宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第二章 銀河最前線の星系
第十一話 事変再び


 

【第11話】

 

 

 

時に、西暦2205年11月3日。

 

双子惑星ガミラスとイスカンダルが消滅した『サレザー事変』から、

およそ半年が経過している。

 

ガミラス人にとり旧母星と、精神文化上の重要な星が永久に失われたことは

少なからぬ衝撃を与えた(特に後者は、前者のように近いうちに崩壊するとは

考えられていなかったため尚更)。

しかし、移民計画が完遂されていたことと、イスカンダル王族が健在であることから

時間が経つにつれ、民心の動揺は収まっていった。

 

 

そんな共和政ガミラスの国家領域、大マゼラン銀河に一隻の宇宙貨客船がやって来た。

それが明るい緑色の船体色をした、長い葉巻型に近いシルエットのガミラス船であることを

加味すれば、『戻ってきた』と言うべきだろうか。

 

「まさか、本当にガミラスが爆発するとはな……しかも、イスカンダルまで。」

 

「旦那が変なこというからじゃないですか?」

 

「『ヤマト』の乗組員に聞いたことがあります。

 彼らの故郷___地球(テロン)の極東管区には"コトダマ"という概念があるそうです」

 

「うるさい! 偶然だよ、偶然!」

 

その船には、地球(テロン)・ガミラス間の新たな経済協定を結ぶための使節団として

同盟国に訪れ、2205年上半期を地球で過ごしたガミラス貴族にして上院議員、

セグドル・ヴァム=ツァインフェルテ伯爵一行の姿がある。

 

彼らは経済協定締結という使節団の仕事を済ませた後、

地球各管区の都市をお忍びで練り歩き市場調査をしたり、

ジョセフ・ジョースターⅤ世上院議員ら地球連邦政府・天ノ川銀河開発委員会と

非公式の会談に臨んだり、メフィルス・ミューラー大使やバレルド・アクション中将など

地球に在任し現地の情報を握っているガミラス要人と私的な会合を重ねて

ツァインフェルテ財閥の益となる情報収集に励んだりして、

ついでに縁者のための地球土産を山ほど買い込んで、帰途に就いたのだ。

 

VIP用個室のソファで寛ぎながら、板型デバイスで電子新聞を読む伯爵は、

同じく部屋のテーブルで地球のチェスに近いボードゲームをしている二人の随員___

警護役兼運転手のグレメッツ・シュロク、議員秘書のクラウス・キーマンと

他愛もない会話をしていた。

 

しかし、ツァインフェルテ伯爵家としては

『サレザー事変』に無関係ではない___どころか、当事者と言っても良い立場だ。

何せ、同家が営む天体開発業者による、ガミラス星地殻掘削活動が同惑星、

ひいてはイスカンダル星を崩壊させる遠因となった疑いがかけられている。

 

幸い、デスラー総統や政府によって、ガミラスの崩壊は単純に天体としての寿命で、

地殻掘削による影響ではないと公式に発表され、伯爵家企業の責任は追及されていない。

ガミラス崩壊時に放棄され失われた機材なども保険をかけていたため、

ツァインフェルテ開発社の損失は許容可能なレベルに抑え込まれている。

これらの危機管理策は、全てセグドル伯爵からユノール令嬢への入れ知恵に基づいていた。

 

「かわいそうに、ユンめ、泣き腫らしていたよ。」

 

伯爵は、ガミラス爆発喪失を姪かつ養女で、天体開発社の社長である

ユノールから映像通信で報告された際のことを思い起こす。

その言葉に、『グレム』こと警護役のシュロクが応じた。

 

「ま、無理もないでしょう。

 ガミラスの地殻土壌の掘削移送利権を競り落とすのには伯爵も苦労されましたし、

 それをパーにしてしまったと"お嬢"が責任を感じていても不思議はありません。

 会社についてもしばらく、悪評が立ちかねませんし……」

 

その程度、どうと言うことはないのだがな___という伯爵の呟きを聞きつつ、

キーマンは『サレザー事変』による伯爵家への影響について思案する。

 

(……確かに、開発の利権を買ったガミラス、ついでにイスカンダルは失ったが、

 王族救出と情報秘匿に協力した見返りとして、

 両惑星の破片の所有権がツァインフェルテ社には渡った。)

 

(旧本星・大ガミラスと聖なる星・イスカンダルの欠片。

 マゼラン中の貴族層や有力者にとって魅力的なステータスになるだろう。

 イスカンダルの破片について言えば、地球人も欲しがる可能性が高い。)

 

(ガミラスとイスカンダルの海が変じた氷アステロイドは

 岩塊破片と同じ"置き物"に加え、乾燥天体の開拓用水資源にも使える。

 手間やらを考えれば、どうにか黒字になる……というところか)

 

一応の結論を脳内で出すと、キーマンは盤上の駒を動かした。

 

王手(チェック)

 

「あっ! また負けた!」

 

シュロクが伯爵の話の聞き役に意識を取られていたせいか、単に実力差か、

地球からの帰還航海中に行われた何回目かの勝負は、またもキーマンの勝利に終わる。

 

そんな時、室内に据え付けられた艦内電話のコール音が響き渡った。

伯爵は管理デバイスのスイッチを入れ、呼び出しに応じる。

 

「はいもしもし? 何かあったのかね?」

 

『ツァインフェルテ伯爵閣下、ご令嬢から超空間通信が入っております。

 至急、艦外通信室までお越しください』

 

「なに? 今度は何事だ……!?」

 

VIP客を応対する艦内部署からの電話の内容に、伯爵は困惑した。

キーマンとシュロクもまた、顔を見合わせる。

 

 

___数分後、伯爵一行に届けられた報は、

ガミラスとイスカンダルが消滅したニュース以上に彼らを驚愕させるのだった。

 

 

 

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伴銀河の輝きを背に、宇宙の漆黒に溶け込んだ巨大な"影"が、悠然と泳ぐ。

 

その様は、明るい月夜にあってなお暗い、深い海中を進む鯨の姿を想起させる。

 

しかしそれは、哺乳動物のような生易しい存在ではなく、

人工の硬い外皮と鋭い牙を持つ、()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

『……ワープエネルギー回復まで、およそ1時間です』

 

巨大な"影"の中では、二つの"人影"が赤い光を伴って対話している。

 

『いいだろう。

 ___「コソン」と「エナム」は、"タイムライン"通りにマゼラン銀河を離脱する』

 

響き渡るのは、平坦な声色と、それに似つかわしくない美しい"旋律"だった。

 

『……しかし、かの星が消滅しているとは……』

 

『我々が知る世界と、やはり乖離していると見るべきだろう。

 我らの計画を端から頓挫させたあの()()の原因も……』

 

二つの声の片方に、"怪訝"と"困惑"が滲む。

対して、もう一方はあくまで冷静を保ったままであった。

 

『だが、"次善の策"は順調に進んでいる。今はそれで満足すべきだろう』

 

『ハッ。』

 

 

それきり、華やかな"旋律"のみが残される。

 

それは地球連邦において、一般に『ドビュッシーの月の光』と呼ばれる音楽だった……

 

 

 

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ところ変わって、ここは地球。

地球人類の連邦国家が居を置く太陽系第三惑星である。

 

 

奇しくも、その男もドビュッシーの『月の光』を聴いていた。

しかし、折悪く旋律には不快な雑音(ノイズ)が混じり___

 

 

「……いかん、針が飛んだ。 まずいな、借り物だというのに……」

 

短く切り揃えた金髪頭に眼鏡が印象的なその男、クロード・ヴェルニー。

外務局長官の椅子に着き、机に置いた蓄音機でレコードをかけていたが、

不調を来したため電源を切り、再生を取りやめる。

 

蓄音機とレコードは、外務局長官の就任祝いに、

ヴェルニーの故郷である欧州管区の行政長官から貸し出されたものだ。

22世紀初頭に起きた懐古ブームで作られたものだが、

ガミラス戦争の混乱を潜り抜けた希少な品であり、取り扱いには慎重さが求められた。

 

「……ん?」

 

彼がレコードを蓄音機から外し、ケースへとしまい込んでいると、

局内電話に着信があることを示すランプが点灯しているのに気付いた。

 

通話に出てみると、向こう側からは「ヴェルニー長官!」と呼びかける

局員の焦燥と混乱に満ちた声色が聞こえてくる。

 

「落ち着け、何があったんだ? 緊急の事項のようだが」

 

ヴェルニーは電話してきた外務局員に、冷静な報告を求める。

それを受けて自分の焦っている姿を反省したのか、呼吸を整える息遣いが聞こえてきた。

 

それから局員は、電話の本題___

外務局のトップに報告すべき、緊急の重要事項をかいつまんで告げる。

 

 

『申し上げます、サレザー恒星系に、新惑星が現れました!!』

 

「………何ィ!?」

 

俄かには信じ難い局員の報告に、

ヴェルニーはまず自分の耳、次いで報告者の正気を疑わざるを得なかった。

 

 

 

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「……それなりに長く生きてきたつもりだったが、

 頬をつねっても痛い明晰夢というのは未だに経験したことが無かったな」

 

遠い目をしてぼやいたのは、フドリク・ワルトハイム大佐。

 

『サレザー事変』時に、危険廃星指定されたガミラス星の封鎖監視艦隊を指揮し、

部下の反対を抑えてイスカンダル王族の救出を最初に試みた指揮官である。

的確で果敢な判断を評価され、特にお咎めを受けることもなく、

現在はサレザー恒星系とその周辺を担当区域とする警邏(パトロール)艦隊を指揮している。

 

その彼は、たった今自分が目撃している光景を現実と思うことができなかった。

白昼夢___それも悪夢の類を見ているのだ、と錯覚する。

だが彼の現実逃避も空しく、部下たちの声がその光景を現実であると認識させた。

 

ワルトハイム艦隊は、サレザー星系に残置された星系監視システムからの異常警報を受け

異常が確認された同恒星系の第四惑星軌道___かつて青と緑の双子星が存在し

今はただ、その名残たる残骸が漂流する空間へとやってきている。

そこで彼が目撃した光景は___

 

 

「爆散した惑星が蘇るのと、影も形もなかった星がいきなり現れるのは、

 一体どちらの方が起こる可能性が高いんだろうな?」

 

大佐は乾いた笑いと共に、同じく驚愕に固まった副官に問い掛ける。

 

彼らが乗る艦隊旗艦『ワルドルギス』の艦橋窓を隔てた旧第四惑星軌道空間には、

ガミラス星とイスカンダル星の成れの果てである岩塊・氷海群の姿はない。

それらしきものは、どういう訳か第五惑星エピドラ軌道附近に移動している。

それが異常かと艦隊の人間は当初考えたが、

それよりももっと明らかな異変が、そこで起こっていた。

 

 

かつて、ガミラス星とイスカンダル星が二連星として存在した空間。

 

今そこには、在りし日のガミラス星を思わせる青緑色の惑星と、

イスカンダル星を思い出させるような碧い海洋惑星が、双子星として存在していた。

 

 

 

半年前に消滅したガミラス・イスカンダル両星と入れ替わるかのように、

突如として出現した謎の連星。

 

あまりに奇妙、奇天烈、摩訶不思議な事態と、

それに対する地球・ガミラス両政府の諸対応を併せ、

後世ではこの事件を『第二次サレザー事変』と呼ぶ_____

 

 

 

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