貞操観念逆転してそうでしてないような戦国風異世界で大名系ヒロインとイチャラブ(R-18)するはずがR-18書く前に力尽きた話

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第1話

 

 コンビニの自動ドアを抜けると森の中であった。

 

「ええ……?」

 

 慌てて背後を振り返ってもそこにあるのは寒々とした枯れ木が斜面いっぱいに広がっているだけである。

 もしかして夢でも見ているのかと頬をつねってみるが当然そんなことで目が覚めることもなく。

 むしろ手にしたビニール袋が身体に当たってこれが先ほどまでの日常の続きでしかないことを問答無用で理解させられる。

 

「うっそだろおい……」

 

 思わずつぶやいた言葉に返事をする者もなく、ただ遠くで鳥の鳴き声が響くだけであった。

 

 

    ※

 

 

 どうやらここはどこかの山の中であるらしい。

 その辺をうろうろした結果、俺はそう結論づけた。

 どこもかしこも斜面と枯れ木ばかりの光景が続いていればそう考えざるを得なかった。

 気温やら木々の様子からして季節は冬。ネット小説の異世界転移よろしく唐突にこんなところに飛ばされたので東京と同じ暦と断じていいのかはわからないがそう外れてはいない……はず。

 とりあえずスマホの電波は圏外だったがここが異世界だからなのかそれともただ山奥だからなのかは判別がつかなかった。

 うっかりドジっ子な神様なのか現地の魔法使いあたりが召喚魔法でも使ったのか、はたまた現代に巣くう(あやかし)やら呪術師やらによって転移させられたのかはわからないが、こんな山の中ではなく飛ばすならせめて人里にしてほしかったと切実に思う。

 幸いなのは元いた東京も冬であったので厚着をしていたこと。

 アメ横でつい衝動買いしてしまった軍用コートとミリタリーブーツのお陰で冬の山中という詰みパターンでありながら即凍死はまぬがれそうだということ。

 ……いや、やっぱりそうでもないな。早いところ人里でも見つけなければ冗談ではなく死んでしまう。

 食料だってちょうどコンビニで買ったお菓子とおにぎりしか持っていないのだ。一応リュックサックの中には細々と小物が入っているがこんな山中で役に立つものなど皆無と言っていい。

 

「とりあえず……登るか?」

 

 確か山で遭難した時は登るのが鉄則と聞いたことがある。

 頂上付近に登山道があってそこから安全に降れるから、という理由だったはずなので登山道が見つからなかったら詰みでしかないがむやみに沢に降りるぐらいなら頂上から周辺を確認する方がまだ生存率が高いだろうし。

 時刻は不明だが太陽が向こうの山の陰から登ってくるのが見えるのでたぶん早朝。

 それならば夜が来る前に一刻も早く安全な場所に辿り着かねばなるまい。

 

 

 そうして俺はその場から見える山の頂らしき方に向けて斜面を登り始めた。

 勾配も急ではなくゆるやかで壁のように反り立って通れないような場所にも出くわさず、進む分には順調だ。

 しかし行けども行けども道らしきものは見当たらず、ただただ登り続けることしかできない。

 小休止を挟みながらおよそ一時間程度登り続けたのだが、頂上も人通りのありそうな道も見当たらない。

 こういう時に一番おそろしいのは人ではなく獣に出くわすことなのだが、今のところ生き物らしい生き物には出くわしていない。

 小動物であれば人を避けるだろうし、熊とかデカい動物は冬ごもりの時期であるから襲われるようなことはない……と信じたいが、その辺りは祈るしかないだろう。

 ……仮にここが異世界でモンスターみたいなのが跋扈する世界なら、こんな山の中は死にに来ているようなものだろう。

 ファンタジー世界に転移して無双したい願望はないではないが、今だけはそういう世界に飛ばされていないでほしいと願わざるをえなかった。

 

 

 もう三十分ほど登り続けてさっそく心が折れかけてきた辺りで、ようやくある程度見晴らしの良い地点にたどりつくことができた。

 おそらく山の尾根に出たのだろう。

 はやる気持ちを抑えて四方を見渡して見るも、周囲には山の連なりが見えるばかりで人里どころか平地らしき場所も見当たらない。

 流石にがっくりときてその場に座り込んでしまう。

 さすがに困った。

 尾根伝いに進むにしても夜までの下山が叶わぬのを承知で見晴らしの良い高い山の方に登っていくべきか、なにも見つけられないとしても下山することを見越して低きに流れていくか。

 選択肢を外せば即死につながる、というかそもそも選択肢に正解が混ざっているかもわからないのだ。

 俺はどちらの選択肢を選ぶ決断もできず進退窮まってしまった。

 道を間違えたら本当に死ぬかもしれないのに簡単に決められるはずもない。

 こんな理不尽な状況が許されていいのかと嘆かざるをえなかった。恨むべき相手がなにであるかはまったくわからないのがまた理不尽だ。

 俺はどうするでもなく呆けるように周囲に広がる大自然を眺める。

 これがレクリエーションの登山であれば雄大な自然に心打たれていたかもしれないが、今は目の前の自然が恐ろしいものにしか見えない。

 例えるなら富士の樹海のような死を想起させるなにか。

 ほら、そこの川べりに見える蒸気が煙る池なんて地獄の釜茹でのようで……って。

 

「あれって……」

 

 ネガティブな思考から復活し正気に戻った俺は目についたそれを視線を凝らして確認する。

 山々の合間を抜けるように流れる川。そしてその河川敷には小さな池のようなものができていて、湯煙をくゆらせている。それは紛うことなき温泉であった。

 いや、そちらの方は重要ではない。

 注目すべきは水量の多い川が流れているということ一点だ。

 川が流れているということは下流に人里がある公算が高い。最悪延々と川沿いを進めば飲み水には困らないし、海に出れば流石に道も平たくなっているはずだ。

 つまり、なんとか生存への道筋が見えてきたということである。

 俺はほっと安堵の息を吐くと勢いよく立ち上がった。

 とにもかくにも川の方に降りていくべきだろう。

 やることがわかれば実行に移すのみ。そしてその後は……。

 

「とりあえず、温泉に入るか」

 

    *

 

 温泉に足先をちょいとつけてみると、熱すぎて火傷することも冷たすぎて身体を冷やすこともなさそうな良い感じの湯加減であった。

 温泉の深さは湯船よりも浅いぐらいであるが、身体を横たえれば十分に身体中を浸らせることができるだろう。

 俺は安堵と共に荷物を放り出して服もすべて脱ぎ捨てると温に身体を浸していった。

 

「おおう……」

 

 歩き詰めで大汗を掻くわそれが冬の寒さで冷えて体温を奪われるわで凍えていた身体に湯の熱さが染み渡る。

 ぱんぱんになっていた脚に血が通って楽になるのを実感する。

 風呂の熱さとしては正直に言えばもうちょっと熱いぐらいのが好みであるのだが、こうして湯に浸かれるだけありがたいと思わなければ。

 俺は湯の中で大の字になるように身体を浸からせながら空をぼんやりと見上げた。

 空は青く雲は流れ、雲の隙間から見える太陽はいつも見ているものと寸分違わない……ように見える。

 周囲の山々も日本のどこかの山地ですとでも言われれば納得できてしまうぐらいには異国感がない。せめてここが異世界なのか地球のどこかなのかぐらいはわかるような手がかりがほしいのだが……。

 と、そこで。

 じゃり、という石が噛む音がしてそちらを向くと、川下の方に女がひとり立っていた。

 

「……」

 

「……」

 

 川べりの彼女と湯に大の字で浸かる俺は無言で見つめ合う。

 俺が待ち望んだ人間に出くわしながら喜びも安堵もしなかったのは彼女の奇異な出で立ちが原因だ。

 年のころは大学生の俺と同年代に見える。

 頭の上の方で紐で括られたポニーテールな黒髪と、くっきりとした目鼻立ちながら明らかに東洋人らしき顔の造りからして言葉が通じる可能性が高い。これはプラスポイント。

 しかし、大河ドラマでよく見るような着物(確か小袖とかそんな感じの名前のやつ)を着崩した現代日本らしからぬ服装をしているのはともかく、腰にぶら下げたひょうたんやらなんやらに混じった日本刀っぽい武器を所持しているのは大きなマイナスポイントである。

 加えて彼女の目が明らかにこちらを警戒というか不審な目を向けていてとても友好的には見えないのでマイナスポイントがさらにドン。

 彼女の切れ長で鋭い目つきだとか凜々しい容貌だとかが中性的でどこかきつい雰囲気を感じさせるのでそういう目で見られるとちょっと恐かった。

 ところでそんな彼女を女性らしからぬ服装も相まって美形の男子にも見えるのに女性と断じることができたのは、はだけた胸元から深い谷間が存在しているからに相違ない。これは男の子的に大きなプラスポイントだ。

 差し引きトントンと言いたい所であるが、武器を持った相手に全裸で対峙している時点で生命の危機であることは間違いなかった。

 

「ええと……」

 

 俺は大の字で湯に浸かった状態のままで言葉を探す。

 

「こ、こんにちは。あの、ちょっとお尋ねしたいことが──」

 

「ふん」

 

 努めてにこやかな笑みを浮かべた俺の台詞は彼女が鼻を鳴らしたことで途切れた。

 彼女はやおらこちらに向かって歩を進めると俺の頭上辺りで座り込み、じろじろと俺のことを観察し始めた。

 ……特に意図したわけではないと思うが、座り方が一昔前のヤンキーみたいなせいでガンつけられているような気分になってくる。

 俺は友好的な笑みが引きつらないようにしながら彼女の出方を見る。

 

「……」

 

 彼女は俺のことを隅から隅までじっくりと観察している。

 俺も今は全裸であるからして文字通りすべてを彼女にさらけ出しているわけで、素肌どころか股間の愚息まで見られていることになるのだが特に見られて悦ぶ性癖はなかったのでちっとも嬉しくない。

 むしろ愚息がやんちゃして激しい自己主張をしまい、彼女の怒りに触れてずんばらりんと切り捨てられる可能性を考えればおとなしくしていてくれるのはありがたいことである。

 

「おい」

 

 そんな現実逃避じみた考察をしていると、彼女が口を開いた。

 

「お主、何者だ?物の怪の類か」

 

「も、もののけ……?なんで?」

 

 幸いにして言葉は通じるようであるが、なんでそんないわれをするのか理解できずに俺は聞き返す。

 彼女は俺の反応に眉根を寄せると苛立たし気に言葉を重ねた。

 

「そのような金の髪を持つ者など見たことがない。顔立ちからして渡来人にも見えんし、そもそもこの東間(あずま)の山にいる時点でまともな者ではない」

 

 東間の山、というのがどういうことなのかはさっぱりだが、金とは……?一瞬首を傾げかけて、俺はあっと声を上げた。

 確かに俺の今の髪は金髪に染めていた。大学生になったからにはこれぐらいとノリで染めていたのだが、不審に思われてしまっていたらしい。

 

「い、いや!これは染めているだけで!元々は普通の黒なんだって!」

 

「ほう」

 

 慌てて弁明する俺に、彼女はあまり信じていないような様子で手を伸ばしてきて俺の濡れた金髪を一房手ですくった。

 

「染めたにしては湯に浸しているのに色が落ちぬではないか。それに白髪を黒く染めるならともかく、かような奇抜な色に染めるなど」

 

「そりゃあちょっとやそっとじゃ落ちないようになってて……っていたたたた!」

 

 彼女が俺の髪の毛を引っ張ったりこすったりし始めて、俺は痛みに悲鳴を上げた。

 

「ふうむ。確かに落ちる様子はないが、元から金色なだけではないのか?」

 

 俺の様子など気にもとめずにそんなことをのたまう女に、俺は彼女の手から髪の毛を救出しつつ恨めし気な視線を向ける。

 

「生え際のあたりは黒っぽくなってるだろ?染めてから生えた分はちゃんと元の色なんだって」

 

「……ふむ、確かに。なるほどのう」

 

 だから謝罪しろという気持ちを言外ににじませたつもりだったが、しかしこの女はスルー。

 彼女は納得したようなしてないような、なんとも曖昧な感じに頷いてから立ち上がるとおもむろに腰の刀だなんだを放り出し、帯を解いて衣服を脱ぎ始めた。

 

「ちょちょちょちょちょ!?」

 

 俺は慌てて身を起こすと、ばしゃばしゃと湯を掻き分けて温泉の反対側に逃げた。

 意味があるかと言われればない。気が動転した男の行動などそんなものである。

 女と距離をとって振り返ると、すでに彼女はすっぽんぽんになっていた。

 隠すことも恥じらうこともなく実に堂々とした態度で裸身をさらしているので、俺はついそれを凝視してしまう。

 豊かな胸元から肉感的な肢体を想像していたのだが、彼女のそれはすらりと筋肉質でアスリートの体型にほど近い。

 それ故か乳房にも張りがあって瑞々し果実のようだ。

 穴が空くほどそれを見つめる自分に気がついた俺は慌てて下を向こうとすれば彼女の脚の付け根の部分を直視してしまい、思わず頭を湯に突っ込んだ。

 湯の熱さにやられたせいかいろいろと見てしまったからか、頭が茹であがるようだった。女性とのお付き合いの経験もなければ当然異性の裸身を直で見ることなぞ家族以外のものはなかった俺には刺激が強すぎた。

 画面の向こうにしかないAのVな女優さんの身体なんて現実の極上な本物とは比べものにならないのだと身をもって知ってしまったのである。

 身体を上から下まであらためてしまった手前彼女の顔をまともに見ることができる気がせずできればこのまま湯の中に沈んでいたのだが、当然息はそう続くものではない。

 俺が渋々湯から顔を上げると、目の前に女が仁王立ちしていた。

 

「うおおおおお!?」

 

「なにをしているのだお主は……」

 

 至近距離ですべてを見てしまい再び悲鳴を上げてひっくり返る俺に、彼女は呆れたような声を上げた。

 

「いやいや!女の子がそんな簡単に男の前で裸になるなよ!」

 

「湯に浸かるのに服を着たまま入れるか」

 

 俺の極めて真っ当な主張は彼女にあっさりと切り捨てられた。

 そして彼女は身体を湯に沈め、俺の視線などまったく気にも留めていない様子で汚れを落とし始める。

 俺はといえば身体を丸めて彼女の視線から大事な部分を隠しつつ、彼女ができるだけ視界に入らないように横を向いていた。

 すべてをさらけ出した後で今さらではあるが、初対面の女性に裸を晒して冷静でいられるほど人生経験は豊富ではないのである。

 ああ、しかし……視線はついつい彼女の裸身に吸い寄せられて──。

 

「で」

 

 胡座をかいてこちらを見据える彼女の視線とばっちり目が合ってしまった。

 

「物の怪の類でないならお主はなんだ?天狗か?」

 

「天狗も物の怪と変わらないような……」

 

 思わずツッコミを入れると彼女の視線が鋭くなったので慌てて弁明する。

 

「いや!天狗でもないですはい!アイアムジャパニーズ!」

 

「あい……なんだと?」

 

 ……なんとなくそんな気もしていたが、英語は通じないらしい。どうやらここが現代日本でないことだけは間違いなさそうだ。

 いろいろな要素を疑いだしたらきりがないので彼女の反応を見てそう判断するしかない。

 

「俺は日本人ですって言ったんだよ。日本の人……あ~、他の呼び方だと日ノ本とか倭国とか大和とか?」

 

「知らぬなそんな国」

 

 どれかが引っかかればと適当に呼び名を挙げてみるが、彼女の反応は芳しくなかった。

 彼女の(なり)や日本語が通じるあたりからタイムスリップ説を推していたのだが、それも望みが薄そうである。

 一縷の望みをかけて俺は彼女に尋ねた。

 

「ここはなんて場所なんだ?」

 

「ここ?主は己がいる場所もわからんのか。ここは天海《てんかい》州東間山の霊地だ」

 

「……」

 

 彼女が語る地名は俺のまったく知らない場所だったので、俺はがっくりと項垂れた。

 質の悪い冗談だとかドッキリであればそう言ってほしいが、おそらくそのようなことはないだろう。

 誰がそんなことのために人を山奥まで拉致したり異性の目の前で裸になったりするというのか。

 ネット小説を読んで俺も異世界転生したり異世界転移して無双したいなんて妄想したこともあったが、それが実際に自分の身に降りかかってみるととても無双だなんだなんて言えなかった。

 着の身着のまま見知らぬ世界に放り出される恐怖。二度と会えぬかもしれない家族や友人。十数年ながら築き上げてきたこれまでの人生と将来が無に帰す喪失感。

 様々な感情がない交ぜてどうにかなってしまいそうだったが、俺は必死に言葉を紡いだ。

 

「あ、あの……。俺、なんか、別の世界から来ちゃったみたいで……。その、元の世界に帰る方法とか、なんかあったりするのかな?」

 

 藁をも縋る俺の問いに女はふむ、と首をかしげ考えるような仕草を見せたが、やがてゆるゆると首を振った。

 

「別の世界、というのはわからんがオレは知らん」

 

「そんな……」

 

 呆然とする俺に、彼女は哀れむような視線を送ってくる。

 

「大方天狗に(かどわ)されでもしたのだろう。なるほど、やつらはこうやって攫った者を野山に放り出していたのだなあ」

 

「……天狗がいるの?」

 

「さてな。少なくともオレは見たことがない」

 

 縋るように彼女を見る俺だったが、彼女は肩を竦める。

 要はおとぎ話の類ということだろう。

 

「俺は、どうすれば……」

 

 帰る宛てもなく途方に暮れる俺に、女は再びふむと頷いた。

 

「つまり、お主はこの地で身よりも頼る者もない浮浪者ということだな?」

 

「浮浪者って……まあそういう風に言えなくもないかもしれないけれど」

 

 打ちひしがれる俺にそんな事実を突きつけてくるノンデリな女にちょっぴりむっとしつつ俺は答える。

 

「そうかそうか。まあ当然よな」

 

 そんな俺のことなど気にも留めず、彼女はにんまりと笑みを浮かべた。

 

「であるならば、オレがお主のことを助けてやってもいいぞ」

 

「えっ!?」

 

 俺は思いも寄らぬ提案に驚き目を見開いてしまった。

 

「なんだ、不満でもあるのか?」

 

「い、いやいや滅相もない!」

 

 じろりと俺を睨む彼女に慌てて首を振る。

 彼女が俺に手を差し伸べようがそうでなかろうが、どちらにしろ彼女には助力を仰がねばいけないのが今の俺の立場だ。

 これまでの会話から彼女の内面を男らしく尊大だとみていたので、見ず知らずの俺のことを助けてくれるかどうかは微妙なところだと考えていたので彼女の申し出は大変ありがたかった。

 しかし……。

 

「その……一応お伺いするのですが、条件はどのような……?」

 

「ほう、話がわかっているではないか。ますます好都合」

 

 下手に出つつ問うと、彼女は機嫌良さげにそんなことをのたまう。

 なにが好都合なのかはわからないが、どんな条件でも受けねば命がない俺は固唾を呑んで彼女の言葉を待つ。

 そんな俺に対して彼女は立ち上がると両手を腰に当て、俺を見下ろすようにして言った。

 

「なあに簡単な話よ。お主の面倒を見る代わりに、オレの稚児として働けばよい」

 

「はあ……稚児?」

 

「要は小間使いよ。オレはとある寺で世話になっている身でな。そろそろ身の回りの世話をさせる者がほしかったのよ」

 

 知らない単語に首を傾げた俺に、彼女はそう説明する。

 この女が寺で清貧な生活をしている姿がまったく想像できないが、現代日本の常識を当てはめて考えも意味はあるまい。

 それに、生活を保証してくれるのは今の俺にはあまりにもデカい。

 生活拠点が寺ならばあまり大変な仕事が回ってくることもなかろう。

 俺は彼女の提案に一も二もなく飛びついた。

 

「わかりました。あなたの下でお世話になります」

 

 俺がかしこまって頭を下げると、彼女は大仰に頷いてみせた。

 

「うむ。これからよろしく頼むぞ」

 

 それから彼女は思い出したように俺に問うてきた。

 

「そういえば主の名を聞いていなかったな。名をなんと言う?」

 

「ああ、そういえば……」

 

 俺は居住まいを正して彼女に向き合い、名乗った。

 

「俺は世良田恭助です。俺が仕えるお方の名をお伺いしても?」

 

「うむ。オレは神楽坂勘十郎だ。以後良く仕えよ」

 

「か、勘十郎様……ですか?」

 

 名乗り返された名を聞いて思わず目を瞬かせると、彼女──勘十郎様は不機嫌そうな表情になった。

 

「なんだ、オレの名に不満があるか?」

 

「い、いえ!俺のいた場所では女性には付けないような名前でしたので!どちらかというと男に付ける名前っぽいと言いますか……」

 

 ぶっちゃけその身体で勘十郎は嘘でしょと思ったが、言ったら流石に切り捨てられそうなので黙っておく。

 

「ほう、恭助の国では男と女で付ける名が変わるのか」

 

 国というか世界的というか……まあ、別に良いか。

 

「はあ……察するに、この国はそうでないようで」

 

「興味深い話ではあるが、まあその辺は追々話すとしよう」

 

「承知しました」

 

 勘十郎様の言に頭を垂れつつ、俺はやれやれどうにか生きる目が出てきたなと安堵の息を吐く。山の中に放り出された時は完全に詰んだと思ったが、やはり転移させるだけさせて野垂れ死になんてつまらないシナリオを神様は描かなかったらしい。

 とにかく彼女に仕えて少しずつこの世界のことを知らねばなるまい。そうしてあわよくば元の世界に帰る手段を見つけねば。

 俺が内心で決意を固めていたところに、勘十郎様の言葉が降ってくる。

 

「それはそれとして、仕事をしてもらおうか」

 

「早速ですか。しかしこんなところで何をすればよろしいので?」

 

 こんな山の中でできることなどたかがしれていると思うのだが。薪を集めてこいとかそんな感じだろうか。

 俺が勘十郎様を見上げると、彼女はにやりと笑い脚を持ち上げて俺の肩を蹴り倒した。

 

「うえ!?」

 

 蹴る力が弱かったので強めに押されたぐらいの感覚だったが、湯の中で端座していた俺は為す術もなく倒れてしまう。

 俺はなんとか身を起こそうと藻掻き身を起こそうとすると、勘十郎様が俺に覆い被さってきた。

 

「か、勘十郎様?」

 

 俺の両肩の上ぐらいに手をついて顔を覗き込むようにする勘十郎様に困惑する。

 正面を向けば勘十郎様の中性的な魅力にあふれた容貌を直視することになってしまい、思わず目を逸らして下を向くと彼女の豊かな双球が重力によって釣り鐘状になっているのが見えてしまってまた正面に戻すと彼女の顔を……と視線を忙しく動かす俺に、勘十郎様は告げる。

 

「お主の最初の仕事はオレの伽をすることだ。せいぜい楽しませろよ」

 

 とぎ……?研ぎ……都議……伽……!?

 

「なんで!?」

 

 思わず叫ぶ俺に、勘十郎様はしたり顔で語り始める。

 

「寺で稚児といったら僧侶共の性欲の捌け口と相場が決まっている。あやつらこれ見よがしに稚児を侍らせるものからひとり寄越せと言ったら、僧籍でない者には寺の者は貸せぬと言いよったのだ。どうにか都合をつけられぬかと思っていたのだが、こればかりはその辺から拐わしてくるわけにもいかぬから難渋しておったのよ。そんな折にちょうど良く迷い込んできたのがお主というわけだ。まったく、山の天狗も良い仕事をするものだ」

 

「いやいやいやいやいやそんな馬鹿なことが……!」

 

 思わずツッコミを入れようとした時、確かに俺がこんなところに飛ばされて勘十郎様に拾われるのは天狗だか神だかに仕組まれたことではないかという考えが頭をよぎり、慌ててそれを打ち消した。

 性欲の捌け口になるためにわざわざ異世界転移させるなんてそんな理不尽な……いや、こんな美人にいただかれるならそれはそれで……いやいやしかし……!

 性欲に負けそうになりつつ懊悩する俺の顎を勘十郎様の手が掴み、強制的に正面に固定する。

 勘十郎様は俺の目を見ながら実に、二重の意味でいやらしげな笑みを浮かべて言った。

 

「いい加減諦めよ恭助。なあに、雲の数を数えているうちに事は済む」

 

 

 勘十郎様に組み敷かれた俺は蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。

 女性に組み敷かれるのも初めてならば女性との肉体的な交わりも初めてのことなので、こんなときにどう対処すればいいのかさっぱりわからない。

 俺の頭の中の天使は出会って数十分程度の相手でさくっと童貞(たいせつなもの)を捨てるのはもったいない!と声高に主張している。

 しかし頭の中の悪魔は童貞(のろいのそうび)を捨てる貴重な機会だと断言する。

 初体験は失敗が多いと聞くだろう?勘十郎様はなんか経験豊富そうだし、手慣れた、それもええ身体した美人相手に導いてもらう方が成功率が高い。

 俺は悪魔の言にもっともだと深く頷き、力を抜いた。

 確かに慌てることも恐れることもなにもない。すべてを勘十郎様に委ねれば事はスムーズに済むのだから。

 完全に安心しきった俺は目を閉じて勘十郎様の動きを待ち構えていたが、いつまでたっても勘十郎様の手が伸びてくることはない。

 不審に思って目を開けてみると、勘十郎様は思案顔で俺のことを眺めている。

 

「……勘十郎様?」

 

 俺が声をかけると勘十郎様はふむと頷いた。

 

「で、この後どうすれば良いと思う?」

 

「はあ……?」

 

 予想もしていない言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。

 

「勘十郎様のやりたいようになさってけっこうですが……」

 

 とりあえずそう言ってみるが、勘十郎様は眉根を寄せてむう、と考えこんでしまう。

 

「オレの股ぐらに貴様の逸物を突っ込めば良いということは知っておるが、未通女(おぼこ)が準備もなく突っ込むと死ぬほど痛いとも聞く」

 

「まあ、確かに身体の一部を裂くことになるわけですから……って」

 

 そこで俺はとんでもない事実に気がついた。

 

「勘十郎様……もしかして、このようなことは初めてで……?」

 

 おそるおそる問うた俺に、勘十郎様は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「仕方がないだろう。おいそれと男と交われる立場ではなかったのだ」

 

 なんだか意味深な台詞であるが、勘十郎様の雰囲気からしてあまり深く突っ込んでほしくはなさそうだった。

 

「して恭助。お主経験は?」

 

 勘十郎様は期待するようなまなざしでこちらを見てくる。相手が慣れているのならば相手の流れに乗っかってしまおうという魂胆が透けて見え、同じようなことを考えていたが故にそれがわかってしまう自分が悲しい。

 

「……残念ながら俺も経験は」

 

 俺が告白すると、勘十郎様は怒りだした。

 

「お主とっくに成人しているだろう!なんでそんな歳まで童貞を守り通した!貴様不能か!?」

 

「不能じゃないですう!それにうちの国じゃ成人は二十歳だからまだぎりぎり未成年ですう!勘十郎様だって俺と同じぐらいの歳に見えるのに未通女じゃないですか!」

 

「はあ!?オレは十●歳だ!お主と一緒にするな!元服して成人はしとるがうちの国ではぎりぎり普通だ普通!」

 

「うええええええ!?」

 

「お、おう……?」

 

 予想の五つぐらい下の年齢が出てきて俺が思わず叫ぶと勘十郎様は怯んだように閉口した。

 マジで?この身体で十●歳?流石にそれは冗談じゃなく嘘でしょ……?

 いや、ここは異世界であるからして年齢の計算方法が違うのかもしれない。つまり自称十●歳だとしてもこっちの世界換算だとセーフという説も……。いやしかし表記十●歳というのは誤魔化しようが……。けれど現代でも夜の世界で年齢詐称は当たり前のことであるらしいし……。

 

「恭助?」

 

「い、いえ!なんでも!なんでも……」

 

 額に手をあてて考え込む俺の顔を勘十郎様が覗き込んできたので、笑みを作ってそう答える。

 

「そうか?……しかしどうするか。どうせなら気持ちよく事を終わらせたいのだが」

 

 俺の気も知らずに呑気にそんなことをのたまう勘十郎様。

 そんなのしっかりと準備すればなんとでもなるだろうにと言いかけて、俺ははたと気がついた。

 現代日本であれば学校で性教育の授業があるし、思春期の辺りで誰もが興味のおもむくまま自主的にそういったことについて情報を仕入れるものだが、ここでは事情が違うだろう。

 勘十郎様の形からしておそらく文明レベルも数段落ちるだろうし、性のことなぞ耳学問程度でしか学ぶ機会があるまい。

 そうすると、彼女の性への知識は本当にざっくりしたものなのかもしれない。

 それなら彼女の態度も納得だとひとり頷いている俺にを他所に、勘十郎様が動いた。

 

「まあよいか。とりあえず入れてみればよかろう」

 

 彼女は何気なくつぶやくと共に唐突に俺の愚息をむんずと掴んだ。

 

「──!?」

 

 強烈な痛み(刺激)に、俺は思わず声にならない悲鳴を上げた。


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