あの出来事から、もう何年経っただろうか。
忙しすぎて数える暇もなかった。
もっとも星によって時間の流れも違う以上あんまり気にしても仕方ないことかもしれないけど。
それで今、私は懐かしいかつてシステムと呼ばれた超大規模魔術が展開されていた星の土を踏んでいる。
あいつが冥土さんに捕まってどっか行った隙を見計らいあいつが仕掛けた無数の脱走防止トラップを乗り越えなんとかここまでやってきた。
トラップの難易度がちょうど私が全力を尽くしてギリギリ対処できるかできないかくらいの難易度だったのは置いておこう、逃げるとこまであいつの想定通りなんて気分悪いけど。
いやね、帰ってくるつもりもそんなになかったんだけどさ。
この星は今はギュリギュリ管轄とはいえ、一応Dの領域ではあるし発見されるリスクはあるし。
だけど、まだやり残したことがあるからね。
そこをスッキリさせとかないと気持ちよく逃避行も出来ない。
転移した先、1件の小さな家の前には墓石があった。
刻まれた名はアリエル、そしてサリエル。
定期的に誰かが来ているのか、墓石は苔1つ生えることなくピカピカで、いくつかの花も添えられている。
家の中には誰も住んでいる様子はない、おそらくこの墓石の主達が、つまり魔王と女神サリエルが最期のときを過ごした家だろう。
「間に合わなかったか」
予想はしてたことだ、むしろ間に合うなんて都合のいい妄想がすぎる。
魔王も女神も、あれだけ魂も肉体も酷使仕切ったんだ、寿命なんて数年保てば御の字ってところ。
「ただいま、お祖母ちゃん」
出来れば生前に、ちゃんとした別れの挨拶しておきたかったなんてのは贅沢すぎる悩みだろう。
だからこそ、せめて死後くらいはしっかりと。
糸で花を作る。
造花だけど、本物よりずっと長持ちするし綺麗だ。
何より、蜘蛛の女王様には蜘蛛糸の供え物がよく似合う。
目的は果たした。
この星に長居してしかたないし、早めに逃げなければ。
「もう行くのか」
と、背後から声がかけられる。
いや見てるの知ってたけどこのつかの間を邪魔するような空気の読めない男じゃなかったらしい。
ゆっくりと背後を振り返る。
そこには全身真っ黒の、どこか私が知ってるよりも雰囲気が柔らかくなった人物が立っていた。
「……ずいぶんと強くなったな。もはや私では勝ちの目を見いだせん。この短期間でこれほどとは」
うん、確かにDのもとで死ぬような修行を積んできた私はかつてよりずいぶん強くなってる。
でも勝ちの目を見いだせないってのは流石に謙遜だろう、ギュリギュリだってかなり成長してるのがわかる。
とはいえ、別に私コイツと仲良く話す間柄でもないしさっさと行ってしまおう。
「そうか、では達者でな白織」
なんて別れの声を背中で受けながら転移を発動、とりあえずは宇宙空間に出て適当な支配されてない星を探さない……と。
あれ?
転移した先は宇宙空間でもなんでもない、ごく普通の一軒家に見える場所だ。
というかDの、若葉姫色の家だ。
「おかえりなさい、休暇は終わりですよ白織」
……ははは、私の転移をいじって違和感を与えることもなく行き先だけ変えたってこと?
はぁ……コイツの元から脱走するにはもうしばらく先になるみたい。
定期的に、私達は雪山の城から降りここまでやってくる。
お墓を磨き、花を添え、家の方も掃除をする。
そんないつもの光景の中、普段とは違うものが目に入る。
供えられた真っ白な、とても美しい花。
ここには私達以外、お墓参りなんてしにくるはずもないのだけれど。
そっとその花を手に取ってみる。
「ねぇアエル、これって?」
ついてきた四姉妹のうちの長女は、私の言葉に首を縦に振る。
やっぱりそうか。
「まったく、帰ってきてたなら顔くらい見せなさいよバカ」