宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第十三話 『カルタゴ』計画

 

【第13話】

 

 

西暦2205年12月8日。

 

この年の『ヤマト地球帰還記念日』、英雄の丘がある地球連邦首都では雪が降っていた。

 

 

「……今年もここに、みんなで来ると思ってたんだがな。」

 

差した傘に雪を積もらせながら、公園墓地のシンボルになっている

初代『ヤマト』艦長・沖田十三像の前に現れたのは、島大介宇宙海軍中佐である。

 

かつての上官の命日に花を手向けにやって来た彼の顔は、晴れやかとは言えない。

本来であれば昨年のように、他の『ヤマト』旧(2199年時)幹部乗組員も

沖田の霊前に来るはずだったのだが___

 

「すいません、沖田艦長。今年は代表して、俺一人です」

 

沖田の死から6年目のこの日、像の前で敬礼を行うのは、島一人だけだった。

 

2199年当時の『ヤマト』幹部乗組員の彼以外は多くが

『サレザー事変』の後始末でマゼラン銀河に留まることを余儀なくされている。

当時の戦術長・古代進、その妻で当時の船務長・森(古代)雪、

技術長兼副長の真田志郎、情報長の新見薫は、全員が新ガミラス星に残ったままだ。

 

地球圏に戻っている他の乗員も多くは都合がつかなかったため、

結果的に島一人が代表する形で献花にやって来たのである。

 

像の前に、急用が入った佐渡先生からアナライザーを介して渡された日本酒「美伊」を

花と共に供え、雪が酷くなる前に墓地を立ち去らんとする島。

 

「___島中佐か?」

 

そこに、太い声で島を呼び止める者が現れた。

怪訝そうに振り向き、声の主が何者か確認した彼は、目を丸くする。

 

「芹沢……元帥!?」

 

そこに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ、白髪混じりの黒灰頭の中年男。

"この世界"では、亡き沖田十三に劣らぬ声望を持つ軍人、芹沢虎鉄退役元帥だった。

 

島も、テレザート派遣を命じられる場などで、何度か会ったことがある。

退役後は郷里の関東地区で暮らしている彼もまた、沖田艦長とは因縁を持つ男であり、

連れの姿もなく『英雄の丘』の沖田像に供花に来たのは、個人的な動機なのだろう。

そんな芹沢は足を止め、唐突に島に告げた。

 

 

「……この後、何か用事があったりしないかね?」

 

「え? いえ、まぁ……」

 

突然の芹沢の質問に、島はつい、正直に答えてしまう。

 

現在、宇宙戦艦『ヤマト』を艦長代理として預かる島中佐にとって芹沢は、

かつてイズモ計画派の領袖として活動し、2199年時の『ヤマト』航海中に

その陰謀に巻き込まれた経験や、戦後も波動砲条約締結における陰謀の黒幕を

務めていたことを知る以上、警戒心を禁じえない相手だった。

 

しかも、一介の士官に対して、現役を退いたといえ一度は軍のトップに立った男が

何かを持ちかけて来るのは、何らかの裏の思惑があるに違いない___

理性でそう判断がついても、寒さで身体が思考に追いつかなかったのか、

あまりに咄嗟のことだったためか、島は誤魔化すことを忘れてしまっていた。

 

「丁度良かった。私の方の墓参りが終わったら、少し話さないか?」

 

「……私は、構いませんが……」

 

続けて"話"を持ち掛けてきたカイゼル髭の男は、島の答えに小さく頷く。

対して島は、最初の時点で半ば芹沢の申し出を受け入れてしまっていたため、

理由をつけて拒むことができず、なし崩し的に今後の予定が決まってしまった。

しまった、と心中で歯噛みするも時すでに遅し、だ……。

 

 

「___今日は冷えるな。

 いい店を知っている。旨い鍋を出すところだ、紹介しよう」

 

島の心情を知ってか知らずか、芹沢は会合が私的なものであると言外に告げる。

が、どこまで信用していいものか。島の表情筋は意図しないままに強張るが、

それが寒さによるものか、芹沢に対する緊張によるものか、判然としなかった。

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

同じ頃、同じ地球連邦の首都・メガロポリス中心部にある連邦総合主庁舎ビル内、

2205年に新設された『交易局』に割り当てられた区画の深部___会議室にて。

 

対ガトランティス戦争後、銀河間航路の大幅な民間開放と

天ノ川銀河開発事業へのガミラス資本の参入に伴い、今後の地ガ両国の星間交易が

活発化・大規模化することを予期したことで、地球連邦政府・議会は

それまで小規模ゆえに政府が統制していた(できていた)交易の主体を

民間に移していくことを決定した。これに伴う形で地球連邦の『交易局』は、

星間交易事業に参加する民間企業の監督・取締りと保護、

円滑な交易環境の整備を目的に、第二期ダグラス政権の目玉政策として設立された。

 

その初代長官には、連邦設立時から物資配給局長官として辣腕を振るってきた

欧州管区(旧イギリス分管区)出身のメアリー・ピットが横滑りで任命される。

前職の経験から、地球が輸出可能な物品と、輸入需要のある物品について

深い知見を持つ彼女が、設立されたばかりの交易局の牽引役になることは

妥当性の高い人事と市井からは評価されている。

 

そんなピット長官を筆頭に、外務局前長官で現在は交易局傘下の輸出振興委員会で

筆頭理事を務めるチャールズ・C・エバットや、今年4月まで防衛軍総司令官職にあり

今は交易局で軍事顧問(アドバイザー)の任に就くパウロ・D・タナカ予備役大将、

それに、連邦政府直轄だが交易局とも強く連携している天ノ川銀河開発委員会の

委員長たる上院議員、ジョセフ・ジョースターⅤ世も情報交換のため参加し、

地球経済の今後を左右する錚々たる面子がこの時、会議室にて一堂に会していた……

 

 

会議の席上では一人の局員、連邦の他部局との連絡役を担っている者が

淡々と通達するべき事項を述べ、その役目を終えようとしていた。

 

「……以上が、外務局から届けられた、マゼラン銀河サレザー恒星系で生起せる

 『異常事態』についての第五次報告となります。」

 

報告者の着席後、数人の幹部局員が、会議室の壁の一方を丸ごと使った

大型モニターに映し出された、ガミラスの旧中枢部であるサレザー恒星系で

新たに起こった信じ難い事態を、当局から新たに知らされた事項を含む形で

簡潔にまとめた資料へ、視線をやった。

 

・地球時間換算西暦2205年11月3日、サレザー恒星系旧第四惑星軌道圏に

 突如として二重惑星ガルマン及びバルパラ(爾後ガミラス側が命名)出現。

 ガミラス軍艦隊は軌道強行偵察を敢行し、ガルマン星における人型知的生命体の

 居住を確認。軍事施設らしきものも確認するも、ガルマン星からの攻撃はなし。

・同5日、科学調査団を乗せた調査船が当該天体軌道に到着。

 無人観測機器の惑星大気圏への投入による初期調査を開始。

・同8日、無人機器の調査結果を踏まえ、有人調査隊の上陸可能と判断。

 現地民との接触も前提とする調査隊がガルマン星に降下。

 惑星原住民との平和的接触に成功。

・継続調査の結果、ガルマン星人と青肌ガミラス人の遺伝子的特徴が一致、

 ガルマン星人とガミラス人は同種族であり、

 惑星ガルマンが青肌ガミラス人の起源の地と結論付けられる。

・共和政ガミラス側外交派遣団とガルマン星人代表者との交渉・協議の結果、

 ガルマン人自治体の共和政ガミラス/マゼラン連邦参加が決定・承認。

・ガミラス政府による惑星ガルマンの生活基盤整備・ガルマン人の生活福祉

 水準向上に関する援助計画がガミラス議会を通過、援助が進行中。

・なお、ガルマン・バルパラ両星がサレザー恒星系に転移・出現した原因は

 依然として不明、調査継続中。

 

交易局が入手出来ている情報は、連邦政府および外務局、ガミラス大使館を介して

得られたものであるため、事態の全てを把握できている訳ではないが、

凡そは事実であろう、というのが交易局上層部の見解である。

 

惑星ガルマンと地球連邦が(ガミラス政府を介さず)個別に交流を始めるのは

政府と外務局の任務であり、交易局によるガルマン星との交易及び

経済的関係の地盤整備はその後となる上、

現状でガルマン星人が自民族の生活にも苦労していて

ガミラスから援助を受けているとあっては、

交易関係の締結はまだまだ先の話であることは明白だ。

 

交易局にとって、有人惑星ガルマンの出現に対する反応はあくまで状況把握と

事実確認・幹部局員への周知に留まっており、『第二次サレザー事変』による

情勢変化がガミラス経済の動向と言う形で地球・オリオン腕経済圏に

どういった影響を与えてくるかを予測する方が、喫緊の課題と言えた。

幸いそちらの方は、長期的な投下資本のガルマン星へのシフトが不可避にしても

直ちに地球経済へ悪影響を与えるようなものではない、という結論に至ったが。

 

 

 

「……では、次の議題へ移ります。」

 

進行役を務める女性幹部局員が、

ピット局長らに目配せし承諾を得てから、会議を次の段階へと進めた。

 

モニターには、地球連邦・共和政ガミラス両国による、太陽系を中心とする

天ノ川銀河オリオン腕のガミラス進出領域の共同開発・投資誘導を目的とする

「プロジェクト・カルタゴ」と題された計画が映し出される。

 

「前回の会議で、交易局が今後年単位で推進する天ノ川銀河経済圏に対する

 ガミラス資本の誘導、オリオン腕天体群への地ガ共同開発計画の基本方針、

 及び計画名が策定され、その後政府側からの認可も下りました。___」

 

ピット長官が場の元締めとして、議題___「カルタゴ計画」の現況を説明し、

会議の場でどのように細部を詰め、進展させていくべきか、列席者に訓示した。

 

「___先の議題で挙がったような、サレザー星系における異変が今後

 計画にもたらす影響を踏まえ、我々は計画の修正・補足を行う必要があります。

 局員各位、建設的議論に協力してください。」

 

ピットが言い終えるのと同時に、モニターの画像表示が変化し、

幹部局員たちも手元のデバイスに映し出される参考資料へと目を転じる。

 

そんな中で、出席者の一人である輸出振興委員会理事、

かつての地球外交の雄として知られるチャールズ・エバットは複雑な面持ちで

板型デバイスの画面に映る『カルタゴ計画』の文字を見つめていた。

 

 

(_____カルタゴ、か。)

 

エバットはかつて外交官職を志す上で、他地域の文化・情勢理解の一助として

歴史を学び、外交の職に就いた後でも欠かさず勉強し続けた。

その彼からすれば、地球の交易局が生み出した経済計画の命名としては、

一応納得のいくものではある。

 

(……ポエニ戦争の折、ローマはカルタゴが復活しないよう、 

 呪いとして同地に塩を撒いたと聞く。)

 

エバットの脳裏には、現在の北アフリカ管区に位置した古代都市が思い浮かぶ。

カルタゴは戦争に敗れ、ローマに飲み込まれたが、後身たるローマ統治下の

アフリカ属州は、呪いを受けたにも拘わらずローマ帝国の穀倉地帯として

重要な地位を占め続け、ローマ本国に劣らぬ繁栄を見せることもあった。

 

ローマ帝国に塩を撒かれたカルタゴは、ガミラス帝国の遊星爆弾によって

一時は汚染された地球に重なる所がある。そのひそみに倣い、

復興した地球がガミラスに負けない繁栄を遂げることを意味する命名であれば、

実に妥当なネーミングである。民衆受けもするだろう。

 

(……ピット女史は、大統領の椅子を狙っているようだからな___)

 

エバットは、外交官として長年培った"眼"で、

計画を命名した交易局長官、メアリー・ピットの意図を推察する。

 

表にこそ出さないが、ピットが上昇志向の強い人間であることを

エバットはオセアニア管区の外務局長時代から知っていた。

地球の一管区の行政長官、連邦の高官と要職を歴任していた彼女だが、

これで満足している訳ではない___と、エバットには見える。

 

となれば約2年後、現大統領エイブラハム・ダグラスが二期8年の任期を終え、

大統領の座が空席になった所を狙っていると見るのが自然な見方だ。

ダグラス大統領肝いりで設立した『交易局』初代長官であれば、

"元帥"コテツ・セリザワが大統領選に出馬するなどと言うような

よほどのイレギュラーがない限り、民衆も彼女を正統後継者として、

ダグラスからの"禅譲"が行われる筈だ。

 

そして『カルタゴ計画』成功の暁には、

大統領に就任するピットには大いに箔がつくことだろう。

 

 

(……だが、カルタゴか。)

 

自身の政治的地位にはさして興味がないエバットは、思考を計画名に戻す。

どうやら彼には、命名に一点()()()()()ところがあった。

 

(___もし、カルタゴが地球ではなくガミラスを指しているのだとしたら。)

 

エバットは、鳥肌が立つのを実感する。

 

ポエニ戦争前のカルタゴは、ローマを圧倒する通商国家であった。

それが、戦争を重ねるたびに疲弊し、やがては港を放棄し内陸へ退くよう

ローマに強要され、かつて誇っていた長大な通商網を全て奪われた上で、

ついには落日の時を迎えたのである。

 

もしピットが、

新興国ローマを地球に、老大国カルタゴをガミラスになぞらえているのであれば、

危険な兆候であると言わざるを得ない。

エバットにとって、『将来的に経済戦争でガミラスを屈服させてやる』と

宣言しているようなものだ。

 

 

(……いや、考え過ぎだな。)

 

そんな大それたことが地球の国力他諸々の点から不可能であることを、

聡明なピット長官が分からぬはずがない___

エバットはそう断じ、懸念を振り払う。

 

単純に、カルタゴは復興した地球を指しているのだ。裏の意味など、無い。

 

___そう言い切る根拠もまた、無かったが、

エバット理事は自分にそう言い聞かせなければ、

まだまだ続く会議の場に居続けられそうにはなかった。

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

その頃、天ノ川銀河オリオン腕___

ガミラス進出圏からも少し外れた、銀河中心方面のとある宙域にて。

 

そこでは、一隻の地球軍艦が静かに活動していた。

 

全体が宇宙に溶け込むような漆黒で塗り渡されているため、艦型は分かりにくいが、

同国の主力戦艦ドレッドノート(D)級に似通っており、設計の基としたことが伺える。

しかし、原型と比べて武装は実に少ない。

D級戦艦は主砲が配しているターレットには、本来D級の副砲で駆逐艦級の備砲である

5インチ連装速射陽電子衝撃砲(ショックカノン)一基と観測装置らしいドームが設えられており、

他の自衛兵器は数基のパルスレーザー機銃と船体の魚雷発射管くらいなものだ。

波動砲を搭載しないにもかかわらず、艦首の砲口には栓までしてある。

 

それもその筈、この艦は戦闘を目的とした艦艇ではない。

 

 

同艦は、改ドレッドノート級長距離探査艦『アマテラス』。

 

()()()()から、姉妹艦『アクエリアス』や、同様の塗装や艤装を有する

改FE級長距離探査艦群、これらの艦隊から展開された監視装置群と共に

長大な線を成すように展開し、銀河中心部方面への哨戒監視網を形成している。

 

そして今日、そのサーチネットに、哨戒線形成以降初となる"獲物"がかかった。

 

太陽系外縁に展開されているものと同型の自動監視システムから

転送された情報を受け取った哨戒線部隊の旗艦『アマテラス』艦橋では、

"獲物"の反応の詳細解析が行われ、程なくしてその正体が明らかになった。

 

 

「……ゲルデン司令、266番装置の捕捉せる複数の動力反応の解析が完了。

 "件の情報"と照らし合わせた結果___

 ___反応は、『ボラー連邦』軍艦のものと推定されます!!」

 

「___とうとう、この時が来た、か……」

 

 

『アマテラス』艦橋にて、哨戒線を構成する諸艦艇を指揮する地球軍人、

かつて炉王星の戦いで敵先遣艦隊迎撃を指揮した男、ハンス・ゲルデン少将は、

ガミラスともガトランティスとも異なる新たな星間国家の艦隊が居るであろう

銀河中心方面の宇宙空間を、緊張を満面に湛えながら見つめた___

 

 

 

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