「改めまして、私がティーパーティー『アリウス』のホスト、『秤(はかり)アツコ』です。」
「……副会長『
私がアズサちゃんから目線を上げて立ち上がり、アリウスの子たちに向き合う。
すると、アツコちゃんの悠然な自己紹介の後、開口一番にサオリちゃんから謝罪の言葉が向けられた。
「…騒動に巻き込まさせてしまったこと、心より謝罪する…」
「だ、大丈夫だよ…!もう一回巻き込まれてるから、そこまで驚いたわけじゃないし…!」
でも、これがキヴォトスの日常なんだからね…
だから、私から何も言うことはないよな…
「それに、補習授業部のみんなが私のそばにいてくれたからね?」
私の言葉にサオリちゃんは目をさらに少し開いて、ヒフミちゃんたちへ向き直った。
そして、目線を少し下げながら静かに口を開く。
「そう、か……改めて、先生のお姉さんを守ってくれたこと、感謝する…」
「い、いえ…!私たちはそんな……アズサちゃんが前で戦ってくれていたので…!」
「(………あれ?)」
……なんでなんだろう?
確かにお互い仲は良さそうなのに、なんだかよそよそしい感じが…
「…ここからは、私たちが先生のお姉さんを連れていく。…アズサは、少し体の状態を見てもらってくれ。」
「いや、そこまでのことじゃないから問題ないと思うが…」
「ね、念のため行きましょう、アズサちゃん!」
「で、では……私たちは、アズサちゃんを『救護騎士団』のところへ連れていきますね…?」
うーん、たとえばだけど、コハルちゃんやヒヨリちゃんがサオリちゃんの方をちらっと見ては、すぐに視線を逸らしてたり。
ミサキちゃんも私とサオリちゃんを交互にじっと見つめるような表情のまま、一歩だけ後ろに立っている。
そんな細かいズレが、なんか私の中で引っかかる…
「……ああ、頼む。」
「うん…お願いするね?」
少し緊張しながらも、ヒフミちゃんがサオリちゃんに声を掛けた。
アズサちゃんは、アツコちゃんのあの不思議な光でもう傷があるようには見えない。
けれど、私がどうこう言えないし……まあ、専門の子に任せるべきだよね?
だからアツコちゃんも、サオリちゃんに続いてお願いって言ったわけだし。
……実際、私も昨日銃撃に巻き込まれて地面に打った所が、さっき激しめに動いてたせいでジンジンとしてて痛いし…
「……先生のお姉さんは、私たちが責任を持って連れていく。…この身を挺してでも。」
「そ、そこまで背負わないでもいいよ…?」
サオリちゃんの覚悟が決まり過ぎている言葉に、私の方が思わず恐縮してしまう。
あんまり、そこまで持ち上げられるみたいにされるのは、私としてもかなり気まずいよぉ…
「は、はい…!お、お願いします…!」
「……それでは、騒ぎを聞きつけて来た人が集まる前に、それぞれ移動を始めましょうか。」
「えへへ……そ、そうですね…?」
「…分かった。先生のお姉さんのことは、私たちに任せて。」
ハナコちゃんとその少し後ろで隠れながら話すコハルちゃん。
そして、ヒヨリちゃんとミサキちゃんもそれに返答を返したけど、これは…
……やっぱり、なんか補習授業部のみんなと、アリウスのみんなの空気が明らかに少し気まずいような気がする…
「……さっ、ナギサちゃんたちを待たせてると思うから、私はサオリちゃんたちとそろそろ行こっか!」
…でも、今はあまりそのことには触れない方がよさそうだね?
「じゃあ、アツコちゃん……案内、お願いできるかな…?」
「ふふ、任せて。」
トリニティ生徒会のティーパーティーの1人、アツコちゃん。
一見、儚さを感じる立ち振る舞いをしているけど、やっぱり纏う雰囲気は、みんなを引っ張るような強かさを感じる。
「本当にありがとう……このまま私1人だと、周りの景色に気を取られて道に迷っちゃいそうだからね…?」
「あ、ああ……任せて、ほしい…」
……でも、アリウスの副会長であるサオリちゃん。
特にこの子は、私に対して申し訳なさそうな表情をしている。
私が銃撃戦に巻き込まれたことを、重く受け止めちゃってるのかな?
でもまあ、とりあえずはこうして一難は去ったんだし。
空気が重いままにするわけにはいかないよね?
「補習授業部のみんなも、危ないところを本当に助けてくれてありがとう…」
あとは、ここからはアズサちゃんたちとは別行動にはなるけど、まだ話したいこともあるから、すぐに会いにいかないと。
「……また後で、一緒にトリニティを回ろうね?」
「は、はい!ぜひ、そうしましょう!」
「…ああ。次はもっと、私たちとモモフレンズについて語ろう。」
「うん、もちろん!」
「じ、じゃあ……わ、私たちはここで失礼します…!」
私の言葉に反応して、アズサちゃんと横並びになってヒフミちゃんとコハルちゃんが先に歩き出した。
向かってる先に、看護婦のような格好をした子たちがいるけど、あの子たちが救護騎士団なのかな?
「では、四ノ崎さんをよろしくお願いしますね、アツコちゃん。」
「ふふ、それは任せて欲しいかな、ハナコちゃん。」
まだ残っていたハナコちゃんが、サオリちゃんたちに向かって目線を送る。
アツコちゃんと気兼ねなく話せているのを見るに、相手がティーパーティーの子であっても親交が深い間柄なのかな?
…でも、やっぱりアツコちゃん以外の子たちとは、お互いに絶妙に距離感のある空気が流れてる。
いや、どっちかって言うと話したくても、あまり口を開けない状況…みたいな雰囲気。
この子たちの間で何かあったんだろうけど、私からは聞けないよね…
「…ああ。先生のお姉さんの安全を、何よりも優先して連れていく。『後のこと』は、心配しなくても大丈夫だ。」
「「………」」
「……はい。」
そう言いながらサオリちゃんは帽子を取って、ハナコちゃんに一礼する。
ハナコちゃんも小さく返答を返して礼をし、そのまま3人へついて行こうとした。
「……あっ、そうでした。」
でもここで、何か思い出したかのようにハナコちゃんが足を止めた。
「お姉さんに、私から一つお伝えたいことがあります…」
「……えっ?私に伝えたいこと?」
そうしてハナコちゃんは私に近づいてきた。
私も、向かってきたハナコちゃんの顔に近づく形でそっと顔を寄せる。
「……お姉さんも、あとで救護騎士団の元へ行くことをお勧めします。しっかりと、自分の怪我の状態は正確に把握しておくべきですからね?」
「……!(け、怪我してること、バレてる…!?)」
私はその言葉を聞くと、反射的に目を少し開いてハナコちゃんへ向けて何度も頭を縦に振った。
服の下に隠れてたりして、打ったところは見えてないはずなのに…
もしかして、気付かないうちに表情に出てたかな…?
それなら、本当につくづく……キヴォトスの子たちは観察眼が鋭いね?
「分かったよ…!…気遣い、ありがとうね?」
「いえいえ……そういえば、お姉さんもキヴォトスの外では先生しているのですよね?」
「う、うん。そうだね……」
……あれ?
私が先生をしていること、ハナコちゃんに伝えてたっけ?
「でしたら、ティーパーティーの皆さんとの話が済んだ後…」
私が疑問を浮かべている間にさらに近づいてきたハナコちゃん。
その距離感は、もうほぼゼロに等しい。
妖艶な声で、そして囁くように言葉を口にしてきた。
「(補習授業部である私たちに……『刺激的な保健体育の授業』を、お願いしましょうかね?)」
「(……!?)」
「(ちなみに……教材として『お姉さん自身の実演』を用いるのも、アリですよ?)」
「(……!!?)」
小声で誰に聞かれてたわけじゃないのに、私の体が小さく驚きで跳ねる。
えっ、いや……こ、これってそういう意味…?
でも、ハナコちゃんの表情は変わらずにこやかだ…
「あ、あっ……んぇ…?」
「……ちょっと?」
「ふふふ、ごめんなさい。では〜……私はこれで♪」
思考が吹き飛んで、言葉も上手く出てこない……顔も熱い感じがする。
ミサキちゃんが釘を刺すみたいな目線を、ハナコちゃんに送っているのは分かる。
でも、そうだった。
電車の中にいた時からそうだったけど、ハナコちゃんって抵抗なく、こう…
……そういう危ない線を、なんのためらいもなく越えてくるんだった…
「……はっ…!?ハ、ハナコちゃん…!!」
一瞬思考が飛んだ私が顔を向けようとした頃には、ハナコちゃんはすでに3人を追って私に背を向けて走っていっていた。
なんだか私、揶揄われたりなんかしてばっかりだな…
「な、何か言われたのか…?」
頭を抱えていた私を、下から覗き込むようにサオリちゃんが見てきた。
凛々しい顔で心配してくれてるけど、内容は他言できないようなことなんだよね…
「い、いや…!これは、表に出さないような内容で…!」
はぁ……なんだか、これから言葉の爆弾が飛んでこないか変に意識して、キヴォトスの子たちの顔を見ちゃいそうだなぁ…
「と、とりあえず…!早く目的地に行こうよ、ねっ!?」
「あ、あぁ…」
私の必死なごまかしに、サオリちゃんは少しだけ戸惑ったような顔で返事をしてくれた。
それでも、大丈夫だと連呼している私は、すぐに視線の先にある特に大きな壮観な建物に足を向けて進もうとした。
「……待ってくれ、四ノ崎…さん…」
「……!ど、どうした、の?」
ふと、サオリちゃんから言葉が詰まるように呼び止められて、声のした方を振り返る。
そこには、困惑の色が消えて静かで、真っ直ぐ私を見ているサオリちゃんの顔があり、思わず息を呑んでしまった。
まるで何か大きな覚悟を決めたような、そんな表情。
「……ねぇ、お姉さん?」
「……!アツコ…」
「どうしたの、アツコちゃんも…」
すると、そのすぐ後ろでじっと私の顔を見ていたアツコちゃんが声を掛けてきた。
でもその表情は、サオリちゃんとは対照的に、にこやかでありつつも企みがあるみたいに見える。
「さっきの授業の話なんだけど、やるとしたら補習授業部のみんな限定じゃないんだよね?」
「……え?」
「ふふ。もしそうなら、私たちも参加させてもらおっかな?」
「(あ、あれ…!?アツコちゃんにも聞かれてたの…!?)い、いやいや…!さすがに、それは困るってば…!」
アツコちゃんが、可愛らしくニコッと笑ったのまま、淡々とスマホをちらっと掲げてみせてきてるし…
……これ、冗談でいいんだよね……アツコちゃん…?
「待って待って…!さすがに私の管轄外だし、それはさすがに勘弁…!」
「相変わらず、変なことを他人に吹き込むんだから……でも、いい顔してるね、お姉さん?」
ミサキちゃんはハナコちゃんに釘を刺していたこともあって、ため息をつきながらこう言ってるけど、あれ、よくあるのかな…?
でも、口元に手を添えて小さく笑ってるその顔は、間違いなく私の反応を楽しんでるやつでしょ…
「だ、大丈夫です…!わ、わたしは何も聞いてないですし……ほ、本当ですよ…!?」
「うぐっ…!」
ヒヨリちゃんはあわてて視線を逸らしながら、ぶんぶんと両手を振っていた。
けれど、その耳まで赤くなっているのはそういうことでしょ?
あー、もうどうしようもない。
「ど、どういうものだったんだ?そこまで機密性の高い内容だったのか…?」
あっ、サオリちゃんは耳にしてなかったおかげか、話してた内容について表情的にピンときてなさそう?
いや、でもまだ内容が分かってないなら、このまま巻き込まれる子を増やすわけにはいかない。
「そ、そういうわけじゃないけど…!これはあまり深く踏み込まず!掘り下げない方がいい内容なんだよ、サオリちゃん…!」
「そ、そうなのか…?……だが、それなら私から…」
うっ……だ、だめだ!
これじゃ余計に誤解が広がるパターンのやつだ…!
「も、もう行こうよ…!ナギサちゃんたちも待たせてるからぁ…!」
結局、ハナコちゃんが残していった『言葉の爆弾』は、サオリちゃんにだけには気づかれないまま、見事に盛大に炸裂した。
そして私たちは、その煙に包まれたまま、トリニティの道を歩き出したのだった。