非実在青モモイ   作:吾妻西紀

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距離感は縮むよ、何処までも

 モモイは激怒した。

 

 必ずやかの冷酷な算術使いに物申すと決意した。

 

 モモイに学園の事情は分からぬ。モモイはゲーム開発部の部員である。ゲームを作り、ゲームで遊んで暮らしてきた。けれども廃部勧告に対しては、人一倍に敏感であった。なので、モモイは数週間ほど前に廃部をひっくり返す一手を打つべく、とあるツールを巡ってセミナーに襲撃を掛けたのだが…

 

 「…まさか今さらセミナー襲撃の件でお小言を食らうなんて…!」

 

 「まぁ…お小言で済んで良かったんじゃない?」

 

 「良くなーい!折角アオお姉ちゃんにゲームのイロハを教える良い機会だったのに!何だかんだ3時間強も捕まってたじゃん!」

 

 買い出し中にセミナー会計・早瀬ユウカに遭遇。セミナー襲撃の件で聞きたいことがあると言われ、一時拘束を食らってしまった。午後一番に買い出しに出たと言うのに、時刻は既に15時を過ぎている。

 

 「アオお姉ちゃん暇してないかなぁ…」

 

 「いや、アリスちゃんが居るなら大丈夫でしょ。多分ゲーム引っ張り出してきて一緒にやってると思うよ」

 

 「……………う゛ら゛や゛ま゛し゛ぃ゛!!」

 

 「いや…どっちなのさ…暇しててほしいの?暇しててほしくないの?」

 

 「暇しててほしくないけど!私もアオお姉ちゃんとゲームがしたい!!」

 

 「はいはい…ほら、部室に急ぐよ」

 

 頭の中でユウカに対する恨み言を溢しながら、私は目的地に向けて駆け出す。買い出しの袋を揺らしながら暫く走っていると、ようやくゲーム開発部の部室の扉が見えてきた。

 

 「ただいま~!遅れてごめん!途中でユウカに…」

 

 捕まっちゃってと、言おうとして目の前の光景に思わず固まる。後からやってきたミドリが私を押し退けて部室の中へと入っていった。

 

 「あ、ユズちゃん。出てきたんだ」

 

 「うん。今、アオにコンボを教えててね」

 

 「アオがコマンド入力ミスをしなくなってきました!」

 

 「いや、これ以外と難しいぞ…?というか、どんな攻撃をしてもブロッキングされるのはいったいどういう…?」

 

 「慣れ…かな?」

 

 「慣れ」

 

 アオお姉ちゃんが、アリスとユズに囲まれてゲームを教え込まれている。私が最初にゲームを教えるつもりだったのに!…というかユズとアオお姉ちゃん、なんか距離近くない?

 

 色々な考えが頭の中を渦巻いた結果、私が出した結論は…

 

 「うわぁん!!ユズにアオお姉ちゃん取られた!!」

 

 「……!?!!?!?」

 

 「……なんかモモイがごめんな?」

 

 結局この後アオお姉ちゃんにどのゲームをやらせるかでゲーム合戦が勃発。珍しくユズが本気かつ全力で勝ちを狙いにいく姿を目撃することになるのだった。

 


 

 「ということで…昨日からサウンドクリエイターとして、ゲーム開発部に加入しました才羽アオです」

 

 「本当にそっくり…」

 

 「三つ子だったんですねぇ…」

 

 翌日、私は入部届を提出しに中央にあるミレニアムタワーを訪れていた。本当はモモイ達が付き合ってくれるという話だったのだけれど、そろそろゲーム作りに本腰を入れないと〆切が…との話だったので一人で来ることにした。ずっとモモイにベッタリというわけにもいかないからな。

 

 そんなこんなでミレニアムの生徒会であるセミナーに辿り着いた私は入部届を提出する場所を探して、近くに居たセミナーの生徒さんに話し掛けたわけなのだが、どうやらモモイとミドリの知り合いだったようだ。

 

 「私は早瀬ユウカ。セミナーで会計を担当しているわ」

 

 「私は生塩ノアです。書記を担当しています」

 

 ユウカ先輩とノア先輩。なるほど、確かにモモイの会話に出てきた覚えがある。…ノア先輩はまだしも、ユウカ先輩は呼び捨てにされていたような気がするのだが…。もしかしなくてもかなり失礼を働いているのではないだろうか。

 

 「何かうちのモモイ達がご迷惑をお掛けしていませんか?」

 

 「………」

 

 「………」

 

 「無言」

 

 「あ、いや!えーと…そうね…。友達想いの良い子達…だとは思うわ!」

 

 「そうですね。凄く…友達想いで…」

 

 普段の素行が徹底的に濁されている!?一体何をやらかしたんだモモイ!!明後日の方向に目線を彷徨わせながらモモイ達の評価を口にするユウカ先輩達の顔には、明らかな気遣いが浮かんでいた。これは…後で問い質す必要が出てきたな…。

 

 「すみません…うちの妹達が…」

 

 「…貴方も苦労してるのね」

 

 「悪い子ではないんです…」

 

 「それは…分かります。ね、ユウカちゃん」

 

 「そうね…」

 

 しかも反応を見るに初犯ではなさそうなのが何とも。モモイはともかくミドリやユズはその辺りしっかりしてそうだったのに!アリスがノリノリで荷担しそうなのは分かるが!ゲーム開発部の動向に思わず目眩を覚えつつも私はセミナーに来た用事を思い出し、持ってきた書類を取り出した。

 

 「あら…それは」

 

 「ゲーム開発部の入部届なんですけど、提出する場所が分からなくて…」

 

 「それなら私の部署ですね。お預かりしますよ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 よし、これで目的は達成した。これで後は部室に戻るだけ…というところで、ぐぅと私の腹の虫が声を上げた。はっと顔を上げると、ユウカ先輩とノア先輩が顔を見合わせてクスクスと笑っていた。は、恥ずかしい…!

 

 「折角だから、一緒にお昼はどうかしら?」

 

 「学食まで案内しますよ~」

 

 「う…お、お願いします」

 

 先輩達のお誘いを受け、私は本校舎にある学食へと向かった。昼過ぎだったので生徒がごった返しているのではないかと思っていたが、予想以上に人は捌けており料理を受け取った後はスムーズにテーブルに着くことができた。

 

 「それで、あの子達についての話が聞きたいのよね?」

 

 「う゛っ…お願いしたいです…」

 

 「そうね…まずは…」

 

 それからユウカ先輩が話してくれたのは、私が来るまでのゲーム開発部の軌跡。

 

 部員が三人しかおらず、廃部の危機にあったこと。アリスがゲーム開発部に入部して即時廃部こそ免れたものの、部活としての業績が足りず相変わらず廃部の瀬戸際に立たされていたこと。ゲームを作る過程でとあるファイルを開けるために必要なツールがセミナーにあることを知り、協力者を募ってセミナーに襲撃を掛けたこと。

 

 「襲撃…ですか」

 

 「あの時は大変だったわ…」

 

 「エンジニア部やヴェリタス、シャーレの先生もモモイちゃん達の味方をしてましたからね…」

 

 「何してるんですか先生…」

 

 結局、虎の子の筈だったそのファイルのテキストは役に立たず、自力でゲーム作りに邁進したという。その結果、ミレニアムプライスという発表の場で特別賞を受賞し、廃部は取り消しになったとのこと。…人様に迷惑を掛けていたことに頭を抱えれば良いのか、自分達の力で居場所を守ったということを誇らしく思えば良いのか、中々難しいラインの話だった。

 

 「その…やっぱりご迷惑をお掛けして…すみません…」

 

 「まぁ、あの時はとんでもない!って思ってたけど…あの子達にもあの子達なりの事情があったのは分かっているし…何よりきちんと結果を出したわけだから、今さらどうこう言うつもりはないわよ」

 

 「あれ?でも確か昨日ユウカちゃん…」

 

 「あの時損壊させられたミレニアムタワーの改修費と警備ロボットの修理費については少し"お話"したけど!!」

 

 「アッハイ」

 

 何というか…ユウカ先輩も苦労人気質な人だなぁと思う。あと、それはそれとして優しい。なるほど…

 

 「モモイが懐くわけですね…」

 

 「え?誰に?」

 

 「え、ユウカ先輩にですけど…?」

 

 「私に?」

 

 「モモイが本当に苦手意識を持っていたらそもそも話題に上がったりしませんからね。定期的にユウカ先輩の話をしていますよ?それだけ信頼してるということでは?」

 

 そう言うとユウカ先輩は目を丸くして、やがて優しい笑顔を浮かべるのだった。もしかして嫌われていると思っていたのだろうか?

 

 …結局、貴重な話を聞かせてもらった上にお昼までご馳走になってしまった。次に二人に会うときは何か菓子折りの一つや二つ持っていかないとな。

 

 「それでは、また」

 

 「うん、またね」

 

 「またお昼をご一緒出来るのを楽しみにしていますね」

 

 二人と分かれてゲーム開発部に戻る。

 

 さて、セミナー襲撃についてなんと問い質そうかと頭を悩ませる今日この頃なのだった。

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