宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者 作:モアンゴル
【第12話】
デスラー紀元109年某日、地球時間換算では西暦2205年11月5日。
共和政ガミラス国家領域たる大小マゼランの諸市民の統合の象徴として、
両マゼラン銀河圏の文化・歴史の担い手として、イスカンダル王家と共に
国民の敬愛を集めている国家指導者、アベルト・デスラー総統は、
仮住居・臨時官邸としている『デウスーラⅡ世』独立戦闘指揮艦の内部にある
総統執務室にて、『第二次サレザー事変』の続報を聞くことになった。
「報告を入れてきたということは……調査隊が到着したということかね」
『はい__先ほど軍官民合同の科学調査団より、
問題の惑星上空に到着し大気圏内への観測機器投入を開始する旨、
機械人形及び無人機による情報収集完了後に調査団上陸を決行する旨、
入電いたしました』
執務室内の立体投影機に現れたのはガデル・タラン大将。
2205年前半期まで移民計画本部長の任にあったデスラーの懐刀だが、
移民計画の大部分が達成されたことにより本部長の座を他者に譲り、
タラン将軍にとり信用できるガルヒ・ダークナス少将に預けていた
総統付き侍従連絡武官職に就くこととなったのだ。
なお、侍従武官職を離れたダークナス将軍は現在、
サレザー事変前まで臨時総統官邸になっていた旧デスラー家別荘に
行宮しているイスカンダル王族の警護責任者という大役を任せられている。
……そんなタラン将軍が伝えてきたのは、二日前、突如として
サレザー恒星系旧第四惑星軌道___半年前まで双子星ガミラス・イスカンダルが
存在していた空間に出現した、謎の連星への対処についての進捗状況だった。
サレザー系周辺宙域を巡回警備していたワルトハイム艦隊は、
系内監視システムの警報により同星系へ進出して異常事態を確認した直後に、
司令部側も当初は何かの間違いと考えたが、現地の生の映像を見せられては
信じる他なく、更にそこから上位司令部、参謀本部、民主政府・省庁と伝達され、
突如出現した奇妙な双子星への対応策が練られることとなったのである。
謎の星の第一発見者となったワルトハイム警邏艦隊は、天体の様子に加え、
双子星の重力圏に対宙迎撃衛星のような危険物の有無、惑星地表からビームや
ミサイルなど対宙兵器が発射されないか、敵性宇宙艦隊が現れないか、
安全を確認するため二度、三度と、青と緑の連星の沿海域というべき距離を航行。
同時に軌道上から地表の様子を走査・撮影し、生命、特に人型知的生命体の存在や
稼働・非稼働問わず構造物が存在しないかを確かめた。
「……民主共和政に移行してから初となるか、異星人との接触は。」
デスラー総統は、とびきり苦い薬を飲んだような渋い顔を浮かべて呟く。
___ワルトハイム艦隊による初期調査の結果、双子星の片方……
在りし日のガミラス星を想起させるような緑色の岩石惑星の地表では
人型知的生命、即ち異星人が活動していることが確認され、
都市集落や、軍事基地のような建造物が惑星上に存在していることが認められた。
だが、謎の星に居住している人類は、敵対する意思がないのか、
あるいはそもそもワルトハイム艦隊の存在に気付いていないのか、
宇宙軍港らしき拠点から宇宙艦隊を出撃させてくることも、
対宙兵器を撃ち放つこともなく、不気味な沈黙を保っていた。
……結果、ガミラス政府は緑色の星に調査団を降下・上陸させることを決定。
現地住民との接触をも含む、惑星地表での詳細な調査が敢行されることになる。
これまで、共和政に移行するまでの貴族寡頭政、独裁体制下のガミラスは、
大小マゼラン銀河内外にある、ザルツや
接触時には、敵対的・侵略的姿勢で臨んでおり、後に大きな禍根を残している。
その当事者だったデスラー総統としては、苦い記憶に顔を顰めざるを得なかった。
「……私に言う資格などありはすまいが、平和的な接触が望ましい、な」
『………。』
総統の心中を慮ってか、投影されているタラン将軍も複雑な面持ちになる。
民族存続のためという大義名分はあっても、ガミラスが他民族に対し
侵略と弾圧、搾取を行ってきた過去が変わることはない。
それでも懸案を乗り越え、体制を(一応)改めた今となっては、
ガミラスと未知の異星人の邂逅が平和で有益なものとなってもらいたい___
過去の反省以外にも、デスラーがそんな思いを抱く動機が『調査団』にはあった。
(……知見を広めるためとはいえ、無茶をし過ぎだぞ、
あの御仁にも困ったものだ。……可愛がっているのは分かるが____)
デスラーは、国家統合の象徴たる総統職の後継者候補である、
自分の甥の顔を脳裏に浮かべる。
その男、ランハルト・デスラーこと、クラウス・キーマン。
元・国防軍少佐、現・貴族院議員ツァインフェルテ伯爵の秘書の名は、
特別随行員として調査団員名簿に記載されていた。
先述の通り正体不明の惑星に上陸・実地調査に臨む調査団は、
軍・官・民合同で構成されており、そのうち民間人は、
自然科学・生物・宇宙言語・現地人文化など、未知の惑星・未知の種族を
調査・解析するために招集された、大学や在野の研究者が主であるが、
その中でほぼ唯一の"例外"として、その名前がある。
"例外"が許された理由はやはり、
デスラーが甥の次に顔を思い浮かべた、ツァインフェルテ伯爵のゴリ押しだった。
どうやら、『サレザー事変』の後始末の際、デスラーやガミラス政府との交渉で
取り付けた『サレザー恒星系・旧第四惑星軌道天体の利権』を口実に、
サレザー系に突如現れた謎の天体について、将来の市場可能性の調査など
情報収集のために、議員の名代として秘書のキーマンを送り込んだようだ。
キーマンも、ツァインフェルテ伯爵に取り入った理由が
将来ガミラスを背負って立つにあたり経験を積むためということもあり、
調査隊に加わるのを快諾したに違いない。
寧ろ、キーマン自身が言い出した可能性すらある。
……叔父・デスラーは、割と向こう見ずな甥とその後見役に嘆息しつつ、
未知の惑星調査・現地民接触の平和裏の完了、甥の無事を願わずにいられなかった。
『……それと、ダークナス少将からの報告も入っております。』
「……スターシャ女王は、何と?」
憂悶の念を滲ませる総統に、タラン将軍は遠慮がちに次の報告を口にする。
デスラーも、思考を切り替えて再び報告に耳を傾けた。
それは、新ガミラス星に滞在するイスカンダル王族の警護責任者となった
ガルヒ・ダークナス少将からもたらされた情報だ。
『第二次サレザー事変』の生起___サレザー系での謎の連星出現という
第一報を受け取った直後からデスラー総統は、文字通り"長年"生きてきて
超文明イスカンダルの遺物を管理してきたスターシャ女王であれば、
そのお膝元たるサレザー星系で起きた異変について何らかの事情を
知っているのではないか___そう考えて、ダークナス将軍に対し
スターシャ女王に事態を報告し彼女の知る情報を引き出すよう命じていた。
その返答が、ようやく来たということになるが___
『それが……「心当たりがない」、とのことです。』
「……本当か? 私が直接訊く必要があるということでもなく、か?」
『そのようです。「本当にわからない」と、念押しされたと言っています』
デスラーは、先のイスカンダル星の真実を明かしたときの如く、
広く知られるべき情報ではないため、スターシャは敢えて隠しているのではないか、
と推論してタランに確認してみたが、イスカンダルの女王もこれについては
本当に何も知らないようであった。
「……イスカンダルが破壊されない限り影響しない要因ゆえ、
王族であっても知りえなかったとも考えられるが……」
デスラーは頭を捻る。
彼は、スターシャ女王らイスカンダル王族が、謎の惑星の転移出現について
何らかの情報を知っていた場合、それがどのようなものであるかを予想していた。
まず、古代イスカンダル帝国がサレザー星系内などに遺置し
(ガミラスが把握していなかっ)た何らかの超技術産物による現象という可能性。
次に、惑星を自在に転移させられる(古代アケーリアスの遺産である白色彗星や、
デスラーは報告書で存在を知ったジレル人の方舟のような)技術力を有する、
イスカンダル以外の勢力についての情報をスターシャが持っている可能性。
第三に、波動砲で天体を破壊したとき、または単純に宇宙規模の天変地異で、
このような事例が生起する場合があるということをスターシャが知っている、
あるいはイスカンダル帝国時代に前例があったという可能性。
……他にもいくつか候補はあったが、総じてデスラーは、
『何もなかった空間に突如として惑星級天体が出現する』という異常事態が
イスカンダルの知見である程度解決されることを期待していた。
ところが、スターシャの意外な返答はその期待を脆くも打ち砕いたのである。
半年前にデスラー砲で吹き飛ばしたイスカンダル星の情報データベースなら、
答えか、手がかりもあったのかもしれないが……。
デスラーは、親指でこめかみを揉む。
頭の痛くなる、意味不明な状況はまだまだ解決されそうにない。
通信装置越しのタラン将軍も、彼なりに事態究明のため情報収集を
行っていたようだが、はかばかしい結果を得られていなかった。
『兄に……移民計画科学顧問にも、意見を仰ぎましたが、
これといった発見はありませんでした。』
「……となればやはり、調査隊の報告が頼りかな」
目を閉じ、腕を組み、執務机の椅子に体を預け、デスラー総統は天井を仰ぐ。
思いつく中でやれることは全てやったつもりだが、『無から天体が現れる』という
奇怪な現象の解明に向けて満足のいく成果を得ることはできなかった。
かくなる上は、新たな情報が得られるまでは考えても仕方ない___
そう言わんばかりの仕草だった。
『出過ぎたことを申し上げますが、
念のため、総統御自らスターシャ猊下にお尋ねに赴かれてはいかがでしょうか?
猊下のお言葉を疑うのは、大それたことであるのは自覚しておりますが……』
あまりに情報源が限られている現状を憂慮したタラン大将は、
もう一度イスカンダルの貴人への確認、それも、彼女らが重大な事実を話すに足る
人間として見ているデスラー総統が自ら行う、という現状最後の手段を提示する。
「うむ………」
忠臣の言を受けたデスラーは、
机に肘をつき、組んだ両の手に顎を置いて、視線をスターシャがいる方向___
半年前まで自身の臨時官邸としており、『サレザー事変』後はイスカンダル王族の
行宮先となった、ガミラスから移築した旧デウスーラ家別荘へと向ける。
執務室の厚い壁と距離の隔たりから、スターシャはおろか屋敷の形も見えないが、
彼の心眼は確かにそこを見つめていた。
現在、デスラー総統が(新総統府デスラーパレス完成までの)臨時官邸としているのは
宇宙戦艦『ヤマト』と砲火を交えたこともある、
先代の総統座乗艦『デウスーラⅡ世』の
同艦は、総統の
記念艦とするべく、
宇宙港から移送・係留されていたが、『サレザー事変』発生後は先述の旧別荘が
臨時官邸として使用不能となり、当代の御座艦『デウスーラⅢ世』は
ドック入りしたことから、急遽この二代目デスラー艦が、再び総統を主として迎えた。
臨時官邸と化したデスラー艦と旧別荘は離れているが、あくまで惑星上の話だ。
移動には内火艇で3タムと要しない。 象徴総統としての公務も多くないため、
デスラーがスターシャに直接聞きに行く選択肢を阻むものはないのだが……
「……調査隊の報告を待ってからにしよう。それからでも問題はあるまい。」
『はっ、大変申し訳ありませんでした』
現状、異常事態ではあるが緊急事態と言う事でもない。
事を急ぐ必要性は決して高いとは言えないだろう……
アベルト・デスラーはそうした建前で、提言を先送りにするが___
(……スターシャが『私を信じる』と言ってくれた手前、
私が『彼女を信じない』という選択肢を取る訳にはいかないのでな……)
その本心としては、
『サレザー事変』直後の観艦式でスターシャと交わした会話を、
台無しにしたくない___そんな私情が含まれていたのだった。
_______________________________________
それから地球時間でさらに3日が経過した頃。
調査団本隊に先んじて、緑色の地表を有する未知の惑星に降下した
観測・送信できる限りの情報が届けられ、それを解析した結果を踏まえた
民主政府との協議により、調査団は満を持して謎の惑星への上陸を決行することに。
ガミラスでは標準的な葉巻型の母船から、調査団を乗せた上陸用舟艇が発進していく。
そのうちの一隻には、クラウス・キーマン元少佐の姿もあった。
最低限の自衛用武装のみ持った調査団は、
複数のグループに分かれて行動することが事前の計画によって決められている。
第一に、上陸用舟艇の降下地点に残留し、各調査隊を指揮・情報を統合共有、
万一の際には脱出手段を死守する部隊となる『調査団本部』。
第二に、事前に存在が確認された宇宙軍港らしき施設を偵察、
場合によっては制圧する『宇宙港調査隊』。
第三に、同じく地表に確認され、原住民が暮らしているであろう都市集落を訪問し、
惑星現地人とのファーストコンタクトを担う、『現地民接触隊』。
これら3つが主幹であり、キーマンは自ら希望して『接触隊』に配属された。
調査団が降下したのは、雪が積もった寒冷な山麓の平野。
先行調査によれば、どうも惑星全土が寒冷な土地であるらしい。
また、大気も人類の生存に適したものであったため、調査団員らの装備は
耐寒服をベースとして、病原体を防止する装備などを着けたものとなった。
宇宙港調査隊と現地民接触隊は、共に惑星へ持ち込んだ不整地用車輛に乗り、
それぞれ目的地である『宇宙軍港』と『都市』へと向かった。
そして。
クラウス・キーマン元少佐が事実上の指揮官となった『現地民接触隊』は、
特に障害に直面することもなく、『都市』を望む位置へと到達する。
彼らはそこで、巡回中の自警団と思しき現地民と初めて接触し、互いに驚愕した。
現地民側は、全く未知の部外者___
自分たちと同じような言葉を話す、見知らぬ格好の人々の存在に。
調査隊側は、全く未知であった筈の現地民が、自分たちと同じ青い肌を持ち、
ガミラス語とよく似た言語(調査隊員からしたらかなり古めかしい言葉)を話す、
ガミラス人そっくりの人類であることに。
現地民は、"部外者"に警戒心を向けながらも、調査隊員がたどたどしく言う
『敵ではない、危害を加えるつもりはない、君たちのリーダーに会わせてくれ』との
言葉に応じ、調査隊を彼らの聖堂らしき建物に案内(連行)する。
そこで隊員たちは、現地民の指導者らしい、白い宗教的な衣服を纏った老人と面会。
"キーリング"と名乗ったその老人に、調査隊の代表者としてキーマンが尋ねた。
「……お尋ねしたい。
貴方がたは自分たちを何と名乗っていて、この星を何と呼んでいるのでしょうか?」
「__異星の人よ、この星の名は『ガルマン』、我らは『ガルマンの民』だ。」
「「「!!」」」
キーマンを始めとした調査隊員は一様に絶句した。
青肌のガミラス人と生まれて、ガルマンの名を知らないものは実に少数だ。
大抵は幼いうちに、神話や御伽噺として大人から聞かされる、
青い肌のガミラス人にとって、真の故郷、起源の地とでもいうべき場所である。
その伝説の星が今、かつての母星ガミラスが存在したサレザー恒星系に現れ、
御伽噺の舞台を自分たちがこうして踏みしめていることに、
隊員たちは動揺を露わにする。
「……こちらも訊こう、異星の人。
そなたらは何者だ。何故、ガルマンの民と同じ青い肌をしている?
ボラーの走狗ではないのか?」
今度は、現地民側が問い掛ける番だった。
調査隊員にとって古風に聞こえる語法・言葉遣いで、キーリング老人が尋ねる。
『ガルマン』を空想上の地とばかり考えていた調査隊の面々は混乱し、
どう返答すべきか頭を抱えた。
そんな中でただ一人、クラウス・キーマンは腹をくくったように生唾を飲み込み、
毅然とした様で眼前の老人、そして、"聖堂"に集まってきた群衆に、答えた。
「___我々は、ガミラス。 永い時こそ隔てているが、貴方がたの同胞だ。」
この時、ガルマン人の長老キーリングの傍らにいた、
青みがかった長髪が特徴的なキーリング長老の孫・キールは、
金髪の凛々しい"異星の人"___否、"同胞"という男・キーマンから、
自分たちガルマン人を見舞っていた苦難を取り除き、
新たな未来へと導いてくれるのではないか___という予感と、
それを裏付けるような才気と覇気の片鱗を感じ取ったのだった。
後に彼は、ガルマン星を訪れることになるガミラスの総統、
アベルト・デスラーからも同じものを感じ取るのだが、
長らくその理由を知ることができず、首を傾げることになる。
_______________________________________
時に、西暦2205年11月9日。
かつてイスカンダル帝国の手によって引き裂かれ、
互いに別の道を歩むことになった、青い肌を持つ二つの星の人類は、
永い時を超えたこの日、再び一つになる兆しを見せ始めたのだった。