S級勇者の友人A【書籍版発売中】   作:丁字

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第24話 バカが来た。帰った。

 冒険者ギルド王都支部にて。

 俺とミロスラフは支部長である片眼鏡の女史から激詰めを食らっている真っ最中である。

 

「結局のところアンタらは何がしたいんだ?」

 

 詰め寄られた拍子に片眼鏡のレンズが照明を受けてギラリと光る。

 

「融資の申し込みですね!」

 

「おいおい……ドラゴンの牙やベヒモスの角を気まぐれに持ち込むのとは訳が違うぞ」

 

 支部長があきれ果てた様子で言い放つ。

 そういやあ、上級魔獣狩りは生活費に困ったミロスラフの常套手段だったな。

 

「で、対価は!?」

 

「これからの働きで返していけたら。いかんせん、こちらには実績がありますので……」

 

「確かに魔王討伐は申し分のない成果だな。しかし問題は、だ。それが真実アンタらだけで完遂した成果なことだよ」

 

 はい、そうですね。

 俺としては彼女の言わんとするところは痛いほど理解できる。

 が、隣のミロスラフは見事に首をかしげていた。

 

 彼女はやや語調を緩めると、噛んで含めるように俺たち、というかミロスラフへ語り掛け始めた。

 

「……こっちには何らの旨味がない訳だからな。そして、そっちとこっちの関係に()()()()は存在しない。なんせ、勇者ときたら王に繋がる存在だ」

 

「な、なにか問題でも?」

 

「なにかって? 全てだよ! 冒険者ギルドは大陸全土に渡る互助組織だ! 王のケツを舐めてるアンタ等におもねっちゃあ、ギルド員としての矜持がすたるってモンよ!」

 

 うん。

 お説ごもっともだ。

 冒険者ギルドは、独立独歩の気風が強い組織らしい。

 

 ……とまあ。

 話は俺が当初予測していた通りに進んでいた。

 良くはないが、悪くもなく。

 

 

 

 俺がミロスラフへ肘うちし、そろそろ退散するぞと合図を送ろうとした、その瞬間のことだ。

 

 不意に言葉を切った支部長がカウンターの天板を跳ね上げ、つかつかと歩み出る。

 

 何故かって? 

 戸口に現れた男がその理由だろう。

 

「――ここが冒険者ギルドか!!」

 

 赤ら顔の巨漢である。

 きょろきょろと周囲を見回している所からして、ここには初めて訪れたらしい。

 

「いっちょ手合わせ願おう。どいつでもいい、かかって来やがれ!」

 

 男の野太い叫び声がギルド内に響き渡る。

 直後、支部長は腰のベルトに手をかけるとスカートごと一気にむしり取った。

 視線を外すより先に、その下の装いが冒険者風のタイトなキュロット姿なことを目の当たりにする。

 

 特筆すべきは膝上までを覆うブーツに金属の薄板でびっしりと編み込まれたまじないの文様だ。

 ざっと読み取っただけだが、あれは装着型の身体強化術に違いない。

 

(――あ、この人って()()()()か)

 

 男から俺…………というか支部長たち職員を庇うように立つミロスラフの肩を叩く。

 無言で支部長の様子を指し示すと、彼は得心したように場を譲った。

 

 多分だが、俺らの出る幕じゃない。

 

「ほーう、威勢の良い奴だな。どこの出身だ!」

 

「北方の開拓村だ! 山四つ越えてここまで来た。俺ァ――」

 

「おっと! 名は聞かんぞ。木っ端の氏名をいちいち覚えてやるほどヒマじゃあないんだ。用件を言いな!」

 

「名を挙げに来た! なあ嬢ちゃん受付だろ? さしあたり一番強い奴を教えてくれよ。そいつをぶちのめせば俺がテッペンだ」

 

「今日は畑で取れたようなバカが豊作だな。――おいバカ三号!」

 

 支部長の呟きにミロスラフが首をかしげている。

 お前と俺でバカ一号と二号だと思うぜ。

 

「なんだ!」

 

「アタシに一発でも食らわせられたら話を聞いてやろう」

 

「俺ァ女を殴る趣味は無いんだが……」

 

「だったら攻撃する(てい)で乳なり尻の一つも揉みゃいいだろ。ホレ、かかってこい」

 

 支部長の返答に、バカ三号(仮称)氏の表情がやに下がった。

 

「俺ァ脚派なんだ」

 

 周囲の冒険者たちは相変わらず無言であるが、先ほどまでとは趣きが異なっている。

 辺りの空気は、面白げな見ものを眺める雰囲気に変わっていた。

 

 で、数十秒後。

 俺はミロスラフへ耳打ちする。

 

「これ今どうなってんの」

 

「さっきのハイキック、顎をかすめていたろ? あれで脳……頭の中を揺らして見当識を鈍らせたんだ」

 

「ああ、それで胴体にモロに蹴りを食らって」

 

「いくつ見えた?」

 

「……二、いや三。正解は?」

 

「五発。あと体捌きついでにみぞおちにも三発。あの支部長さん、たぶん武僧がルーツだね。体術のクセが亜大陸っぽい」

 

「それに加えて新古流格闘術も修めてないか?」

 

「だろうねえ。技の型からして」

 

 仮称・バカ三号氏は支部長の手によって締め技をかけられている真っ最中である。

 素人目にも明らかなほどに完全に極められている。

 

「あだだだだだだ!」

 

「ダハハハハ! 乳尻太ももはどうしたァ! 触らんでいいのか!」

 

 あの体勢からじゃ無理だろう。

 何やら面白い形状で体勢をガッチリ固められてるんだから。

 

「よぉく覚えておけ、座業をこなす引退冒険者にも劣る、それが今の立ち位置だとな! だがしかし冒険者ギルドはお前のようなバカにも居場所を与えてやる温か~い組織だ――貴様は今から有象無象のFランク冒険者の仲間入りだ! それでいいなら『降参』と言え!」

 

「こッ、降参! 降参だ!」

 

「よし」

 

 ぱっと技を解き、支部長はするりと立ち上がる。

 

「では、あちらのカウンターで登録受付を。……一応聞くが、名前は書けるか?」

 

「できらあ! バカにするんじゃねえ!」

 

「じゃあとっとと立って、すべきことをしろ」

 

 今や冒険者たちはやんやの大喝采を支部長に贈っていた。

 バカ三号と呼ばれた巨漢はそそくさとカウンターへ向かっていたが、彼もまた周囲の冒険者たちから背を叩かれて激励されていた。

 恥はかいたが、仲間としては受け容れられたらしい。

 

 支部長は椅子の背にかけていたスカートを元通り身に着け直すと、傍らの俺たちを見た。

 

「なんだ貴様ら、まだ居たのか」

 

 俺たちの正面に回った支部長が、ぽんと肩に手を置いてきた。

 右手はミロスラフ、左手は俺。

 先ほど炸裂していた掌打と関節技がよぎる。

 

「あのー……」

 

「帰りな」

 

「はい」

 

 そういうことになった。

 

 もはや冒険者たちは、俺たちへの興味を失せさせたらしい。

 熱狂する彼ら彼女らの間を縫って、厳つい門構えの戸口をくぐった。

 

 外の光が眩しい。

 俺が目をしばたたかせる間に、ミロスラフはうなだれたまま立ち去ろうとしていた。

 

「いやいやちょっと待てよ。なんで本当に帰ろうとしてるんだ」

 

「だって借金を断られちゃったし……」

 

「ああ、そのことか」

 

 そういえば、腹芸のできないミロスラフが妙な口を滑らせないように黙っていたんだった。

 

「いいんだよ、これで」

 

「へ!?」

 

「冒険者ギルドに顔を出したのは、あくまで筋を通すためさ。後から妙な横やりを入れさせないためにも、な」

 

「っていうと……」

 

「そう。融資を申し入れる先については、本命は別にある」

 

 目的地はここから徒歩で向かえるほどに近所でもある。

 

「という訳で、銀行に向かおう」

 




次回、『第25話 お利口たちが、利き手隠して握手する』。
第二章クライマックスです。
融資交渉の行方やいかに。

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それでは、次回もよろしくお願いいたします。
次回更新は6月20日(金)の予定です。
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