ホムンクルスとして目覚めた俺が、主人の策略により曇らせ包囲網を勝手に作られる話   作:あろみんと

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第一章
第0話「いつの日かの話」


 

 

 

 右腕がない少女に、二人の少女が付き添っていた。

 

 静かな朝の光が差し込む部屋。白いカーテンが揺れる音だけが、微かな生活の気配を伝えている。

 

 ベッドの上で身を起こそうとした銀髪の少女――フィーネに、すぐさま駆け寄ってくる影がある。

 

「ちょっと! 動かないで、フィーネ!」

 

 金髪の少女――アイリが半ば叫ぶように言い、フィーネの背に手を添えた。その表情は今にも泣き出しそうなほど切迫している。

 

「……大丈夫です、これくらい一人で」

 

 フィーネが静かに答える。けれど、その声には張りがなかった。

 

「だめ! 昨日だって転びかけたじゃない……!」

 

 強く言いながらも、アイリの手は震えていた。どこか触れることすら怖れているような、その手つき。

 

 もう一人――壁際に立つ少女、リュミエールは、フィーネの包帯が巻かれた右肩をじっと見つめていた。目は笑っているのに、笑っていなかった。口元にはいつもの微笑が浮かんでいるのに、どこか空気が冷たい。

 

 リュミエールはゆっくりと歩み寄る。足音を忍ばせるようにベッド脇に腰を下ろすと、包帯の巻かれた右肩を見つめながら、柔らかく声をかけた。

 

「……包帯、ちゃんと巻き替えておきますか?」

 

 その声音は丁寧で優しい。けれど、それがどこかおかしかった。まるで、壊れた人形に話しかけているような――歪な愛情の香りが、そこにはあった。

 

 フィーネは目を伏せ、わずかに肩を竦める。

 

「ありがとうございます。……でも、もう慣れましたし、一人でもできますから」

 

 「慣れた」というその言葉に、アイリがぎょっとしたように振り返る。目を大きく見開いて、フィーネの顔をまじまじと見つめた。

 

「慣れたって……フィーネ、それ、本気で言ってるの? 片腕しかないんだよ? それに痛くないわけ……ないよね……?」

 

 その声音には、焦りと悲しみが滲んでいた。痛みの感覚があると思い込んでいるからこその反応。心配してくれている――けれど、フィーネはうまく返せず、曖昧に微笑んで誤魔化すしかなかった。

 

 アイリは思わず口元を覆い、苦しそうに息を呑んだ。

 

「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなくて……でも、私……もっと早く気づいてたら……もっと、ちゃんと見てたら……こんなことには……」

 

 言葉が震え、アイリの視線がうつむく。

 

 その背を、リュミエールはじっと無言で見つめていた。小さく、まばたきひとつせずに。

 

「フィーネさん」

 

 やがて、リュミエールが囁くように口を開いた。

 

「……もし、私じゃなかったら。きっとこんなことには、ならなかったんですよね」

 

 その言葉は、淡々としていた。けれど、底には深く冷たい悔恨が滲んでいた。

 

「でも……私だったから、こうなってしまった。だから、責任は取らないといけないんです。ずっと傍で、見て、守って、傷も痛みも、代わりに背負ってあげないと。……フィーネさんが二度と壊れないように、誰にも触れさせないように、全部、全部……」

 

 フィーネが顔を上げた。リュミエールの目を見て、思わず息を呑む。

 

 その瞳は、透明なまま狂気を宿していた。

 

「それが、私の償い。だから――もう、私から離れないで下さいね?」

 

 フィーネの喉がひくりと動いた。返す言葉が、見つからない。

 

 朝の光だけが静かに降り注ぐ中、三人の少女の間に沈黙が落ちる。

 

 誰の罪でもない。けれど、誰もが何かを抱えていた。

 その重さが、今この部屋を静かに満たしていた。

 

 

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