。そしてその副作用がこれ。身体操作の不全。時間感覚の喪失。記憶の不連続。そういったもの。

 あの薬はそれを弱めるものだった。神秘を弱めるかわりに、副作用も弱める。そういう薬。

 

 神秘は多分わたしには枷だ。生まれつきあったから気にならなかっただけで、これはあると不便なものなんだ。

 幸運なんてなくても大丈夫。任務には計画を練ればいいし、ご主人様に会いたければ連絡を入れれば良い。代替可能だ。

 でも階段の上り方は、右腕の振り方は、走り方は、銃の打ち方は、……記憶は、時間は、無いとダメなものなんだから。

 

 一回寝ちゃうと延々と寝ちゃうから、それなら徹夜で仕事した方がマシ。だなんて前にご主人様が言っていたような気がする。

 それと似たような物かな? 違うかも。

 

 一度神秘が無い生活を知ったら、みんなの言うの普通というものが、たまらなく大事なものだったなんて。

 

 知りたくなかったな。

 それならわたしは変わらずにいられたのに。

 

 薬は、今日飲もうとしたらもう空になってた。

 たぶん黒い人の言う通り、飲んでも飲んでも効果は表れない。

 

 ─────── ─月─日

 今日でわたしは元に戻る。

 元とはつまり、薬を飲む前のわたしに戻るということ。予感ですらない確信。なんとなく、でも絶対当たる。今のわたしはそれが分かる。

 

 それに伴って、薬を飲んでいた期間そのものもきっと忘れる。部分部分は覚えているだろうけど、でも薬のこと、神秘なんてない方が良かった、そう思ったことは絶対に記憶から無くなる。

 

 

 わたし(一之瀬アスナ)に宿る神秘がそう判断した。

 

 最後と思って頭から日記を読み返した。……そうだ、ご主人様から花束、貰ったんだった。嬉しかったな。すごい嬉しかった。思わずご主人様に抱き着いてしまうくらいに。……帰りに花瓶も買ってきて、ちゃんと活けておいたのに。いつのまにか世話を忘れて枯らせてしまっていた。そういえば、薬の効果が切れ始めたのもその辺りだったっけ。

 

 それにしても自分が何をどう感じていたかなんて振り返る機会、ちゃんととったこと無かった。元に戻っても、日記をつける習慣は無くならないといいな。

 

 きっとわたしは薄々分かっていたのかもしれない。多分神秘なんて無かったとしても、きっとわたしはツキの良い人間だったんだ。

 

 この日記、この経過報告は()()()のモノだ。薬を飲む前の()とは違う。

 薬を飲む前の私はそのままでいいと思ってるけど、薬を飲んだ後のわたしはこのままがいいと思った。

 

 そういう差がある。そしてその差が、きっと私の神秘は嫌なんだ。

 

 今日眠ってしまったら、きっとわたしはこの日記自体を認識できなくなる。路傍の石ころみたいに、認識しても開こうとしなくなる。これを見返したらまた神秘の事を嫌いになるから。だからこの日記ごと忘れてしまうけど。

 

 C&Cのみんなも、ミレニアムのみんなも。ご主人様も。元に戻った私と、いっぱい遊んでね。

 




P.S
どうかこれを読む人がいたら、先生に、花束をプレゼントしてください。
わたしも、ご主人様(あなた)が大好きだったことを伝えるために。

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