「お嬢さん、そんな所でどうされたのですか?」
「…大切な人を、待ってました」
黒い紫の髪を持つ少女は、手元の端末を弄りながら俯いた笑みを浮かべていた。
「…好きな人、だったんです。私の恩師で、何かと無駄遣いしたり徹夜したりで、色々とだらしない人だったんですが…」
「…何故、来ないと?」
右手に傘を持つ白鬚の老人は、公園の四阿の下にて隣に座った。
「…結婚報告が、来たんですよ」
「…あぁ、成る程」
「いつか迎えに来ると思って、私はこの公園で…思い出の一つの公園で待っていたんですけど…」
「…失恋というのは、酷く虚しいものですね…」
「…えぇ…」
雨音が増し、銃声が聞こえなくなっていく。
「ここは物騒で仕方ないが…流石に雨の中では風流な時が流れるものですね」
「そうですね…雨の時は、静かです」
「私は此処に来て日が浅くてね…毎度銃声に怯えながら暮らしているよ。銃なんか持てる気がしない」
「大丈夫なんですか?それで」
「老い先短い老人は愚問と言うものですよ」
「そうですか…」
ヘイローを持たぬ者がキヴォトスに来るなんて、基本的には自殺行為である。
何か目的があるのだろうか。
「いや何。最近私の知人がここにおられるとの事なのでね。会いに来たということなのですよ」
「へぇ…わざわざキヴォトスに?」
「終活、と言うものですよ」
そう言いながら鬚を整える老人。何処か気品さを覚えるその出で立ちに、少女は見入っていた。
「すみませんねぇ…こんな老人の戯言に付き合ってくれて…」
「いえ、そんな…」
「お嬢さん、名前は」
「あ、ハイ。早瀬ユウカです」
「早瀬…貴方も早瀬と言うのですか」
「え?」
「いやぁ、私も早瀬と呼ばれておりましてね。と言っても、身内の中だけなのですが…」
「へぇ…」
「おっといけない。話しすぎましたか…」
「いえ大丈夫です。…逆にそのほうが、有り難かったので」
そういうユウカの目には、涙が浮かんでいた。
「失恋を忘れられるから、ですか」
「…えぇ」
早瀬ユウカにとって、先生という存在は彼女の芯の一つと言っても…過言ではなかった。
先生の為に動き、先生の為に戦う。先生の為に叱ることもあるし、先生がいたから楽しかったこともあった。
だからこそ、先生が別の女性を選んだことは、自身の芯が折れたのと同義であった。
「…どうすればよかったのでしょうか」
「さぁ。私のような老人には、そのような淡い話はもう何十年前だか」
「ハハハ…ですよね」
「ですが、紛らわす方法はありますよ」
「え?」
「私と共に来て頂けますか?」
「久しぶりですねぇ、橋詰さん」
「早瀬さん、貴方が来るとは知らず…私は抜けた身ですのに…」
「いえいえ。仕事の都合上でしょう?まだ席は開けておりますよ」
早瀬は布包を抱えながら橋詰と呼ばれた男と並んで歩く。
「しかし…貴方も中々の事を言いますね。こんな辺鄙な地で会おうだなんて…」
「申し訳ないです…余りそちらに戻れそうもなく…」
「場所は」
「この地下に」
そう言って雑居ビルの地下に向かう。貸し切りのキッチンには、1人の女性が居た。
「椎名さん、お久しぶりで」
「橋詰も、元気そうで何より。腹に穴空いたんだって?」
「えぇもう治りましたが」
「それは良かった。アンタのこともいずれと思っていたからね。で、今日のはどれを?」
そう言うと早瀬は包を開ける。そこには一塊の肉塊があった。
「今日の
「そう?なら刺し身と焼きにしちゃおうかしら」
「お願いします」
じゅう、と肉の焼ける音が響く。次第に肉の香りが辺りに漂ってくる。
「それにしても、良かったのですか?橋詰さん」
「…えぇ…私が望んだことですので」
やがて磁器製の器に乗せられた刺し身と、鉄板に乗せられたステーキが出される。
「さぁ、新鮮なうちに頂きましょうか」
早瀬は刺し身を取り、口に入れる。他の柘榴に比べ味が濃く、甘みが強いと感じた。
「これは…中々のものね…」
「ほぅ…これは素晴らしい…久々に上等な柘榴に出会えたよ…」
早瀬と椎名は感嘆の声を上げる。しかし、橋詰は違った。
「?泣いておられるのですか?橋詰さん」
「いえ…余りにも美味しくて…その分、辛いのです…」
"私の生徒を食べてしまったという絶望感が"
"でも、この絶望感すら、美味しさに思えてしまう…なんて素晴らしいんでしょうね…"
「それはそれは…いいことではありませんか。柘榴の真骨頂はそれですので」
"そうですね…"
そう言いながら
"あぁ…美味しい…本当に美味しい…"
「どうですか?自身に恋愛感情を持っていた異性の味は」
"最高です…あぁ…ありがとう、ユウカ。君のことは忘れないよ…"
彼らの
柘榴倶楽部
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