思いつきで書きました。

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 きゃー! やったー!

 あたし、選ばれちゃった!

 

 村のおじいちゃんたちが発表した瞬間、もう嬉しくて嬉しくて、その場で踊っちゃった。十年に一度の神聖な儀式で選ばれるなんて! こんな素晴らしいことあるかしら。

 

 あたし、ユキノ。十七歳。村で一番綺麗に育った女の子。

 ギドラ様の捧げものになることが決まったの。

 

 お母さんなんて感激のあまり泣き崩れてしまったわ。そうよね、自分の娘がこんなに清らかに育ったなんて。誇らしくて涙が止まらないのよね。

 村のみんなも口々に「ユキノちゃん、きっと素晴らしいわよ」「ギドラ様もお喜びになるでしょう」って。特に同年代の女の子たちの羨望の眼差しときたら! みんな、あたしみたいに綺麗になりたくて仕方ないのね。

 でも仕方ないの。最高の捧げものになれるのは、十年に一人だけ。あたしが一番清らかに育ったのよ。

 

 ギドラ様はあたしたちの慈愛深い星の神。大昔、天から光る星と共に降臨して、以来ずっと村を愛し、守り続けてくださってる。

 そして十年に一度、最も清らかに育った娘を、愛情込めて受け入れてくださる。これ以上の愛があるかしら。

 

 村の神社には、捧げ物になった女性たちの名前が刻まれてる。

 二十年前のミサキさん、三十年前のチヅルさん、四十年前のアイコさん……みんな、ギドラ様に愛情深く受け入れていただいた方々。

 ハナコおばあちゃんがよく話してくれるの。

 

「ミサキちゃんはねぇ、選ばれた時すごく喜んでたのよ。『やっと私も星の神様に愛していただける』って」

「チヅルちゃんは儀式の日、『きっと素晴らしい捧げものになります』って微笑んでたねぇ」

 

 素敵な話でしょう? みんな、最期まで自分の運命を誇りに思ってたのよ。あたしも同じように、最高の存在として迎えていただくの。

 村のお墓には彼女たちのお墓がないけど、それは当然よね。神聖な存在になった人にお墓なんて必要ないもの。みんなギドラ様と一体になって、永遠の命を得てるんですもの。

 村の人たちは、あたしが選ばれてからというもの、みんなとっても嬉しそう。

 

「ユキノちゃん、きっと美味しいわよ」

「ギドラ様もご満足なさるでしょう」

「私たちの村の最高級の捧げものですものね」

 

 道を歩けば、みんなが嬉しそうに声をかけてくれる。これもきっと、あたしが最高の捧げ物だからだわ。

 子供たちも目をキラキラさせて、あたしを見つめてる。綺麗で清らかなものへの憧れの眼差し。

 

「ユキノお姉ちゃん、幸せそう!」

 

 タロウが嬉しそうに言う。

 

「あたしも大きくなったら、ユキノお姉ちゃんみたいに幸せになりたい!」

 

 カノンちゃんも目を輝かせてる。でも残念ね、十年に一人しか捧げものにはなれないのよ。

 お母さんなんて毎日嬉しそう。こんなに清らかな娘を育てたんですもの、当然よね。

 

「ユキノ、あなたは本当に美しく育ったわね」

 

 お母さんの目は誇らしげに輝いてる。

 

「近所の奥さんたちも羨ましがってるわよ。『ユキノちゃんは特別清らか』って」

 

 そうでしょう、そうでしょう。あたし、特別に綺麗に育ったもの。

 

「サクラの時もみんなが褒めてくれたけど、ユキノも負けてないわ」

「姉さまも美しかったの?」

「ええ。でもあなたも同じくらい、いえ、それ以上かもしれないわね」

 

 お母さんは愛おしそうにあたしを見つめる。こんなに清らかな娘を育てた誇りで胸がいっぱいなのね。

 夜中、お母さんが嬉しくて眠れないみたいで、隣の部屋から時々声が聞こえる。

 

「たわわに育って……ギドラ様もお喜びになるでしょう……」

 

 あたしの姉のサクラ姉さまも十年前に選ばれて、ギドラ様に迎えていただいた。

 村の人たちは「サクラは素晴らしい捧げものでしたでしょうねぇ」って言うの。素敵な褒め言葉よね。きっと今頃、ギドラ様と一体になって幸せに過ごしてるわ。

 あたしも同じように神聖な存在になれるなんて。もう、夢みたいだわ!

 

 

 幼なじみのハルオくんが、とんでもない勘違いをしてるの。

 

「ユキノ、一緒に村を出よう」

 

 出る? なんで? こんなに清らかに育ったのに?

 あたしが聞き返すと、ハルオくんは神妙な顔でこう言うの。

 

「ギドラに食われちゃうんだぞ」

 

 食われる? それが何か問題でも? あたしはギドラ様から愛されるために生まれてきたのよ。それが一番幸せなことなのに。

 

「お前が死んでしまう」

 

 死ぬ? 変な言葉ね。あたしは神聖な存在になるのよ。ギドラ様と一体になって、永遠に生き続けるの。

 そう答えると、ハルオくんは困った顔をしていた。きっと、男の子だからギドラ様に選ばれないのが羨ましいのね。かわいそうに。

 

「俺の話を聞いてくれ」

 

 聞いているよ。けれど、意味がわからないの。星の神様から愛されることの何が悪いのかしら。

 ハルオくんはその後もしつこくやって来た。

 

「ユキノ、頼む。俺と一緒に逃げよう。サクラ姉さんだって、ミサキさんだって、みんな食われて死んだんだ!」

 

 食われて死んだ? なにを言っているの。みんな優しく受け入れていただいて、神聖な存在になったのよ。最高の幸せじゃない。

 ハルオくんは膝をついて、あたしの手を握った。

 

「お願いだ。ギドラは宇宙から来た人食いの怪物なんだ……っ!」

 

 人食い? 怪物? 失礼な言葉ね。

 ギドラ様は星の彼方から降臨された慈愛深い至高(いとたか)き御方よ。あたしたちを愛情込めて育てて、一番美しい時に迎えてくださるの。

 あたしは手を振り払った。

 

「ハルオくん、そんな汚い言葉を使わないで。ギドラ様から愛されることがどんなに素晴らしいことか、わからないのね」

 

 ハルオくんの顔が真っ青になった。きっと自分が選ばれないから、嫉妬してるのね。

 

「ユキノ……どうかお願いだ」

 

 ハルオくんは土下座した。みんなの前で。恥ずかしい人ね。

 

「俺と結婚してくれ。今すぐに。そうすれば食われずに済む」

 

 食われずに済む? なんで? あたしは美味しく食べられたいのに。

 

「頼む……このままじゃお前は本当に食い殺されてしまう……!」

 

 食い殺される? また下品な言葉。あたしは愛情込めて調理されて、美味しく召し上がっていただくの。最高の捧げものになるのよ。

 

「村の人たちも本当は知ってるんだ! でも誰も止めようとしない!」

 

 止める? なんで? 村の人たちもハルオくんを見て、困った顔をしてる。

 

「ハルオくん、ユキノちゃんの邪魔をしちゃダメよ」

「せっかく美味しく育ったのに」

「ギドラ様もお待ちになってるでしょうに」

 

 みんな、あたしの幸せを心配してくれてる。

 ハルオくんは力なく立ち上がった。

 

「みんな、狂ってるよ……!」

 

 狂ってる? ハルオくんこそ変よ。ギドラ様から美味しく食べられることの素晴らしさがわからないなんて。

 お母さんも困った顔をしてる。

 

「ハルオくん、ユキノの邪魔をしないで。明日は大切な日なんだよ」

 

 ハルオくんは膝から崩れ落ちた。

 

「おばさんまで……どうして娘が食われることを……」

 

 お母さんは優しく言った。

 

「ハルオくん、ユキノは星の神様に愛されるのよ。母親として、これ以上誇らしいことはないわ」

 

 ハルオくんは何も言えなくなった。あたしたちの幸せが理解できないのね、かわいそうに。

 

 

 そんなことはさておき今夜はお祝いの特別料理。お母さんが腕によりをかけて作ってくれた。

 たけのこご飯、甘い卵焼き、山菜の天ぷら。どれも美味しくて、明日はあたしがこんな風に素晴らしい存在になるのね。

 

「美味しいわ、お母さん。ありがとう」

 

 お母さんは嬉しそうに微笑んでる。

 

「ユキノ、明日はいよいよね。あなたも神聖な存在になるのよ」

「楽しみ! どんな気持ちになるのかしら」

「きっと最高に幸せになるわ。サクラの時もギドラ様は大変お喜びになったそうだから」

 

 お母さんの目は誇らしさで輝いてる。

 

 

 今日はいよいよ!

 村のお姉さまたちが、あたしを完璧な捧げものにするための準備をしてくれる。

 まず村の泉でお清め。体の汚れをきれいに洗い流して、神聖な存在にふさわしい清潔な体にするの。

 

「ユキノちゃん、お肌がつやつやね」

「素晴らしいわよ」

「きっとギドラ様もご満足なさるでしょう」

 

 みんな、あたしを褒めてくれる。こんなに嬉しいことは無いわ。

 それから特別な白い着物。これは代々、選ばれた女の子が着る神聖なもの。まるで花嫁衣装みたい。

 

「この着物、前に着たのはサクラちゃんだったのよ」

 

 ミナおばさんが嬉しそうに言う。

 

「サクラ姉さまも、きっと美しかったでしょうね」

「ええ、とても清らかだった。ギドラ様も大変お喜びになったそうよ」

 

 ミナおばさんは感激で目を潤ませてる。

 髪には白い花を飾る。まるで神聖な儀式の装飾みたい。百合、桜、椿……どれも清らかで美しい。

 

「完璧な花嫁ね」

「ギドラ様への最高の捧げものよ」

 

 鏡を見ると、そこには神々しく仕上がった自分がいる。もう完璧。ギドラ様もきっと愛してくださるわ。

 そして満月の夜。いよいよ神聖な儀式の時。

 村中の人が松明を持って、あたしを星降りの谷まで送ってくれる。婚礼の行列みたいよね。

 みんな嬉しそうで誇らしげな表情。こんな神聖な儀式に立ち会えるなんて、村の人たちも幸せそう。

 

「ユキノちゃん、美しいわね」

「私たちの村の最も清らかな存在よ」

「ギドラ様もお喜びになるでしょう」

 

 みんなが口々に褒めてくれる。

 松明の仄かな光に照らされて、あたしは星降りの谷に向かって歩いている。村中の人たちが祝福してくれて、まるで天国への階段を登ってるみたい。

 でも突然、後ろから必死な声がした。

 

「ユキノ!」

 

 振り返ると、ハルオくんが村人に押し止められながら、手を伸ばしてる。

 ああ、可哀想に。まだあんな辛そうな顔をして。

 

「やめろ! みんな、正気に戻るんだアッ!!」

 

 あたしは心から同情した。こんなに素晴らしい瞬間を理解できないなんて、どんなに寂しいでしょう。

 

「……ハルオくん」

 

 あたしは慈愛に満ちた微笑みを向けた。

 

「邪魔しないで。あたし、今からギドラ様に愛していただくの」

「ユキノ、お前は死ぬんだ! 殺されてしまうんだぞ!?」

 

 ……本当に可哀想な人ね。愛されるということの意味を、まるで理解していないのだわ。

 

「違うのよ、ハルオくん」

 

 あたしは優しく首を振った。

 

「あたしは愛されるの。こんなに幸せなことってないのよ」

 

 そしてあたしは行列の先頭に戻って、もう振り返らなかった。

 ハルオくんの叫び声が遠ざかっていく。可哀想に、最後まで理解できないのね。

 星降りの谷、その谷底に据えられた石舞台へと辿り着くと、村の人たちは少し離れた場所で見守ってくれていた。みんなの顔が松明の光に照らされて、期待に満ちてる。

 ここからは、あたし一人でギドラ様の元に向かうの。

 谷の底の石舞台は、大昔に天から堕ちてきた巨大な星の欠片で出来ているという。その周りは鏡のように静かで、満月が美しく岩肌に反射してる。ああ、今宵に相応しい舞台だわ。

 

「……ギドラ様」

 

 あたしは石舞台の中央に向かって呼びかける。

 

「ユキノです。あなたの捧げものとして参りました」

 

 やがて石舞台がきらめき始めた。深い金色の光が神石の奥底から湧き上がってくる。

 ああ、来てくださる。ギドラ様が。

 大地が震え、巨大な影が石舞台から現れる。

 

「時、来たれり……!」

 

 まず現れたのは、三つの美しい頭。それぞれに赤い瞳が光る、慈愛深い眼差し。

 続いて巨大な胴体が。宇宙の王のような、威厳ある姿。

 そして全身が立ち上がった。数十メートルはある巨躯、二股の尾、背中の雄大な翼。三つの首が見目麗しく揺れている。まさに星の神そのもの。

 ギドラ様があたしを見下ろしてくださる。三つの頭がそれぞれ違う角度からあたしを見つめてる。

 その視線に込められた想いを感じて、あたしは心から打ち震えた。ああ、愛してくださっているのだわ。

 

「美しい」「とても清らか」「素晴らしい娘だ」

 

 心の中に、ギドラ様の三つの声が響く。なんて嬉しいお言葉かしら。

 

「ありがとうございます、ギドラ様。最高に美しく育ててもらいました」

「怖くはないか?」「恐れはないか?」「不安はないか?」

 

 ああ、気遣ってくださるなんてなんてお優しいのかしら。歓喜に胸をいっぱいにしながら、あたしは答えた。

 

「怖いなんて、とんでもございません。星の神様に愛していただけるなんて、最高の幸福です」

「なぜそう思う?」「どうしてそう考える?」「理由は何だ?」

「だって、あなたに愛していただけるのですもの。最高の瞬間です」

 

 ギドラ様の三つの瞳が満足そうに細められる。きっと、あたしの清らかさに満足してくださったのね。

 

「お前の姉も、同じように美しかった」

 

 サクラ姉さまのことだわ。あたしは嬉しさでいっぱいになった。あたしの大好きなお姉さま、そのこともギドラ様は覚えててくださったのだわ。

 

「サクラ姉様も、愛していただけたのですね。どんな感じでしたか?」

 

 あたしからの問い掛けに、ギドラ様は御答えになられた。

 

「サクラも絶品だった」「最高の存在だった」「忘れられない美しさだった」「お前も同じように美しいだろう」

 

 ああ、素晴らしい。あたしも姉様と同じように、愛していただけるのね。

 

「喜んで受け入れていただきます」

 

 ギドラ様は三つの大きなお口を開けてくださった。それぞれに黄金色の牙が見える。ああ、あの牙で愛されるのね。

 あたしは迷わず、ギドラ様の御口に向かって歩く。

 その瞬間、ギドラ様の三つの頭が一斉にあたしを優しく包み込んだ。痛みはない。まるで愛情に包まれるような温かさ。

 これが神聖な儀式なのね。こんなに優しいものだったなんて。

 体がゆっくりと溶けていく。魂も肉体と一緒に、ギドラ様と一体になっていく。

 最後に村の方を振り返る。松明に照らされた村人たちの顔が見える。みんな、あたしが愛されるのを見守ってくれてる。

 

 ありがとう、みんな。あたしは今、最高に幸せよ。

 

 意識が溶けていく中で、ギドラ様の三つの声が聞こえる。

 

「美しい魂よ」「永遠に我が一部となれ」「栄えある終焉を……!」

 

 ああ、これぞまさしく黄金の終焉。なんて素敵なのかしら。あたしはギドラ様の一部になれるのね。

 

 

 今、あたしはギドラ様と一体となって、星の中にいる。

 魂だけの存在だけど、こんなに幸せなことはない。ギドラ様の一部となって、永遠に神様と共に生き続けてる。

 村を見下ろしていると、みんなが相変わらず元気にしてる。きっとあたしが素晴らしい捧げものだったから、ギドラ様もご機嫌で、村を守ってくださってるのね。

 お母さんは時々星降りの谷のほとりに来て、あたしに話しかけてくれる。

 

「ユキノ、美しかったでしょうね」

 

 もちろんよ、お母さん。最高に美しかったわ。

 ハルオくんは結婚して、かわいい奥さんと赤ちゃんができた。よかったわね。でも時々、星降りの谷を見つめて変な顔をしてる。まだあたしが愛されたことが納得できていないのかしら。

 村はずっと平和で豊か。あたしが星の神様の一部になって、ギドラ様が満足してくださってるからよ。

 あたしの前に愛されたミサキさん、チヅルさん、アイコさん、そしてサクラ姉さまともお会いできた。みんな、あたしと同じようにギドラ様の一部として幸せそう。

 

「ユキノちゃん、愛してもらえてよかったわね」

「こちらの世界は素晴らしいでしょう」

 

 本当に素晴らしい。星の神に愛された者だけが知ることのできる、究極の幸福。

 十年後には、また新しい女の子が選ばれるでしょう。

 

 もしもあなたが選ばれたら、心から喜んで。これ以上栄えある存在になれる栄誉はないの。

 家族や友達は泣くかもしれないけど、それはきっと嬉し涙よ。あなたがこんなに清らかに育ったということの証拠。

 ギドラ様はとても素晴らしい星の神様。三つの頭で、あなたを心から愛して、最高に美しく迎えてくださる。

 怖がることなんて何もない。神聖な儀式は宇宙で一番優しく、素晴らしいことなのだから。

 あたしたち先輩がここで待ってる。一緒に、ギドラ様の一部として永遠を過ごしましょう。

 

 早く来てね。きっと、あなたも最高に美しくなるわ。

 

ユキノより

ギドラ様に愛された神聖な存在として

 

 

 この手記はとある村にあるという『星降りの谷』の祠で発見された。

 筆跡は興奮と喜びに満ちており、特に「美しい」「愛される」という単語が異常に多用されている。紙の随所に赤黒いシミがついており、分析の結果、人間の血液であることが判明した。

 手記発見時、モナークの調査団が村を訪れたが、住民は全員行方不明となっていた。現在も星降りの谷からは時折、若い女性の笑い声が聞こえるという報告が後を絶たない。

 

 なお、谷底で発見された巨大な石舞台だが、その分析により、この石舞台の素材は数千年前に地球に落下した地球外物質、つまり隕石であることが確認されている。隕石の内部構造は現在も謎に包まれており、時折微弱な電磁波を発し続けている。

 


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