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もっともふもふしろ。
だからどうしたってゆーんだ、それが…?
無理だろう、いくら理屈並べても…
お前はもう知ってしまったんだ、悪魔のもふもふを
お前はまたモフり出すしかないんだヨ
「フライトさんの髪、もふもふ、してますよね」
ルームメイトのアストンマーチャンから唐突によく分からない評価が飛び出した。
流石のノースフライトもこれには困惑する。
「もふもふ……?」
「そうです。もふもふです。かつてないほど素敵な」
マーチャンの評価軸は少し独特な部分がある。
とはいえ評価すべきものや関心を引かれたものに食いつくから、ポジティブな評価ではあるだろう。
彼女は元よりもふもふやら、ふわふわやら、そういった手触りのいいものを好んでいるので尚更の事。
それにしても、もふもふ。一体どうしたことだろう。
「フライトさん。ちょっとその御髪をもふもふさせて欲しいのです。もふもふパワーを確認させてもらってもいいですか」
「い、いいけど……?」
よく分からない勢いに若干飲まれつつも、そう悪いことはしないだろうと思って許可する。
今更マーチャンに触られて困るような髪をしていない。
そもそも普段、お互いの手入れやヘアセットを手伝っているのだからそんなに改まってもふもふ……?する必要があるのだろうか。
止まらない困惑を余所に、マーチャンはフライトの目の前に来た。
妙に真剣な顔で、フライトの洋梨のような綺麗なAラインシルエットを成すヘアスタイルの、ちょうど下の膨らんだ部分の左右に両手を添える。
「もふもふ……もふもふ……」
「…………」
髪を少し持ち上げたり、軽く包むように挟んだり、時には手櫛を入れつつほんの少しだけ揉みこむように握るような動きをしたり。
髪型が崩れるような手荒さはなく、それでいてどこか熟練したような大胆な手つきで髪をもふもふとしていく。
マーチャンがそういった感触のものを好むことは知ってはいても、まさか自分が対象になるなんて夢にも思っていなかった。
「やはり流石ですフライトさん……このカシミヤのサテン生地で作ったぬいぐるみのような、すべすべした肌触りともふもふの両立……」
「そ、そう……ありがとう……」
ファッションの一部でもある髪のツヤには自信があったし、それをふわっと膨らませつつ内巻きにするスタイルは日々の手入れの結晶である。
そこには先述したようにルームメイトであるマーチャンの日々の協力もあったのだが。
手入れではなく改めて向き合うと、何か違うものが見えてくるのだろうか?今のフライトには分からなかった。
「もふもふ……もふもふ……やはりマーちゃんの目に狂いはありませんでした。これは本物のもふもふなのです……」
「…………」
マーチャンは憑りつかれたかのようにもふもふを止めない。
しばらくもふもふされるうちに幾分か落ち着いたフライトは、自分だけ一方的にもふもふされるのは妙に悔しいような気分になった。
マーチャンの髪だって見るからに、いや間違いなく”もふもふ”だ。
普段手入れの手伝いで触ることはあったが、確かに意識してみるとかなり手触りがいいように思えた。
それこそ、”もふもふ”という感触が相応しい程に。
「その……マーちゃんの髪、触っていい?」
「どうぞどうぞ。マーチャンのプリティーふわもこヘアーをご堪能ください」
マーチャンらしい自信満々な返答を得て、フライトもマーチャンの髪に手を添える。
それにしても改めて意識するマーチャンの髪。自分とある程度髪質や髪型が似通っている部分もあるが、また違う方向性の完成度を誇っていた。
長毛種の猫とも、あるいはよく整えられた毛足の長いボア生地の羽毛のような絶妙な手触りが思わずフライトを夢中にさせる。
自分とはまた違う形で変則的ながらも緩やかなAラインシルエットを追求したヘアスタイルは、起毛生地のように見た目にも柔らかな印象を与え、そして事実手触りはそれ以上のものがあった。
フライトの真剣味と集中のギアが一気に上がっていく。
「これは……もふもふ、いやふわもこ……どちらでもあるというの……?」
「ふふふ。マーちゃんとて負けてはいませんよ。存分に堪能してください」
自分より幾分ウェーブの強い髪質がランダムな立体感と絶妙なコシのある”ふわもこ”感を発揮している。
しかしやっぱり”もふもふ”でもある。
”もふもふ”とした柔らかで雲のような手触りと”ふわもこ”とした同じく柔らかでありながら手の内に確かに存在感を感じる絶妙な艶と癖のある触感の二重性。
ただ日常の手入れに注力していた時には気付かなかった極上の感触。
こんなに近くにあって、一度ならず触れてさえいたのに何故今日まで気付けなかったのか!
マーチャンの髪から手が離れない。まるで巨大な力に押さえつけられたように。手がもふもふとしようとする。
ふももふ、ふわもこと。天使のようなキューティクルで。悪魔のようなウェーブで。
意識の全てが目の前のもふもふに吸い取られたかのように集中する。
柔らかなものに触れている筈であるのに、神経に、そして脳には激しく焼かれ、深い爪痕を残されるような奇妙な感覚が広がっていく。
一度でもこの感触を焼きつけてしまったなら、もう忘れる事なんて出来やしない。
フライトもマーチャンも、最早無心ともいえるような境地でお互いの髪をもふもふとしている。
互いに面と向かい合っていながら、手も意識も、目線でさえ互いの髪に一心に集中していた。もう言葉は不要だった。
もふもふ、もふもふ。
もふもふ、もふもふ。
どこか厳な雰囲気のある、互いのもふもふとした髪に似合わないような集中した緊張感がある空間の中で、果てのないもふもふを繰り返す。
もふもふ、もふもふ。
もふもふ、もふもふ。
どこまでも続くもふもふの螺旋。それは出し抜けに外からのノックと声によって断ち切られた。
『フライトさーん!いらっしゃいますかー?ちょっと相談したいことがあるんですけどー』
「おやおや。水入りになりましたねフライトさん。行ってあげてください」
「うん……そうする」
その日は結局、そこでお開きになった。
◇◇◇
それからの事、ノースフライトの脳内ではアストンマーチャンの髪をもふもふした時の感触が事あるごとに反芻されていた。
まさか意識すると、あれ程のやみつきになるなんて。
記憶に焼き付いた感触が思わず手を宙に彷徨わせる。
いたたまれず、試しに自分の髪をもふもふしてみた。今日も完璧だが、今求めているのはコレではない。
「フライトさん」
「!?……マーちゃん……」
マーチャンが目の前に来ていたことすら呼ばれるまですっかり気付かなかった。
寮の部屋だからと気を抜きすぎたか?いや、自分はどうかしてしまったのかもしれない。
そんなフライトの思いを余所にマーチャンはフライトの顔を覗き込んだ。
「フライトさん。もふもふしても……いいですか?」
賢さが40上がった
スキルポイント+40上がった
『アガッてきた!』のヒントがLv+3上がった