宇宙戦艦ヤマト3199 If 激浪への挑戦者   作:モアンゴル

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第十四話 天ノ川から来た艨艟

 

【第14話】

 

 

 

「___状況を聞こうか」

 

 

開口一番、

その男___地球連邦防衛軍統括司令長官、ウォルター・I・キンメルは言った。

 

時に、西暦2205年12月9日0500時(極東管区時間)。

緊急で開かれた、防衛軍司令部首脳を集めた会議の席上においてのことである。

 

突然の招集であったため

他管区や宇宙に居た高官は秘匿回線でのオンライン参加だったが、

それでも室内に座る顔ぶれは、防衛軍最高幹部級の大半を占めていると言えた。

 

キンメル統括司令長官(大将)、プラヤー・パノムヨン統括副司令官(大将)、

ジャン・M・ダニガン参謀次長(中将)、ヨハネス・W・ワッケーン宇宙艦隊参謀長(中将)、

井上玄三地上軍総司令官(大将)、藤堂信乃極東管区駐留軍司令官(中将)……

防衛軍の根幹を担う将帥たちは今、新都メガロポリス中枢の連邦主庁舎ビル地下にある

防衛軍司令部指揮所に隣接する会議用区画に集っている。

 

そして、キンメル長官が会議準備が整ったことを確認した上で放った一言で、

緊急会議の口火は切られたのであった。

 

 

「昨日12月8日1924時、オリオン腕ガミラス勢力圏外縁部宙域にて

 銀河中心方面への定点警戒に当たっていた第八任務部隊司令部より、

 前方敷設した自動監視装置が『ボラー連邦』軍艦隊と思しき反応を捕捉した、

 という第一報が入りました。___」

 

進行役となるのは、防衛軍参謀本部で長らく参謀筆頭を務めている、

ムアンマル・ユーニス・ジャーベル少将。何度もこうした役割をこなしてきたため、

慣れた動作で会議のための状況説明を進めていく。

 

「第八任務部隊司令官ハンス・ゲルデン少将は、連邦政府・防衛軍司令部が

 事前に策定した『対ボラー連邦接触計画(Operation-CWB)』の基本要項に則り、

 任務部隊を後退させると共に、強制ワープアウト装置艦の展開を要請しました。

 その後の阻害システム群の展開は、昨日2330時点で完了しております。」

 

 

地球連邦政府および防衛軍は、どういう訳か、接触したことのない

銀河中心部などを領域とする大星間国家・ボラー連邦の存在を把握しており、

同国がいつかオリオン腕にも展開するであろう宇宙艦隊との遭遇・接触(ファーストコンタクト)に備え、

初期対応の計画を策定し、準備を整えていたのであった。

 

事前に策定している接触計画に沿う形で、

キンメル長官が計画内の一つ一つの要素を口にして、各部局へ確認していく。

 

 

「接触する艦隊はどうなっている?」

 

キンメルの問いに、会議場内にいる宇宙海軍側の最高位代表者である

ヨハネス・(ウォルフガング)・ワッケーン宇宙艦隊参謀長が、明朗に答えた。

 

「既に、我が第八任務部隊の接触隊と、勢力圏外縁警備を担当するガミラスの

 第五八、第一四一空間師団艦隊の分遣艦隊群が、ボラー艦隊の出現が予測される

 複数の干渉ポイントへと即応できる位置に進出しております。」

 

「ボラー艦隊が引き返したり、ガミラス勢力圏を避けるコースを取る可能性は?」

 

続く問いにワッケーンはかぶりを振る。

 

「その可能性は極めて低いと考えられます。

 ボラー艦隊が最初の監視装置に捕捉されて以降、

 それよりガミラス勢力圏寄りに配置された複数の装置が同艦隊を捉えており、

 それらが観測したボラー艦隊の針路・速力データから、

 明日・明後日の両日中にはガミラス勢力圏に進入し、

 ワープ阻害装置の干渉を受けるものと推定されています。」

 

「明日か、明後日……か。」

 

ワッケーンの口を出た、具体的な接触予想時刻を聞き、

キンメルは彼から視線を外して思案する。

 

 

「確認されたボラー連邦艦隊の数と艦種は判明しているのか?」

 

今度は、確認する役割を引き継いだパノムヨン統括副司令官が発言した。

その問いには、防衛軍参謀本部次長、ジャン・(マイカン)・ダニガン中将が答える。

 

「第八任務部隊の報告によれば、監視装置が捕捉できたボラー艦隊は約50隻、

 旗艦と思われる大型戦艦一隻を中心に、防衛軍がA型・B型と識別する

 二種の主力戦艦が各二十数隻、航宙母艦と考えられる艦艇三隻から成る艦隊です」

 

どよめきの声が会議場内の列席者、画面越しのオンライン参加者から漏れる。

戦闘艦艇50隻の艦隊とは、それなりの戦力であると言わざるを得ない。

 

少なくとも、星間国家が辺境から未知の領域へ強行偵察に派遣する戦力としては妥当だ。

それに、捕捉できなかった後続部隊の存在の可能性も考えれば、

ボラー連邦側がこの艦隊を送り出した意図について解釈する余地は広がる。

 

「この艦隊の行動目的について、宇宙艦隊と参謀本部はどのように考えている?」

 

思索から戻ってきたキンメル長官が、場にいる将官らを代表し質問する。

 

ワッケーン中将とダニガン中将、それに進行役のジャーベル少将が

それぞれ顔を見合わせ、誰が代表して言うかを無言のうちに決める。

口を開いたのは、ワッケーン中将だった。

 

「ボラー艦隊の陣容、針路など、各種情報を整理した結果、

 宇宙艦隊司令部と参謀本部は、このボラー連邦軍艦隊の目的は、

 オリオン腕宙域における"調査"であると推測しました。」

 

「___"調査"か。」

 

キンメル長官の目がギラリと光った。

居並ぶ将官たちも、表情を険しく引き締める。

 

()()調()()()()()()()、50隻もの宇宙戦艦を投じるということは、

相手が調査の中で戦闘が生起する可能性を視野に入れていることを意味する。

ボラー艦隊が"調査"する対象が新たな惑星___侵略目標と言う可能性は捨てきれない。

 

状況としては、ワーストコンタクトに終わったガミラスとの初接触に近いが、

同盟国ガミラスの存在や22世紀時と比べ物にならない程強化された防衛軍、

最初に相手を捕捉したのが自方であるため一定の主導権(イニシアティブ)があること、

接触現場が自領域の外部寄りであり事態に余裕があることなど、相違点もまた多い。

 

慎重に計画を進めていけば、偶発的戦闘という最悪の事態を十分防げるはずだ。

 

 

「___現状まで聞く限り、『対ボラー連邦接触計画(Operation-CWB)』に則った対応で問題ないだろう。

 だが、予断を許さない状況だ。現地部隊との連絡を密にし、不慮の事態へ

 即応できるよう、準備と警戒を絶やさぬよう努めるべきであると考える。」

 

「また、連邦政府機関並びにガミラス軍・大使館とも緊密に相互連絡し、

 今後の対処において足並みが乱れぬようにすることを念頭に置いて行動する旨を、

 各自留意すること。___以上だ。」

 

そして、会議場にて様々な情報と意見、提案が飛び交ったあと、

キンメルは議長として場を締め括る当座の"結論"を告げ、緊急会議に幕を下ろす。

 

緊急事態で輪をかけて多忙な防衛軍高官らが次なる仕事先へ向かうべく次々に

退出していくのを横目で見ながら、四代目の防衛軍統括司令はボトルの水を口に含む。

 

度重なる質問や訓示で乾いた喉を潤した彼は

慌てて退出していこうとする一人の男の姿を瞳に捉え、思考を巡らせた。

 

 

(……マイネッティ氏か。

 ガルマン星の件もそうだが、外務次官になって早々ご苦労なことだな)

 

キンメルの鋭い瞳が映したのは、

彼と同じく北米管区出身の、レイモンド・J・マイネッティ外務次官。

キンメルが旧国連北米管区軍務局長を務めていた頃、

マイネッティは北米管区の外交部にいたため職務上顔を知っていた。

その彼は、2205年4月の時点で外務次官補のポストに就いていたが、

同年9月から外務局次官に任じられている。

 

外務局から知らされたところによれば、前任者であるツネオ・ソネカワは、

友好使節団長として『ヤマト』に乗艦し大マゼラン銀河へ赴いた折に

(第一次)サレザー事変が発生し、イスカンダル救援へ向かったところ、

()()()()()デスラー総統とスターシャ女王に対して外交問題化しかねない

無礼を働いた上、極秘事項である『デスラー偽物論』の漏洩をしたと

ソネカワ本人が自白したため、彼は帰還後に即時更迭・査問に掛けられ、

最終的に心神耗弱状態にあったと判断され、サナトリウム送りになったのだという。

 

上司がそんな形で再起不能になったのを見せられたうえ、引継ぎもそこそこに

後任に任じられたところに意味不明・未解明な『第二次サレザー事変』や

今回のボラー連邦との初接触という難題が降って湧いたとあっては

たまったものではないだろう_____キンメルは深い同情と憐憫の念を抱いた。

 

 

ここで、脳裏に浮上した"外交"というワードから、キンメルはあることを思い出す。

 

(__こんな状況になったことを思えば、元帥閣下に依頼を出したのは正解だったか。)

 

 

想起されるのは、一週間ほど前のこと。

 

キンメルは防衛軍統括司令長官に就任する直前、先々代の長官コテツ・セリザワに

挨拶の電話を入れており、その折に彼から「できることなら何でも協力する」と

言質を引き出していたため、一週間前に抱えていた"懸案"解決のため、

彼の手を借りることにしたのである。

 

 

(ヤマト級戦艦___あれら外交艦の出番も近そうだ。

 一刻も早く後任艦長を決めねばならんからな___)

 

キンメルは会議場の天井を仰ぎ、再びボトルに口をつけた。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

一方、行く手にある領域に在する星間国家に探知され、

接触の準備がされているなど、夢にも思っていないボラー連邦軍の艦隊では。

 

艦体が赤く塗られた旗艦たる指揮戦艦『ボルボガフ』艦上にて、

骨張った顔で体格のいい壮年の男____艦隊司令官テヴァン・マガロク中将が、

指揮官シートに身を沈めて、思案に暮れていた。

 

彼の眼前に映されたモニター画面には、

彼が指揮する艦隊が向かう宙域(オリオン腕)の観測情報が表示されているが、

それらは決して新しいものではない。

この艦隊が進入せんとする宙域は、ボラー連邦の辺境部からも離れた勢力圏外、

言わば、未知の海である。

 

連邦体制成立以降、ボラー側も何度か探査艦を送ったことがあるが、

貴重な情報を持ち帰った艦がいる一方で、難破し戻らなかった艦も存在する。

こうした探査航海で得られた比較的安全な航路の情報と、望遠観測から算出したコースを

進んではいるが、危険が潜む宙域でいつまで艦隊を維持したまま行動できるか___

 

 

「……もし、艦隊行動に支障を来したところで

 "バルメーダ"に襲撃されてしまえばひとたまりもないでしょうな」

 

司令官の考えを察したのか、

『ボルボガフ』艦長を務めるキョードル・ガンプキン大佐が険しい表情と硬い声で呟く。

彼らの敵は、未知なる空間の航行困難地帯だけではなかった。

 

マガロクが指揮する艦隊が捜索しているのは、ボラー連邦にとって謎の勢力"バルメーダ"。

 

(地球時間換算で)約10年ほど前から連邦の辺境部に単艦もしくは数隻の小艦隊規模で現れ

艦船や基地に散発的に攻撃を仕掛けてくる正体不明の宇宙艦隊。

"バルメーダ"の名は辛うじて取得できた残骸から判別できた文字に由来する。

追いつめられた際には艦ごと自爆するという徹底した情報秘匿と、

ボラー連邦の情報を貪欲に求める行動様式から、彼らが侵略に先立つ斥候部隊であると

ボラー軍司令部は判断していた。

 

 

___だが、その彼らが近年姿を見せなくなった。

ボラー軍の頭を悩ませていた存在なだけに、その不在はありがたいことではあったが、

全く現れないとなると不気味でもある。

既に情報収集を完了させ、本格的な侵略準備に映ったのか、

あるいは、"バルメーダ"内部で内乱など対外進出できなくなる事態が起きたのか___

 

その実態を調査するため、テヴァン・マガロク提督率いる『不明勢力調査艦隊』が、

周辺のボラー連邦軍艦隊から精鋭を引き抜いて編成されたのであった。

 

「___この艦隊は我々第三戦闘艦隊の特に優秀な艦を選抜したものだ。

 懸念は分かるが、そう容易く敗れはせんよ」

 

マガロクは、長年苦楽を共にしてきた兵たちの技量を信じている___

そんな意を込めて、ガンプキンに答えた。

 

マガロク中将が本来率いている第三戦闘艦隊(ガミラスの空間機甲師団に相当)を中心に、

オリオン腕に面する宙域を担当区とする複数の辺境巡視艦隊、

同様の宙域の守備を担当する数個の打撃艦隊(ガミラスの空間師団に相当)から

抽出分派された支隊群を加えて、軍団規模の不明勢力調査艦隊は編成されている。

 

この時、調査艦隊からは複数の(グループ)(数十隻規模)がオリオン腕臨海域へ展開しているが

マガロク直率の精鋭艦隊はその先陣、最も宙域深くに入り込んだ位置にあった。

 

本来、軍団規模の部隊の総指揮官が、

敵地と思われる宙域に先鋒として乗り込むのはあり得ない事態である。

指揮官先頭と言うにしても、限度がある。

 

だが、こうした姿勢を取ることを強硬に主張した者が、マガロクの幕僚にいた。

「上層部から臆病・怯懦と見做される可能性がある」と脅迫まがいの提言で

マガロクの司令部を最前線へ動かした、不明勢力調査艦隊の政治将校。

 

 

「司令官殿の仰られる通りです。

 我らボラー連邦軍の精兵が、蛮族如きに後れを取る筈がない」

 

その男___ヴィルキ・ボローズは、秘書官チェフ・レバルズを伴って

旗艦『ボルボガフ』艦橋へ、マガロクらの前へと現れる。

 

その相貌には、強い野心に満ちた笑みが浮かんでいた……。

 

 

 





拙作におけるボラー艦隊の編成はオリジナルのものです。
今後色々と明らかになった場合何らかの変更が加わるかもしれませんが、
ご寛恕いただけるとありがたいです。

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