宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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序章
プロローグ


 

【プロローグ】

 

 

無限に広がる大宇宙。

 

星々の煌めきの中に、様々な生命の営みがある。

 

希望、野心、闘争、そして、愛。

形こそ多様ではあるが、これらは等しく、生命の本能に根差している。

即ちこれらは、人型知的生命の宿命と言い換えることができる。

 

地球人類も、ガミラス人も。

"愛"を追い求めたが故、"愛"を否定せんとした人造生命種族・

ガトランティスもまた、その例外とはならなかった。

 

 

時に、西暦2203年。

そうした彼らの営みの一種___戦争に、一つの区切りが打たれた。

 

強大な古代星間文明の遺物である『滅びの方舟』を押し立て、

"真実の愛"の名の下に宇宙に破壊と殺戮を撒き散らしていた白色彗星帝国を、

地球連邦ならびに共和政ガミラスの同盟軍が完膚なきまでに打ち破り、

ガトランティス人を更生・再出発させた。

 

地球・ガミラス両国では、圧倒的な物量を誇ったガトランティス軍の前に

多量の流血を伴う絶滅戦争は不可避という見方が支配的だったが、

同盟軍は最低限の被害で彗星帝国の撃攘に成功。

さらに彗星から得た戦利品により両国は"潜在的危機"の克服すら果たした。

 

 

"正史"というべき世界線では、およそあり得ない結果が齎されたこの戦争。

その陰で、一人の男の暗躍があったことを知る者は少ない。

 

そして、その男の行動によって生まれた変化が、

未来をどう変えてしまったのかを知る者は、一人としていなかった。

 

 

 

………これは、"正史"と乖離した世界で繰り広げられる、"その後"の物語である。

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

太陽系第三惑星・地球から、約7万光年という距離を隔てた空間。

 

地球人類が『射手座矮小楕円銀河』と呼称する天ノ川銀河系の伴銀河内。

惑星と同じ名の星系に、その惑星はあった。

 

その名も、惑星ガルマン。

 

 

雪の降り積もる寒冷な同惑星には、大別して二種類の人種がいた。

緑色の肌を持つ種族と、青色の肌を持つ種族。

あるいは、支配する種族と、支配される種族である___

 

 

 

「あまりに過大な要求です、総督閣下。 現状でさえ維持するのが困難なのです」

 

たどたどしい言葉で、跪いた青い肌の老人が再考を哀願した。

 

惑星を支配する民族の代表者に相対するための正装として老爺が着ている

白地に金の装飾が施された礼服は、彼が青肌の人種・ガルマン人を束ねる

指導者的な地位にあることを示してはいたが、その一部は擦り切れ、ほつれている。

それは、彼が地位に見合わぬ窮状にあることを示し、

彼の率いる民族そのものが苦境を強いられていることを暗示していた。

 

 

だが、老爺の前にある緑色の肌の顔は、彼らのそんな苦境を知っていてなお、

酷薄に見える笑みを湛えながら告げるのだった。

 

「私はそうは思わんのだがねェ、キーリングくん」

 

「……!!」

 

キーリングと呼ばれた、ガルマン人の神官一族の長老を務める老人は、

俯けていた顔を上げ、殺意さえ滲んだ怒りの目線を緑色の肌の"総督"に向けた。

 

「なんだその目は!!」

 

"総督"の傍らにいた同じく緑肌の"秘書官"が、

長老の反駁するかのような表情を見咎めいきり立つ。

 

しかし、"総督"はそれを手で軽く制し、愉快そうな視線で長老を見下ろす。

 

「落ち着きたまえ、()()()()()

 ……まぁ、言いたいことはわかる。だが、これは君たちのためでもあるのだよ。」

 

「……閣下から提示されたノルマを達成していけば、このガルマン星が、

 お前たちガルマン人が、中央委員会から"有用な存在"として認められ、

 やがて地位の向上と待遇の改善に繋がる。

 従って、お前たちは黙って我らの課すノルマを達成すればよいのだ。」

 

"総督"の秘書官ゴヤチェクが、上司の意を汲んでキーリングに説く。

だがそれは、キーリング長老の胸中で燃え盛る怒りの炎に油を注ぐだけだった。

 

(何が地位の向上だ、待遇の改善だ!

 そんな戯言を何年聞いてきたと思っている!)

 

長老は、目の前の男が総督として赴任してから数年間、

交渉役として対峙し続ける中、過酷な労働・資源採掘量のノルマを課される度に

同じような美辞麗句を聞かされてきた。

 

ここにいる緑肌の男たちは、自分たち(ガルマン人)を同じ人間として見てはいない。

連中にとっては奴隷以下___言葉を話せるだけの家畜、

書類に書かれた労働力資源の数字でしかないのだろう。

 

「我々はあくまで、共存共栄を目的に統治と資源開発を行っている。

 ノルマをこなすことは、君たち自身の利益に直結するのだ。

 その点をよく理解してもらいたい。」

 

まただ。

また、"総督"の口から無責任な()()()が、履行する気もない空手形が放言される。

 

30周期ほど前、連中の体制が変わって新しい総督がやって来た時も、

「公平公正な管理社会の実現」という、大層なお題目を掲げていた。

だが、その後にしていたことと言えば、弱者への暴虐と搾取、破壊だけだ。

 

連中に高尚な理想などはなく、

そう騙られるものは暴力で支配し収奪するための都合のいい方便でしかない。

この男たちだけではない、『ボラー連邦』という星間国家そのものがそうなのだ……

 

___少なくとも、長老たちガルマン人にとってはそれが全てだった。

 

 

 

「では、これにて来期分のノルマについての伝達を終わる。戻ってよろしい。

 ……キーリング長老を生活区画まで送って差し上げろ」

 

総督がにやついた顔で、キーリングとの面会終了を告げ、従兵に長老の移送を命じる。

 

キーリングは渋々といった体で、面会に用いられた部屋から単身で出、

ドアの向こうに控えていた兵士の監視の下に歩み去っていく。

 

 

キーリングと"総督"たちの面会の場とされていたのは、

数十年前にガルマン星に建設されたボラー連邦軍宇宙軍港の一角に係留された、

総督の座乗艦たる宇宙空母の一室である。

 

下艦した長老は、巨大な宇宙空母を悔しげに見上げていたが、

兵士に呼びつけられ、彼をガルマン人居住区に送るための車両に押し込まれ、

軍港基地を後にした。

 

その様子は、移動総督府を兼ねたガノンダ級航宙母艦『ヌルポガ』の舷窓から覗く

"総督"とゴヤチェク秘書官の二対の瞳が捉えていた。

 

「少々、吹っ掛けすぎましたかな」

 

窓際から、面会に使われた部屋の椅子にそれぞれ戻る二人のボラー人。

総督付きの秘書官であるゴヤチェクが、固い表情で呟く。

 

「いやいや、我々もいつまでこの星に居られるか分からんのだ。

 搾れるうちに搾り取っておかねばなるまい。」

 

秘書官の言葉に反応し、言葉が返された。

その声色は明るくも暗くもなく、搾取を当然のものとして捉える者のそれだ。

 

実際に、この男___ボラー連邦永久管理機構から派遣されたガルマン星総督、

ラウジム・ネガテボフにとって、搾取は特別なことではない、日常だった。

 

 

「確か、バルメーダだったか……そんな名前の不明勢力の宇宙艦隊の追跡に

 人員を割くことが中央で決まって、本来の着任予定者がそちらに回され、

 巡り巡って我々はこの星にやってきた。」

 

ネガテボフ総督は、自身を取り巻く環境の整理として、誰にともなく語りだす。

 

「だが、例の勢力の追跡部隊からは目立った続報はないらしい。

 こうなると、いつ追跡部隊が解散して、元々ここに着任予定だった奴と

 交代することになってもおかしくないわけだ。」

 

「……その前に、この星から得るものを得ておくというお考えですね。」

 

総督秘書官ゴヤチェクも、得心の表情で頷いた。

 

「中央の方は、この星にさして興味を持っていないようだがな……」

 

椅子に身を沈めたネガテボフは、煙草に火をつけながらニヤリと笑う。

 

 

実は、ガルマン星に対し中央から追加で課せられたノルマなど、存在しない。

永久管理機構から課せられたガルマン星の資源供出ノルマに変化はなく、

ネガテボフらガルマン総督府が立場を悪用し、勝手にでっち上げたものだった。

 

元来のノルマに、ネガテボフが独断で追加したノルマの下で採掘された

ガルマン星の資源は、ネガテボフのような不正役人たちが水面下で構築した

闇物資ネットワークで密かに売買され、その代金は総督の懐に入っている。

 

しかも、中央から支給される惑星開発・支配民宣撫用の資金や物資の一部を

着服あるいは闇市場に売り飛ばし、そこからも利益を得ていた。

その代償は、ガルマン人の劣悪な生活環境と、

最低限の設備しかない寒々とした基地や採掘場などボラー側施設という形で現れた。

 

ラウジム・ネガテボフはその実、中央委員会の任地への関心の薄さを良いことに、

住民たちに過酷な労働を強いて私腹を肥やしていた、とんでもない悪代官だった。

 

 

「しかし、いざ離れるとなると名残惜しくはあるな。

 この『猿酒』を呑める頻度も減るし、連中を見物にするのもできなくなる」

 

ネガテボフの悪辣なところはそれだけに留まらなかった。

 

彼は元来ガルマン星で醸造されていた酒を、「ガルマンの猿酒」と呼びつつも

大いに気に入り、その製造設備や原材料、職人をほぼ独占していたが、

驚くべきことにガルマン人が苦しむ姿をその肴としていたのである。

 

ネガテボフは他民族支配のためにボラー連邦が開発した、

反抗者に毒薬を打ち込む首輪を改造し、着用者の身体に電流が流れるようにした。

彼曰く

 

「毒で殺してしまえば一度で終わりだが、電流なら何度も苦しめられるし、

 軽々と労働力を減らすことにはならない」

 

とのことらしい。

実際問題、反抗による死者数は数字上減っており、ネガテボフはこれを

「更生の機会を与え反抗自体を減らしている」と自らの徳治であると

上層部に報告・喧伝し一定の評価を得ているのが余計に性質が悪かった。

 

かくして、

ガルマン人の反抗者が電撃で苦しめられる様は監視カメラに録画され、

その映像を肴にネガテボフと秘書官ゴヤチェクは酒を嗜んでいる。

 

 

総じてネガテボフらは、ガルマン人の長老キーリングが内心で評したような

『名分や正当性を掲げながらもその実ないがしろにし、搾取と横暴に勤しむ』

ボラー人のイメージが具現化された存在であると言えた。

 

 

「ともあれ、交代人事が決まるまでは、この星は我々の天下だ。

 はーーーっはっはっはっは!!」

 

煙草を吸い終えたネガテボフは、自身が言及したため思い出し、

飲みたくなった「ガルマンの猿酒」の瓶を取り出し、二つのグラスに注ぐ。

そして笑いながらゴヤチェクと杯を打ち合わせ、酒を喉に流し込んだ。

 

いつもより大分早く酔いが回ったのか、酩酊感が思考を停止・消失させ、

瞼がシャッターのように勢いよく降りてゆく。

やがて、ネガテボフもゴヤチェクも机に突っ伏し、深い眠りへ堕ちてゆく。

 

 

そのためだろうか、彼らは終ぞ気付かなかった。

 

黒い戦闘服の集団が『ヌルポガ』に侵入し、総督の執務室にも踏み入ったことなど……。

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

ガルマン星に、夜が来た。

 

それは、惑星の片側に留まらなかった。

 

支配された青肌のガルマン人も、支配していたボラー人も、眠る。

 

恒星こそ天高く昇っているが、誰の眼にも認識されていなければ、夜も同然だ。

 

 

だが、その例外もあった。

 

昨日にはガルマン星にいなかった"異物"が、瞼を開き、起きて動いている。

 

"黒い影"のうちの一つは、自身が夜の王者とばかりに周囲の影を従えていた。

 

が、その"影"もまた、従えられる立場にあったらしい。

 

"影"は赤い光を灯した。

 

 

 

『……メルダーズ総司令、こちらミヨーズ。 我、「ガルマン星」を制圧せり。』

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

それは、ネガテボフの人生において十指に入るほど最悪の目覚めとなった。

 

「猿酒」の二日酔いによる頭痛、椅子で寝たことによる身体の痛み。

……そんなことはここ最近でも何度かあったので、問題ではない。

 

そんなこととは次元が違うほどの問題が今、ネガテボフらを苛んでいる。

 

 

彼らのいる場所は、ネガテボフの乗艦・航宙母艦『ヌルポガ』。

しかし同艦は、キーリング長老の接見時と異なり、宇宙空間にあった。

周囲には『ヌルポガ』同様ガルマン星駐留艦隊に属する宇宙軍艦の姿がある。

 

では、この宇宙空間はガルマン星系なのだろうか。

___その答えは是だ。

 

『ヌルポガ』の各種観測艤装が得た情報は、

現在地を間違いなくガルマン星系と結論付けていた。

 

では、駐留艦隊の根拠地たる惑星ガルマンの沖合か。

___その答えは。

 

 

___その答えは、是とも非ともつかなかった。

 

 

ボラー連邦の悪代官・ネガテボフ総督の目の前、舷窓を隔てた空間。

 

本来は彼の任地である惑星ガルマンとその双子星が周回する公転軌道上には。

 

 

 

総督(ネガテボフ)秘書官(ゴヤチェク)も、見たことがない赤茶けた色の岩石惑星が浮かんでいる。

 

ネガテボフは、目を見開きながら、ぎこちない動作で秘書官の方へ振り向いた。

 

 

「…………ガルマン星、どこいった?」

 

 

悪夢を見ているのではないかという思いを込めた、

ラウジム・ネガテボフ ガルマン星"元"総督が辛くも絞り出した言葉は、

執務室内に虚しく反響したのだった。

 

 

 

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