第二章 北の解放戦線
ユハが「行動する人間」になったのは、ただ怒っていたからではない。怒りの奥には、父や祖父たちが守ろうとした土地が、無言のまま雪の下で泣いているように見えたからだった。
――このまま、ただ経済成長と引き換えに、魂を売っていくのか。
ヘルシンキ大学の地下室、照明の切れた講義室に小さな集会が開かれていた。外では雪が降りしきっている。十数名の学生と元兵士が、ソ連駐留部隊の動向と国内通信網の脆弱性について情報を交換していた。
「我々は今夜、“名前”を持つ」
ミッコが口を開いた。地図の上に拳を置きながら、低く、だが確かな口調で続けた。
「北の解放戦線。ノルドリーベン・ヴァパウス・リイケ。目標は明確だ。
1. 国内のソ連軍拠点に対する武力的圧力
2. 農村部への浸透による支援基盤の確保
3. カレリア回復を掲げる民族解放の正当性の訴求」
レーナは静かに手を挙げた。
「私たちは“暴力”だけではなく、農村での教育や医療の支援活動を平行させましょう。住民の信頼を得ずして、革命は民を焼くだけになる」
その言葉にサリも頷く。「水道と電力のない村には、ラジオも届かない。人の心を掴むには、まず灯をともさないと」
ユハは立ち上がり、軍用マップに目を落とした。
「最初の標的は、ヴァルカウスの通信中継所だ。警備は緩い。破壊ではなく、あくまで妨害。連中に我々の存在を“知らしめる”」
誰も言葉を発さなかった。ただ、各々の眼差しが炎のように揺れ、熱を帯びていた。
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数日後、ヴァルカウスの山中。ユハたちはスキーを使って闇夜の中を滑走していた。サリが小型無線機をチェックしながら「あと1キロ」と小声で告げる。
中継所の鉄塔が雪の中に突き立っている。その足元にはソ連軍の車両が2台。警備兵はわずか4人。
「最小限の接触で済ませる。人命を奪うな」とユハは念押しする。
爆破班のミッコが突入、扉の鍵を切断。制御盤に爆破用タイマーを設置。5分後、通信塔は静かに煙を上げた。監視兵が走り出るが、誰も傷つかなかった。
「フィンランドは眠りから目を覚ます時だ」
ユハは、雪の中に自作の旗を立てた。カレリアの山を象った紋章に、赤い星――だが、共産のそれではなく、独立の灯としての星。
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夜が明けると、国営放送が妨害を受け、代わりに謎の声明が流された。
> 「我らは北の解放戦線。民族の尊厳と、祖国の自由を奪ったフィンランド化政策を拒否する。
カレリアを、祖国の胸に取り戻せ。」