ホムンクルスとして目覚めた俺が、主人の策略により曇らせ包囲網を勝手に作られる話   作:あろみんと

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第十三話「試練の舞台」

 

 

 

 フィーネは豪華な会場の中で、圧倒されるような視線を感じ取っていた。煌めくシャンデリアの下、会場内には高価な衣装に身を包んだ人々が思い思いに談笑している。その中には、装飾が施されたローブを羽織った者や、見るからに異国の雰囲気を纏った者まで、様々な風貌の人々がいる。

 

「……視線がすごい」

 

 周囲の視線が集まっていることに気づき、フィーネはそっと老人の後ろに隠れようとした。しかし、老人は立ち止まることなく、受付へと向かって歩き続けている。

 

「お爺様……ここにいるのって、一体どんな人たちなんですか?」

 

 フィーネは怖じ気づいたような小さな声で尋ねた。視線が刺さるようで、居心地の悪さに耐えきれなかったのだ。

 

 老人は足を止めず、静かに答える。

 

「この場に集まっているのは、いずれもこの世界で名を馳せる者たちじゃ。錬金術師、貴族、商人、学者……それぞれが何かしらの力を持つ者たちばかりじゃ」

 

 その答えに、フィーネは息を飲んだ。

 

「そんなすごい人たちが……どうして私を見てるんですか?」

 

 フィーネの言葉には不安がにじんでいる。彼女は、視線の理由がわからず身を縮める。

 

「お前が見たことのない顔なのが理由じゃろうな」

 

 老人は短く言い放つ。チラリと振り返り、目を細めてフィーネを見た。

 

「ここにいる全員が、己の力や立場を誇示し合うことに慣れた連中ばかりじゃ。そんな中でお前のような知らない存在がいれば、当然目に留まる。だが、それを怖れる必要はない。ただ私の言葉に従っていればよい」

 

 その言葉に、フィーネは少しだけ心を落ち着けようとしたが、周囲から注がれる視線の圧力に、どうしても緊張が拭えない。

 

「……怖いです。みんな、私が何者なのか詮索してるみたいで」

 

 フィーネの言葉に、老人はほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。

 

「怖いのは当然じゃ。しかし、その感覚を忘れるな。それはお前がこの場に立つ価値を持っている証拠でもある」

 

 その言葉を胸に刻む間もなく、二人は受付の前に立った。受付には上品なドレスを着た女性が、凛とした態度で待ち構えていた。彼女は二人を見るなり、にこりともせず、業務的な口調で声をかけてきた。

 

「ご用件を伺います。お名前と目的をお伝えください」

 

 その鋭い視線にフィーネは言葉を詰まらせるが、老人は動じることなく静かに口を開いた。

 

「エトワール・カスティエル。錬金術師としての招待を受けている。これがその証だ」

 

 老人は懐から取り出した紋章を受付の女性に差し出した。その瞬間、彼女の態度がわずかに変化する。

 

「確かに、こちらで確認が取れました。どうぞ、こちらの案内に従ってください」

 

 女性が丁寧に一礼し、後ろに控えていた係員を呼び寄せた。

 

「お連れ様もご一緒ですね?」

 

 フィーネに視線が向けられた瞬間、彼女はまた萎縮しそうになったが、老人の言葉を思い出し、何とか立っていることができた。

 

「そうじゃ。彼女は私の付き添いじゃ」

 

 老人の言葉に、受付の女性は軽く頷き、係員に合図を送った。

 

「それでは、どうぞこちらへ」

 

 案内される中、フィーネは緊張しながらも、自分に注がれる視線を振り切るように前を向いて歩き始めた。

 

 案内係に導かれ、二人は受付からさらに奥の廊下へと進んでいった。廊下には鮮やかな絨毯が敷かれ、壁には豪華な額縁に収められた絵画や、装飾の施された燭台が並んでいる。フィーネはその贅沢な空間に圧倒されながらも、老人のすぐ後ろをついて歩いていた。

 

 しかし、進むにつれてフィーネの視線は、廊下の両脇に立つ人物たちへと引き寄せられていった。そこには、黒い制服に身を包んだ屈強な警備兵たちが、無表情で立っている。彼らの鋭い視線がこちらを警戒しているように見え、フィーネは思わず身を縮めた。

 

「……警備、めっちゃ多くないですか?」

 

 小声で老人に尋ねると、彼はわずかに肩をすくめながら答えた。

 

「当然じゃ。この場に集まっているのは重要な地位にある者ばかり。彼らを守るための警備も、それ相応のものとなる」

 

 フィーネはその言葉を聞きながら、再び警備兵たちの姿に目をやった。彼らの腰には長剣や、見たことのない形状の装備が備えられており、どれも普通ではない雰囲気を醸し出している。

 

「でも……あんなに武装してるなんて。なんだか戦場にいるみたいです……」

 

 フィーネの呟きに、老人は軽く笑ったようだった。

 

「彼らは戦場に出るつもりなどない。ただ、威圧感を与えるためにそうしているだけじゃ。本気で襲撃があるなどと思っておらんよ」

 

 老人の軽い調子に、フィーネは少し安心したような、しかし納得しきれないような複雑な気持ちになった。

 

 やがて、一行は立派な木製の扉の前で足を止めた。

 

「どうぞお入りください」

 

 扉が開くと、その先には広々とした控室が広がっていた。部屋の中央には豪奢なソファとテーブルが置かれ、壁際には飲み物や軽食が並べられたサイドボードがある。窓からは庭園が見渡せ、暖かな日差しが室内に差し込んでいた。

 

「ここが控室です。本番までしばらくお待ちください」

 

 案内係が礼儀正しく一礼すると、再び廊下へと戻っていった。扉が閉まる音が響くと、部屋の中は急に静かになった。

 

 フィーネは、まだ緊張の余韻を引きずりながら控室の中を見回した。

 

「……こんな豪華な部屋、初めて見ました」

 

 呟きながらも、彼女は部屋の隅に視線を移し、そこに控えている二人の警備員に気づいた。控室の中にまで警備が配置されていることに驚き、思わず老人の袖を掴んだ。

 

「お爺様、ここにも警備兵が……」

 

 その声に、老人はフィーネを見下ろし、穏やかに頷いた。

 

「この部屋も重要な客人たちが使う場じゃからな。万が一のための備えだ。それよりも、落ち着いて準備を整えたほうがよい」

「じ、準備って……何をすればいいんですか?」

 

 フィーネが戸惑いながら尋ねると、老人は椅子に腰を下ろし、冷静な声で言った。

 

「この後の場では、いかにして自分を保つかが重要だ。相手の言葉や態度に動揺せず、堂々としていろ。それが最も信頼を得る方法じゃ」

 

 その言葉に、フィーネは深く息を吸い込んだ。視線の圧力や警備員の存在に怯えてばかりではいけないと、自分に言い聞かせる。

 

「……わかりました。頑張ります」

 

 そう言って、彼女はぎこちないながらも椅子に腰掛けた。柔らかいクッションが背中を支え、少しだけ気持ちが楽になったようだった。

 

 控室でしばらく待つ間、フィーネは室内を見回しながら心を落ち着けようとしていた。しかし、全身を包むような緊張感は簡単に和らがず、隣で静かに椅子に腰掛けている老人を横目に、彼女は自分の不安と格闘していた。

 

 そんな中、扉がノックされ、先ほどの案内係が再び顔を見せた。

 

「失礼いたします。まもなく『魔法学術討論会』が開始されます。お二人とも準備が整い次第、会場にお越しくださいませ」

 

 その言葉に、フィーネは自然と背筋を伸ばした。「討論会」という響きだけで彼女の中に新たな緊張が生まれたが、老人はゆっくりと立ち上がり、短く頷く。

 

「わかった。案内を頼む」

 

 控室を後にし、案内係の先導でホールに向かう途中、フィーネは華やかな装飾が施された廊下を歩いていた。その途中、ふと彼女の目が一人の警備兵に留まった。整然と立ち並ぶ警備兵たちの中にあって、どこか場にそぐわない、リラックスした雰囲気を漂わせる男がいたのだ。

 

「……あれ?」

 

 フィーネは足を止め、気になって視線を送る。その男は、制服は着ているものの、少し無造作に整えられた茶髪を肩に流し、警備というよりも散歩でも楽しんでいるような気怠げな雰囲気を纏っている。どこかで見たことがある顔だ。

 

「レオフォルトさん……?」

 

 呟くように名前を口に出した瞬間、彼はちらりとこちらに視線を向けた。そして、ほんのわずかに口元を緩め、軽く肩をすくめるような仕草をしてみせる。それは、彼特有の軽やかな挨拶だった。

 

 店でのやり取りを思い出しながら、フィーネはその姿に驚きを隠せなかった。あのどこか飄々とした常連客が、今こうして堂々と警備兵の制服を着ている。それがどうにも不思議だった。

 

「王国の騎士団だから、派遣でもされてるのかな……」

 

 フィーネはそっと呟き、気づかれないよう視線を外した。だが、気怠げな雰囲気の裏に感じる鋭い眼差しが、彼の本質を物語っているような気がしてならない。

 

 再び歩き出しながらも、店では見えなかった一面に触れたような気がして、どこか落ち着かない気持ちが胸に残る。それでも、目の前に迫る討論会を前に、余計な考えを振り払うように歩みを進めた。

 

 二人は案内係に導かれ、広いホールへと入る。中央には半円形の壇上が設けられ、その周囲には観客席が何層にも並んでいる。参加者たちは、それぞれ指定された席に座り始め、壇上には既に数名の発表者らしき人物が準備を進めていた。フィーネは老人とともに指定された一角の席に腰掛けた。壇上を見上げながらも、周囲の目が自分に向けられていないことに少しだけ安堵する。

 

 そのとき、壇上に立った司会者が魔力を増幅する装置を用いて声を響かせた。

 

「皆さま、本日は『魔法学術討論会』にご参加いただき、誠にありがとうございます。この討論会は、錬金術師や魔法学者、研究者たちが日頃の研究成果を共有し、新たな発見と議論を促す場です。皆さまには、この場で発表される内容を通じて、さらなる知識や可能性を見出していただければと存じます」

 

 その説明に、フィーネは改めて自分がどれほど重要な場にいるのかを実感し、自分の存在がどこか場違いであることを意識せざるを得なかった。

 

「討論会の進行についてですが、発表者は順番に壇上にて発表を行い、その後に質問や意見交換の時間を設けます。順番は受付にてお伝えした通りとなっております。各発表者の皆さま、準備のほどお願いいたします」

 

 司会者の言葉が終わると、最初の発表者が壇上に呼ばれた。鮮やかなローブをまとった若い女性が壇上に立ち、魔力を効率的に抽出する新しい技術について発表を始めた。彼女の背後にはスライドが映し出され、複雑な図や数式が説明に沿って次々と切り替わる。

 

「この新しい抽出法を用いれば、希少な魔法植物の使用量を劇的に減らしながら、高純度の魔力を得ることが可能です」

 

 その一言に、会場中がざわめき、驚きと称賛の声が漏れる。フィーネは興味深そうにその説明を聞きながらも、徐々に自分の番が近づいていることに気づき、再び緊張が襲ってきた。

 

 壇上での発表が一つ終わるたびに、次の発表者が呼ばれる。そのたびにフィーネは自分の手が冷たくなっていくのを感じた。隣で落ち着き払った様子の老人に目をやり、思わず呟く。

 

「私に、こんな場で何かができるんでしょうか……?」

 

 その声に気づいた老人は、静かにフィーネを見つめ、穏やかな声で答えた。

 

「お前がこの場で求められているのは、結果ではない。ただ、この壇上に立ち、堂々としていることじゃ。それだけで十分だ。相手の言葉に動じず、自分を保てば、それが信頼を得る第一歩となる」

 

 フィーネは老人の言葉を胸に刻むように深く息を吸った。そのとき、司会者が次の名前を読み上げる声が響いた。

 

「次はエトワール・カスティエル様です。ご準備をお願いします。」

 

 老人の名前が呼ばれると、フィーネは驚きと緊張で思わず立ち上がり、隣の老人に視線を向けた。老人は静かに立ち上がりながら微笑みかける。

 

「私に続け。お前がこの場で得るものは大きいはずじゃ」

 

 老人の言葉に勇気をもらい、フィーネは彼の後を追いながら壇上への階段を一歩ずつ上っていった。無数の視線が自分に向けられる緊張に耐えつつも、彼女はしっかりと前を見据えていた。

 

 

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