青い残影を求めて   作:イナブ

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〈第五話〉キヴォトスのすゝめ

 

 誰もが一度はぼんやりと想像したことがあるであろう、『自分が先生になる』という風景。

 

 それが現実となり、私の前では先生になったプラナちゃんによる、授業形式でのキヴォトスの説明が行われていた。

 

 ……しかし、可愛らしい先生のこの授業…その情報の物量が圧倒的で、威力が物凄い。  

 

 おそらく私が在籍していた大学の授業の、およそ3コマ分に匹敵するだろう…

 

 ……あぁ、思い出すなぁ……頑張って単位の取得のために、睡魔と戦いながら授業を受けてたあの学生時代…

 

*******

 

 まずは、キヴォトス全体についての説明から始まり、次に各地に点在している学園についての話だ。

 このキヴォトスには、『三大校』と呼ばれる学園を筆頭にそれぞれ独自の学園が存在しているという。

 そして、どの学園にも属さない中央機関のような立ち位置の場所… それが、私に連絡を寄越してきた『連邦生徒会』という謎の組織だ。

 

「(……それぞれの学校は、その生徒たち自身が運営してるんだ……みんな、しっかりしてるなぁ…)」

 

 しかしある日、この連邦生徒会のトップである連邦生徒会長が失踪した。

 それによって、瞬く間にキヴォトスの治安は悪化…私が巻き込まれたあの銃撃戦以上のことが、キヴォトスの各地で起こったらしい。

 …そして、失踪した連邦生徒会長の代わりとして、弟がこのキヴォトスに『シャーレの先生』としてやってきたという。

 

「(……アイツ…そんな重要そうな立ち位置でここに来てたんだ…)」

 

 そこからプラナちゃんが教えてくれたのは、弟がキヴォトス各地で生じた問題を解決していったということ。

 関わった内容の幅はかなり広く、生徒一個人の小さな問題から、学校間の重要な外交問題の解決と多岐に渡ったらしい。

 さらにシャーレの先生という立場で動いていたその過程で…数度、このキヴォトス全体の命運をかけるほど大きな騒動と対峙したこともあったという。

 ……いや、マジで…?

 

「えーっと…プラナちゃん?ちょっと、気になったんだけど…本当に弟がその〜…今言った物凄く大きな問題解決に関わっていたの…?」

 

「……はい、全て事実です。私も…先生に救っていただきました。」

 

「へ、へぇー……そう…なんだねぇ…?」

 

 そうして様々な苦難を弟は生徒と共に乗り越え、現在ではキヴォトスの治安はかなり落ち着いたものになったらしい。

 各学校の治安組織の強化や不良生徒の受け入れによる暴動の減少…とある学校の生徒によるテロ行為の減少やら…

 …これら全てに私の弟もとい、シャーレの先生が関わっていたようだ。

 

「(……こう聞くと本当に…慕われてたんだなぁ、アイツ…)」

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

「先生のお姉さん。ここまでお話をお聞きしていただきありがとうございます…これで簡単にですが、私のキヴォトスや先生のしてきたことについての説明は終了となります。」

 

「……ハハハ……うん、なんだか… あっという間だったけど、すごく濃い時間だったねぇ……」

 

「…お疲れ様です、先生のお姉さん。」

 

 こうして、プラナちゃんによるかなり長いキヴォトスの説明は終了した。

 最後の終了を伝える礼に合わせて、私も色々と詰め込まれて重くなった頭を机に向けて下げる。

 

 いやぁ、本当にすごかった……圧倒されてしまったよ…

 それに話してくれたその内容はとても面白く、それがまーた良かった…

 昔は何度も格闘してた眠気が、今の時間の中では全くやってこなかった…これには感動してさえいる。

 ……私自身、こんなにも長い時間をかけて授業をしたことなどない。

 比べて、その長い時間をしっかりとやり遂げたプラナちゃんには、本当に脱帽であるよ…

 

「(……でも、これでも噛み砕いた方なんだぁ…)いやいやぁ…ありがとうねー、プラナちゃん?…おかげでようやく……私もキヴォトスの中を右往左往せずにいられそうだよ…」

 

「……いえ、私は…」

 

 教卓から降り、プラナちゃんは私のすぐ近くまでやってきた。

 顔には少し疲れが見えつつも、私に対して説明をやり切ったためか雰囲気自体は明るい印象を受ける。

 ……しかし、この表情は…

 

「…そんなことないよ、プラナちゃん?よしよーし♪」

 

「……!お姉さん…?」 

 

 私は自然と腕を伸ばして、労うようにプラナちゃんの頭を撫でる。

 …今のプラナちゃんの表情は、以前とある小学校にお邪魔させてもらった時、その子たちのしていた『褒められ待ちの表情』と似ていた。

 あの膨大な内容の話をさっきまでしていた子に対して、ただこうして頭を撫でるという褒め方は不釣り合いなのでは……とは思う。

 …だが、私はこうして頭を撫でることが、この子にとっては1番嬉しそうなことだ……となぜだか直感的に感じていた。

 

「ふふ、私をお姉さん呼びしてくれるなんて、嬉しいねぇ……あなたもお疲れ様、プラナちゃん。」

 

「……はい…」

 

 プラナちゃんは最初こそ驚いたような表情だった。

 しかし、しばらくすると静かに目を閉じ、そのまま私のされるがままになった……やっぱりかわいい。

 でもなんでだろうか…なんだか、撫でられ慣れているようか気がする?

 

「(……あぁ、もしかして……いや、多分…というか絶対そうだ…)」

 

 ……おそらく弟も、きっとこんな風にこの子のことを褒めていたな…

 何となくだが、この心地よさそうな表情からそれが分かった気がする。

 ここからしばらくプラナちゃんの表情を見ながら撫でるのを続けていたが、私はここでふとあることを思い出した。

 

「…!そういえば、ここ…『シッテムの箱』だったよね?この場所と、プラナちゃんについて聞き忘れていたんだけど…聞いても大丈夫かな?」

 

「あっ…すみません、私もすっかり忘れていました…」

 

 それはまだこの場所やプラナちゃんについて、詳しくは聞いていなかったということ。

 意外と、こういう身近な疑問って、つい見落としがちなんだよね…

 本人もこのことについては失念していたようであり、さっきの時間の中で説明しきれていなかったことに……どこかしょんぼりとしていた。

 …だが、私からしてみれば、あれでも十分すぎるほどだ。

 

「まぁ、うっかりは誰にでもあるからね……うん、気にしなくても大丈夫だよ?一から十まで忘れずに、間違うことなく、そして完璧にできる人なんて……絶対にいないからさ?これは私や…多分、弟だって同じはずだしね?」

 

「……!…はい、お姉さん…」

 

「だから、続きの話は今からすればいいし〜……あっ、でもこのままプラナちゃんを立たせたままで、話させるわけにはいかないよね……ほら、私の膝の上、おいで?」

 

「……え?」

 

 私の言葉でしょんぼりとした表情が和らいでくれた……良かった。

 そして私は片方の手で手招きをし、もう片方の手で自分の膝を叩いた。

 私のこの行動に、プラナちゃんは戸惑っている様子だったが、しばらくするとおずおずと私の膝の上に乗ってきてくれた。

 プラナちゃんの頭の上には、『ヘイロー』と呼ばれる輪っかがあるが、今のやり取りでもそれが次々と形を変えていた……なんか、これもずっと見てられるなぁ…

 

「それにしても、プラナちゃん。本当に説明上手かったね?ずっと聞いてたけど、全然飽きが来なかったし…誰かから教えてもらったの?」

 

「いえ、そういうわけでは……ですが、上手く説明を行えたのだとしたら、それはずっと近くで先生の様子を見ていたからだと思います…」

 

「……そっか…やっぱり、近くで眺めているだけでも、そういうふうに影響を受けたり、与えたりするものなんだねぇ……ははは、これについては、私も弟のことを見習わないとね…」

 

 ……人は生まれた時から人格の形成が始まり、それに関わる大人によって成長過程に大きく変わっていくらしい。

 私や弟は…この話の内容を、身をもって体験している人間だと思われる。

 …しかしどうやら、私と違って弟は自分だけでなく、周りにもいい影響を与えるような大人になっていたようだ。

 

 ……本当に羨ましいものだ…

 

 同じ血の繋がる弟ながら……嫉妬してしまうな…

 

「……お姉さん?」

 

「…!あぁ、ごめんね…ちょっと、ぼーっと考え事しててね…?…それじゃあ、また質問になるけど…やっぱりプラナちゃんって、OSってことは話してくれた生徒の子たちとは違うのかな?」

 

「…はい、そうなります。私は『先輩』と一緒に、このシッテムの箱の中から先生のサポートをしていました。私たちの主な役割としては、データベースにアクセスし情報を先生に提供、出現した対象物のスキャン、サンクトゥムタワーへのアクセスなどが挙げられます。」

 

「(サンクー…トゥムタワー…たしか、あの一際目立っていた建物のことだったはず…)……詳細は分からないけど、プラナちゃんは本当に色々できるんだね…?」

 

「お姉さんも、何か分からないことが私にお聞きくださいね?」

 

 …噛み砕いて言ってしまえば、プラナちゃんは聞いたことについて、何でも答えてくれるような役割らしい。

 それ以外のことについては…まぁ、私にはあまり関係のないこととして、見ていいだろう……多分…

 

「…ありがとう、頼りにさせてもらうよ?…それで、このシッテムの箱についてなんだけど、この教室には私やプラナちゃん以外の人が入って来れるの?」

 

「いえ、この中に入って来られる人は限られた人だけです。例としては、連邦生徒会長から権限を与えれた先生が該当してます。」

 

「そうなんだ……あれ?…でも、私はその生徒会長って人に会っていないよ?それなのに、何で私はここにいられるの?」

 

 連邦生徒会長…実質的なキヴォトスで1番の立場として存在する人物。

 基本的に様々な問題を1人で解決するため、『超人』と呼ばれることもあるらしい。

 行方不明となっていたが…現在は再び生徒会長の席についているようだ。

 ……しかし弟よ…

 そんな子の代わりとして、このキヴォトスへ来たの…さすがに荷が重くなかったか?

 

「それは、シッテムの箱の機能自体をお姉さんの持っていた端末に『一時的に移している状態』だからです。本来、シッテムの箱は先生の持っていたタブレット端末にのみ存在できるものですが…現在は、その機能を他の人の扱うものに移すことが可能となっているんです。これにも連邦生徒会長の権限が必要となり、加えてデータベース上に対象の端末情報が存在している場合のみですが…」

 

「な、なるほどぉ……あっ、そういえば『メール』…!……そっか…あれがあったから、プラナちゃんは私の持っていた端末に来れたんだ…」

 

「そういうことですね。連邦生徒会からお姉さんへ送られたメールを経由して、端末を介して私はここに存在しているということです。」

 

 ……少しずつだが、私も話の内容を色々と飲み込めるようにはなってきた…

 ひとまず、プラナちゃんが私の前に現れた方法などについては知ることはできたが……次は目的についてだ。

 話を聞いた限りだと、そのシッテムの箱はかなり重要そうな立ち位置として存在しているはずだ。

 ……だが、プラナちゃんはそれを踏まえて私の所へ来てくれている…

 

「…ねえ?どうしてプラナちゃんは、こうして私のところに来てくれたの?やっぱり、私がキヴォトスのことを何も知らなかったから?」

 

「…たしかに、それも理由としてあります。しかし1番の理由は…『お姉さんを守るため』です。」

 

「……えっ?…私を守るため…?」

 

「はい。実は、シッテムの箱には所有している人物を銃弾や爆発から守るための機能が存在しています。バリア…と言えば、想像しやすいかと思います。」

 

「…!?プ、プラナちゃん……そんな凄いこともできるんだね…?」

 

 この子……私の思っている以上に物凄い存在だ…

 ここにくる前のことを思い返してみたが…この世界では銃撃は当たり前。

 様々なところで銃弾が飛び交い、爆発が巻き起こっているという、私にとっては超ハードな世界なのだ。

 しかし、この子がいてくれることによって、そんなキヴォトスを安心して生き抜くことができる…

 ……いや、本当にこの子がいてくれることによる安心感が桁違いだ…

 

「(……本当に凄すぎるなぁ、この子…)…あまりにも頼もしすぎる…」

 

「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです。…しかし、これはシッテムの箱を持っていないと機能しないものです。加えてあまりにも強い衝撃であった場合、バリアが意味を成さないことがありますので…こうして私がいるとしても、周囲には十分注意するようにしてください。」  

 

「…!…うん、気をつけるね…」

 

 おっと……つい心の内まで言葉として出てしまったようだ…

 しかし…このキヴォトスを出歩く時は、肌身離さずスマホ端末もといプラナちゃんを持ち、充電残量も注意しなければ…

 …まぁ、1番はそういったことに巻き込まれないことだろうが…

 

「…私もできるだけ、プラナちゃんを心配させないために行動するよ。………ねぇ、プラナちゃん…」

 

「…?はい、なんでしょうか……ーー!?」

 

 弟が…アイツがこのキヴォトスで生き続けられた理由が、この子ともう1人の『先輩』と呼ばれている子のおかげだということも分かった。

 …きっとアイツは、この子たちには感謝してもしきれないほどまで命を助けられたのだろう。

 …だからこれは、アイツの分まで含めての私がこの子に対してしてあげれることだった。

 

「……あの子のこと…ずっと守ってくれて、本当にありがとうね…」

 

「………」

 

 私は後ろからこの子に対して腕を回し、できる限りその体を私の方へ引き寄せる。

 ……これは姉として、私がこの子たちにできる精一杯の感謝だった。

 こうして驚かせてしまったが……私の感謝は、きっとこうでもしないと伝わらないだろうから…

 

「……いえ、それが私たちの役目ですので…」

 

「…ううん、そんなことない…」

 

 ……我ながら…少し大人気ないかもしれないな…

 

 だが…私だって、こうして不恰好だと思われても、言葉や行動で胸の内を伝えたい時くらいあるものだ。

 

 ……でもきっと、アイツが近くでこの様子見ていたら…

 

 その時は、アイツはニマニマと私を見て笑うだろうなぁ…

 

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