アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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19話 次に行くのはいずこ

「あ、え、はや、ぎゃっ!」

「な、なんだこいつちかっ」

「なんだよ、なんでこんな早、うげっ」

「こ、この、囲め! 囲んで叩け!」

「棒がっ! いで、いってぇ!!」

「なんだよもぉー! きいてない! つよい! こわい!」

「あだじのへるめっとがぁぁーーーー!!!!」

「ふぎゅっ」

「ぐべっ!」

「ぐにゃぁー!!」

 

 乱暴をしている。

 ごくごく簡単に形容するならば、本当にその通りにしかならない惨状だった。

 この環境下に慣れ親しんだアヤネによって、見るも無残な暴力が働かれている。

 残念ながらそれに歯止めをかける上級生がいないのが、彼女たちバキバキヘルメット団の運の尽きだった。

 

「……え、ええー……。アヤネさんって、あんな強かったのか……。あ、先生。すんません、お手数をお掛けして」

”う、ううん。私は何もできてないからね……”

 

 アヤネの運動を眺めつつ、退避してきたバシャバシャヘルメット団の話を聞くべく、先生は心持ち姿勢を正す。

 

”それで、どうしてこんなことに?”

「あの時助けてもらった後、アタシたちはここで回収を続けながら、市民の皆さんのお手伝いなんかもしてたんですけど。そこそこ羽振りが良くなったのに目を付けられて、あいつ等が乗り込んできちまって……」

”彼女たちは、それでここに……”

「はい、あいつらもヘルメット団なんですが、とにかく素行が悪いことで有名なんですよ。アタシたちだけでどうにかしたかったんですが、助けていただいちまって……」

「……ところで、なんかノンストップで棒振り回してますけど、あれもう皆ぶっ倒れてませんか」

 

 リーダーの言葉で、逸らしつつあった視線を戻す。

 そこには、大した運動にならなかったな、という顔をしたアヤネがいた。

 足元にはヘルメットをべこべこに叩きのめされ、水浸しのまま仰向けに倒れこんでいるバキバキヘルメット団たち。バキバキなのはヘルメットの方になってしまった。

 

「ふー、いっちょあがりです」

「つ、つええ……。なんだこいつぅ……」

「こいつ?」

「あ、いえ……すんません、へへ……」

「それで? どうしてこんなことを?」

「その、バシャバシャヘルメット団が最近金回りが良くなったんでぇ……。一枚噛もうと思って乗り込んでぇ……」

「なにが一枚噛もうと、だ。人気の少ない店を襲おうとしてただろうが!」

「へぇ」

 

 アヤネの声が一層冷え込む。

 この土地の管理者の一人として、聞き逃せない言葉だった。

 背筋に氷でも突っ込まれたような感覚を覚え、バキバキヘルメット団の少女は引きつった顔で必死に言葉を重ねる。

 

「あーいやジョーク! ジョークですよ! じょーだんだったんです! ね! ね! わかりますよね! ほら、こんな澄んだ瞳をした可愛らしいヘルメット団なんですよ!?」

「いっそすがすがしいくらいみっともない命乞いだな……」

「目的がどうであれ、こちらの指示に従わず抵抗したので叩きのめしただけです。これ以上無法を重ねないのなら何もしませんよ」

「へ、へへー! ありがとうごぜーやす!」

「今後、また同じように問題を起こすなら今度はこの程度ではすみませんので。済まない人も連れてくるので、そのつもりで」

「へ、へい! そ、それじゃあ私らはこの辺で、へへ……。し、失礼いたしやす!!」

 

 アヤネの念押しにびびりながらも、叩きのめされた彼女たちは動ける者が率先して他の者を引きずりながら走り去っていった。

 下半身が痙攣しっぱなしで、雨粒以外の何かが額からだらだら垂れ流されていたが。

 その様子を眺めながら、ジャバジャバのリーダーがぼやくように言う。

 

「……行っちまった。良かったのか、アヤネさん。あいつらまたやるだろ」

「その時は本物の暴力が待っています」

 

 桃色の嵐が。

 ぼそりと呟いた言葉に、リーダーがぎくりと肩を震わせた。

 

「怖いよ!?」

「冗談ですよ、その時はきちんと迷惑をかけた分の償いとして、労働に励んでいただくだけですから」

「そ、そっか……」

”ほ、ほどほどにね……”

 

 そんなトラブルはあったものの、とりあえず先生を同伴したアビドスパトロールはひとまずそれ以上の混乱を生むことなく幕を閉じたのであった。

 

 

 

「ただいま帰りましたー。ワニのお土産がありますよー」

 

 がらりと生徒会室の扉が開く。

 ビニール袋を片手に入ってきたアヤネと、それに続いてやや疲れた様子の先生。二人を認めると、ユメは袋の大きさに目を見張った。

 

「あ、お帰りアヤネちゃん、先生! うわ、おっきくない?」

「ただいまです、ユメ先輩。大きいのが一匹寄ってきちゃったので」

”アビドスって、改めてすごいところだよね……”

「はははー……私たちは慣れてるけど先生はやっぱり衝撃だよね」

「あ、市街地で他所のヘルメット団が暴れようとしてたので、ちょっと対策が必要かもしれません」

「巡回じゃ限界があるからねー。その子たちはどうしたの? ぼこぼこ?」

「そ、そんなことしてませんよ!?」

 

 ユメの遠慮も何もない一言に、アヤネの慌てた声が返る。

 実際にはぼこぼこのもうちょっと上なので訂正は正しい。上方修正が必要な方向で。

 

「前の、バシャバシャヘルメット団の皆さんと争いになりかけていたので、ちょっとお話しして帰ってもらいました」

”ちょっと……?”

「ああーあの時の助けた子たち? まだここで活動してたんだねー」

「思ったんですが、あの人たちに巡回を手伝ってもらうのはどうでしょうか? ここでの動き方が分かっているなら、戦力にはなると思うんです」

「それはいいかも。あの子たちならある程度人となりも解ってるし……。今度会ったら話してみよっか」

”学校と学籍のことで困ったら、私にも相談してね。って言っても、必要なことはわかってるだろうけど”

「ありがとうございます、先生。ところで他の皆さんは?」

「下のガレージでニュージープちゃんの改装中。オアシス沼からこぼれて出てきたやつをいっぱい狩ったから、前にセリカちゃんが言ってたみたいに装甲板とかガチャガチャ取り付けてるよ」

「ああ、ブラックマーケットで言ってた奴ですね。先生、見に行ってみます?」

”そうだね、見てみたいな”

「あ、じゃあ私も行く―! 皆に報告もあるし!」

 

 行こう、行こう。そう言うことになった。

 三人が向かったのは校舎内に設置されたガレージだ。では、セリカとシロコ、そしてノノミがせわしなくあれやこれやとパーツを弄り回している。

 

「セリカちゃんそれこっち付けよう」

「……ちょっとこっちごつすぎじゃない? もうちょっとバランスよくしましょうよ」

「ノノミ、これ」

「はーい☆ シロコちゃん投げちゃっていいですよー」

「皆どんな感じー?」

 

 機械獣たちの様々な形の装甲板を新車のジープに取り付ける三人に、ユメが声を掛けた。

 機械油にまみれた三人は、ユメ達に振り向くとひらひらと手を振る。

 

「あ、ユメ先輩。順調に改造中ですよ。アヤネちゃん、先生、お帰りなさい」

”ただいま。みんな頑張ってるね”

「ただいまです、ホシノ先輩。って、前よりごつくなってませんか?」

「うへー、ついつい盛りすぎちゃってねー」

「……バンパー辺りに衝角つけたい」

「シロコちゃん、完全にこのままぶつける前提の装備ですね♠」

「うーん、それより前にはウィンチつけたいなー。色々使う用途あるし」

「じゃあそれ用の素材分けときますね♣ 細かい備品はあとで発注掛けておきます♥」

「よろしくね、ノノミちゃん」

 

 そこで、ユメが皆の中央に立って大きく声を上げた。

 

「はい、皆ちゅうもーく!」

「どしたの、ユメ」

「私先輩で会長だぞー!! 敬いなさいシロコちゃん!」

「ふっ」

「シロコちゃんが鼻で笑った……ホシノちゃーん!!」

「そうやってすぐ泣きつくから舐められるんですよ……。シロコちゃん、一応先輩だから、ね?」

「ん、大丈夫。ユメは守るべき先輩」

 

 ぐっ、とシロコが親指を立てた。理性的な野生児にとって相手を立てることと舐めることは両立できる事柄である。

 

「なにか違う気がする……。ってそうじゃなくて! 注目! ちゅうもーく! ミレニアムのヒマリちゃんからご招待のお手紙が来ましたー!」

「メールでしたけどね。『先日収集したデータの解析が終わったので、ぜひミレニアムまでお越しいただければ幸いです。解析したデータのコピーをお渡しするとともに、我がミレニアムが誇る技術者たちとの交流を持っていただきたく、お誘い申し上げます』だそうですよ」

 

 すらすらとそらんじるアヤネに、ユメが愕然とした顔を向けた。

 

「アヤネちゃんが私のセリフを全部……!」

「昨日一緒に見たじゃないですか……。そんな目で見なくても」

「つ、次は私が司会やるから!」

「ああはい、ごめんなさい……」

”まあまあユメ、その辺で”

 

 なぜかごたごたともめ始めた二人を仲裁しに先生が割って入る中、ノノミ達は集まって招待状について話し合っていた。

 ミレニアムという科学技術の最高峰で新しい出会いを得ることはできるだろう。

 だが同時に、アビドスが持つ特異性も外にさらけ出すことになる。特に沼の奥地に生息する機械獣の主要なパーツなどは、ガラクタ拾いの外部生たちでは手に入れられず流通もしない物だ。

 

「どうします? ホシノ先輩」

「……私はアリかな。正直、あのカメレオンにはちょっと考えさせられたねー」

「丸のみ……ううっ」

「確かに、事前に察知できるような装備があれば助かりますよねー☆ でも、それでミレニアムに素材を持ち込むのもちょっと怖いですね♠」

 

 ノノミの言葉に、アヤネとユメがそちらを向く。

 

「どこでも回収できるバッテリーとかカッターとかだけにするのはどうでしょう? それならヘルメット団や他の生徒さんも回収してますし、状態の良い物を持ち込めば違う意見がもらえるかもしれません」

「そうだね、そうしよっか。アヤネちゃんに賛成の人―」

 

 返答は全員揃っての挙手だった。

 音頭を取ったユメが一つ頷いて、

 

「……はい、全員賛成ね! それじゃあ荷物もってそっちに行くって返事しちゃうね! 日取りは……理事さんのところが動いてる日がいいかな」

「それと例のバシャバシャヘルメット団の皆さんにも依頼を出しましょう。最近頑張っているみたいですし、簡単な巡回くらいなら任せてもいいかもしれません」

「じゃあそういう感じで! 皆、銃は忘れずにね!」

「また持ってくのめんどくさいわね……」

「弾薬ベルト重いんですよねー♦」

「ジープに放り込んでおくからへーき」

「さすがに持ち歩きましょうね、シロコ先輩……」

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