家庭科の授業が終わってから幾ばくかの時間が経った頃。
(あ〜んの威力エグすぎる……マジで可愛すぎる!)
俺の頭の中は、先程の一件で一杯だった。
だが、それも仕方ない。
だって、女の子からあ〜んをされたんだぞ?
しかも、好きな女の子から。
そう簡単に忘れるわけがない。
というか、絶対に忘れない。
死ぬまで脳内フォルダの最奥に保存確定だ。
「ここの文章は──」
「…………っ」
現代文の解説を聞かなければ分かっているのに、未だに情報処理が出来てないせいか、右から左へと流れていく。
とりあえず、俺はそんな自分を落ち着かせるため、シャーペンでノートの端をカリカリと意味もなく往復させる。
数分ほどそうしていただろうか?
(嬉しい…………嬉しいが。何でされたのかマジで分からん)
ほんの少し落ち着いてきた俺はようやっと、一番大きな問題に向き合った。
悪いが、遅すぎるという指摘は受け付けない。
自分でもそんな事は分かっているが、今の今まで何とか取り繕うので精一杯だったのだ。勘弁して欲しい。
さて、話を本題に戻すが、何故田中さんは俺にあんな事をしてきたのだろう?
Q:友達と美味しい物を共有したかった?
A:可愛いかよ。
Q:ハンバーグが上手く出来た事を自慢したかった?
A:可愛過ぎるかよ。
Q:実は俺に好意がある?
A:多分友達としてだろうけど、最高かよ。
うん。
色々考えてみたがよく分からん。
が、とにかく俺にとっては最高だったということだけは分かった。
後は、田中さんからの好感度は悪くなさそうだということも。
いくら田中さんが優しいと言っても、嫌いな相手にはこんなことしないだろう。
少なくとも友人かちょっと上くらいには思ってもらえているはず……だ。
いや、そう思いたい。
違ったらマジで凹む。
(真意を確かめたいけど、『何でしたんだ?』って質問するのって、『俺のこと好きなのか?』って聞いてるみたいで無理。ナルシストかよ、おい)
心を覗ける能力でもあればな、と田中さんの方をチラッと窺えば、黒板をの方を見て淡々とシャーペンを動かしていた。
(実際、田中さんからしてみれば友人同士の触れ合いだったのかもな)
田中さんの平然としているおかげで、かなり頭が冷静になった。
あまり意識されていないのは悲しいが、まだアプローチらしいアプローチをしていないのだから当然だったわ。
というか、ノートを見ずに板書してるの凄えな。
俺はシャーペンから消しゴムに持ち変え、ノートの端にある暗黒物質を消していく。
その際、隣にいた田中さんも同時に消しゴムで何かを消していた。
やっぱり、ノートを見ずに書くのは田中さんでもちょっと難しかったのかもれしない。
結構長い時間やってるってことは、最近挑戦し始めたのかも。
(俺もやってみよ)
微かに残っている熱を落ち着けるのには丁度いいと思った俺は、黒板に視線を固定し、授業終わりまで続けるのだった。
結果としてはめちゃくちゃ汚いノートが出来た。
「まぁ、最初はこんなもんだろ」
「どうした?何かの絵の練習か?」
「……そんなところだ」
ロッカーにある鞄を取りに行く途中の友人に、素直に事情説明をするのは憚られて、俺は言葉を濁してノートを閉じた。
それから、俺もロッカーへ体操服の入った袋を回収して、教科書とノート、筆を鞄に放り込んだ。
そう。
今日は現代文の授業で、学校が終わりなのである。
まぁ、その分いつもよりバイトの時間が長くなってるんだが。
将来、田中さんへ貢ぐお金が増えると思えば悪くない。
「じゃあな」
「おう、またな中山」
「田中さんもまた明日」
「は、はい。また明日」
俺は周りの人達に別れを告げ、自転車置き場へ向かった。
そして、鞄を籠に入れたところで、「待ってください!?」と俺を引き止める声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには見覚えのある手提げ袋を持った田中さんの姿が。
……完全にエプロンのこと忘れてた。
「ハァハァ、中山君、これ、忘れ物です」
「お、おう。ありがとう田中さん。助かった」
ドジっ子のイメージが付いてしまったかと内心ヒヤヒヤしつつ、手提げを受け取る。
しかし、田中さんは俺を揶揄うことはなく、「いえ、間に合って良かったです」と安堵の笑みを浮かべた。
(マジで天使や)
あまりの性格の良さに俺は浄化された。
心の中が、『田中さん好き』以外のことが無くなるくらい真っ白に。
出来れば小一時間ほど田中さんに感謝の言葉を紡ぎたいが、生憎と出勤時間は待ってくれない。
せめてもの抵抗として、俺は手提げを籠に突っ込みながら「お礼がしたいんだが、今日はバイトがあるから明日なんか買ってくる。リクエストとかあるか?」と尋ねた。
「えっと、その」
彼女の性格的に大したことをしたと思っていなかったろだろう。
言葉を詰まらせる田中さん。
しばらく、彼女はあっちこっちへ視線を飛ばした後、やがて恥ずかしそうに下を向いた。
「あの、物はいらないので。途中まで……一緒に帰ってもらってもいいですか?」
不安そうな眼差しと共に紡がれたのは、まさかの提案。
当然ながら俺は困惑した。
今まで田中さんから一度もそんなお誘いをされた事はなかったんだ。
無理もない。
頭の中がまた別の意味で真っ白になった。
そんな状況下で、いつの間にか俺の口は動き出して。
「いいぞ」
と、勝手なことをほざいていたのだった。
お久しぶりの更新になって申し訳ありません。
色々作業がありまして、こうなってしまいました。
ですが、朗報です。
なんと、その作業の一部である田中さんの書籍が今月の2月25日に発売されます。
大変可愛らしいイラストとなっておりますので興味がある方は買ってもらえると嬉しいです。
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