ホムンクルスとして目覚めた俺が、主人の策略により曇らせ包囲網を勝手に作られる話   作:あろみんと

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第十五話「親友との再会」

 

 ロビーの入り口をくぐった瞬間、フィーネの目がぱっと開かれた。

 

「……あっ」

 

 その声は思わず漏れたものだった。視線の先には、ふわふわの金髪を揺らす少女――アイリの姿があった。あの柔らかな表情と凛とした立ち姿は、遠目からでもすぐにわかる。思わず駆け寄りそうになるフィーネだったが、すぐにその歩みが止まった。

 

 アイリの向かいにいる人物に気づいたからだ。

 

 あの男――レオフォルトが、ロビーの小さなテーブルを挟んでアイリと談笑していた。肘をつき、軽い笑みを浮かべながら何かを語っている。アイリは口を結び、静かに話を聞いているようだった。だが、どこか緊張感のある空気が漂っていて、親しげというよりは「事情を抱えた会話」といった印象を受ける。

 

 (……あの二人、知り合いだったのか)

 

 フィーネは思わず眉を寄せた。

 

 レオフォルトのことだから、また馴れ馴れしく何か言ってるのかもしれない。アイリは可愛いから目をつけられてもおかしくない。

 

 口元を引き結びながら、内心でうっすらとげんなりした。

 

 (でも、アイリなら――あんな優男に靡いたりしないよね? しないよね?)

 

 どこか不安にも似た感情が胸をかすめる。フィーネは小さく息を吸って、勇気を出して二人に声をかけた。

 

「アイリ!」

 

 その一言で、テーブルにいた二人の視線が一斉にフィーネに向いた。真剣な表情をしていたアイリの顔が、パッと明るくなる。

 

「フィーネ!」

 

 椅子を立ち、駆け寄るようにフィーネの前に来ると、アイリは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「久しぶりに会えて嬉しいよ!」

 

 さっきまでの緊張を湛えた顔が一変し、本当に嬉しそうに瞳を細める。あまりに自然で純粋な反応に、フィーネの中の疑念や不安がすっと引いていくのを感じた。

 

 その笑顔に釣られるように、フィーネも小さく微笑んだ。

 

「うん。こっちこそ、会えて嬉しい」

 

 その言葉に、アイリは胸に手を当てて安堵の息を吐いた。

 

 一歩後ろでは、レオフォルトが立ち上がりながら、にやりとした笑みを見せて言う。

 

「やあ、フィーネ嬢。君と会うのは今日二度目かな。……いや、発表を含めたら三度目になるかもしれないな?」

 

 「そうですね」と、フィーネが冷たく返す前に、アイリが少しだけレオフォルトの方を見て首を傾げた。

 

「知り合い、なの?」

 

 「……常連です」と、フィーネが渋々答えたあと、今度はアイリの顔を見て、少し真剣な声で尋ねた。

 

「さっき何話してたんですか?」

 

 アイリは少しだけ困ったように笑い、言葉を濁した。

 

「ちょっとした雑談だよ」

 

 言葉の真意は読み取れない。そんな雰囲気には見えなかったが、とりあえずは杞憂だと考えることにした。

 

 アイリの言葉に、フィーネは小さく頷いて「そうなんですね」とだけ返す。その場に流れる空気は、穏やかというよりも、微妙に気まずさを含んでいるように感じられた。

 

 そんなとき、フィーネの後ろから、小柄な影がひょこりと顔を出した。

 

「えっと……こんにちは」

 

 声に反応して視線を向けると、そこには銀髪のボブカットに、真面目そうな制服を着た眼鏡の少女が立っていた。先ほどフィーネに声をかけてきた女の子だ。

 

「あっ、ごめんなさい。知り合いがいたもので……」

 

 フィーネがそう口にすると、少女は少し恥ずかしそうに笑い、前に出てくる。

 

「いえこちらこそお邪魔してすみません。フィーネさんにもまだでしたし、改めて自己紹介させてもらいますね」

 

 少女は丁寧に頭を下げた。

 

「リュミエールといいます。人工生命の研究をしていて……今日はマスターと一緒にこの発表を見に来ました」

「リュミエール……さん。よろしくお願いします」

 

 フィーネが応えると、リュミエールはアイリの方にも向き直って、改めてお辞儀した。

 

「そちらは……?」

 

 問いかけに、アイリは軽く頷いて答えた。

 

「私はアイリ。少し事情があってここに来てるんだ。フィーネとは友達かな?」

 

 その言葉に、フィーネは目を丸くし、思わず吹き出した。

 

「今さら“友達です”って、なんだか変な感じですね」

 

 アイリも少し照れたように肩をすくめる。

 

「だって、そう言うしかなくない?」

 

 そのやりとりに、リュミエールも小さく笑った。

 

「お二人、仲がいいんですね。なんだか少し、羨ましいかも」

 

 その言葉に、フィーネとアイリは顔を見合わせ、ほんの少しだけ照れくさそうに笑った。空気が少し和らぐ。

 

 レオフォルトはその様子を少し離れた場所から見て、「ふむ、女の子同士ってのは、いいものだな」などと呟いていたが、誰からもスルーされていた。

 

 ふと、リュミエールが首をかしげながらアイリに視線を向けた。

 

「ところで……アイリさんと、そちらの方は何をしにここに?」

 

 言いながら、ちらりとレオフォルトの方へ視線を移す。彼のことを「そちらの方」と呼んだのは、名前を聞いていなかったからだろう。

 

 質問にアイリの肩がぴくりと動いた。表情がわずかに固まり、すぐに答えが出てこない。

 

 そんな空気を察したように、レオフォルトがすっと軽く手を挙げた。

 

「僕のことはレオフォルトって呼んでくれていいよ」

 

 口元に軽い笑みを浮かべ、肩をすくめる。

 

「僕はちょっとした警備の用事でね。彼女は父親から招待された、と言っていたよ。アイリ嬢は姓持ちだからね、こういった場にも呼ばれることがあるのさ」

 

 さらりとかわすその調子は、いかにも軽薄そうだが、不思議と場を和ませる力がある。

 

 というか、姓持ちってなんだろう。アイリは貴族的な存在だったのだろうか。まあ、どちらにせよ今までの対応を変える気はさらさら無い。

 

 そんなことを考えてる間に違和感を感じたのか「なるほど……?」とリュミエールが納得しなさげな表情を見せる。レオフォルトはニヤリと笑って視線を向けた。

 

「でも、君みたいに聡明で可愛らしい子と話せるなら、多少の用事くらいは後回しにしてもいいかもしれないね?」

 

 その言葉に、リュミエールは目をぱちくりと瞬かせ、少しだけ頬を赤らめた。

 

「わっ! そんな事言われたの初めてです! ありがとうございます!」

 

 ぱあっと顔を輝かせて、リュミエールは心からの笑顔を浮かべた。その反応は、まったく疑いを挟まない純粋さに満ちていて、思わず周囲の空気が一瞬止まったような気さえした。

 

 レオフォルトの口元が、ぴくりと引きつる。

 

「はは、それは嬉しい限りだ。……うん、どういたしまして?」

 

 いつもの余裕綽々な笑みが微かに揺らいだ。思いのほか真正面から感謝されて、どこか調子が狂ったようだった。

 

 リュミエールはなおも無邪気な眼差しを向けたまま言う。

 

「レオフォルトさんってすごく褒め上手なんですね!」

 

 その言葉に、レオフォルトが明らかに戸惑いを見せる。

 

「え、ああ……まあね。それ程でもないよ」

 

 さすがの彼も、ここまで素直に好意を向けられるとどう返していいのか困るらしい。肩をすくめて目を逸らす仕草に、なんだかんだでたじたじになっているのが見てとれた。

 

 その様子を見て、フィーネは口元に手を当てながら思わず呟いた。

 

「……すごい。レオフォルトが押されてる」

「って、口説かれてるだけだから! リュミエールさん、あんまり真に受けちゃだめだよ!」

 

 すかさずアイリが鋭いツッコミを入れる。その声は少しだけ焦っていて、苦笑まじりだった。

 

「えっ、そうなんですか? でも、悪い人には見えないし……優しいですし……」

 

 リュミエールは首を傾げながらぽつりと返す。疑うという発想そのものが薄いのか、その反応はどこまでも穏やかだった。

 

 「うーん……」とアイリが頭を抱えるのを横目に、今度はフィーネが、少し真剣な顔でリュミエールの方を向いた。

 

「リュミエールさん、ああいう男の人にはついていっちゃダメですよ。絶対」

「え、でも……?」

「でもじゃないです。いいですね?」

 

 ぴしっとした声に、リュミエールは目を瞬かせてから、こくんと頷いた。

 

「……はい、気をつけます」

 

 その素直すぎる返事に、今度はフィーネとアイリが目を合わせて、なんとも言えない表情で肩をすくめるのだった。

 

 そんな三人のやりとりを見て、レオフォルトは片手を挙げながらため息をついた。

 

「いやあ、今日は手厳しいな。僕はただ場を和ませようと……」

「それが余計なんですよ」

 

 フィーネの鋭い突っ込みに、レオフォルトは「はいはい」と軽く受け流すように笑った。

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