一、総合評価
先般実施された対日同時攻撃脅威排除作戦について、作戦完了後に取得可能となった各種情報を基に、対象地域の軍事・政治情勢を評価した。
結論として、本作戦の主要目的であった、
① 大亜連合及び新ソ連による対日同時攻撃能力の排除
② ウランバートル条約に基づく両国の協力体制の機能停止
③ 同一構造による短期間での脅威再発の防止
については、いずれも達成されたと判断する。
特に重要なのは、両国の軍事力そのものを完全に破壊することではなく、両国が共同して日本に対する軍事行動を実施するための政治的・軍事的条件が失われた点にある。
二、ウランバートル条約の状況
作戦開始以前、ウランバートル条約は大亜連合と新ソ連の間で、日本を共通の脅威として認識するための政治的・軍事的枠組みとして機能していた。
しかし、作戦期間中に発生した一連の軍事行動及び相互被害により、両国間の相互信頼は著しく低下した。
現在、両国は相手方の軍事行動を日本に対する共同作戦の一環としてではなく、自国の安全保障に対する直接的脅威として認識する状況に移行している。
このため、条約そのものの法的・形式的な存続可能性とは別に、少なくとも当初想定されていた共同軍事行動の枠組みとしては機能を喪失したものと評価する。
将来的な条約体制の再構築については、現時点で具体的な兆候を確認していない。
三、大亜連合の状況
大亜連合は、華南方面における大規模な被害に加え、その後の対新ソ連軍事行動によって相当規模の戦力及び兵站能力を消耗した。
特に、広州及び上海の壊滅を含む華南方面の被害は、同地域における大亜連合の軍事的・経済的基盤に重大な影響を与えており、短期間での完全な復旧は困難と判断する。
一方、北方方面では、大亜連合北方軍管区による反攻が成功し、ハバロフスクを含む広範な地域において戦線を前進させたものと確認されている。
同反攻は大亜連合側にとって明確な軍事的勝利であり、短期的には同国の北方における戦略的立場を強化する結果となった。
総じて現時点で大亜連合が保有する戦力をもって局地的な軍事行動を実施することは可能である。しかし、ウランバートル条約成立時に想定されていた規模の対日共同作戦を再度実施することは、現実的には困難である。
新ソ連に対する警戒及び不信は大幅に増大している。
今回の被害を巡る責任の所在についても両国間で認識が一致しておらず、少なくとも短期的には対新ソ連協力を再開する政治的余地は限定的と判断する。
大亜連合の華南方面における軍事・経済的損耗は、東南アジア方面にも影響を及ぼしている。
広州及び上海の壊滅により、大亜連合が南方方面に投入可能な軍事的・政治的資源は大幅に減少した。
これに伴い、東南アジア同盟に対する従来の圧力も大きく減衰している。
東南アジア同盟が今後どの程度まで対大亜連合政策を転換するかについては判断を保留するが、少なくとも従前のような一方的な軍事的圧力を維持することは困難になったものと評価する。
単独での局地的軍事行動については引き続き警戒を要するものの、従前のような新ソ連との共同作戦による大規模攻撃については、現時点で現実的な脅威とは評価しない。
四、新ソ連の状況
新ソ連については、極東及びシベリア方面の軍事・インフラ基盤に重大な損害が発生している。
特に通信、電力その他の都市機能に対する広範な被害は、単純な軍事施設の損失とは異なり、軍の再編及び継続的な作戦遂行能力そのものに影響を与える。
加えて、極東方面に展開する部隊についても損耗及び兵站上の問題が発生していると推定される。
以上から、同方面において新ソ連が大規模な対日作戦を再開するためには、相当期間の再編・補充を必要とすると判断する。
今回の戦闘において、同国の戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』の術者、『イグナイター』イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ(以下ベゾブラゾフ)の戦死が確認された。
同人は新ソ連が保有する戦略級魔法師の中でも、政治的・軍事的な制約を比較的受けず、必要な地域へ迅速に投入可能な戦力として運用されていたと評価される。
したがって、その喪失は単純な戦略級魔法師一名の減少に留まらない。
新ソ連は、戦略級魔法戦力を極東方面へ迅速に展開する能力そのものについても低下したものと評価する。
大亜連合との関係は著しく悪化している。
従前の共同対日戦略を維持するよりも、自国の防衛及び被害回復を優先せざるを得ない状況にあると判断する。
特に、極東方面における軍事的損害を抱えた状態で大亜連合との新たな共同作戦を実施することは、軍事的にも政治的にもリスクが大きい。
北海道方面を含む極東からの大規模攻撃については、当面の間、実行可能性は低いと判断する。
ただし、新ソ連は依然として大規模な軍事力を有する国家であり、長期的には軍備再編の進捗を継続的に監視する必要がある。
五、モンゴルの状況
新ソ連及び大亜連合双方の軍事的損耗は、両国の間に位置するモンゴルの安全保障環境にも大きな変化をもたらした。
従来、モンゴルは新ソ連及び大亜連合という二つの大国による軍事的・政治的圧力を受ける位置にあった。
しかし、今回の一連の戦闘によって双方の軍事的影響力が同時に低下したことで、従前の勢力均衡そのものが崩れている。
現時点でモンゴルが今後どの勢力との関係を強化するかは不明である。
ただし、少なくとも従来の二大勢力による圧力構造が機能しなくなったことは明白であり、モンゴルの外交・安全保障政策には相当程度の自由度が生じたものと評価する。
六、欧州方面への波及
『ラスト・スカイ』の限定発動実験に伴う靖南ダム下流域において確認された硝酸・亜硝酸汚染について、欧州各国は東西共に極めて迅速な反応を示している。
靖南ダムは大亜連合華南域における重要な治水施設であり、大漢滅亡からの復興の象徴として規模もさることながら、現地の対テロ防備は相応に注力されていたものと他国からも推察されている。
靖南ダムの破壊によって広州方面の浸水被害が生じ、その後に新ソ連による『トゥマーン・ボンバ』が使用されたという時系列を考慮すると、欧州側からは、同破壊工作が新ソ連による攻撃効果を最大化するための事前工作であった可能性が高いと判断されるものと推定する。
『ラスト・スカイ』そのものの運用主体と、『トゥマーン・ボンバ』を含む一連の攻撃を指揮した主体が同一であるかについては、現状では判断できない。
しかし、靖南ダムへの破壊工作、『トゥマーン・ボンバ』による攻撃、及びその後に発生した広域汚染を一連の軍事行動として捉えた場合、新ソ連による戦略級攻撃能力の存在及びその運用について、欧州各国が従来以上の警戒を示すことは十分に予想される。
特に新ソ連は東欧に隣接しているため、極東において確認された戦略級魔法及びこれに関連する破壊工作能力が欧州正面へ転用される可能性については、無視できない。
また、ウランバートル条約そのものは秘密協定としての性質が強く、その存在及び具体的内容が欧州側に完全に把握されているとは考えにくい。
そのため欧州から見た今回の一連の事象は、大亜連合と新ソ連の間に何らかの戦略的協力関係が形成された直後、両国が短期間のうちに大規模な相互攻撃を行い、その関係が急速に崩壊したという形で認識される可能性が高い。
この急激な情勢変化そのものが、両国間に存在していた非公開の軍事協力及び戦略級魔法関連能力に対する欧州各国の情報収集を促進するものと考えられる。
以上を踏まえれば、本件による欧州の安全保障上の関心は大亜連合そのものよりも、新ソ連の戦略級魔法能力、及び大亜連合との非公開の軍事・技術協力の実態へ向かうものと評価する。
七、USNAの情勢評価
今回の一連の情勢変化について、USNAは他国とは異なる形で重大な情報上の問題を抱えることとなった。
作戦開始前、USNAは日本において確認された未知の戦略級魔法『ポリニトロ・クラスター』について、その陸戦適性を確認する目的で非公式の強行偵察部隊を派遣したものと推定される。
しかし、当該部隊は作戦地域において消息を絶った後、何故か大亜連合側の戦力として行動し、新ソ連の戦略級魔法師ベゾブラゾフの討伐に参加し、大亜連合にて英雄としての待遇を受けている。
この一連の経緯について、USNA側がどの程度まで実態を把握しているかは不明である。
少なくとも外形的には、自国が非公式に派遣した部隊が消息不明となった後、非同盟国の他国勢力側に現れ、その勢力にとって極めて重要な戦果を挙げたという異常な事象であり、USNAの情報機関にとって看過できない情報上の空白となる可能性が高い。
また、新ソ連のシベリア方面における軍事的損耗は、北極海方面の勢力均衡にも影響を及ぼすものと考えられる。
従来、新ソ連がシベリア及び極東に保持していた軍事的プレゼンスは、北極海における同国の戦略的影響力を支える要素の一つであった。今回の損耗によって同方面への戦力配分及び継続的な軍事活動能力が低下すれば、北極海における各国の行動余地が拡大する可能性がある。
特にUSNAにとっては、北極海航路及び周辺海域における新ソ連の影響力低下が、今後の北極圏における勢力図を変化させる要因となる。
さらに、日本が今回公式に使用した戦略級魔法『海爆』についても、USNAの脅威評価に影響を与える可能性が高い。
『海爆』は海戦において最大の威力を発揮する性質を有する上、従来確認されている戦略級魔法と比較して、港湾施設及び港湾周辺に対する攻撃能力が飛躍的に高いものと評価される。
USNA西海岸はシーレーンへの依存度が高いことから、日本がこの種の戦略級魔法を実用化している事実について、従来とは異なる脅威評価を行う必要がある。
以上を総合すると、今回の情勢変化はUSNAに対して、
第一に、『ポリニトロ・クラスター』を巡る情報上の重大な空白。
第二に、新ソ連のシベリア方面における軍事的プレゼンス低下と、それに伴う北極海の勢力均衡変化。
第三に、日本が保有する海洋戦略級魔法『海爆』による港湾・海上兵站への新たな脅威。
という三つの異なる問題を同時に提示したものと評価する。
特に第三の問題については、日本の戦略級魔法能力を従来の海上目標に対する攻撃能力だけで評価することが困難となったことを意味する。
USNAが今後、日本の戦略級魔法戦力及び北極海・北太平洋方面における軍事態勢をどのように再評価するかについては、引き続き注視する必要がある。
八、日本の状況
日本は今回の一連の情勢において、想定されていた大規模な二正面攻撃を回避した。
また、自国の戦力を全面的に消耗することなく、両国間の軍事協力体制そのものを失わせたことから、戦略的には極めて有利な状態に移行したと評価する。
一方で、今回の作戦により極東地域そのものの不安定性が増大していることには留意を要する。
大亜連合及び新ソ連はいずれも短期的な対日攻撃能力を低下させているが、両国が将来的に別個の軍事行動を選択する可能性まで排除されたわけではない。
九、極東情勢全体への波及
今回の一連の戦闘によって発生した損害は、大亜連合及び新ソ連の軍事力低下に留まらず、極東全域の勢力均衡に影響を及ぼすものと考えられる。
大亜連合については、上海・広州を中心とする華南地域において甚大な被害が発生した為、大漢崩壊後三十年にわたって行われてきた再建・投資の成果も相当程度失われた。
ハバロフスク及び同地域を起点とするシベリア方面への進出は、軍事的には大亜連合にとって大戦果である。しかし、同地域から経済的利益を回収するには、占領維持のみならず、広大なインフラ網の復旧、行政機構の再構築及び現地社会の安定化を必要とする。
大亜連合は華南方面において同時に甚大な復旧需要を抱えているため、これらを並行して実施するのは困難であると考えられる。
したがって、今回獲得したシベリア方面の戦果は短期的には軍事的資産である一方、中期的には大亜連合の財政・行政能力を拘束する負担となる可能性が高い。
この結果、大亜連合が従来維持していた南方及び北方への軍事的圧力は、当面大幅に低下するものと推定する。
特に東南アジア方面に対しては、華南地域の軍事・経済的機能低下によって、大亜連合からの圧力が大幅に減衰することが予想される。東南アジア諸国にとっては、これまで大亜連合を前提として構築してきた安全保障上の想定を見直す契機となる可能性が高い。
モンゴル方面においても、大亜連合及び新ソ連双方の極東方面における軍事的損耗は、両国から受けていた圧力及び影響力を同時に低下させる結果となる。
一方、新ソ連については、ベゾブラゾフの戦死が特に大きい。
同人は新ソ連の戦略級魔法戦力において、単なる一個人を超えて重要な役割を担っていたと考えられる。加えて、シベリア・極東方面における軍事・経済基盤そのものにも甚大な損害が生じているため、同方面における新ソ連の継続的な軍事的プレゼンスは大幅に低下するものと推定する。
この結果、北極海方面においても勢力均衡の変化が生じる可能性がある。
また、日本が今回公式に使用した『海爆』についても、各国の戦略評価に与える影響は小さくない。
同魔法は海戦において最大の威力を発揮する上、港湾及びその周辺施設に対する攻撃能力が従来の戦略級魔法と比較して飛躍的に高いと考えられる。
これは、日本の戦略級魔法戦力が従来想定されていた陸上目標への攻撃能力だけでなく、海軍基地、港湾、補給拠点及び海上兵站網そのものを脅かし得ることを意味する。
以上から、本件は大亜連合及び新ソ連の軍事力を低下させただけでなく、東南アジア、モンゴル、北極海及び北太平洋を含む広範な地域の戦略環境を変化させる結果となったと評価する。
十、作戦計画との照合
事前に承認された作戦計画における主要目標は、大亜連合及び新ソ連による日本への同時攻撃能力を排除し、その後の再攻撃につながる軍事的・政治的基盤を可能な限り破壊することであった。
現時点で確認されている情勢を照合した結果、主要目標については達成されたものと判断する。
第一に、両国による日本への同時攻撃を成立させていた協力関係は、事実上機能を停止している。
第二に、大亜連合は華南及びノヴォシビルスク方面で甚大な損害を受け、短期間で日本に対する大規模攻勢を再構築する能力を失ったと考えられる。
第三に、新ソ連もまたシベリア・極東方面において大規模な損耗を受け、北海道方面への攻撃を再開するだけの余力を大幅に失ったと推定される。
第四に、両国の戦略級魔法戦力についても、ベゾブラゾフを含む重要戦力の喪失及び関連する運用基盤の損害が確認されている。
以上から、当初想定された「大亜連合と新ソ連による同時攻撃」という直近の脅威については、これを後に尾を引かせることなく排除するという作戦目的を達成したものと評価する。
なお、作戦過程において発生した各種の戦闘及び第三国への影響については、当初の計画において想定された範囲と、実際に発生した事象を区別して別途記録する必要がある。
十一、政治的帰結
本件における重要な成果の一つは、日本が両国の軍事力を低下させる目的で一連の軍事行動を直接主導したことを示す情報は確認されていない点にある。
大亜連合及び新ソ連の間で発生した一連の戦闘は、表面上は両国自身の軍事的対立として観測されている。
また、両国間に存在していた非公開の協力関係についても、その具体的内容が第三国によって完全に把握された形跡は現時点では確認されていない。
このため、日本が両国の軍事力を低下させるために直接行動したとの認識が国際的に形成される可能性は、現段階では限定的と考える。
特に欧州及びUSNAでは、それぞれ新ソ連の戦略級魔法能力、大亜連合との非公開の軍事協力、日本の新たな戦略級魔法能力等に対する独自の脅威評価が行われるものと考えられる。
結果として、日本は直近の安全保障上の脅威を大幅に低下させながら、その過程に伴う外交的・政治的負担を比較的小さく抑えることに成功したと評価できる。
これは軍事的勝利とは異なる意味で、本件作戦における重要な成果である。
十二、再発可能性及び今後のリスク
今回の作戦によって直近の脅威は排除されたものと評価するが、大亜連合及び新ソ連が将来的に再軍備を行う可能性まで否定することはできない。
特に警戒すべきは、両国が今回失った戦力を単純に補充することではなく、別の形で新たな軍事協力関係を構築する可能性である。
今回のウランバートル条約型の協力関係が再構築される場合、参加国及び協力形態が異なる可能性もあるため、今後は特定の条約や国家間関係だけではなく、戦略級魔法の共同運用、技術供与、軍事情報の共有及び非公式な兵力提供等について継続的な監視が必要となる。
また、今回の戦闘によって戦略級魔法の実戦運用に関する各国の認識も変化したと考えられる。
『ラスト・スカイ』、『海爆』、『ポリニトロ・クラスター』等、従来の戦略級魔法とは異なる用途・運用思想を持つ魔法が相次いで確認されたことから、今後各国が戦略級魔法の開発及び対策を加速させる可能性がある。
したがって、今回の作戦によって脅威そのものは排除されたものの、長期的には戦略級魔法を巡る軍拡及び情報戦が激化する可能性について留意する必要がある。
十三、最終評価
本件作戦は、当初の主要目標であった大亜連合及び新ソ連による日本への同時攻撃能力を排除し、両国による短期間での再攻撃を困難にするという点において、成功したものと評価する。
特に、両国の協力関係そのものを機能不全に陥らせた上で、それぞれの軍事的損耗を相互に拡大させた結果、単純な戦力撃破以上の効果を得ている。
また、日本側の直接的関与が表面化することなく、周辺各国がそれぞれ異なる形で情勢を再評価する状況が形成されたことも、本件における重要な成果である。
以上を総合すると、本件により設定された主要な安全保障上の脅威は、現時点において排除されたものと評価する。
今後必要となるのは、本件によって生じた新たな勢力均衡及び各国の戦略級魔法に対する脅威認識の変化を継続的に監視することである。
以上。
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